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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-3 第9話

 
前書き
ドラゴンとの対決、そして。 

 
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-3
ローラ姫
第9話

沼地の洞窟内部。
ハルカはレミーラの術を駆使して、暗闇洞窟の奥へと進む。
その足取りはしっかりしっかり、力強いものだった。
(セサヴァー……)
そしてあの扉の前に立つ。石で出来た堅い扉の前。
再び、手を扉に押し当てた。今度は何も起こらない。
力いっぱい、押し当てた。
ゴゴゴ……。今度は少しずつ扉は動く。何も違和感は感じない。
しかしハルカは警戒心を解かない。油断したらまた同じ目に遭うかもしれないのだ。
軋む音は大きくなり、そして完全に開いた。
先はまだ通路が続いていた。ドラゴン・セサヴァーの姿は無い。
(通路の先に……ローラ姫とあいつが!)
生温い空気がハルカの頬をかすめる。今は9月、サファイアの月。まだまだ残暑が厳しい。いや、今の時期にしては厳しすぎるのだ。
そのせいかどうかはわからない。しかし、この空気はハルカにとって不快だった。
(……!臭う)
それは不快な臭い。腐った臭い。
その理由は、……たくさんの無残な姿の魔物と……人であった。
運良く扉の奇襲を潜り抜けて挑んでも、敗北して……。
(これ以上は考えたくない…。ローラ姫を助けようとして!?)
そして数分後、真っ赤な扉がハルカの目の前に飛び込んできた。

ハルカが扉に顔を近づける。コォーコォーという音が聞こえてきた。
ドラゴン・セサヴァーの呼吸音か。
(……行くぞ!)
ハルカは大きく息を吸い、雄叫びをあげながら回し蹴りで扉を打ち破った。
大きな音がしたが、ハルカは動じなかった。

そこは質素ながらちゃんとした部屋になっており、奥には牢屋が見えた。微かに人影が見える。ローラ姫に違いない!
そして緑色の肌をした人型の何者かがギロリとハルカを睨みつけていた。
「貴様……生きてたのか!」
「ああ。お前はセサヴァーか?」
何者かはつまらなさそうにため息をつきながら、ずるずると姿を変えた。
緑色の肌の、4足歩行のドラゴンだ。先ほどのは仮の姿と言ったところだろうか。
「ああ。どうやら私が思っていたよりお前は厄介な人間なようだな。ならば、私が直接、お前の命を奪って見せよう。ここに来た無謀な冒険者や間抜けな魔物の様に、ここに屍となるがいい!!」
奥から悲鳴が聞こえる。セサヴァーは、
「五月蝿いですぞ!そなたは竜王の妻となるのだ!諦めろ!」
「嫌!私は…」
ローラ姫の声だ!ハルカが奥の方を一瞬見る。涙を流しながら牢屋の奥で座っているのが見えた。
「セサヴァー!……勝負だ!今度は負けない!」
ハルカは鋼の剣を腰から抜く。セサヴァーもハルカを睨みつけ、戦闘体制に入る。
「かかって来い!お前の屍を私は見る!」
「そうはさせない!」
何としてでも、セサヴァーを倒し、ローラ姫を救出してみせる。
(絶対に、僕は負けない!勝ってみせる!!)

ハルカとドラゴン・セサヴァーの戦いが始まった。
セサヴァーがまず炎を吐く。ハルカは盾で防ぐ。
ハルカはセサヴァーの体を切りつける。
「フン、そんなのかすり傷だ」
しかし、ハルカは表情を変えない。セサヴァーの攻撃をかわし、耐え、反撃開始する。
「そんな言葉、言うと思ったぜ。でも僕は負ける気は無い」
「ふん、返り討ちにしてくれるわ!」
一進一退の攻防が続く。

戦闘開始からかなりの時間が経った様に思える。
ハルカの体の傷が増えていく。ハルカはホイミで体制を整えながら、セサヴァーを斬りつける。
(しかし、それだけの魔力が僕に残ってるか?魔力が尽きる前に倒さなければ、僕は死ぬ。……)
焦りはない。しかし、渋い表情を浮かべていた。
「しぶとい奴だな。貴様……」
セサヴァーが大きく息を吸う。ハルカは灼熱の、高威力の炎を吐く気だ、と判断した。
相手は怒り心頭だ。ますます攻撃の威力は増すだろう。
ハルカは構えた。そしてセサヴァーが灼熱の炎を吐くと同時に、ハルカは床を蹴って飛び上がる。
「!?」
セサヴァーが戸惑ったと共にハルカはかなり高いところまで飛び上がっていた。
「貴様!何故…貴様はそこまで高く跳べる!」
「さあ。お前には教えない……お前の好きにはさせない!!」
セサヴァーはハルカの跳躍に驚く。
ハルカは天井を蹴り、下降しながら剣を十字に描いた。「……“飛翔十時斬り”!!」
その一撃は会心の一撃となった。セサヴァーは悲鳴を上げた。おぞましい悲鳴を。
そしてハルカは見事な着地をした。セサヴァーを睨みつける。倒したとは思ってはいないのだ。
(あの一撃は効いた。しかし、奴は……。油断禁物だからな)

数分の沈黙の後、ハルカの予感は的中した。突然、セサヴァーはより怒り狂ったように暴れ始めたのだ。
「貴様ぁあああああ!!きえええええええええええええいっ!!」
ハルカは微動だにせずにセサヴァーをじっと見据えていた。
セサヴァーの尻尾がハルカを直撃し、ハルカの体は宙を舞い、壁に叩きつけられた。
叩きつけられたハルカはピクリとも動かない。その様を見てセサヴァーはニヤリと笑みを浮かべた。
「くっ……。ふはは、貴様もそこまでのようだな!……トドメだ!」
ローラ姫の悲鳴が上がる。セサヴァーの爪がハルカの首を狙う。
爪がハルカの首のすぐ近くまで来たその時だった。
「甘いな」
すばやくハルカはセサヴァーの体の下の隙間に潜り込み、剣を腹に突き立てる。
「な………!?貴様!」
セサヴァーがよろけ始めた。
ピクリとも動かなかった、というのはハルカの演技だったのだ!
「あれだけで僕が気絶したと思ったのか?甘い。僕はそんなやわな奴じゃない。敗北者はお前だ!!」
ハルカは最後の一撃を、セサヴァーに与える。
「“五重十文字斬り”!!」
それは今までより、力を込めた。リベンジとローラ姫のためと。
「な、私が…………負ける……………とは……!!」
セサヴァーの断末魔が聞こえる。耳を劈くような断末魔。そしてセサヴァーは倒れこみ、事切れた。
それからしばらく、不気味は程、静かな時間が続いた。
(終わったのか……僕は、勝ったのか)
ハルカは剣についた血を拭き取った。そして鞘に収めた。
ハルカは勝負、いや、決闘に勝ったのだ。見事にリベンジを果たしたのだ!

ハルカはセサヴァーの動かなくなった体を踏み越え、ローラ姫のいる牢屋へと向かった。
「ああ…………私を助けてくださったのね!」
ローラ姫は涙を流していた。それでも可愛らしさはあった。
しかし、春用のドレスはボロボロになっていた。半年の間、閉じ込められていたのである。
「ローラ姫……大丈夫ですか?」
「ええ、私は。でも、あなたの方がもっと傷ついていますわ」
ハルカは自分の体を見て苦笑いを浮かべた。いつもの事ですよ、と。
その後、ハルカは牢屋の近くに掛けている鍵を取り、牢屋の鍵を開けた。ローラ姫はあまりの感激に、ハルカに飛びついてきた。ハルカはそんなローラ姫をしっかりと受け止めた。
「ああ、すいません、私ったら……あなたが傷ついているのに……」
ローラ姫はハルカの姿を見て、反省がちに目を伏せた。
「いいんですよ。僕は平気です。それに、あなたは今までずっと辛い目に遭ってきたんでしょう?そこから抜け出せたのは本当に嬉しいことですからね」
ハルカはそういってローラ姫に微笑みかけた。体の傷の痛みはほとんど感じない。達成感と嬉しさと、安堵があった。
「まあ……。私、このまま竜王の妻になるところでした。それは……恐ろしくて、嫌でした……。ねえ、あなたの名前は何ですか?」
「僕はハルカ。ハルカ=R=ドランスフィールドです」
自然と口からフルネームが出た。なぜかはハルカ自身もわからないが、後悔はなかった。
「ハルカ様……私を城まで連れてってくださりますね?」
「ええ。でもすぐには帰しませんよ。だって、そんな姿で、城には入りづらいでしょう?あなたが生きているだけで嬉しいかもしれません。しかし…」
ローラ姫はハルカの言葉に肯いた。納得のうなずき、である。
「そうですわね。ハルカ様の言うとおり、私が帰ってくると聞いて、お父様は喜ぶでしょう。しかし、やはりこの姿では恥ずかしいのです……」
ローラ姫は顔を赤らめながら涙を拭いた。そして可愛らしい笑顔を見せた。ハルカもつられて笑う。
「だからしばらく僕の旅に付き合ってくれませんか?大丈夫。あなたは僕が守り通します」
ハルカがローラ姫と行動を共にしたいのは、ローラ姫を美しい状態で城まで送り届けたいということ、そして、独り旅でないひとときを少しでも味わいたかったのだ。独り旅は、やはり寂しかったのだ。
「はい。喜んで。あ、私、実はホイミが使えるのですよ。……お願いです、この勇者様の傷を癒してください、ホイミ」
すると、少しではあるが、ハルカの傷は癒えた。
「あら……本当はもっと傷を癒せるはずなのに……長い間ここにいたから魔力が落ちたのかしら……」
思っていた結果ではなかったと、少し悲しそうな顔をするローラ姫に、ハルカは微笑みながらローラ姫の頬に優しく手を当てた。
「僕は十分満足ですよ。もう少しいい環境で休めば、魔力は戻ってきます。……さて、リムルダールへ行きましょう。あそこには腕のいい仕立て屋がいます」
「ええ。知ってますわ。温かい、ハルカ様」
「そうですか。そういわれたの、初めてです。……なんだか、照れくさいですね」
「うふふ。私もですわ。ありがとうございます、ハルカ様」
「どういたしまして」
ハルカは自分が身に着けていたマントをローラ姫に掛けた。
「仕立て屋につくまでの辛抱ですよ」
「はい、ハルカ様」
ハルカはローラ姫を抱え、リムルダール方面へと向かっていった。
その時の2人の表情は、優しい笑みだった。

洞窟の外へと出たと同時に、レミーラの効果が切れた。
ローラ姫はハルカにお姫様抱っこされていた。
「あの、私、重くないですか?」
「全然。むしろ心配なくらい軽いです」
「ハルカ様……」
顔を赤らめたと同時に俯いた。
ローラ姫は驚くほど軽かった。まだ顔つきは可愛らしさはあった。しかし、よく見ると、少しだけやせこけているようにも見えた。体のぬくもりはあったが、触れた手は、弱々しいものであった。
「ローラ姫、辛かったんですね。ああ、もっと早くあなたを助けたかった。でも僕は前にあのドラゴンに負けてしまったのです。だから、鍛えなおしていたんです。すいません、遅れてしまって」
本当はもう少し早く助け出せたかもしれない、ハルカは少し悔しそうに、そしてすまなそうに言葉を発した。
そんな様子を見て、ローラ姫は優しく微笑む。
「いえ、ハルカ様、そんなことはありません。このままあの湿った洞窟で一生を終えるのかもしれないと思った所を、救ってくださった。遅いだなんて思っていません。助けてくれた人がいる、それだけで私は嬉しいのです。本当に、本当にありがとうございます、ハルカ様」
そしてローラ姫は優しくハルカの頬に口づけをした。
ハルカははにかみながら、「どういたしまして、ローラ姫」と額に優しく口づけをした。ローラ姫は頬を紅色に染めて微笑む。
ハルカの心は何か温かいもので満たされていた。
(僕は……誰かと共に旅をしたかったんだ。その願いが、一時だけだけど、叶った。こんな素敵な形で) 
 

 
後書き
一番書きたかった話。DQ1と言ったら、DQ1勇者×ローラ姫も楽しみの一つだと思います。
それと、このハルカさんの身体能力、高いです。 
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