インフィニット・ア・ライブ
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第六話「放課後 ~quest~」
―――放課後
「フフフ。ウェストコットくんは、何もしなくていいんだよ?」
「クソゥ!何でだよ、何でお前がそこにいるんだ!?相川ァァァアアアア!?」
ピロリロリン♪
「はい、討伐完了!レア素材は私のもんだァア!」
「ちくせう。別のエリアで片角のマオウと戦ってると思ってたのに」
「残念。トリックだよ」
ほとんどの生徒がいなくなった教室で、一夏は同じクラスの『相川清香』と本音、さらに簪と折紙と一緒に携帯ゲーム機『SPS(スーパー・ポータブル・システム)』とにらめっこしていた。
プレイしているのは、飛龍や海竜といった様々なモンスターを狩るゲーム『怪物狩人』、巷では英語読みの方がかっこいい、という理由で英語読みを略して『モンハン』である。
ちなみにこのゲーム、討伐対象のモンスターにトドメを刺したプレイヤーの報酬には必ずレアなものが入り、最大十人まで同時プレイ可能で、プレイヤー同士でも攻撃や状態異常に陥れる(1までは減らせるが、0にはならない)ことが可能なため、高度な頭脳プレイが要求されている。
さらに、倒れたモンスターの下敷きになると、きちんと身動きがとれなくなるシステムもある。
ことの発端は、真耶に連絡事項があるため待機しているように言われたので残っていた一夏が暇そうにしながら教室を出ていく清香のカバンから、『モンハン』仕様にデコレーションされたSPSを見つけ、「一狩り行かないか?」と声をかけたことである。
その後、簪達も合流し、プレイするのだった。
「う~ん。また持ってかれちゃったよ~」
「流石は、狩人ランクS。その肩書きは伊達じゃないわね」
いーもーん、一人で狩れるから問題ないもーん、といじけて体操座りでイスに乗る一夏を尻目に、女子組は構わずゲームを続ける。
「それいや、簪」
「何?」
「お前、『私はこの学校の皆とダチになる』って言ってたが、どうだった?」
「四組の皆とはダチになれたよ。まあ、学校の皆って言ったけど、アレは無理だわ。こう、人間的と言うか、生理的と言うか」
「…そんなに酷い?」
「なんかね~、心が真っ黒クロスケってとこだね~。ありゃ~、死んでも治らないだろうね~」
「本音ちゃんにそこまで言わせるなんて、誰よそれ?」
「「「「アレ」」」」
四人が指した方向に清香が視線を向けると、そこには千夏がいた。
「あー、納得。私もなんかこう、モヤモヤっとしたもの感じてたんだけど、私だけじゃなかったんだね」
「…恥じることはない。人として当然の反応」
「黙って聞いていれば、随分言いたい放題いってくれるじゃないか」
一夏達が駄弁っていると、同じく教室に残るよう言われていた千夏が突っ掛かってくる。
「事実じゃないか。それに、反応するってことは自覚してるみたいだね」
「言わせておけば!ッ!?」
一夏に手を伸ばした千夏だが、簪と折紙がスマホで録画しているのに気付き、手を引っ込める。
「……チッ」
「早まるな、折紙。……この程度じゃ、甘い」
「具体的に言うと~、ワッフルに練乳とシロップと蜂蜜を塗りたくったぐらい甘いかな~」
「それもう、凶器よね。女子にとっては」
「青春キタ―――!!」
「うお!?な、なんだ!?」
「あ、いや、なんか叫ばないといけない気がして」
「「「あー、あるある」」」
「いや、ないから」
簪の奇行に驚く素振りを見せず、むしろ納得する一夏達に清香はツッコミを入れる。
ちなみに、折紙がDEM製の音を遮断するメカを使っているため、先程の会話は千夏の耳には入っていない。
「織斑くん、ウェストコットくん!お待たせしました!」
さあもう一狩り行こうか、と準備していたところに、真耶が戻ってくる。
「お二人に部屋の鍵を持ってきました。はい、これです」
「自宅通学と言われてましたが、やはり寮に入れられましたか」
「あざーす。部屋割りの調整、ご苦労様です」
一夏と千夏は違った反応をしながら、手に数字が入ったカードキーを受け取る。
「へー。さすがは天下のIS学園。金使ってるな」
「でもこのキー、脆いよ」
「かんちゃ~ん、バラそうとしたらダメだよ~」
「そ、そうですよ!あれ?でも何で私が、部屋割りの担当だと分かったんですか?」
「そう言うことを、強いられてるんが!!」
「あ、はい。なんかゴメンね?それでは、私はこれで」
真耶は突然目を見開いた一夏の迫力に押されて謝ってしまうが、簡単に寮則について説明すると規則が書かれた書類を渡して立ち去った。
その後に続き千夏も自室へ向かい、清香も一夏の部屋番をメモすると引き上げて行った。
「じゃ、俺も部屋に戻るか」
「あ、私行ってもいい?」
「…私も」
「荷解きを手伝ってくれるなら許可しよう」
「お任せあれ~」
一夏達もゾロゾロと教室を後にし、一夏の部屋へ向かう。
「何か忘れてるような?」
「まあ、いいんじゃない~」
―――同時刻、IS学園某所
「一夏・ウェストコット!次に貴様はこう言う!謀ったな、楯無ィィイイイ!!」
「お嬢様、いつまでそんな奇妙なポーズのまま独り言をしているつもりですか?」
部屋に置かれた姿見の前で、ドドドドドドド!、と擬音が背景に浮かびそうな姿勢の楯無に、虚が呆れた声を出す。
「決まってるじゃない。一夏くんが来るまでよ。うずくのよ、この腕が」
「ケガもしてないのに包帯を巻いてるからですよ。蒸れたんじゃないんですか?」
「バ!?この忌まわしき封印された、世界に混沌と破滅をもたらすかもしれない力を解放すると言うの!?」
「そんな設定、一切合切ありません。ほら、その眼帯も外して書類にハンコ押してください」
「やめろ!触れるな!クウ、邪王神眼の餌食になりたいのか!?」
「あー、はいはい。中二病乙」
楯無の発言をスルーしながら、虚は鋼糸を操って包帯と眼帯を切って席に着かせる。
「あれ?虚ちゃん、私の従者だよね?これじゃ、私が傀儡の主みたいなんだけど」
「本音を呼びますよ?」
「マジでごめんなさい。調子乗ってました。許してください」
体に巻かれていた鋼糸を、シュワッと溶かしてすぐさま書類整理に打ち込む楯無。
「あ、それから先程、本音からメールで一夏様の部屋でたむろしているとのことです」
「簪ちゃん達に連れて来るように言ったけど、忘れられた?」
「そのようで」
ガーン、と机に突っ伏す楯無。
「はいこれ、追加の書類です」
「ウソダドンドコドーン!!ワデノカラダハ、ボドボドダァー」
追い打ちをかけられ、某オンドゥル星人のように叫ぶ楯無の声が、学園に無情に響き渡った。
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