神々の黄昏
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第一幕その七
第一幕その七
「妻と夫だが」
「では私に妻を娶れというのだな」
「私はこの世で最も美しい女を知っている」
グンターにさらに言ってみせてきた。
「その女は高い岩の上にいて周りには炎が燃えている」
「ローゲの軍勢がか」
「その炎を越える者だけがその女を手に入れられるのだ」
「私にそれができるだろうか」
「止めておくべきだ」
ハーゲンはグンターには行かせようとしなかった。
「その炎はあまりにも強い。貴殿にしても私にしても焼かれてしまう」
「それではどうするのだ?」
「より強い者に行かせる」
そうするというのだ。
「我々よりもだ」
「ではそれは誰なのだ?」
「ヴェルズングの一族」
この名前が出るとグンターの顔が曇った。そのうえで言うのだ。
「あの血塗られた一族か。まだ残っていたのか」
「その一族の最後の一人ジークフリート」
ハーゲンはその名前を出した。
「双子の夫婦ジークムントとジークリンデが熱愛から生み出した子だ」
「兄と妹でだと」
グンターはそれを聞いてその顔をさらに曇らせた。
「それはまことか」
「まことだ。だが」
「だが?」
「その話は今は忘れるのだ」
そうしろというのである。
「そしてだ」
「そして?」
「森で育ったこの男こそグートルーネの夫に相応しい」
「ハーゲン」
ここでその美女、グンターの横にいるグートルーネがハーゲンに顔を向けてきた。
「それでその人は何をしたの?」
「欲望の洞窟にいてニーベルングの指輪を守っていた大蛇を倒した」
そうしたというのだ。
「その恐ろしい口に飲み込まれずノートゥングという剣で倒したのだ」
「剣で」
「そのジークフリートこそがそなたの夫に相応しい」
「ニーベルングの指輪のことは私も知っている」
またグンターが言ってきた。
「その宝は今は誰が持っているのか」
「この宝のことだが」
ハーゲンは所有者のことよりも先に指輪自体について話してきた。
「世界を治めることもできる」
「この世界を」
「そう、その指輪を持っているのはだ」
その者はというと。
「ジークフリートだ」
「ジークフリートがか」
「そうだ、彼が持っている」
「そしてブリュンヒルテを得られるのも」
「彼だけだ」
またグンターに対して語った。
「彼だけなのだ」
「そうか」
グンターはここまで聞いて考える顔になった。そのうえで言うのだった。
「ではその二つを」
「若しもだ」
そのハーゲンの言葉が続く。
「ジークフリートが貴殿のところへブリュンヒルテを連れて来たならばだ」
「私の妻に」
「それができるのだ」
「それではだ」
ここまで聞いてさらに述べるグンターだった。
「その勇者に頼み私の為に花嫁を手に入れだな」
「そしてその前にグートルーネの夫にしてだ」
「けれどそれは」
またグートルーネが言ってきた。美しい声だが何処か空虚な響きがある。
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