神々の黄昏
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第一幕その五
第一幕その五
その彼女はだ。豊かな黄金の髪を風にたなびかせ。そのうえで彼に声をかけてきた。
「ジークフリート」
「何だ?妻よ」
ジークフリートは前を見ていた。そこには朝日がある。鬱蒼と茂った森の向こうにその黄金の光がある。彼はそれをじっと見ているのである。
「何が」
「貴方を愛していても新しい世界へ行かせないことはしないわ」
「送り出してくれるのか」
「ええ」
まさにそうだというのである。
「貴方にとって私は価値のない存在にも思えたけれど」
「それは違う」
「そう、それもわかったわ」
こう答えたのである。
「私が神々から教えられた全ての知識は貴方に授けた」
「私はミーメに多くのことを教えられた」
それは事実だった。しかしなのだ。
「だがそれでも今は」
「そう、今は」
「私は貴女からそれ以上のものを教えてもらった」
「そして貴方は私から乙女としての強さを奪った」
それをだというのだ。
「だから私は今は貴方のもの。知識と力の代わりに愛と希望を得た」
「それが今の貴女」
「そう、それが今の私」
「そして今の私は」
今度はジークフリートから言ってきた。
「私には貴女がある」
「私が」
「そう、貴女がある」
前を向いたままだ。そのまま語っていく。
「そのただ一つの知だけは失わない。私はブリュンヒルテを想うという一つの教えを学んだのだ」
「私に愛の証を示そうというのなら」
「その時は」
「自分のことを思うこと」
「私自身のことを」
「そう、そして貴方の行いを」
次にはこう語った。
「そしてあの恐ろしい炎のことを。貴方は岩の周りに燃えていた炎を何の恐れもなく越えた」
「貴女を得る為に」
まさにその為だった。
「その為に」
「楯を持っていた女を思い出し、そして深く眠っていた乙女を見出しその兜を切り破った」
「貴女を目覚めさせる為に」
「私達を結ぶ誓いを忘れないで」
今度はそれだという。
「私達が担う貞節を。その中に生きる愛も全て」
「その全てを」
「そう、そうすれば私は永遠に貴方の胸に神聖に燃え続ける」
「では私は」
ここでブリュンヒルテの方を振り向くのだった。
「炎の聖なる守護の下に愛する貴女を委ねよう」
「ローゲに」
「貴女の知恵に対して」
ここであるものを差し出してきた。それは。
指輪だった。血塗られた黄金の輝きを持つ指輪だ。それを彼女に差し出してきたのである。
「この指輪を」
「指輪を」
「私がかつて行った働きによりこれは私のものになった」
「その指輪こそが」
「長い間この指輪を守っていた大蛇を倒し」
ファフナーである。
「手に入れたこの指輪を今私の貞節の聖なる証として与えたい」
「ではそれを」
ブリュンヒルテもそれを受け取って答えた。
「最高の宝としましょう。指輪の代わりにこの馬を」
「その馬を」
白馬であった。それが二人の前に出て来たのである。
ブリュンヒルテはジークフリートにその馬を見せながら。さらに話すのだった。
「グラーネを」
「グラーネ」
「そう、このグラーネを」
それをだというのだ。
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