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転生者が歩む新たな人生

作者:冬夏春秋
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第3話 その転移先は………

 気がついたら池の中にいた。

 もう一度言おう、池の中にいた。

 ここは石の中じゃなくて良かった思うべきなのだろうか?



 とりあえず、溺れ死ぬ前に岸に向かって泳いだ。体に上手く力が入らないが文字通り死にものぐるいだった。

 で、岸に辿り着いたところで記憶が途切れた。

「ねぇ、大丈夫? しっかりして!」

 霞んでいく意識の片隅で「久しぶりに日本語を聞いたな」と思いながら………。





 目が覚めると布団で横たわっていた。

「知らない天井だ………」

 転生者ならこういった場面で必ずつぶやく一言を口にしてみた。

 しばらく上半身を起こしてぼぅっとしているとすぅっと襖を開けて女性が入ってきた。
 いや、訂正しよう。銀髪のメイドさんが入って来た。

 ………メイドさんって本当にいたんだ。

 くだらないことを思った。

「気付いたんですね。お加減はどうですか?」

「ありがとうございます。おかげさまで体調も良くなったようです。失礼ですが、ここはどこなんでしょう?」

 寝起きの頭でぼうっとしていたが反射的に返答してしまう。ちなみに体調が良くなったのは本当だ。悪魔に潰された転生者に殴られて以来おかしくなっていた体調もすっかり良くなっている。
 そういえばバカ親父は転移する前「詠春のところへ送る」とか言ってたから、あれか。関西呪術協会の総本山か? でも、それにしては何故メイドさんが? 原作だと巫女さんがたくさんいて「純和風」という感じだったんだが。

「どこと問われますと海鳴の月村家と答えるべきなのでしょうか? 覚えていらっしゃいますでしょうか? あなた様はいきなり当家の池に現れたのですが………」

 ふむ。どうも関西呪術協会の総本山じゃないらしい。日本語を話しているので日本には違いないと思うけど………。転移呪文の失敗か。そういや「あっ?」とか言ってたな。逃がしてくれたのには感謝すべきだが、やはり今度会えたときに2、3発必ず殴ろう。うん。絶対にだ。

 ところで、これからどうしようか? 普通、イギリスから日本に突然移動したとか言ったら頭を疑われるよな。いや、そもそも魔法の秘匿上話すこと自体マズイのか? いやしかし、何も覚えていないで通るのか? かと言って今現在誰に連絡取れば良いんだ? ネギ兄さんとネカネ従姉さんは村で救助されたばかりだろうし、詠春さんや高畑さんなんて未だ名前を聞いたことも無いことになってるし。そもそも魔法学校の校長をやっている祖父さんに一般人のほうから連絡とれるのか?






 あれ? もしかして詰んだ?





 どうも、必死に考えているオレを見て直ぐに答えは出ないと考えたのか、「少々お待ち下さい」と声をかけてメイドさんは部屋から出て行った。



 しばらく「これからどうすべきか?」と言う難問を考えていると「失礼します」と改めてメイドさんから声がかかり、他に2人の人物を連れて戻って来た。



「気分はどう?」

 黒紫の髪という艶やかな髪をなびかせて高校生ぐらいのお姉さんが声をかけてくる。その後ろには体を隠すようにオレと同じ歳ぐらいの女の子が控えている。顔立ちが似てるので多分姉妹なんだろう。

「おかげさまでなんとか。ただ………」

「ただ?」

「何故此処にいるのかわからないんです」

 言ってしまった。結局、なにをどう言えばいいのかわからないのでわからない振りをした。
 まぁ、あれだ。よくよく考えてみたら、一般人なら魔法の秘匿上話すべきじゃない。裏の関係者なら話してもかまわないんだろうけど、よくよく考えてみたら、「ナギ・スプリングフィールド」の息子って日本で話したらまずくね? バカ親父の予定通り詠春さんに保護されてたらともかく、確か関東と関西で対立してたような気がするし。
 そもそも、このまま上手くいけばイギリスに帰らなくても良くね? 素性を隠して日本の孤児院にでも入れれば原作と関わらずに生きて行けるんじゃね?

「そう………」

 オレの返事を聞いて、お姉さんは顎に手を当て、小首を傾げて少し考える。

「わかったわ。どうも混乱しているようだから2~3日様子を見ましょう。ノエル、ファリン少しの間、世話をしてあげて」

「「わかりました」」

「そうそう。自己紹介もまだだったわね。私が月村忍。それでこっちの()がノエルで、こっちの()がファリン。(うち)でメイドとして働いてもらってるわ。君の世話をしてもらうことになるわね。あと、この子がすずか。私の妹で、君を最初に見つけたのもこの子になるわ。仲良くしてあげてね」

「そうですか。よく覚えていないのですがありがとうございました。オレの名前は………。名前は? サギって呼ばれてたような気がします。しばらくの間、お世話になります」

 布団に上半身を起こした上で、ぺこりと頭を下げる。名前を言うべきか迷ったんだが、呼ばれる名前がないのも不便だろうとスプリングフィールドの姓を出さずに名前だけを告げた。しかし、改めて日本語で話すと「サギ=詐欺」って名前はどうなんだろう? 「ネギ=葱」も大概なんだが、「○ギ」って名前をスプリングフィールドの男の名前につけることに決めたご先祖様には一言もの申したいわ。

「よろしくね~」とはにかみながら手を振って、直ぐに忍さんの後ろに隠れたすずかちゃんはかなり可愛かった。







 久しぶりに米を食べた。正確には今世では初めて食べたんだが。
 まぁ、最初はおかゆだったがあまりに懐かしくて涙が止まらなかった。

 やはり日本人は米だな。この体は英国人と魔法世界人のハーフだが。

 ちなみにこの月村邸、現在忍さんとすずかちゃんの姉妹とノエルさん、ファリンさんのメイド姉妹の4人しか住んでおらず、朝はパンを中心とした洋食風の朝食だが、昼と夜は基本的にお米を中心としたメニューで、どの食事も非常に美味しい。
 ちなみにすずかちゃん達のご両親は仕事で海外を飛び回っているらしい。
 なので、オレをここに住まわせてくれているのは純粋に月村姉妹の好意によるものである。感謝感謝である。



 で、2~3日どころか1週間ほど経ったある日の夕食後、皆が忍さんに集められた。

「悪いけどサギ君の記憶を覗かせてもらったわ」

 いきなり、そう忍さんに言われた。

 どうやら、昨晩寝入った後にどうやってか知らないが記憶を覗かれたらしい。
 プライバシーがどうのこうの思わないでもないが、記憶も戻らない不審な子供をいつまでも放置しておけないんだろう。一言ぐらい事前にと思わないでもないがしょうがないか。

「えぇっと。どうやってと思わないでもないですが、それはお置いといて、何かわかりました?」

「ごめんなさいね。事前に話しちゃうと心の作用で覗きにくくなっちゃうから。それでわかったことは………」

 忍さんの話しを聞く限り、どうもオレの記憶がところどころ見えただけらしい。
 それでわかったのは、村が何者かに襲われたこと。逃げ出したところで男の人に襲われたこと。その後襲ってきた男が悪魔に殺され、オレが悪魔に殺されそうなところを赤い髪の男が魔法で助け、逃がすために転移させられたことだった。

「いきなり(うち)の池に現れたから何かあるとは思っていたけど、悪魔に襲われ、魔法使いに逃がされてここに来たとわね。」

 ………。

 魔法に疑問を覚えてないようだから、どうもその存在を知っている関係者なのか?

「まぁ、改めて。海鳴周辺を守護せし月村家へようこそ。サギ君」
 
 

 
後書き
とまぁ、転移先で主人公を拾ったのは月村家です。
設定的には、「Fate/stay night」における遠坂家のような土地の管理人(セカンドオーナー)を代々しています。 
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