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恋姫~如水伝~

作者:ツカ
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二十一話

洛陽城塞部

「連合ちゅうだけあるで、大体、二十万ちゅうとこか」
華雄亡き今、董卓軍の双璧と言われる張遼が眼下に見える軍勢を見下ろした。
「ええ、報告ではその数であっているわ」
そして張遼の横には董卓軍の頭脳と言うべき賈駆が控えていた。
「うちらの数は八万七千、まあ、この城壁を上手く使えば何とか戦えるやろ」
「そうね、一、二ヵ月耐えれば連中も瓦解する可能性もあるわ。それまで持ち堪えて」
「ええで、その辺はうち等に任しとき」
「頼んだわよ」

袁紹軍本陣
「さあ袁家の兵達、華麗に前進し成り上がり者を討ち取りなさい。おーほっほっほ!」
袁紹の命の下に顔良、文醜の率いる七万の軍が城壁に挑みかかった。

袁術軍本陣
「わらわの兵も遅れるな、急いで攻めるのじゃ」
袁紹に功を盗られまいと袁術も六万四千の軍を動かせた

それを見て、各諸侯も一斉に動き大規模な攻城戦が始まった。

一方で、曹操軍は陣形を崩さず傍観していた
「華琳様、なぜ動かないのです、この機に乗れば我々の勝ちです」
「そうです、一体どういうお考えですか」
春蘭、秋蘭は攻撃に参加すべきだと説いた
「だめよ、汜水関や虎牢関とは違うの。今、迂闊に都を攻めたとしたら下らない悪評が立てられるわ」
華琳が二人の意見に反対し、如水と桂花も賛同した
「落ちぶれたとは言え、一応は帝の居る所です。それに相手は禁旗を掲げています。迂闊に矢で射落とせば、敵味方から非難を受けます」
「それに、洛陽の城壁は容易に突破出来ないわ。今しばらく様子を見ましょう」
その意見に納得した二人だったが、この現状に黙ってみている事は我慢ならなかった
「しかし、見ているだけというのも歯がゆいな」
「確かに、華琳様や如水らの言う事もわかるが何もしないというのも芸が無いかと思いますが」
その考えを理解し如水は華琳に意見を述べた
「矢文で住民らに呼びかけるというのはどうだろうか、餓えている者らを助けに来たと文を送ればこちらが優位に立てるかも知れない」
「そうね、秋蘭。遠矢を利くものを集めて矢文を打ちなさい」
「御意」

華琳の命を受け、秋蘭率いる曹操軍の弓の名手百人が一斉に矢を放った。
それを受け洛陽の住民は困惑した。
「おい、曹操って言うのが俺達に飯を食わせてくれるってよ」
「でも、あれだけ俺達に良くしてくれた董卓様を裏切るのかよ」
「じゃあ、このまま飢え死にしてえのか」
その混乱を防ぐ為、董卓は府庫を空け、ただでさえ少ない糧食を住民に配った。

董卓の軍師賈駆は歯噛みした
「やってくれるじゃない。曹操、さすが黄巾で一番の戦功を挙げただけあるわね。それに華雄を討ち取ったのはその配下の黒田って奴だったわね。水色策士と呼ばれるだけはあるわね」
その様子をみた張遼は心配で声をかけた
「どうするんや、これ以上篭城は難しいで」
「わかってるわ。打って出ましょう、そうなれば戦況を打開できるかもしれないわ」
その言葉を聞き、張遼は勇み喜んだ
「まかしときぃ、そういうのを待ってたんや」

賈駆は呂布を先陣に配置し、張遼に遊撃隊の指揮を命じ城壁から打って出た。

呂布の圧倒的な力と、張遼の絶妙な用兵術で連合軍は四散した。

「ええい、なにをやっているの。早く不埒者を討ち取りなさい」
「そうじゃ、袁家の名に懸けて討ち取るのじゃ」
袁紹、袁術は狼狽したが二人の見事な戦術の前に他の諸侯も打つ手は無かった。

後方に居た曹操軍はその様子を見て、華琳は感歎した
「みごとね、さすが貴方は称えただけはあるわね」
「ああ、だが呂布は自身の圧倒的な武勇に頼りすぎ兵の指揮は他が執っている。やはり君の下で働くとしたら張遼だろう」
「そうね、呂布は所詮は匹夫の勇。私の役に立ちそうにないわ。で、この現状を如何する気」
「まずは、二人の連携を断ち切る。呂布は無理でも張遼なら捕らえられるだろう」
「そうね、春蘭。張遼を食い止めなさい。秋蘭は邪魔が入らないように援護しなさい」
「はい、華琳様」
「承知しました」
春蘭と秋蘭はそう言って軍を引き連れ向かって行った

「私はどうすればいい」
「もうしばらく様子を見るわ。二人が成功すれば、いずれ呂布といえど数に押し切られる。私達は合図が来たら別口から攻めましょう」
「了解した」

「張遼殿と見受ける、我が名は夏候元譲!我が剣を受けられるか」
「あんたが曹操軍の大剣やな、ええで、相手したる」
「良い心がけだ。ならば、行くぞ!」
「おおおおおおっ!」
「でやあああああっ!」

夏候惇と張遼の打ち合いが続く中、秋蘭は出来るだけ部隊の足止めをした。
「敵を張遼に近づけるな。姉者を信じろ」
「「「「おおおおっ!」」」」

お互いに何度も得物を打ち合い二人はお互いの実力を称えあった。
「なかなかやるな、張遼。華琳様が欲しがるわけだ」
「そうかい、曹操にそこまで買われとる自分を褒めてやりたいわ」
「謙遜せずともよい、私は曹操軍一の使い手だ。その私とここまで打ち合える奴など初めてだ」
「ええな、それ、なら曹操とこに入るんやったら、手始めにあんたの首を土産にしたるわ」
「ぬかせ!」
「姉者っ!」

そこに秋蘭の悲鳴に近い声が聞こえた。
「……ぐ…っ」
春蘭は敵の放った矢に目を射抜かれた。
「姉者っ!姉者ぁっ!」
「…ぐ……くぅぅ!」
それを見た張遼も狼狽した。
「ちょ…あんた!?」
「姉者!大丈夫か、姉者!くそ、だれだ」
「くっそぉぉ…っ!誰じゃあ!うちの一騎打ちに水差したド阿呆は!出て来ぃ!ウチが叩き斬ったる!」
「やめろ、二人共手を出すな!ここは私の戦いだ、貴様らの戦い見事だった。だが、この程度で私は負けん」
「せやけど!」
「私が気を抜いたから射抜かれたのだ、それを卑怯と呼ぶのは…愚者か敗者だけだ!」
「姉者…」
「夏候惇…」
(奴も言っていた、剣も持たず丸腰のくせに、常に前線に立ち多くの戦功を残してきた)
「私は愚者でも…ましてやまだ敗者でない」

春蘭は大音声を上げた
「我が精は父から、我が血は母からいただいた!そしてこの五体と魂、今は全て華琳様のもの!断り無く捨てるわけにも、失うわけにもいかぬ!」
そういって春蘭は自身の眼を飲み込んだ
「皆、私は無事だ心置きなく戦え」
「「「「おおおおーっ」」」」
「こんのか張遼、ならこちらからいくぞ」
「な……」
「では、続きといくぞ」
春蘭が挑みかかろうとした時
「ウチの負けや、夏候惇。好きにせい」
「なら、貴様の力、華琳様の元で使って貰うぞ」
「ええで、それと勝手な話やけど、ついでにうちの部下も助けてやってくれんか」
「構わん、ただし姉者を撃った奴は後できちんと刑にかける」
「それはしゃあない!すまんな手を掛けて」
張遼は敵味方に宣言した。
「張文遠!曹操軍に降伏する、皆戦いをやめい」
「「「「おおおおっ」」」」

その一方で、華琳と如水は城内への抜け道を使い入っていった。
「こんな場所、どうやって知ったんだ」
「宦官連中に董卓軍が出たらここを空けろっていっておいたの」
「そうか、しかし、董卓と賈駆の顔がわからん以上無闇に探し回る時間は無いぞ」
「董卓と賈駆なら常に一緒にいるのでしょう。それにもう逃げるしかないでしょう」
「それを捕まえるとわね、身分の良さそうな者を探して攫うとは、人攫いにでもなった気持ちだ」
「しつれいね、人攫いじゃなくて宝探しよ」

「にっにげよう月」
「まっ待ってよ詠ちゃん」
広場に出ると身なりのいい少女と、従者らしき少女が逃げようとしていた。
華琳と如水はその二人を林の中に攫い取り押さえた

「貴女達が董卓と賈駆ね」
「うぅ…」
「黙っていてもわかるわ、その身なり、宦官らの寄越した情報と一致するわ」
「だったらどうする気、僕らを殺すの」
「いや、賈駆君には曹操の下で働いて貰う。どうせいく宛もないだろう」
「なら、月は…」
「君が部下になるのに幾つか条件をだそう、董卓の身柄の安全は曹操とこの黒田が保障しよう」
「あんたが黒田、水色策士ね。いいわその条件なら曹操の下で働いてあげる」
「話が早くて助かるわ、董卓の安全は必ず保障する。安心しなさい、如水二人を私の陣に連れて行きなさい」
「了解した、二人共この布を被ってくれ。本陣まで案内する」
如水は二人を連れ来た道を辿って曹操軍の陣地に戻った。

そして、本陣に入った時。董卓と賈駆を曹操が討ち取ったとの報と、春蘭が負傷し、秋蘭に担がれて帰ってきた。

「如水、姉者を急いでで治療してくれ」
「わかった」

曹操軍 医療用天蓋

如水は自ら春蘭の治療に当たった
「すこし、沁みるぞがまんしろ」
「うっ…がぁ…」
「幸いにも骨に届いていない、君の体力なら二、三日で治るだろう」
「そっそうか…」

治療が終わり手持ち無沙汰だった二人は今回の事を話し合った。
「無茶をするな君は」
「いつも丸腰で敵陣に向かっていくお前ほどじゃない」
「ふっ…そうだな」
「しかし、今回の事でこの前、お前の言っていた事がわかった気がする」
「そうか」
「ああ、相手はむしろ上手く私を狙った。そのまま倒れてたら間違いなく敵の勝ちだった、しかも損害の少なくな。私は戦いに卑怯な事等存在しないと身を持って知った」
「そう言われると私が怪我を負わせたみたいだな」
「いや、おまえの言葉が無ければ私は死んでいたかもしれん。…ありがとう」
そういって、春蘭は寝息を立て始めた

しばらくして、華琳が帰ってきて春蘭の様子を見て安堵し、如水と桂花に都での炊き出し等を命じた。

三週間後、反董卓連合は解散した。だが、これで平穏になるとは誰も思わなかった。
漢王朝の威光は既に無く、それに次ぐ袁家の名声もこれだけ力を付けた諸侯を抑えられるとは如水には不可能だと思った。

新たに始まる戦乱の兆しを感じ、如水はその戦いの果てに、華琳の天下を描いて見るのもまた面白い人生だろうと思った。

 
 

 
後書き
如水の旗
藤の花と十字架どっちがいいと思います。 
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