神々の黄昏
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第一幕その十四
第一幕その十四
「それをヴァルハラにうずたかく積ませて囲ませたわ」
「その世界樹の薪で」
「そして私達をその中に置いてお父様もおられて」
「その中で動かれないのね」
「ええ」
その通りだというのである。
「ヴァルハラに集めた英雄達も私達も集めて」
「ただその中になのね」
「あの二羽の烏を飛ばしただけよ」
話の中で烏を出してきた。
「それはね」
「烏は」
「ええ、烏は」
それはだというのである。
「あのお父様の僕の二羽の烏を放ちそのうえで遠くを探らせて」
「そうしてなのね」
「彼等が戻って来て話を聞いて微笑んではいたけれど」
「そうしてそれからは」
「同じになられたわ」
残念そうに首を横に振って言うのだった。
「もうね」
「そう、一緒なの」
「私達の御言葉にも耳を傾けられない。けれど」
ここでブリュンヒルテを見てきた。そうしてだった。
「姉さん」
切実な顔での言葉だった。
「それだけれど」
「それで?」
「お父様は貴女を待っておられるのだと思うわ」
「私を?」
「そう、貴女を」
まさに彼女をだという。
「それは間違いないわ」
「果たしてそうなのかしら」
ここでブリュンヒルテの言葉に自嘲が入った。笑みもである。
「この私に。もう神ではなくなったのに」
「それでもお父様はずっと貴女のことを想っておられました」
「偽りではなくて?」
「私もまたお父様の娘よ」
ここではこう言うのだった。
「それでどうしてわからないというの?お父様のことが」
「そう、まだ私を」
「お父様は深く嘆息され目を閉じられて夢を見るようにして呟かれたわ」
「何と?」
「指輪はあの乙女達に返さねばならないと」
こう呟いたというのである。
「そうすれば呪いの重荷により神と世は救われると」
「それで救われるというのね」
「それで私は考えたの」
また姉の顔を見てきて言うのだった。
「貴女ならばと想って」
「今になって私に」
ブリュンヒルテはそれを見て応えてきた。
「神でなくなった私に何をしろと」
「その指輪をです」
彼女の左手の薬指の指輪を見てだ。その血の様な赤が混ざった黄金の色の指輪をである。
「捨てて下さい」
「この指輪を?」
「そうです」
まさにそうだというのである。
「どうか。お父様の為に」
「この指輪を捨てろというの?」
「そうです」
まさにその通りだという。
「そしてラインの乙女達に返して下さい」
「これはあの人が私に授けてくれたもの」
だが彼女はこう妹に返すのだった。
「だからこれは」
「けれどその指輪が貴女のものだと神々が」
「滅ぶというのね」
「そう。ヴァルハラが」
滅ぶというのである。
「だから何があっても」
「この指輪がどういったものか知らないの?」
ブリュンヒルテはここまで聞いて言葉を返してきた。
「私にとってどういうものか」
「神々を滅ぼすその指輪を?」
「ヴァルハラの喜びよりも神々の誉れよりももっと大切なものなのよ」
「神々よりも」
「そうよ。この冴えた色の黄金」
彼女の指輪のことである。
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