ロシアの展覧会
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第一章
ロシアの展覧会
ムソルングスキーという音楽家がいた。
不遇の人生を送ったが歌劇等で多くの作品を残している。その中で展覧会の絵というロシアの様々な民衆を音楽にした作品がある。
この作品を自宅で聴きながらだった、カメラマンのミハエル=ボロドフスキーはマネージャーであり妻であるカテリーナ=ボロドフスキーにこう言った。
「一つ考えてるんだけれどな」
「どうしたの?」
「いや、今度の写真だよ」
こうマネージャーでもある妻に言う、見れば眼鏡をかけた太った男だ。歳は四十程でかなり大柄だ。茶色の髪の毛はまだふさふさとしている。
その彼がブロンドの自分以上に太っている小柄な妻に言うのだ。
「この曲聴いて思ったさ」
「この曲みたいな写真を撮りたいのね」
「そう考えているんだけれどな」
こう妻に言う。
「どうだろうな」
「いいんじゃない?今度の依頼は写真集だし」
妻もこう返す。
「だからね」
「写真集っていってもいつもみたいなのじゃないからな」
「アイドルとか芸能人のね」
ロシアでもそうした仕事が増えているらしい、ボロドフスキーはアイドルや女優を可愛く撮ることで定評がある。それで食べられているのだ。
「けれど今回は自由裁量よ」
「俺のな」
「じゃあここはあえて新境地開いてもいいでしょ」
「そうだな、可愛い娘ばかり撮っていてもな」
飽きるというのだ。マンネリになる。
「だからな」
「そう、それでこの展覧会の絵みたいな感じね」
「それ撮るな」
こう妻に言う、そうしてだった。
家の窓の外を見る、そして言うことは。
「ロシアなあ」
「ええ、ロシアよ」
「ムソルングスキーはロシアの民衆を音楽にしたな」
それがこの展覧会の絵という作品だ、音楽にされたロシアの民衆は様々な顔を見せている。
そのロシア人について、ボロドフスキーは妻に尋ねた。
「ロシア人のイメージってどうだろうな」
「ロシア人?」
「ああ、俺達な」
それはどうかというのだ。
「どんなイメージだろうな」
「太ってるとか?」
妻は自分と夫の姿を見てまずはこう言った。
「それとか?」
「あと酒か」
「世界からはそう言われてるみたいね」
「実際に太ってるし飲んでるしな」
ボロドフスキー自身太っているし尚且つ酒好きだ、勿論好きな酒はウォッカである。
「皆な」
「そうよね、実際にね」
「それは否定出来ないな、けれどな」
「それだけじゃないっていうのね」
「そうだよ、ロシア人って酒だけじゃないだろ」
「怖い政治家とか?」
これもまたロシア名物だ。
「そういうのとか?」
「プーチンみたいなのは他の国にいないか」
「いないみたいよ」
あれだけ恐ろしい政治家はそうはいない、ましてや元KGBで様々な格闘技を習得しておりあからさまに恐怖のオーラをまとっている政治家は。
「どうやらね」
「あまりイメージよくないか?」
「ソ連時代のことは大分消えたけれど」
「おまけに外は寒いしな」
ロシアの気候のことも話される。
「今も雪か」
「大雪ね」
「寒いな、けれどロシアってそういうのばかりじゃないよな」
「色々あるわよ」
妻はロシア人として夫に話した。
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