戦国異伝
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第百二十六話 溝その三
「江戸にでもな」
「江戸?といいますと」
「その地は何処でありましょうさ」
「さて、江戸といいましても」
「そこは」
「わしもこの前知ったがな」
信長にしてもそうだというのだ。
「武蔵にある」
「あの国の場所ですか」
「東国の」
「関東の丁度真ん中の辺りにありじゃ」
そこだというのだ。94
「開けておるし傍に川も多い」
「小田原ではなくそこですか」
「そこに城を築かれるのですか」
「そのつもりじゃ。後はじゃ」
話は続く。
「西国には広島じゃな」
「あの地にもですか」
「城を」
「城は護りの為に必要じゃしな」
そして政の為にもである。
「築いていくぞ。ではまずはじゃ」
「安土ですか」
「あの地に」
「五郎左」
信長は丹羽の名を呼んだ。
「よいか」
「それがしがですか」
「御主にその築城を任せる」
こう丹羽に言ったのである。
「ではよいな」
「有り難き幸せ、それでは」
「そこでじゃが」
ここでまた言う信長だった。
「結界じゃ」
「結界とは」
「悪しきものを封じる城にもしたい」
こうも言ったのである。
「ここでな」
「安土の城をですか」
「うむ、それも考えてくれるか」
「左様でありますか」
「これから築く城にはそれも備えたいのじゃ」
「といいますと」
今度言ったのは小寺である、彼が言うことは。
「毛利殿の様にですか」
「あの石垣に文字を入れたことじゃな」
「それと同じですか」
「わしは人柱は信じておらぬ」
信長はこれをことの他嫌っている、それは何故かも話す。
「人を埋めて犠牲にして城を築く」
「殿はよくそれはならんと仰ってますな」
「常に」
「そうして埋められた者の魂を慰めとするというがじゃ」
信長は顔を険しくさせて家臣達に話していく。
「埋められた者はどうなる。無理に埋められて恨みを持たぬか」
「恨みを持てば怨霊となる」
「だからですな」
「この目で見たことはないが闇はな」
あれから随分と経つ、だがだった。
信長も古くからいる家臣達もだ、どうしてもあの男のことが忘れられなかった。
それで河尻がここで言ったのである。
「あの津々木という男は」
「この世の者であったがな」
「妖気に満ちていました」
まさにそれを発していたのだ、闇の衣を着て。
「あの者の様にですか」
「あ奴に会うまでは信じておらんかった」
元々信長は目に見えるものを信じる男だ、逆に言えば目に見えぬものは信じない、だがあの男を見てからだったのだ。
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