リリカルなのは 3人の想い
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7話 一条 京介side
正直に言って私は夢を見とるんやと思っとった。
あんまりに寂しすぎて耐えきれずに私が作り出した都合のいい夢を。
ある日いきなり、自分の双子かと思うような子が家の中に倒れとるなんて普通信じれるはずないやん。
だからこそ、今も瞼に朝日が当たって朝が来たのがわかっとるのに目を開けたくない。
目を開いたらまた独りぼっちの現実が待っとるから。
昔からこんな夢はよく見とった、そのたびに目が覚めるたびに寂しさを痛感させられとった。
でもだからっていつまでもこうしとるわけにはいかんかった。
夢は所詮夢なんやから、自分にそう言い聞かせて瞼を開ける。
ああ、やっぱり夢やったんや、目に映るのはいつも通りの部屋。
そこには眠る前に一緒にベッドの真ん中に移動させた男の子の姿はなくて、どこか寒々しい寝室があるだけやった。
思わずいつの間にか抱きしめていた枕を更にギュッと力を入れて抱きしめた。
「ん……ぅ…」
その声は私が出したんとちゃうもんやった。
ハッとして腕の中を見る、そこには昨日出会った子が小さく丸まるような体勢で私に抱きしめられていた。
昨日かなり長い間寝ていたというのに、穏やかな寝息を立てるだけで起きる感じはせんかった。
ちょうど京介ちゃ……えっと京介くんの頭がいい具合な場所にあってつい手が伸びてまう。
うっわ髪サラッサラやん、手全く引っかからへんし。
「ん、んんぅ……」
起こしてもうたかな? すぐに手を引っ込めて様子を見とると目がトロンと半開きになる。
何なんこの可愛い生き物。
京介くんはしばらくそのままぼんやりしとったんやけど、また目を閉じて静かに寝息を立て始めた。
「ほんまよう寝るなあ」
ていうか普通頭触られたら起きて、触るのやめたら眠るって逆やないん? こんな可愛い娘がわざわざ頭撫でたっとるんやで、もう少しぐらい――
「ってひゃあ!?」
きょ京介くんの顔が、むむむ胸にい!?
顔が熱くなって頭がグルグルと回転してまともにものが考えられんくなる。
「京介くん!? なに……してって」
まだ寝とるんかい! はぁ……、なんちゅうか怒んのもアホらしくなってきたわ。
京介くんがいつまでも家にいてくれるなんて流石にそこまで都合のいいことは思っとらん。
でも今は独りぼっちじゃないっちゅう、幸福感の中にもう少しだけ浸っていたくて京介くんを抱きしめる腕に力を入れた。
現実も悪くないかもしれんって、ようやく思えるようになってきた朝やった。
▼▼
「ん、んんんん~~~~」
目が覚めてから思いっきり伸びをする、いや~一体どれぐらい寝たのやら、こんな気分壮快な目覚めは久しぶりだな。
とりあえずベッドからおりて寝室の中をグルッと見回す、部屋の中に八神の姿はなし、時計はっと11:30かうん普通だな。
とりあえず八神の姿を探して家の中をうろつく、音がする方へと向かうとダイニングキッチンらしき部屋についた。
「あ、やっと起きたんもう昼やで、どんだけ寝るんかと思ったわ」
八神はキッチンの方からちょうど出てくるとこだったらしく、その姿は裸エプロ―――もとい普通のエプロン姿だった。
しっかしなんか最近やたらと雑念が入るけど電波でも受信してんのか? 俺がいくらオープンスケベだからってロリはねえだろうよ。
ないよな? 今度こそ答えてくれよ俺!
ない
ついに返事が来たー!
といいね。
そして上げて落とされただと!?
「一人で悶えとらんとお昼ご飯運ぶの手伝ってくれへん? 二人分やと運ぶの大変ねん」
「ん? 俺の分まであるわけ?」
「当たり前やないの」
「おおう、そのさりげない優しさにハートを撃ち抜かれてしまいそうですよ」
「大げさやなあ」
いやいや、いきなり現れた人に一宿一飯を与えてくれるなんて中々できる事じゃないって。
そんな事を考えながら食事を運ぶのを手伝う、やっぱりこの飯も八神が作ったんだろうなあ。
「和食かぁ、いいね和食って朝食っていったら和食だよね」
「もう昼やけどね」
八神と二人で食卓につく。
「「いただきます」」
しっかりと手を合わせてから食べ始める。
「「……………」」
食器の触れ合う音と咀嚼の音が響く、うんうまい。やっぱり鮭はしっかり焼いているのが一番だな。
「えっと……京介くん口にあう?」
何故か八神が心配そうに聞いてくる。
「うまいけど?」
何でわざわざ聞くのだろうか? そして八神は何故か胸をなで下ろした。
「どうかしたわけ?」
「どうかって……普通黙々と食べとるの見たら不安になるもんやろ」
「何で?」
「そりゃあまあ、美味しくなかったんかなあと」
そういうもんかねえ。
「普通に、いや普通以上にうまいけど?」
「もう、最初っからそう言ってえな」
八神の機嫌はまだ完璧には直ってないらしく、少し不満げな顔をしている。
「しゃーないじゃん、飯食うとき基本一人なんだよ」
「一人って親は?」
「ん? いないよ」
あ、やば。普通いるもんだっけ。
「あっ……ごめん」
八神は別に気にする必要はないのに、気まずそうな表情になってしまった。
「気にしなくていいって、もうほとんど覚えてもないし」
「っ! ……寂しくないん?」
「別に」
実際今まで家族がいなくて気楽だと思ったことはあれど寂しいと思ったことはない、それだけいい親友に恵まれていたという事だろう。
「……強いんやね、私なんて寂しくてしゃあないんに」
だというのに八神は何を勘違いしたのやら、俺には到底似合わない評価を出した。
「強くなんてないって、俺はただ単に人間としてどこか破綻しているだけ。寂しいと感じる八神がまともなんだよ」
「破綻ってそんな言い方」
「事実だからしょうがない、まあそんな飯がまずくなる話は置いとこうじゃない」
半ばかぶせるようにして八神の言葉を遮ることで、話を打ち切る。
八神も納得はしてないようだが、渋々頷いた。
「そういやさ、俺の服ってどうなってんだっけ?」
流石に八神の服を着たままってわけにいかないしな、ていうかパジャマだし。
「あー、それなんやけどまだ乾いとらへんかったわ」
「まじすか……、このままじゃ俺は八神のパジャマで家に帰ることになってしまうのか!?」
「ならんわ!!」
ちょっと脳内でシュミレートしてみよう。
八神家から出るwith八神パジャマ。
↓
家の場所わからない。(そもそもあるの?)
↓
道に迷う。
↓
昨日の変態どもに見つかる。(無限わき)
↓
や・ら・な・い・か?
↓
アッーーー!!
恐ろしすぎる!!
ていうか新たな問題点が見つかるとは、俺の家ってどこにあるんだろうな?
最初目が覚めたの河原だし、その後は変態どもから逃げるために必死に走ってきたしな。
「人の話聞かんかい!」
「げふっ!!」
八神の鋭いツッコミがわき腹に突き刺さり、口からおかしな音が飛び出した。
因みに今更だが八神は何故か俺の真隣で朝食をとっていた。
「服やったら他の貸すから心配せんでええって」
「………女物?」
「ええやん似合うんやし」
「似合うからよけいに嫌なんだよバカァ!!」
中学、高校と女装コンテストに強制的に出されて毎年ダントツ優勝とか黒歴史をほじくり返されるんだよ!
あ、だめだもう立ち直れそうにない、部屋の隅もといスミスに行こう。
「あ~、ごめんごめんちょっとからかいすぎたわ」
全身から湧き出る負のオーラを察知したのか八神が謝ってくる。
「だったら男物の服を「無いわ」……そうっすか」
現実は無情だった。
▼▼
「ほんまにそれでいいん?」
「これ以外ほぼ全部男が着るようなもんじゃなかっただろうが」
今の俺の服装はショートパンツに飾りっけのないTシャツ、顔を隠せるように目元まである黒く大きいニット帽で玄関にてスニーカーの靴紐を結んでいる。
え? さほど男らしくないって? はっきり言おうお前等は甘いと。
だってさあ、八神が最初に出してきた服って何だったと思うよ? ONE PIE――もとい白いワンピースだったしさあ、+麦わら帽子。今思えばあれは狙っていたんだろうか。
思わず「男らしさが欠片もねえぇぇえ!!」と叫んだ俺は悪くないと思う。
まあ、そんなこんなで俺を着せ替え人形にされそうになったが、必死の攻防の末、何とか今の服装に落ち着いた訳だ。
つか、下がスカートじゃないだけましだが太股の半分までしか丈がないとかないわ。
男のすね毛の生えた生足なんて見ても誰も得しねえよ、だがら前世でも基本長ズボンしか履かなかったしな。
「ほんまに行ってしまうん?」
八神の声には先ほどまでの元気はなく、寂しげな色がありありと伺える。
「俺が居たら八神の負担が増えて大変でしょうよ」
人が一人増えるというのは金銭面でもそうだが、炊事洗濯は手分けしてやっても一人と複数人ではかなりかってが違ってくる。
それにそれは精神面的にも言えることで…………やめよう、どっちにしろ八神の家にやっかいになるわけにはいかない。
「一人ぐらい増えたって大して変わらへんよ」
「そうは言うけどねい……」
言うは易し行うは難し、初めはそう思っていてもいつかは辛く思うときが来るだろう。
初心を忘れない者など居はしないのだろうから。
「それにお手伝いさんが増えるんは私としてはありがたいことなんやよ」
八神の言っていることは正しく、俺には正当性などなく、端から見れば何故そんなに頑なに拒むのか理解できないだろう。
俺としても理由を聞かれれば返答に困るに違いない、それでも納得できない辺り、首を縦に振れない辺り何らかの思いがあるのは確かなのだろう。
結局その思いをうまく言い表せる言葉がわからず、そんなもどかしい感覚を振り切るようにして立ち上がる。
その瞬間にわずかに後ろに抵抗。
首だけを動かして見てみると、それは八神がTシャツを摘んでいるせいだった。
「あっ……、えっとごめん……」
謝ってこそいるが八神はその手を離そうとはしない。
それは抵抗と言うにも微かすぎて、振り払うまでもなく一歩前へと足を進めれば、簡単に外れてしまうだろう。
だというのに、俺は何故かその一歩が一向に踏み出せなかった。
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