メフィストーフェレ
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第二幕その六
第二幕その六
「他にも多くありますが」
「そうなのか」
「はい、そうしてです」
ここでファウストに杯のワインを出して勧めてきたのだった。
ファウストはそれを受け取って飲む。そして前を見たがここで遠くに何かを見るのであった。それは。
「!?あれは」
「どうしたのですか?」
「あれは一体」
その見たものを指差しながらメフィストに告げる。
「何なのだ?」
「あれですか」
「そうだ。あのかすんだ空にだ」
その暗い空に見ているのだった。
「蒼ざめた悲しい娘が見える」
「あの娘ですか」
「鎖で縛られた足をゆっくりと引き摺っているが」
その娘は空を歩いている。その鎖で縛られた足で、である。
「あれは一体」
「死にゆく者の魂ですな」
「マルゲリータか?」
ここで気付いた彼だった。
「あれはまさか」
「違うのでは?」
「いや、間違いない」
目を凝らす。彼には間違いなくマルゲリータに見えた。
それを確かめるとだった。さらに言わずにはいられなかった。
「何故だ、何故ここに?」
「あれは天国に行く霊達か」
メフィストは彼女が空を歩いているのを見て残念そうに言う。
「地獄に落ちるのならここに来るのだから」
「天国に行くというのならだ」
ファウストは彼のその言葉を聞いて述べた。
「何なのだ?あの死者の様に見開いた瞳に白い肌は」
「死せる魂ですから」
「何故だ、何故マルゲリータが」
「まあ博士」
メフィストは嫌な予感がしてそれでファウストにまた杯を出してきた。
「また飲んで下さい」
「いや、いい」
「そう言わずに」
「今はいい」
彼は手でもそれを拒絶した。
「それはだ」
「ですが」
「あの首飾りは何だ?」
ファウストはその死者の首にも気付いた。遠目だがよく見えていた。
「あの血の筋の様なものは」
「首が切れているのですね」
「首が?」
「ペルセウスに切られてですね」
「何故だ」
それを聞いてさらに言うファウストだった。
「マルゲリータが首を何故」
「それでなのですが」
メフィストはさらに嫌なものを感じて彼に言ってきた。
「これからはさらに踊りが」
「メフィスト」
ファウストは真剣な顔でメフィストに顔を向けてきた。そのうえでの言葉である。
「御前は私と契約しているな」
「はい」
契約という言葉を出されるとだった。肯定せざるを得なかった。彼としてもです。
「それはその通りです」
「ならだ。私をマルゲリータの元に連れて行ってくれ」
「あの娘のところにだ」
「そうだ、今すぐだ」
それは最早命令だった。
「今すぐだ。いいな」
「わかりました」
契約は契約であった。それは決して破ることはできない。悪魔にとって泣き所である。メフィストは溜息と共に頷いてそのうえで、であった。ファウストに対して答えた。
「では彼女のところに」
「連れて行ってくれ」
「わかりました。それでは」
こうしてファウストはすぐにマルゲリータのところに向かうのだった。メフィストはその中で一人呟くのであった。
「まさかこの博士は」
嫌な予感がしていた。しかし今はそれを言わずにだ。彼をその場に案内するのであった。
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