一般人(?)が転生して魔王になりました
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化物の力の一端、初代の感謝と謝罪
前書き
あ~~。どうも、ビヨンです。
今回も色々とぐだぐだな気がする話ですがどうぞ。
光が視界を覆い、目を開けてみればそこは見覚えのある場所であった。
御剣邸の広大な庭であったのだ。
「……ほう。貴様、転移魔術を使ったのか」
難易度が高い転移魔術をいとも容易く行ったことにアテナは少しばかり驚いていた。
高難度の魔術を容易く使えるものは過去にも先にも魔神クラス。またはそれに一歩手前の力を持つ者達くらいだ。
だからこそアテナは警戒心を高める。とある魔神は呪力耐性が高い神に対し魔術で拘束し、悠々と去
ったと聞いたからだ。
「ええ。流石に屋敷の中で戦うとなると地脈制御の役割をしている屋敷を壊すと後々問題がありますし。あなたも困りますよね」
その高難度の魔術を使ったシリウスは疲れた様子も無く、ただ目の前の神を見据えていた。
「……さて、お喋りは此処までにしますかねっ!」
シリウスは袖から隠し持っていたナイフとフォークを指の間に挟み、計六本の得物をそれなりの力で投擲する。
音速に至った速度で向かってくるナイフとフォークをアテナは鎌で弾こうとする。しかし、
「……!!?」
鎌がナイフに触れた瞬間、鉄の塊が激突したような衝撃が襲い、鎌の軌道が大きく逸れ、姿勢が崩れる。
そして
「……グッ!」
その崩れた姿勢に、五本の武器が当たり、アテナの体が吹き飛び、木を倒し、十本近く木を倒した所で木に受け止められ、その衝撃で肺から酸素が搾り出された。
「………ッ!」
そして、四本の武器がアテナの四肢を貫き、固定する。
「―――まさか、この程度で倒されるほど柔ではありませんよね___女神様?」
シリウスは既に次の投擲準備を終えており、構えており、油断無く佇んでいた。
「……やはり、人ではないな」
「先も言いましたように私は化物にされた元人間ですよ。もっとも馬鹿な老害が私の異能と魔術を混ぜ生まれてんですがね。だからその化物の弱点あまり無くて、その化物固有の能力も少なく、特性が三つしかない。しかし人から外れた膂力を手にした。そして、その膂力の数値は人間が出せる100%の力がこの肉体では10%程度となり、それ以上は―――もう体験しましたよね」
「……なるほど。そして、先の投擲はその力と技術を融合させたものか」
「流石は智慧の女神。一目見て分かりましたか。恐ろしいですね。まあ、その慧眼に応じて、私の化物の特性を教えましょう」
人差し指を立てながらシリウスは言った。
「吸血する事で上がる膂力ですよ」
その言葉を聞きアテナは驚愕で目を見開いた。それは誰もが憧れた一つの夢。血を吸うことで力を上げ、若さを保つ不死の化物。
「―――そう言うことか。まさか、そんな研究をし、それを行った者がいたとはな__吸血鬼」
「尤もモドキですがね」
「そのモドキが妾を磔にしている時点で十分化物だろうに」
磔にされながらもこの状況から脱する手段を考えているアテナ。
幸いにも魔術を込められたものではなく、単純に磔ているだけであったため、簡単に拘束が解けた。
そして、死神を連想させる鎌を躊躇無く振るった。目の前に居るのは逸脱者の一人。手加減するのは自殺行為であった。
「魔術的意味合いが無いので直ぐに抜け出せますよ。まあ、もう抜け出したあなたには関係ないですがねっ!」
ナイフとフォークを袖に収納し、転移魔術の応用で武器庫から一本の武器を取り出す。
それは一振りのメイスであった。ただ、叩き、粉砕する為だけの唯の頑丈な得物。
それがアテナの鎌を受け止めたのであった。
「……流石、闘神というところですかね。今の私では少しばかり辛いものですね」
「そう言いながら耐え切っている貴様は何だ、吸血鬼?」
互いの得物が触れている部分は互いの膂力により、赤く熱されていた。
片や千年近くの時を生き、力で耐え切っている吸血鬼モドキ。
片や御剣の家の守護についている、落魄した不完全な女神。
力と力の競り合いで、互いの得物の接触部分が赤くなり、熱を持ってきた。
そして、その膠着状態は長くは続かず、ただ頑丈なだけのメイスの熱を持っているところにアテナの鎌が触れ、メイスを切り落としたのだ。
「チッ!」
迫り来る黒い鎌にシリウスに、シリウスは舌打ちを。アテナは死が濃密なソレを乗せた鎌で切り裂こうとする。
速度は速い。接近していた為鎌の間合いから逃れるのは困難を極め、失敗すればこの身は二つに別れる。しかも心臓を切り裂くのだ。それは“非常にマズイ”。
「ならばッ!」
無傷で避けられないと考えたシリウスは鎌の柄部分に手を沿え、軌道を僅かにズラした。
その結果、心臓を切り裂く筈だった鎌は、左腕を切り裂き、シリウスの左腕は宙に舞、灰と化す。
シリウスは僅かに顔を顰めながらもバックステップを行い、アテナと距離を取る。
「―――流石の貴様も心の臓は不味かったと見えるな」
「ええ。アレだけ濃密な死を乗せた鎌で心臓を切られたら確実に死ねますからね」
シリウスの弱点。それは心臓である。吸血鬼の弱点、杭やにんにく。太陽の光、そして心臓。シリウスは心臓以外は弱点として存在していないが心臓だけはどうしようもなかった。そこを潰されれば自分は確実に死ぬと経験していたからだ。そうすると“特定”の条件を満たさなければ復活が出来ないのである。
因みに心臓さえ潰されなければ、頭が破壊されようが、腕が宙を舞おうが、吸血鬼の特性の一つである驚異的な再生力で元に戻る。
だが、切られたシリウスの左腕は現在、再生できていない。
何故か? それは濃密な死で切られたからである。
魔剣による切り傷だと傷の治りが遅い。それと同じ理由でシリウスの腕は再生していなかったのである。
「それが貴様の最大の弱点か」
「まあ、そうですね。私が尤も気をつけないといけない所ですよ。本当に」
他にも弱点があるのだが、心臓と言う弱点と比べると致命的なものではない。まあ、魔術に関する事と、耐久面に関することが主にだが。
「他の弱点も、大体目星がついた」
「……何ですかね?」
そう思っている中、弱点を発見したと言ったアテナの発言に、僅かだが心拍数が上がったのを感じた。
「貴様、転移系統の魔術しか使えない特化型の魔術師だ。それに吸血鬼の特性である再生能力のため、耐久力が無いな」
表情には出さないが、シリウスは内心では舌を巻いていた。
たったアレだけの攻防と少しの情報でそれだけの答えを導き出す智慧。流石は智慧の女神だと思い知らされた瞬間であった。
シリウスは他の魔術も一応は使えるが、適正があまりにも無い為、転移魔術ともう一つの魔術しか使えない特化型の魔術師だ。特化型過ぎて魔神と同格に扱われた時期もあったが。
そして、耐久力の無さ。驚異的な再生力は耐久力を犠牲にして成り立っていると考えている。まあ、確かに肉体操作が異能であるシリウスにはその弱点は克服できが、ソレをすると再生速度が遅くなるのだ。それも致命的に。一瞬で治る怪我が、下手をすれば一ヶ月も掛かるというのである。
他の吸血鬼がいたら聞いてみたいものだ。尤も居たらいたで、面倒なので、いない方が良いのだが。
(恐ろしいものですね。慧眼は高く智慧の女神としての格があり、武も秀で、冥府の神としての力も持つ。泉華様は完全な状態であるアテナと戦い一度殺して、約定を結ばせた。全盛期の私なら倒せたんでしょうが、それを人の身で行いますか。―――というより錆びつきすぎていますね、この体)
完全状態のアテナに挑み、一度殺した泉華の力量にも驚いていた。腕の立つ魔術師だったのが、神々の領域に踏み込み、人から外れた魔神や化物にされた元人間の自分とは違い、性能は歴代女当主の中でも最強最高だったとしてもよく殺せたものだと驚いていた。
あれもまた桜華様と同じ人から外れた逸脱者の一人なんですかね、と些か外れた考えをしていた。
「……これは、勝てそうにありませんね」
小さな声でシリウスは呟いた。
“現時点”のシリウスだと勝てる図がまったく浮かばないのだ。全盛期のシリウスなら話は別なのだが、百年単位の眠りは腕を錆び付かせるのには十分すぎた。そのため今のシリウスでは全盛期の三分の一もあればいい方だろう。それ以下だと最悪なのだが。
今のアテナ様を現時点で倒せる可能性が居る者は神殺し、まつろわぬ神、御剣に於ける逸脱者の桜華様に現当主の者達くらいですかね。
錆びつきすぎている私では話にならないですし、他の神殺しやまつろわぬ神に頼るのは論外。というか知り合いなんていませんし。桜華様はこの国にいる最強の《鋼》が目覚める可能性を潰している最中なので無理。そして現当主は聞いたところによると海外に居るので不可能。
幾らかの錆び落しとしてはちょうど良いかもしれませんね、と思う。しかし、
「……どうやって収めますかね?」
試す為と言え喧嘩を吹っかけたのはこちらだ。今更、死にそうなので止めましょう何て言えない。そんな事をするくらいなら端から試すなんてことはしない。
「………まあ、何とかしますかねっ!」
そう言い、守護神であるアテナと怪物であるシリウスの戦いは一日近く続き、何とか思考を巡らしたシリウスの苦労を以って引き分けという形で終わったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「―――とまあ、一日近く続いた戦いは何とか収めました」
いやー、苦労しましたね。と言っているが蓮華は『アホか』と思うのは当然だと思う。
庭の惨状を目にしながら一体何をしたらこんな事になるのやらと思うのは極々自然な思考だと思う。神との戦いでもアレほどの惨状になるのかと、先輩方に質問してみたいと思ったのは仕方ないと思う。
「まあ、過ぎた事は置いておくとして、桜華様。そろそろ話さなければならないのでは?」
「おっと、そうだね。時間は有限だからね」
「?」
何を言っているのかは分からないが、桜華の纏っている雰囲気が変わった。
「さて、神殺し御剣蓮華。君が神殺しに成ってくれて、まずは感謝と謝罪を述べよう。―――ありがとう。そして、僕の願いを押し付けて_君に全てを押し付ける僕を許してくれ」
腰を折り曲げ感謝と謝罪を述べる桜華。先のようなふざけていたそれではなく、真剣さがあった。
「………ありがとうって言うのは言わなくても良いよ。俺が神を殺してそうなった結果だ。けど、謝罪はどういう事?」
「……それについての説明は少しばかり長くなるけど良いかな?」
「問題ない。けど、俺の質問を答えてくれるか?」
「いいよ。恐らく君の知りたい事は今から話す事で分かると思うから」
そう言い、桜華は言葉を紡いだ。
「この家はね、とある結末を回避するためにあるんだよ」
「その結末って?」
「この国に眠る最強の《鋼》のによる終わりさ」
その言葉には長く生きてきた桜華の全てが詰まったような思いを込めた言葉であった。
後書き
書いているうちに、執事のシリウスの強さがとんでもないことになっていた。年の功は伊達じゃないのだよ。
そして、最近別の作品を考えている今日この頃。そのため少ない執筆時間が更に少なくなっています。あ~、時間が欲しいな。
そのため更新がかなり不定期になりまが、今後ともこの作品をよろしくお願いします。
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