利口な女狐の話
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第二幕その二
第二幕その二
「これ位じゃ」
「じゃあどれがいいのよ」
「だからこれ位じゃ駄目だ」
穴熊はまだ言う。
「葡萄だけじゃな」
「それならどうするかよね」
「ああ。どうするんだい?」
「あんた森の西の方にも別荘持ってたわよね」
このことを言ってきたのであった。
「そうよね。持ってたわよね」
「それが一体どうしたっていうんだ」
「そこに可愛い穴熊の娘がいるわよ」
これは本当のことである。それを彼に告げたのだ。
「穴熊のね」
「ほう、それは本当かい」
「私はこういう時に嘘はつかないわよ」
堂々と言ってみせたのである。
「しかもよ」
「しかも?」
「その娘も葡萄が好きなのよ」
こう話すのだった。
「葡萄がね。これでわかったわね」
「ああ、よくわかったよ」
それを聞いて満足した顔で頷く彼だった。
「それじゃあな」
「さあ、これでいいわね」
「あんたは随分と知恵が回るんだな」
穴熊はそのビストロウシカの顔を見てにやりと笑ってみせた。
「これで別荘を手に入れるなんてな」
「わかったら早く行きなさい」
その葡萄をあえて出してみせてまで言うのだった。
「いいわね、これで」
「わかったよ。それじゃあな」
穴から出て葡萄を口に咥えてそのまま森の西の方に向かうのだった。それを聞いてすぐに家を後にする。ビストロウシカはそれを見届けてから穴の中に入った。
これで家を手に入れた彼女は家の中でゆっくりと寝た。その頃人の世界では。
酒場であった。酒場は木造であり褐色の内装である。その店の奥で二人の三人の中年の男達が卓を囲んでいた。ビールを飲み煙草をふかしながらトランプを楽しんでいる。
「それでだけれど」
蚊の様に痩せた男がいた。端整な服を着てカードを手にしている。
「どうかな」
「どうかといいますと」
見れば管理人もいる。彼は木の杯の中のビールを美味そうに飲んでいる。それを飲みながらそのうえで楽しく過ごしているのであった。
「校長先生、何か?」
「いやいや、管理人さんはですね」
その管理人には笑って返した。
「もう関係のないお話です」
「もうですか」
「結婚されてるじゃないですか」
だからだというのである。薄暗い部屋の中で煙草の煙がくゆらいでいる。周りの他の客達もそれぞれ酒に煙草を楽しんでいた。カードもである。
「ですから」
「ああ、それで関係ないんですね」
「そういうことです。それで牧師さん」
「はい」
見ればその牧師は穴熊そっくりの顔をしている。見れば見る程だ。穴熊がそのまま牧師の黒い服を着ているようにしか見えない。
「御結婚は」
「それはまだですよ」
苦笑いで応える牧師だった。その手にカードを弄びながらだ。
「全然ですよ」
「おや、御相手は」
「いやいや、全然」
校長の言葉にまた苦笑いで返した。
「ないですよ」
「本当ですかね」
「本当ですよ。嘘なんか言いませんよ」
そうは言っても顔には余裕がある。
「もうそんな話はですね」
「ですが」
しかし校長も負けてはいない。ここで楽しげな笑みを浮かべて言うのだった。
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