利口な女狐の話
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第三幕その五
第三幕その五
「けれどね。万が一ということがあるから」
「だから用心して」
「そういうこと。いいわね」
「ええ、じゃあ」
こうしてであった。その蔦の上まで来てそれで飛び跳ねる。ハラシタはそれに気付かず蔦に足を取られてしまった。そうして見事にこけてしまったのだった。
「くっ、しまった」
「あはは、見事に引っ掛かったわね」
「そうだね」
その彼を見て笑う彼等だった。
「これでいいのよ。いい気味だわ」
「それじゃあ子供達のところに帰ろうか」
「そうしましょう」
上機嫌で話して子供達のところに向かう彼だった。そうして一人残ったハラシタは憮然とした顔で起き上がってそれで家に帰った。
そしてまた酒場では。校長達が飲んでいた。相変わらず黒ビールをソーセージで飲みそうして煙草とカードも一緒にしていた。
青と白の煙がくゆらぐ中で。酒場のおかみが三人のところに来た。
「ねえ校長先生」
「何ですかな?」
気取った動作で彼女に応える校長だった。
「森に狐の一家がいますよね」
「そりゃそういうのもいるでしょう」
それを聞いても気取ったまま返すのだった。
「狐も」
「その母親狐と父親狐がですね」
「はい」
「森の奥の方に入ったらしくて」
「森の奥にですか」
「子供達はそのままそれぞれ独立したらしいですよ」
そうなったというのである。
「それで今は娘狐の一匹が森の東にいるそうです」
「成程」
「それがまた母親に負けず劣らず悪い奴らしくて」
そしてこんなことも言うのだった。
「何かっていうと人をからかうそうです」
「母親そっくりなんですね」
「そうなんですよ」
まさにその通りだというのである。
「とんでもない奴ですよね」
「ええ、確かに」
言葉は返すがその注意はカードにいっている。ずっと牧師、管理人と三人で遊んでいる。その口にはパイプが貼り付いている。
「それは」
「全く以ってですよね」
そんな話をしたらすぐに他の客のところに向かうおかみだった。彼女がいなくなると牧師がここで溜息をつきながら言うのであった。
「何ですかね」
「どうかしたのですか?」
「いえ、私も結婚できそうです」
そのことは素直に喜ぶ彼だった。
「ただ」
「ただ?」
「何ですかね」
こう言ってぼやくのだった。
「ほら、ハラシタさんが結婚しますよね」
「ええ、そうですね」
「そのことで」
ぼやく言葉をさらに出していく。
「思うんですけれど」
「何をですか?」
「いや、テリンカがね」
彼女のことだというのだ。
「あの娘のことがどうしても気になって」
「もう終わって別の彼女と一緒になってるのにかい?」
「それでもですよ。どうも」
またぼやきの言葉を出す。
「あれが私だったらなって思ったりもしまして」
「それも人生さ」
ここで管理人がビールを一杯飲んでから述べた。
「それぞれ別の相手と結婚するのもね」
「それもなんですか」
「そうだよ。だから思うこともないさ」
そうだというのである。
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