IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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第一章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
第6話 『企業』
――『人は、一人では生きる事は出来ない』
人は必ず、生きる為に、自分を主張するために、多くの理由で他人とコミュニティーを形成し、自分を表現しようとする。
そうすることで『自分はここに居る、生きている』という事を表し『根本的欲求』を満たすのだ。
そして、それは『企業』にも同じ事が言える。
企業もまた、集団を形成し、コミュニティーをつ作り、社会に存在を主張する事で『ここに居る』という事を証明する。
その中には、根本的な欲求を満たすだけでは物足りず――『企業という自己を更に昇華させる』為に動いている企業も存在する。
今――そんな『限界を超えて昇華しようとしている企業』の門を叩こうとする、『竜』と『姫君』の姿があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――ネクスト・インダストリー社、近年における新興企業で、起業してからそれほど時間が経っていないのにもかかわらず超大企業となった企業。
俺が知る限りでは、きっと道往く人に『ネクスト・インダストリーについて知ってますか?』と尋ねると、恐らく8割以上は『知っている』と答えるだろう。
特に有名なのが、あの企業の出している商品の質と値段だ。
日用品から家電用品―― 一般生活で必要になる道具1つでも、あの企業の作る商品は質の割りに安くて、しかもサポート体制もいい。
実際――俺達が暮らしている家の製品の半分以上が『ネクスト・インダストリー社製』だったりする。
そしてもうひとつ。この企業は『軍事』と『IS』事業についても着手している。
近年における『女尊男卑』社会――それによる、『IS兵器・武装』の需要拡大…このネクスト・インダイトリー社は、『IS産業』にも着手していた。
昨日の『シャルロット』との一件から一晩明けて、俺とアリア、そしてエディさんはこの『ネクスト・インダスリー本社』へとやってきていた。
余談ではあるが、今朝起きるとシャルロットからメールが来ていた。内容は
"
件名:昨日はありがとうございました
本文:
昨日はありがとうございました。お二人に会えて凄く嬉しかったです。
僕も、ちゃんと向き合おうと思います――それから、改めてよろしくお願いします!
"
このような内容だった。
律儀だなあと思うと同時に――彼女もちゃんと向き合えて、自分の未来に進めればいいなと思った。
話を戻そう、本来の俺とアリアの目的は――『企業への所属』だ。
先日エディさんとも話し合ったが、結論として今俺とアリアが打てる手段として最も理想的なのが、エディさんのコネによる『企業への所属』だった。
企業の後ろ盾と今後のISの開発や強化、そして『レオン・ハルベルト』とのコネクションを作る事が出来るのは非常に大きい。
『ネクスト・インダストリー社』は確かに超大型企業としても名高いが、それとは別に知名度として大きい理由に『大企業』という理由と別に『レオン・ハルベルト』という人物にある。
『レオン・ハルベルト』――経歴は、フランス空軍士官学校卒業後、フランス空軍に所属――そして多くの戦地において多大な戦績と武功を上げて『少佐』まで上り詰める。
だが、ある日突然『軍』を引退――その理由は色々言われており、彼が怪我をして空を飛べなくなったや軍部に嫌気が差した等、色々あるが…結局の所、それは謎のままだ。
そしてこの人物についてはまだ続きがある。彼は、技術者と科学者という点において『篠ノ之 束に並ぶ天才』と呼ばれているのだ。
これには幾つか理由がある。
はっきりしてないが、ある説曰く、『ISのコア理論を解明している』、『対ISにおける兵器を作る技術がある』等、多く言われている。
更にだが、彼の人徳に引き寄せられた企業や人物も少なくは無い。各国の『技術力が高すぎる故に認めてもらえなかった技術者や科学者』、要するに厄介者をを積極的に自分の企業に引き込んだのだ。
それだけではなく、多くの有力企業からの信頼とコネクション――各国の『英雄』と称される人物とも人脈を持っているという話しだ。
最も…まさかエディさんの教え子で、まさかこんなに近くに恐ろしいコネを持つ人が居るなんて思ってもいなかったが。
エディさんの運転で自宅から車を走らせ、暫く――中心街に聳え立つ『ネクスト・インダストリアル本社』へと到着した俺達は、受付で手続きを済ませると最上階の社長室に通された。
エディさんは過去に『レオン・ハルベルト』と面識があるから堂々としているんだろうが…俺やアリアはこうして会うのは初めてだ。
むしろ、直接会うこと自体が異例中の異例なのだから――
社長室に通されて、室内のソファに座って待つ事暫く――ガチャリ、という音と共に社長室のドアが開かれた。
「――ご無沙汰してます、ルヴェル大佐! ご健在で何よりです…『緊急事態』と聞いた時は驚きましたよ、その時の書類全部放置して対応に当たって話を聞いたら驚きましたよ…」
社長室の入り口から、黒いスーツを着た長身で体格のよい、短めの金髪をオールバックにしてサングラスを掛けた人物が現れた。
「久しぶりだな、レオン――今回は無理を言ってすまない、本来ならばお前の立場上忙しかったろうに…」
「いえいえ、大佐の為なら業務など――予定しているものは昨日中に徹夜で全て終わられましたよ、お陰で寝不足ですがね、ハハハ――それで…そこの二人が?」
「ああ――うちの『息子』、月代悠と、話をしたアリア・ローレンスだ」
エディさんに紹介を受けて、俺とアリアは立ち上がって彼に対して頭を下げる。
「なるほど…君が、『大佐の秘蔵っ子である可能性の申し子』と、話にあった『紅姫』さんだね――初めまして、私は『レオン・ハルベルト』…一応うちの企業の社長をしている、そんなに硬くならなくていいから、楽にしてくれ」
彼に言われて再び俺とアリアはソファに座りなおす――テーブルを挟んだ正面のソファに、彼が座ると
「さて…では本題に入ろう――大佐の仰っていた話を聞いて私自身非常に驚いたよ――だが、大佐から送られてきた暫定的な"Tempest_Dragoon"と"ブラッディ・リーパー"の稼動データを見たが…それを見せられて信じる気になったよ。さて…ユウ君と言ったね?」
「は、はいッ」
緊張して返答する俺に対して、彼は笑いながら
「だから、硬くならなくていい――さて、ユウ君…君を信じていない訳ではないが、今この場で――"Tempest_Dragoon"を部分展開して貰ってもいいかね?」
「はい、それでは――」
悪いが、ちょっと頼むぞ――『テンペスト』
そう心の中で言って俺は、テンペストの右腕腕部を展開して見せる
「これは――確かに、君が男性操縦者である事は間違いないようだね…しかし、興味深い――実に興味深いね」
「あの…ハルベルトさん」
「ああ、レオンでいい――大佐の身内なのだろう?なら別にレオンでいいさ――それで、何かね?」
「俺がコイツ――"Tempest_Dragoon"を何故起動させる事が出来たのかとか、分かりませんか?」
すると、レオンさんは うーん… と考える仕草をすると
「そうだね、正直な話まったくわからん――そももそ君のような『男性操縦者』自体が異例中の異例、いわば世界の『アポトーシス』だからね」
アポトーシス――つまり、人で言う『プログラムされた死』。この場合は、『下手をすれば世界を死滅させる因子』という事だろう。
表現がアレだが…確かにその通りだ。そして――俺も、それを理解している。
「一応、君のデータには全て目を通させてもらった――自宅から送ってもらった"Tempest_Dragoon"の暫定稼動データと初期設定に最適化、そのログは全て確認したが…何故起動できたのかは、不明のままだ」
そして、と彼は言うと
「君の"Tempest_Dragoon"は…謎が多すぎる、まず――こちらで確認しようにも大半のデータに対してアクセスが拒否される、それからそのアクセス拒否される部分が全て『ブラックボックス』なのだよ――唯一分かるのは、一部のデータと稼動データくらいでな…」
「それは、つまりどういった…?」
「うん、そうだね――結論から言えば"Tempest_Dragoon"は『君以外には自分の奥底を知られて欲しくない』のだと思うよ?実に乙女じゃないか、『タバネ』が作ったコアなだけあって――本当に乙女だ、そしてきっと『テンペストは、もう君の言う事しか聞かない』だろうね」
――コイツは、俺にしか心を開かない…そして、俺の言う事しか聞かない、か。 俺は、コイツにそれだけ信頼されているという事なのだろうか。 そして俺は…コイツを乗りこなせてやれるだろうか。
そんな迷いを俺は考えると同時に、振り払う。
――何を馬鹿な、俺は…コイツを起動した時に誓っただろう。 絶対にお前を乗りこなすと。
そして、絶対にコイツを世界を滅ぼす力になんて、させない。 そう誓っただろう、月代悠。
そう自分に喝を入れる――そうして、少し気になったが
先程レオンさんは『タバネ』と言わなかったか?
「あ、あの――レオンさん…今『タバネ』と言いましたよね――それは、もしかして『篠ノ之 束』ですか?」
「うん?――ああ、確かに『タバネ』とは篠ノ之 束の事だが…」
「…まさか、篠ノ之 束とお知り合いで?」
「知り合いも何も、彼女の事は昔から知っているよ――彼女は小さい頃から実に頭が良くてキュートだった。そうだね…一応『よく知ってるおじさん』という事になるのかな?私は」
その言葉に俺は驚くと同時に、篠ノ之 束に対する憎悪―― 自分の両親が死ぬキッカケとなったあの事件について思い出して、憎しみと憎悪が増していくのがわかった。
だが俺はそれを押さえ込む――『力』を持ってしまった存在に、憎悪や殺意、憎しみの心は危険すぎる――そして、憎しみに飲まれてしまったら、それは自分を殺す そう思ったから。
「そう、ですか――わかりました」
「…ユウ君、1つだけ言わせてくれ――あんまり『タバネ』を憎まないでやってくれ…あの子は、自分に純粋すぎるだけなのだ――君の事は知っている、憎むなとは言わん、だが――」
「わかってます、大丈夫です――自分の中でちゃんと、そこら辺については考えてるつもりですから…」
そうか、と一言だけレオンさんは言うと、今度はアリアの方を見る
「さて、では――君にも幾つか話を聞かせて欲しい…アリア・ローレンスさん――いや、『紅姫』<ブラッディア>と呼ぶべきかね?」
俺の隣に居たアリアの身体が、ビクッと震えた
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
覚悟は、していた――ここに来た以上きっと『彼』は私について調べている。だから…私の過去ももうバレていると思った。
そして、その言葉が放たれたとき――私は、心の奥底で感じた不安に震えてしまった
「さて、では――君にも幾つか話を聞かせて欲しい…アリア・ローレンスさん――いや、『血姫』<ブラッディア>と呼ぶべきかね?」
――来た
私はそう思った。
その言葉に身を震わせ、覚悟を決めた。
――もう私は、"ブラッディア"の頃の私じゃない…ユウに『生きる』意味を教えられて、ユウに生きるチャンスを貰って、私は…変わっていくんだッ!
『ブラッディア』という異名は、私の過去に関係してくる――私は先日ユウに撃墜されるまで、ただひたすらに『殺しの依頼』を生計にしてきたエージェントだった。
そして、殺す事で…殺し合いをする事で自分を表現して――自分を殺してくれる存在を求めてきた。 だけど、ユウと出会うまでそんな存在は誰一人いなかった。
自分で言うのも変な話かもしれない、だけど――私の『ブラッディア』という異名は、裏世界ではそれなりに有名だと思う。
ひたすら、『殺す』事しか知らなかった私――そうやって自分を偽って、逃げ続けていた頃の私――ユウと出会う前の、私。
破壊工作に暗殺――篠ノ之 束が私の前に現れて、この子…"ブラッディ・リーパー"を渡されてからも私は――破壊活動や暗殺、ISを使用しての『殺しの依頼』をひたすら続けた。
ユウのお陰で気がつけたから、ユウのお陰で変われたから――だから私は…迷わない
私は少しの間目を閉じると、覚悟を決めて彼を見る――『レオン・ハルベルト』という男を
「どちらでも、好きなように呼んで頂いて構いません――私が<ブラッディア>と呼ばれていたのは事実ですから――何も、私は隠す事はありません」
自分でも、酷く冷め切った声だったと思う。まるで――昔の私の話し方。 だけど、今の私はそれを『理解』した上でその口調で話した。
「…すまない、君の事は調べさせてもらった――フランス国内における『裏組織』や研究所、そして『殺し』の依頼を忠実に完遂する天才――<ブラッディア>の名前はあまりにも有名だったものでな」
「私のやってきた事を弁明する気はありません…全て、私がやった事ですから」
ふむ と彼――『レオン・ハルベルト』は呟くと
「だが、実際に会ってみると――想像していたものと全く違って驚いているよ、そして君のその眼だ――明らかに『殺すだけ』の眼ではない…では聞こうか、<ブラッディア>…いや――アリア・ローレンス、君をそこまで変えたのは何だ?」
私を変えたものは何か?そんなもの――決まっている。
私の根本を揺るがして、過去の私と決別されてくれて、変わるチャンスをくれたのは――ユウだ。
「恐らく、貴方が想像していた私は――少し前の、ユウ…『月代悠』に撃墜されるまでの私だと思います」
「ほう…?」
「私は――彼と戦って、そして負けました。それまでただひたすらに『殺す』事で自分を表現してきて、『死にたい、殺して欲しい』と望み続けて――ただひたすらに、そうしてきました。ですが…彼に負けて、そして私は彼に教えられたんです」
「それは、何かね?君を変えたものは――何かね?」
『レオン・ハルベルト』は真剣な目つきで、だけど興味深そうに私を見ながら問いかけた。
「『私はただ逃げ続けていた』だけだと――現実を見ないフリして逃げ続けて、そして自分に嘘ついていたんだと教えられました。そして――『人の可能性』について、彼に教えられました…だから昔の私は、もう居ません。<ブラッディア>だった私はもう、居ません」
「では、君は誰かね?――何者かね?」
「『アリア・ローレンス』です、今を生きると覚悟を決めて、未来を望むために歩き続けると決めた――『一人の人間』です」
すると、『レオン・ハルベルト』は うむ と頷くと
「そうだ、その通りだ――素晴らしい。 君は素晴らしい、その覚悟と誓いは何者にも劣らない信念だ――私はね、君が変わったと思ったのだよ…だが、それはどうしてか私にはわからなかった、知りたいと望んでしまった――そして<ブラッディア>ではなくなった今の君は、とても気高く美しい」
「あ、ええと――」
「見事だ、『アリア・ローレンス』――君の信念こそ私の求めていた物の1つだ――さて、それでは」
彼はソファから立ち上がると
「君たち二人は合格だ――とても素晴らしい…だから話をしよう――これからの話だ」
そう、嬉しそうに言い放った
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レオンさんのアリアに対する話、それが終わった後――小声でアリアが
「…軽蔑した?」
と聞いてきた。
「そんな事ないさ――軽蔑なんてしない、それがアリアの『答え』なんだろ?」
「…ありがと」
短く彼女はそう返すと、笑顔をこちらに向けた。
そしてレオンさんが――心底嬉しそうに、話を切り出した。
「では話をしよう――これからの話だ、まずユウ君、アリアさん――君達には是非話が企業の所属になってほしい。 君達は『IS操縦者』という面以外で見ても是非うちの欲しい人材だ それでどうかな?うちの企業に所属してもらえないだろうか――この通りだ」
そう言うとレオンさんはいきなり頭を下げる。そんな彼に対して、俺とアリアは慌てて
「あ、頭を上げてくださいレオンさん!――自分やアリアにとっても、それは願っても無い事です…是非、こちらとしてもお願いします」
「私からも、是非『ネクスト・インダストリー』に所属させて頂きたいと思ってます」
「…ありがとう、二人とも。 私からも約束しよう――わが社は全面的に、かつ全力で君たちを支援しよう――そして、君たち二人に手出しなど絶対にさせんとも約束しよう――さて、早速で悪いのだが…」
それまで嬉しそうだったレオンさんの目つきがまた真剣なものへと変わる。
「君達のIS――"Tempest_Dragoon"と"ブラッディ・リーパー"を一度こちらに預けて欲しい――データの蓄積の準備や解析、それから…これが重要なのだが――"Tempest_Dragoon"にはリミッターを掛けなければならない」
「リミッター、ですか?」
「ああ、そうだ――知っているとは思うが"Tempest_Dragoon"は軍用IS、それも…3.5世代に分類される。無論この情報を知るのは一部の人間のみだろうし、既に知られているなら世界中に広がっているだろう――だから、存在を出来るだけ隠す為にリミッターを掛けて『3世代IS』ということにする」
「なるほど…そうすることで3.5世代という『規格外』を押さえ込んでしまうんですね?」
「その通りだ、『軍用』というだけでも問題になるのに3.5世代となるとそれこそ不味い事になる――だから存在を隠すためのリミッターだ」
「わかりました――では、『テンペスト』を暫く頼みます」
俺は『テンペスト』に暫く我慢してくれよと心の中で言うと、ネックレスを外してレオンさんに渡す。
「確かに、責任を持って預かろう――それから、アリアさん…君の"ブラッディ・リーパー"もだ」
「私のも、ですか?」
「ああ――といっても、君のISは調整ではなく強化だね――『タバネ』に渡されて、その後ちゃんとした調整も行っていなかったのだろうが――かなり改良の余地がある。全体的な強化と調整を考えて、君のISも渡してもらいたい」
「…わかりました、じゃあ――お願いします」
そうアリアは言うと赤黒いチョーカーをレオンさんに渡す。
「確かに――ちゃんと2機については私も直接参加して、調整をさせてもらう――後、これを渡しておく」
するとレオンさんは2枚のIDカードを俺とアリアに渡してくる。
「うちのIDカードだ――それがあれば『うちの企業に所属している』という事も証明できるし、うちの管轄化ならそのカードを使って利用する事も出来る――さて、これからの話だが…『男性IS操縦者』の公表やうちへの所属会見――色々あるが、まずは君達のISが最優先だ。それが終わらない事には次には進めないからね…さて、どうしたものか――」
レオンさんは続けて何か言葉を言おうとしたが、それは続かなかった。
社長室の――多分レオンさんのデスクだろう、そこの電話が鳴った
「すまないね、ちょっと失礼する」
そう言うとレオンさんは立ち上がり電話を取りに向かう
「ひとまず…これでまずは第一歩、だなユウ」
それまで話を聞いていたエディさんが口を開いた
「ええ、これからどうなるかは分かりませんけど…それでも、俺は自分の信念を貫くだけです」
「私も――自分の答えは見つかりました。だから――往くだけです」
その返答にエディさんは ははっ と満足そうに笑うと
「いい顔をするじゃないか、二人とも」
そうエディさんが言った後だった
「何だと?――デュノア社がウチに直接連絡してきた? それで、掛けてきたのは誰だ――?」
レオンさんの方を見ると、何やら険しい顔で電話に応対していた。
デュノア――と言えば、『シャルロット』の事だが…彼女には俺達が『フランス空軍』としか言っていない筈だ…考えすぎか?
「ジェームズ・デュノアだとッ!?――分かった、こちらに電話を回せ」
電話の相手は――『ジェームズ・デュノア』、つまりはシャルロットの親父さんだと――これはどういう事だ…?
暫く何やら話した後、レオンさんは電話を切るとどこか疲れた表情で
「デュノア社の社長『ジェームズ・デュノア』から直接電話があったよ――どうやら、『私自身』と重要な取引をしたいらしい。場所は、数日後にデュノア社が開く晩餐会。そして――『君たち二人にも大事に話があるから出席して欲しい』そうだ」
「なッ――」
「まさか…バレたんですか!?」
俺とアリアは驚いて、思わず大きな声を上げてしまう。
だが――シャルロットの一件があったにしてもそこからバレるのは明らかにおかしい。だったら――何故だ?
「…ジェームズ・デュノアは、君達二人については『娘と出会った二人組み』の名前を聞いて、そしてそこから自身で調べたそうだ。推測だがユウ君の名前から大佐の名前を割り出し、そこから大佐と君の情報を引っ張り出し、情報を収集したのだろうね――彼自身は君達をどうこうする気は無いしこの件について口外する事もしないと約束したよ。何なら同伴者を連れてきてもいいし、『IS』を持ってきてくれても構わないと言っていた」
「やっぱりバレたんですか…」
「不味い、ですよね――」
だが、そんな俺達の不安を振り払うかのようにレオンさんは続けた
「…私自身の意見だが、ジェームズ・デュノアという男は約束を破るような男ではないよ。少なくとも私は―― 一個人としては彼は律儀な人間だと思う…だが、やはり考え物もあるだろう――どうする?」
確かに、色々と考える事はある――だが、『ジェームズ・デュノア』の言う大事な話というのも気になる。だから俺は――その話に乗る事にした
「念のために――当日ISを持参します。最悪の場合の事も――考えたくないですが、考えてISを身に着けて会談に望みます――アリア、君はどうする?」
「…多分、シャルロットの事もあるだろうから――私も行くよ、ただ…私もISは身に着けていく」
エディさんも険しい顔をすると
「…私も行こう、同伴者を連れて行ってもいいんだろう?なら――念のために私も一緒にその晩餐会に参加しよう」
念には念を押して、という事だ――レオンさんの言葉が事実ならば最悪の事態にだけはならない筈だ。
だが、考えるものもある――何故ジェームズ・デュノアは俺達に話を持ち込んできたのか、『俺達』がどうしてISを保有しているのを知っているのか、『ネクスト・インダストリー社』に居るのがどうしてわかったのか――そして…レオンさんに対する『重要な話』とは何だ?
考える事は多くあったが、俺とアリア――そしてエディさんは『デュノア社』が主催する晩餐会に出席する事を決めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――第一歩を踏み出した二人、そしていきなり二人の前に現れた『デュノア社』からの晩餐会と会談。
多くの事を考える二人であったが、意外な方向へと事は進む事となる。
――変わると決めた『彼女』と再開し、そして『デュノア社の真意』を聞く事になる事をこの時の二人はまだ知らなかった。
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