トーゴの異世界無双
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第百八話 よく頑張ったな、ステリア
闘悟のひっかけにまんまと騙(だま)されたステリアは、固まってしまっていた。
そんな彼女を見て闘悟はにや~っと微笑む。
「な、な、何のことかしら?」
わざと声を低くし、地声を出さないようにして必死に誤魔化す。
だがもちろんそんなことで闘悟は騙されない。
「お前、それで誤魔化せると思ってんのか?」
「だ、だから私はステリアなんかじゃ……」
「あのなぁ、魔力視認できるオレをいつまでも騙せると思うなよ?」
するとハッとなって闘悟を見つめる。
確かに魔力視認ができるなら、魔力だけで人物を把握することができる。
先のカイバの妹であるヨッチを助けた時も、この魔力視認が大いに役に立っていた。
「……いつ気づいたの?」
観念したのか声を元に戻して尋ねる。
「おかしいなって思ったのは、あの会食の時だな。お前妙にスレンのこと気にしてたからな」
やっぱりあの時かとステリアは溜め息を吐く。
確かにあの時は変な鎧女と言われて、我慢できずついつい擁護(ようご)してしまったのだ。
「それから、今日スレンっていうかお前に会った時に魔力を確認したんだよ。したらどうだよ、思った通りスレンとステリアの魔力が一致したしな」
魔力は指紋と同じく個人個人違う。
通常はそれを判断することは至難(しなん)だが、魔力視認ができる闘悟は難なくこなすことができる。
「そっかぁ」
「でもよ、試合に出るにはいろいろ手続きが必要だったろ? そこんとこどうしたんだ?」
その通りだ。
グレイハーツに来るまで、彼女は大会不参加だったはずなのだ。
それなのにこうして参加しているということは、この国に来て、面倒な手続きをしたということだ。
「ああそれは……」
物凄く言い難そうに眉を寄せる。
「もしかして……ニア様か?」
「えっ!? な、何で?」
ステリアは自分の心の中を見透かされていたことに驚く。
「ここんとこ、ステリアがいなくなる時、何でかニア様もいなくなるからな。何かあるんじゃねえかと思ってただけだ」
これはクィル達も気にしていた。
「そっかぁ、失敗したかな?」
何度かニアとステリアが、二人でいなくなる場面があったので、何をしているのか気になっていたとのことだ。
実はこの国に来て、最初は参加を諦めていたステリアだが、街の雰囲気を見てどうしても参加したくなった。
だが参加の手続きはどうしようかと悩んでいた。
まさか父や兄には相談できるわけもない。
そこでステリアの武勇伝を聞き及んでいるニアが、ステリアに「参加しないの?」と聞いてきたのだ。
そこでステリアは自分の思いを話すと、嬉々(きき)として相談に乗ってくれ、手続きもしてくれたらしい。
もちろんギルバニアも了承済みだ。
ステリア自身、父との約束を破ったことは心苦しいが、やはり参加してみて良かったと思った。
自分の力を試せたのも嬉しかったが、世界には様々な強者がいることを直に感じることができたのが、何よりも大きな経験になった。
「なるほどな、でもそんな恰好じゃもう無理だろ?」
「ま、まだイケるわよ!」
闘悟の侮(あなど)るような言葉にムッとなる。
確かに大きなダメージを負ったが、諦めるほどのものではない。
「違う違う、その兜だよ」
「え?」
「そんなんじゃ、動いたら壊れて素顔がバレるぞ?」
「むむむ……」
「そうでなくても、これからはもっと派手な戦闘になるかもしれないし、いつかはバレるぞ?」
闘悟の言うことは最もだった。
今回は何とか兜の全壊は防げたが、髪の毛が露(あら)わになるほどの闘いにはなった。
これからは、今の試合よりも過酷になる可能性が高い。
となると、今度こそ兜が破壊し、素顔を衆目(しゅうもく)に晒(さら)すことになるかもしれない。
ステリアは考えるように顔を俯かせている。
そんな彼女を一瞥(いちべつ)すると、今度はウースイの方へ視線を動かす。
「アッチもどうやら無事みたいだけど」
ウースイもバンリドに支えられ体をおこしていた。
だが鎧など身に着けていなかったせいか、ステリアより受けたダメージは大きいようだ。
その時、実況席ではモアとフレンシアが今の攻防の解説をしていた。
「先程のウースイ選手の魔法ですが、一体どういう現象だったのでしょうか?」
「そうですね、あれは恐らく魔道具によるものでしょう」
「魔道具ですか?」
「ええ、トーゴくんが言った通り、あの魔道具は魔法を複製するものみたいですが、幾つか制限があるみたいです。彼らはもう気づいているみたいですが」
彼らというのは闘悟達のことだ。
恐らくスレンの闘い方を見て、そう判断したのだろう。
「制限というと?」
「あの魔道具は恐らく、動きながらでは使用できないのでしょう」
「あ、なるほど! だからウースイ選手が動いたら火の玉が消えたんですね!」
観客達もなるほどと頷く者がほとんどだ。
「それに気づいたスレンさんは、彼が魔法を完成させるまでに、先に攻撃をして不発を促したのでしょう」
魔法完成までは、少し時間が掛かるので、それまでに攻撃をして、ウースイを動かすことができれば、魔法の不発を狙えるのだ。
「そういうことでしたか! それでは最後の衝突はどういうわけでしょうか? あの時はまさに一瞬で、今までとは比較にならないほどの火の玉を生み出しましたけど……?」
それは誰もが聞きたいことだった。
あの時は、時間もほんの一瞬で魔法が完成していた。
しかも、今までとは違い過ぎるほどの火の玉の複製が現れていた。
これは、先程の条件には当てはまらない。
皆がフレンシアの言葉を待って耳を澄ましている。
「あの時、彼の……ウースイ選手の魔力が急激に減りました」
「へ? 魔力が……ですか? ですがトーゴ選手の言う通りなら、あれは魔力をほとんど消費しないのでは?」
そうなのだ。
だからこそウースイはあれだけの火の玉を使用しても、魔力消費が微量でピンピンしていたのだ。
「恐らく最後のアレが、あの魔道具の切り札なのではないでしょうか?」
「切り札?」
「自身の魔力のほぼ全部を注ぐことで、あのような現象を引き起こす効果を備えているのでしょう」
闘悟もその解説を聞いて、自分が考えていた仮説と同じだったので半(なか)ば確信した。
すると、バンリドが笑いながら言葉を放つ。
「ははは! さすがはフレンシア様じゃのう! まあ、補足するとじゃのう、この『魔補螺羽(まほらば)』は、一度に複製できるのは十三。そして、最後に使用したアレは、十分以内に使用した魔法を一瞬にして生み出す効果があるんじゃ。まあ、そのせいで魔力は空になりよるんじゃけどのう」
十分以内に使用した魔法ということは、それまでステリアを攻撃していた火の玉の数だけ出現したというわけだ。
もしそれまでに中級以上の魔法を使っていたら、もっととてつもない威力になっていただろう。
確かに対価(たいか)として、使用した後は魔力が空になり動けなくはなるが、それを補って余りあるほどの能力だ。
もし攻撃を命中させることができれば、まさに奥義とも呼ぶべき魔法なのかもしれない。
「て、てめえバンリド……勝手にネタばらししてんじゃねえっての……」
怒鳴る元気はないが、そこまで舌が回れば命の心配はなさそうだ。
「はいはい、お前さんは大人しゅうしとけのう。あとは俺に任せぇ」
バンリドはそう言ってもう一度ウースイを座らせた。
魔力がほぼ空になったせいで、ほとんど身動きができないが、闘志だけはまだ失っていないようだ。
舌打ちをしながら闘悟ではなくステリアの方を睨んでくる。
「ちくしょうが、こんなとこで負けかっての……」
そんなウースイを苦笑しながらバンリドは見る。
そして立ち上がり闘悟の方に視線を送る。
「さあて、そっちも無事じゃなさそうじゃが、やれるんかのう?」
ステリアに指を差す。
闘悟はステリアに体を近づける。
「どうすんだ?」
すると彼女から溜め息が漏れる。
「はぁ、悔しいけどアンタの言う通り、このまま闘って、もしバレたりしたら大変だしね。私だけが怒られるならいいけど、協力して下さったニア様にご迷惑はかけられないし……ここで終わりでいいわよ」
その声は何だかサッパリしていた。
まだ不完全燃焼な部分はあるが、少しは満足できたということだ。
「引き分けになったのは悔しいけどね」
「はは、そっか」
いやいや、普通王女がそんなふうに闘わないからな?
そう突っ込もうとしたが止めた。
言ったらきっと怒りを買ってしまうだろうと思ったからだ。
「ま、特等席で観戦させてもらうわよ。トーゴの闘い」
「そんじゃ、恥ずかしい試合はできねえな」
闘悟は立ち上がってバンリドを見る。
「決まったようじゃのう」
「ああ、ラストはオレとアンタの試合だ」
「よっしゃ、んじゃやるかのう」
そうして闘悟とバンリドは舞台に上がる。
これが正真正銘、二次予選最後のバトル。
これに勝った者が本戦へと駒を進めることができる。
「さて、派手にやらせてもらおうか!」
「ところでさ、アンタも帯剣してねえけど、もしかしてアンタも魔道具持ちか?」
闘悟の質問にバンリドは首を横に振る。
「そんな高価なもん持っとらんよ」
「つうことは、純粋な魔法士ってことか?」
「そうじゃのう、魔法士っていうとそうじゃけど、まあ、その解答はこれから見せようかのう」
二人は互いに視線をぶつけ合う。
闘悟は魔力で身体能力を強化して、一瞬で間を詰める。
その動きを捉えられた者はごく僅かだろう。
だがその中にバンリドも入っていた。
見えていたのだから、普通なら避けるか迎撃するかどちらかだ。
だが彼がとった行為はそのどちらでも無かった。
ただその場に立っているだけだ。
ズゴッ!!!
闘悟の拳は確かにバンリドに命中した。
だが拳を引っ込めることも無く、その場の状況に硬直してしまった。
何故ならバンリドは何事も無かったように立っていたからだ。
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