トーゴの異世界無双
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第百話 おお~、すっげえバトルだな!
ミラニは距離を潰そうと剣を手に近づく。
「セイちゃん!」
「分かってる!」
タイセーの掛け声にセイラが答える。
セイラは腰に下げている二本のナイフを抜いて両手で逆手(さかて)に構える。
ミラニは彼女が構えた姿を確認すると足を止める。
(二年前と構えは同じだが、威圧感が全く違う)
友人の成長に、過去の経験を更新する必要が出てきた。
今度はセイラが向かって来る。
ミラニは剣を構え直して身構える。
目の前に来たセイラが急に体を回転させる。
「挨拶代わりやで! 『瞬刃独楽(しゅんじんごま)』っ!」
逆手で構えたナイフが回転力も含んでかなりの威力になっている。
(くっ! 速いっ!)
カキンカキンと止めどなく火花を散らして音が鳴り続ける。
(何という連撃だ!)
剣一本で何とか防ぐが、徐々に回転力が上がっていく。
ミラニは堪(たま)らず大きく後ろへ飛んで一時避難する。
気づけば全身に細かい切り傷をこさえている。
(ふぅ、あれを無傷で防ぐのは無理だな……)
ミラニが離れたことで回転を止めたセイラはどうだと言わんばかりにミラニを見つめる。
その顔を見て、微笑してしまう。
(これほど成長していたとは……)
この合わなかった二年弱、彼女も鍛えてきたというわけだ。
自分と同じく強くなるために。
「さすがは……『双刃(そうじん)の妖精(ようせい)』だな」
「う~ん、その二つ名は恥ずかしいからあんま言わんといて」
セイラは少し顔を赤らめる。
「さっすがセイちゃん! 見てはりましたか皆さん! あれはウチの嫁なんですよぉ!」
嬉々(きき)として叫ぶタイセーが、場の雰囲気を壊すように乱れている。
するとセイラは額に青筋を立てる。
「それ以上言うんやったら、別れるで!」
その言葉を聞いてタイセーは真っ青になりながら、すかさず土下座をする。
「頑張って下さいセイラ様!」
「ホンマ、アホやねんから!」
「ふふ、相変わらずだな」
ミラニは微笑を向ける。
「ミラニちゃんこそ、そろそろホンキ出してや」
「……行くぞセイラ」
ミラニは『火の矢(ファイアアロー)』を素早く放つ。
「アカンでそれは!」
セイラはニヤッとすると手をかざす。
「『水陣壁(アクアウォール)』っ!」
セイラの周りを覆うように水の壁が現れる。
ミラニが放った『火の矢(ファイアアロー)』が、水に触れた瞬間ジュッと音を出して消える。
「火は効かへんで? 知ってるやろ?」
ミラニは自分に軽く舌打ちをする。
彼女の特技は水の属性魔法だった。
それをすっかり失念(しつねん)していた。
「ならこれでどうだ! 『風の弾丸(ウィンドブレッド)』っ!」
今度は風の魔法で攻撃をする。
水を吹き飛ばせると思っての攻撃だ。
あわよくばその先にいるセイラにもダメージを与えるつもりだった。
「無理やで」
そんなミラニの思惑をよそに、彼女はまたもニヤッとする。
ミラニが放った『風の弾丸(ウィンドブレッド)』は、真っ直ぐセイラに向かって来る。
すると、セイラの周りを覆っていた水が、彼女の持つナイフに集約されていく。
水は形を変えて刃を形成していく。
ナイフではなく、外見は間違いなく刀剣そのものだ。
そしてその双刃で飛んでくる『風の弾丸(ウィンドブレッド)』を切り裂いた。
「……『水双刃(すいそうじん)』」
セイラは小さく呟くように言う。
「ひゅ~やるねぇ彼女」
シャオニはそれを見て素直に感嘆した。
「ああ、さすがはセイラだ」
「いいぞ~セイちゃ~ん! カッコいい!」
またもセイラに睨まれてシュンとなる。
だがタイセーではないが、水の刃を宿す双刃を持って佇(たたず)む彼女の姿は絵になるような美しさを纏(まと)っていた。
あの姿で踊るように闘う姿から『妖精』と呼ばれていたことを思い出した。
「これは長引きそうだな」
ミラニは明らかに強くなった友人を見て、嬉しく思う反面、勝つことにかなりの難度を感じて苦笑する。
ミラニは本腰を入れるように魔力を解放していく。
それを感じたセイラは目を見張る。
「さすが団長やな。あの時よりも圧倒的やで、その魔力」
ミラニの持つ魔力量の多さに、かなりの成長を感じて、ミラニと同じような思いを馳(は)せる。
ミラニは先手を取ろうと、先に動きセイラから距離を取ろうと離れる。
だが先手を取ろうとしたのはセイラも同様だったようで、ミラニの行動を許さず彼女も動いた。
両者が同時に動いたが、セイラの方が速かったようで、舞台の中心で激突する。
セイラが水で造った剣でミラニを斬りつける。
ミラニはそれを紙一重で避ける。
だがまたも次々と連撃が来る。
それをミラニは何とか避わす。
それを見た闘悟は首を傾げていた。
「ん~」
「どうされたのですかトーゴ様?」
闘悟が唸(うな)っていたのでクィルは不思議に思い尋ねる。
「ん? ああ、どうしてミラニは避けてばっかなのかなってさ」
「……そう言えば、先程は剣で防いでいましたです」
クィルも闘悟の言うことに疑問を感じてミラニを見つめる。
確かに先程の攻防では、セイラのナイフを剣で防御していたが、今は全てを避けている。
「一体何で…………そうか!」
「何か分かったのですか?」
「ああ、間違ってなきゃな」
「教えて下さいです」
クィルだけでなく、その場にいる者全員が闘悟の口元に注目する。
「多分、あれが水でできてるからじゃないか?」
「……どういうことですか?」
「剣じゃ防げねえんだ。水だからすり抜けちまうんじゃねえかな?」
「な、なるほどです」
皆は闘悟の解説に納得しているようだ。
実際闘悟の解説は的を得ていた。
セイラの持つ剣は水でできていて、固体ではなく液体なので、固体である剣では止められずすり抜けてしまうのだ。
耳を澄ませてみると、モアとフレンシアの声も聞こえる。
どうやら、闘悟達と同じ疑問を浮かんで、それをフレンシアが解説をしているようだ。
彼女の解説も、闘悟と同じ見解だった。
観客達もその解説を聞いて何度も頷いている。
その解説中もミラニ達は闘っている。
「はあっ!」
「くっ!」
「ああもう! ホンマ知り合いとはやり辛いわ!」
セイラは、未だ防戦一方のミラニよりも優位に立っているはずなのに、どうしてかイラついている。
ミラニがことごとく避けるので悔しい思いをしているのだ。
「ほとんどの者は、その水刃の特性に気づかないからな。気づいた時は一太刀(ひとたち)受けている」
「う~ミラニちゃんにはバレてんもんなぁ」
悔しそうに口を尖らせる。
「だがそれはお互い様だ」
「へ?」
「先程から絶対に私から離れないようにしているだろう?」
「ふふん、そりゃそうやって! ミラニちゃんのアレは怖いしな」
「ふっ、互いにやり辛いな」
二人は視線を交わすと、今度はミラニが剣を納めて距離を取る。
「させへんって!」
セイラはミラニに近づく。
するとミラニは『火の矢(ファイアアロー)』を地面に向けて放つ。
ドゴォッ!
地面が爆発したかのように弾ける。
激しい音と共に爆煙(ばくえん)が舞う。
セイラは片手を上げ、飛んでくる破片から目を守る。
しかし、目の前にミラニの姿がいなくなっている。
「や、やってもた! どこや!?」
セイラは必死になって周囲を確認するが、見当たらない。
「上やでっ!!!」
タイセーの叫び声でセイラはハッとなり上空に視線を向ける。
そこには納めた剣の柄に手を掛けたミラニがいた。
「跳んどったんか!?」
そう、ミラニはセイラの視線を一時的に遮ると、そのまま空高く跳び上がったのだ。
「アカン! あの構えは!?」
ミラニの姿を見て驚愕する。
「行くぞセイラ!」
するとミラニはそこから一気に加速してセイラに真っ直ぐ突っ込む。
まるで空を蹴ったかのようにいきなり加速した彼女を見て誰もが驚きを隠せない。
「あれは『縮地(しゅくち)』の一種ですね」
フレンシアが解説してくれる。
その声を誰もが聞き耳を立てる。
「『縮地』というと、一瞬で移動する移動技の一つですね」
モアがそれに付け足す。
「ええ、本来は地面の上で行うのですが、ミラニさんはそれを上空で行っています。あれは『縮地』の上級技である『天動縮地(てんどうしゅくち)』です」
「え? 『天動縮地』……ですか? そういえば私も聞いたことはありますが、この場で見られるとは思いませんでした」
「それはそうでしょう。あの技は元々『ユーネピア』にしか伝わらない技ですから」
「そ、それは天空の大陸の……ですか?」
「そうです。空中で足元に魔力を集めて小さな魔力爆発を起こし、その勢いで突進力を高めるんです」
「その技が『ユーネピア』に伝わっているということですね」
この『ネオアス』という世界には三つの大陸がある。
グレイハーツがある大陸は豊穣(ほうじょう)の大陸『エクスド』だ。
そして、『ユーネピア』というのは天空の大陸と呼ばれている。
その理由は、名前の通り天空に浮かんでいるからだ。
「なるほどなるほど、いや~ミラニ選手には謎がありますねぇ~。さすがは魔法騎士団団長というわけですね!」
ミラニは超加速したスピードでセイラに向かっている。
「くっ! 『水陣壁(アクアウォール)』っ!!!」
魔力をできるだけ注ぎ込んで防御に集中する。
セイラの上空にはかなりの水量が圧縮されて壁を形成していく。
ミラニは柄を握っている手に力を込める。
そして水の壁に向かって剣を抜く。
凄まじい突進力が付加され、剣の切れ味がさらに増す。
ミラニの剣圧で、水の壁は綺麗に裂かれていく。
「なっ!?」
セイラは目を見開く。
咄嗟(とっさ)に彼女はその場から全力で横に跳ぶ。
ミラニは一直線に舞台に衝突した。
その激しい衝撃は爆風を生み、セイラが生み出した水は周囲に飛び散り、彼女自身も衝突事故に遭ったかのように吹き飛んで地面に転がる。
「セイラッ!!!」
タイセーはセイラの安否(あんぴ)が気になり叫ぶ。
すると、目の前から何かが、かなりの勢いで転がってくる。
それは間違いなく自分が愛する女性だった。
そう悟った瞬間、タイセーは身構え吹き飛んでくるセイラを受け止める。
「ぐっ…………タイ……セー……?」
セイラも気づいたように自分を抱えている人物の名を呟く。
タイセーは心配そうに彼女を見つめる。
そして、ゆっくりと舞台の上に立っているミラニに視線を向ける。
「ホンマ凄い使い手になったんやなミラニちゃん……」
タイセーもミラニの成長ぶりに目を疑いたくなる。
悠然(ゆうぜん)と立つミラニは、その視線をセイラ達に向ける。
「『縮地』を使った突進技。確か『斬(ざん)・一閃(いっせん)』って技やったな」
タイセーは思い出すように声を出す。
「うん……あれは距離があるほど威力上がりよるから、離れないようにしてたんやけど……まさか空からやとは思わへんかったわ……」
セイラが痛みに顔を歪めながらも声を発する。
「無事なんかセイラ?」
今までのタイセーではなく、真剣な表情でものを言う。
「は~むっちゃ疲れたわ。ちょっと休憩させてぇな」
「よっしゃ、ほんじゃ後はやるわ」
タイセーが微笑みながら言う。
このタッグマッチのルールは、降参さえしていなければ、タッチして交代すれば何度でも闘える。
少し体を休め、また闘えるように、ここは交代するのが賢いとセイラは思った。
「頼むわ。一応手は打っといたし、気をつけてな」
「おう!」
ゆっくりとセイラを地に降ろすと、舞台に上がる。
ミラニとタイセーは互いに視線を合わせる。
「仇は取らしてもらうでミラニちゃん?」
「ああ、こちらも負けるつもりはないぞタイセー」
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