ジークフリート
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第三幕その七
第三幕その七
「眠れる乙女は私の力で眠らされているのだ」
「御前の力でというのか」
「如何にも」
まさにそうだというのだった。
「彼女を起こす者は、そして」
「そして?」
「彼女を得る者はだ」
「どうだというんだ?」
「我が力を永遠に無力にするのだ」
そうするというのである。
「彼女の周りに炎の海が流れているが」
「それはもう知っている」
「あれを見るのだ」
彼から見て左手をその槍で指し示した。そこは。
赤い光が見える。岩山の上にであった。そこにあるのだった。
「あの光をだ」
「光だと?」
「そうだ、あれが見えるな」
その赤い光をまた指し示すのだった。
「あれをだ」
「あそこにその女がいるんだな」
「そうだ」
それはその通りだというのだった。
「女はあの中にいる」
「奈良今からそこにいる」
「光はさらに輝き」
さすらい人は槍でその光を指し示し続けていた。
「灼熱もさらに激しくなっている。空を焦がす雲に」
「雲もか」
「揺らぐ炎が狂うが如く」
彼の言葉が続く。
「音を立てて燃え上がり」
「音も聞こえるのか」
「そうだ、聞こえるな」
「確かに」
言われると実際に聞こえてきた。
「それは聞こえる」
「それが貴様を焼き尽くすのだぞ」
言いながらだった。
「それでは。いいな」
「行くなというのか」
「まさか行くつもりか」
「そうだ、何があってもだ」
ジークフリートも引かない。あくまで行くというのである。
「どけ、僕は行く」
「貴様が炎を恐れないのならだ」
さすらい人は彼の前に立ちはだかる。
「私の槍が行く手を塞ぐぞ」
「闘うというのか」
「我が槍にはまだ支配の力がある」
「支配するというのか」
「そうだ、あるのだぞ」
左手のその槍で指し示しての言葉であった。
「御前の振るその剣はだ」
「この剣は?」
「この槍で砕けたのだ」
それを今告げたのだった。
「かつてはな」
「今は違う」
「いや、今もだ」
その言葉が強いものになっていた。
「この槍で再び、そして永遠に砕けることになる」
「砕けるというのか」
「父の仇だったのか」
いよいよその言葉を聞いて目が鋭くなる彼だった。
「御前は」
「だとしたらどうする」
「仇を取る」
言いながら遂に剣を抜いたのだった。
「いいな、これでだ」
「ならばだ」
さすらい人もまたその槍を構えた。そうして突きたてる。しかしだった。
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