ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲
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第弐話 《三人目》
前書き
実に分かりやすい前回までのあらすじ
茅場晶彦に最終ボス倒すまで帰れないって言われちゃった♪
薄暗い森の中、やけに大きい青イノシシの蹄の音がこだまする。
「…………フッ!」
シンは短く息を吐き出し、真正面から突進してくるイノシシの鼻下に足を引っ掛け、一気に蹴り上げる。
「ピギイイィイ!!」
五月蝿いくらいの断末魔の叫びを上げ、青イノシシが無数の蒼いポリゴン片と化し霧散した。
「プギイイィィ!!」
すぐ近くで断末魔。更に生まれるポリゴン片。
「チッ、予想以上に経験値少ないな。シン、今何体倒した?」
「五体目だ。お前は?」
「九だ」
簡潔に答えると、ダガーを振るって青イノシシを顔を斜めに書かれた《線》に沿って切る。
すると、青イノシシは例に習って、絶叫を上げる暇なく爆散した。
「そのスキル便利だよな。俺に貸してくれよ」
「無理だ。それと、これはこれでキツイ」
シキは軽く首を鳴らすと、あたりを見回した。
「……いなくなったな」
「そうだな。……一旦村に戻ろう」
シキは首肯し、村に向かって歩き始めたシンの後を追う。
○●◎
シキ達が現在ホームタウンとしている村の名前は、《ソエリア》。農業が盛んな村らしいが、夜の為か外に出ている者は殆どいない。
「よっこらせ、っと」
二人はNPCの経営する宿屋に入り、部屋は取らずエントランスのテーブルに着く。
やがてNPCのメイド服の少女が歩いてきて、あのうと声をかけて来た。
「……何か?」
「あの、なんと言いますか。冒険者さん、ですよね?」
頷くと、少女は顔をぱあっと明るくした。
少女の頭上に金色のクエスチョンマークが現れた。それがクエストが発生した証だと二人は気付いた。
「何かあったの?」
シキが優しく訊くと、少女は勢い良く何度も頷いた。
内容は村の男達が農作業で大怪我をしてしまったので、特殊な傷薬の元となるアイテム《アウリスの羽》を持ってきてくれ、というものだった。
「……どうする?」
「困ってる人がいるなら助けたい、と言いたいが……。《アウリス》がどのくらい強いのか知らないしな。まぁ、シキの好きにすればいいんじゃないか」
ぶっきらぼうにシンは言うと、少女が持ってきてくれた水を煽る。
「行ってみるか。クエストの報酬が何か分からないし、やってみる価値はあるかもしれない」
カウンターに戻っている少女に引き受ける旨を話し、若干引くぐらい感謝の意を述べられた後、《アウリス》の場所を教えてくれた。
○●◎
「……しかし、まあまあ遠いな」
開口一番、シンは言った。
まぁな、とシキも同意する。
件の《アウリス》が出現するのは、先の村から1キロほど離れた場所だった。そこでしかポップしないらしいのだ。
森の中を歩きながら、時たま出てくる《フレイジーボア》や《リトルネペント》を倒しながらどんどん進んでいく。
そして何回目かのモンスターとの遭遇。事件は起こった。
「ピギャアアアァァ!!」
パアァァン! と、リトルネペントの《実》がシキによって本体ごと両断された。
「……何だ、これは」
シンがあまりの異臭に鼻を摘んで言った。
「あ、これは不味いか……?」
彼らの名誉の為に言っておくと、彼らは《実つき》のリトルネペントに初めて遭遇し、シキはいつも通り《死線》を確認した。
今回は不運なことに、それが縦に走っていた為、馬鹿正直にシキは縦に両断してしまった。
結果。
周りにいたリトルネペント、計十三体が二人を取り囲んだ。
「ヒュウ……。やってくれたな、シキ」
「……悪かったよ。今回はマジで悪かった」
シキはダガーを逆手に構え、シンは構えないまま両手を握ったり開いたりしている。
「シャギャアアアア!!!」
そして、十三のリトルネペントが一斉に叫び、背中合わせになった二人に襲いかかった。
そこから先は、一方的だった。
ただの二人のプレイヤーが、十三のモンスターを圧倒していた。
シンが一体一体を引きつけ、シキが体力などお構いなしの《死線》への攻撃で確実にその数を減らしていく。
二人が戦い慣れているのではない、彼ら個々の能力と絶妙なコンビネーションによりリトルネペント達は苦戦を強いられた。
とは言え、結果は十三体が全滅、二人はほぼ無傷だった。
「……先を急ごうか」
「ああ、責任追及はこのクエストが終わってからたっぷりしてやるよ」
シンのジト目を受け流し、シキは鞘にダガーを仕舞った。
「日が昇る前には倒したいな」
ウインドウを出し、時間を確認する。
時刻は現在、午前12:32。
村の少女に教えられた限りでは、《アウリス》は日が出ている内は行動が活発になるのだという。
ならば、日が昇るまでに倒すまで、と意気込んだのは良かったものの、本当に日の出までに辿り着けるのだろうか。
「まぁ、やってみるしかないよな」
小さく呟いてシンと共に歩き出す。
彼らのレベルはこの時点で、既にシキは3、シンも同様に3となっている。
ポーションは片手で数える程度しか買っていない。
その原因の一因は所持コルにある。
何しろモンスターを何体倒しても、コルが殆ど手に入らないのだ。
近くにポップしたリトルネペントの線に無造作に斬撃を与え、爆散させる。
もう何度目かのダガーを後腰に仕舞う動作を行い、空を仰ぐ。
「どうして、茅場晶彦はこの世界を望んだんだろうな」
「……理想郷、ってモノが欲しかったんじゃないか? 彼は」
ふと思った呟きに、シンが応えた。
その返答にシキは「そうか?」と首を傾げた。
「茅場晶彦はあっちの世界でも充分に充実した生活を送っていたと思うが。それは理想郷と言わないのか?」
「シキの思う理想郷と、茅場晶彦の描く理想郷は違う。誰もが納得できるのは幻想だけしかない。だけどそれを形にすれば、他の誰かが思い描くものとは違う結果が待っている。それだけだ」
一息に言い切ると、シンも並び空を仰ぐ。
「どうして、人間ってのはこうも違うんだろうな」
ぽつりと悲しげに呟いて、目を閉じた。
それから少し経って、シンが問いかけてきた。
「シキ、お前は後悔しているか?」
「何を」
「俺と遭ったことを、だ」
シキはしばし沈黙した後、はぁ〜と大きな溜息を吐いて、何とも言い難い表情で、
「馬鹿じゃねえのか?」
と言う。
「お前と会ってなければ、今の俺は居ないんだ。お前は、俺にとって救世主だったんだ。だから、このゲームに巻き込まれたことがお前のせいだ、なんて言うつもりは微塵も無いし、この世界で死んでもお前を恨むことは決してしない」
言い終えて、シキは呆然とした表情のシンを置いて森を奥へと進んでいく。
「あ、お、おい!」
はっと我に返り、シンも急いでシキの背中を追った。
○●◎
「……おいシキ、何か物音が聞こえないか?」
突然シンが立ち止まり、耳を澄ませるよう促す。
シンに言われるまま耳に意識を集中させると、何か獣のような声が聞こえた。
「……本当だ」
声の聞こえた方向は、丁度シキ達の進行方向だった。
シンと顔を見合わせる。
「……行くか?」
「行った方がいいだろう。誰かが戦っているかもしれない」
「だよな……。先行ってる」
言うにや早く、相方の返事を待たずに駆け出す。
敏捷力一点特化のステータスを持つシキは、シンを置き去りにして疾駆する。
程なくして、二体のモンスターとそれに両手剣を向ける少女を見つける。
モンスターは裸体の女人型だったが、両の腕は肩口からワシの大翼、足の先は鳥の鉤爪になっており、とても美しいとは言えない。むしろ、シキの美的センスから言わせてもらえるなら、
「醜い」
その一言に尽きる。
疾駆していたその身体の勢いを殺さぬままダガーを抜き放ち、バネ仕掛けの玩具のように身体を弾けさせる。
地を蹴り空を舞ったシキは、放たれた矢のように異形へと向かっていく。
「――――ッ!?」
異形の首がシキに向いたが、既に遅い。
シキは異形に走る五本の線、その内の腋から胸へと一直線に走る線に目をつけ、一閃した。
しかし、シキの視界は驚くべきものを捉えた。
「何だと……!?」
異形がシキの刃を翼で受け、必殺の一閃を躱したのだった。
果たしてシキの一撃は異形、《アウリス》の翼に押し留められ、HPバーを僅かに削っただけだった。
「チッ……!」
シキの舌打ちと同時に迫り来る鉤爪、彼はそれを難なくいなすと数歩距離を取った。
「大丈夫!?」
両手剣で二体目の《アウリス》の蹴りを受け、少女が声を掛けてくる。
首肯して無事を示し、《アウリス》と正面から対峙する。
「そいつ、頼めるか?」
シキの問いに、少女は「ええ!」と強張った声で応える。
「じゃあ三十秒だけ耐えてくれ。そしたら、俺の仲間が来る」
くるっと調子を確かめるようにダガーを回して、手に馴染むのを確認すると《アウリス》へと意識を集中させる。
○●◎
《アウリス》は強敵だ。
先の一撃を躱しただけでも充分にそれは理解できる。
だが。
「引くわけにはいかないよな。こんなのを二体なんてそりゃ残酷すぎる」
心中で苦笑し、表情は平静を保ったままで《アウリス》を睨む。
さっきちらりと見えたが、あの少女のHPバーが五割を切り、黄色へと変化していた。
シンが来るのを待つのでは遅すぎる。
こんな装備で《アウリス》の一撃を許せば、簡単にこの仮想体は消える。
あの少女はそんな状態で戦っていたのだ。加担せざるを得ないだろう。
「俺って甘ちゃんだな。まったく……」
口からそんな言葉が漏れた直後、《アウリス》の蹴りがシキに向けられた。
シキは左右にステップを踏み、蹴りを避けると線を狙い横薙ぎに一閃。
狙うのは胸の線ではなく、右の脚に斜めに書かれた線。
ザン、と簡単に右足が吹き飛び、《アウリス》のバランスが崩れた一瞬を狙い、胸元の線をなぞる。
「消えるがいい、異形。お前の末路は俺に殺されるが相応しい」
胸元と胴が分かたれた異形は叫びもせず、ばしゃっと無数の蒼いポリゴン片となり消えた。
正にその直後、もう一体の《アウリス》が少女の両手剣を弾き上げ、蹴りを叩き込もうとしていた。
「しまっ――――ッ!」
「ジャッ!」
シキの叫びに被さるように、勢いのある掛け声。それと同時《アウリス》の側頭部に飛び蹴りが突き刺さる。
「待たせたな」
少女と地に倒れ伏した《アウリス》の間に着地したシンは言って、シキに向く。
「……遅かったな」
「ヒーローは遅れて来るもんだろ?」
シンはおどけて、少女に目を向ける。
「危ないところだったな、君」
「あ、え……」
突然現れたシンへの返答に困っている少女に肩を竦め、首を鳴らす。
その直後。
突如二本の足で上がった《アウリス》が翼をシンへと叩き付けた。
シンは上から迫る二振りの断頭台の刃めいた翼に対し、身を屈めてバックステップし、背で押すかたちで少女ごと下がる。
先程までシンと少女がいた場所に翼が突き刺さった。
「大丈夫か?」
「え、ええ」
少女の返答に頷くと、
「シキ、手を出すなよ」
シキに向けて言い放った。
「…………わかった。但しお前のHPが半分切ったら割って入るぞ」
シンの瞳の決意を感じ、仕方なく頷く。
シンは「了解」と頷き、《アウリス》が動くより早く懐に飛び込み、拳の連打を叩き込む。
「うわっ……!」
少女が感嘆の声を発した。
それもそうだろう。何故なら、シンの振るう拳でみるみる《アウリス》のHPバーが減少していくのだから。
そして《アウリス》のHPバーが黄色に点灯すると同時に《アウリス》は翼を広げて飛び上がった。
「……ゥゥウオォォアアアァァ!!」
異形そのものの雄叫びを響かせ、敵を怒りに燃える目で肉薄する。
「アレ、使うか。シキ、ちょっと離れてろ」
ウインドウを呼び出し、シキに警告する。
アイテムの欄を叩き、その中にあるアイテム《マロガレ》をオブジェクト化させた。
《マロガレ》は黒い小さな龍のような形をしていた。
そして、何とシンはそれを、躊躇なく口へと運んで、飲み込んだ。
ごくん、とシンが喉を鳴らし飲み込む。するとシンを中心に衝撃波が発生し、周りの木々が激しく揺れ、一瞬の内に周り一面に紫色のメッセージが表示される。
さながらその光景は、シンを中心に紫の花が開いたようだった。
「……行くぞ?」
両手を握ったり開いたりして調子を確かめた後、空に浮く《アウリス》と向かい合う。
「オオオォォウウアァァッ!!」
シンの声に応じるように、《アウリス》が叫ぶ。
《アウリス》が勢いを付けた突進を繰り出すと、
「……【暴れまくり】!」
シンは口の中で唱え、右手を《アウリス》へと突き出す。
右手からではなく、シンの周辺から打撃系のSEとエフェクトがあり、《アウリス》の全身を打ち付けた。
《アウリス》は空中で消滅し、ポリゴン片をばら撒いた。
降り注ぐ蒼い欠片の中に一枚の羽を確認し、それを掴む。それは《アウリスの羽》と表示され、シンはそれをメインウインドウへと格納した。
「シキ、拾っておけよ、それ」
シンは首をシキへと向け、シキの足元に落ちている羽を指す。
「あ、ああ。分かってる」
羽を拾い、メインウインドウに格納する。
「――――さて、シキ君? 訊きたいんだが、その娘誰?」
○●◎
「つまり、二体のアウリスと戦っていたのは君だったわけか。なるほどな」
《ソエリア》の宿まで戻った一行はクエストを終らせ(ちなみに貰ったアイテムはシルバーダガーという不死系のモンスターに大ダメージを与えられる武器だった)、事情を聞いていた。
「あ、自己紹介が遅れたな。俺はシキ、こっちのはシン」
「私はチルノ。それで、貴方達、変なスキル持ってるの?」
「まあな。って……え?」
テーブルに肘をつき、水を飲んでいたシキは思わずコップを落としそうになった。
「今、何て……?」
「だから、変なスキル。持ってるんでしょ?」
チルノは椅子の背もたれに背中を預け、静かな口調で、
「エンゲージ」
とハッキリと言った。
その直後、六本の剣が彼女の周りに現れた。
「……これが私のスキル《エンゲージ》。さっきの剣はこれが全部合わさった姿」
呆然としている二人に、淡々とチルノは説明する。
「で、貴方達はどういうスキルなの?」
「……同類、ってわけか。参ったね」
はは、とシキは笑ってから、真面目な口調に戻って話し始める。
「俺のスキルは――――」
○●◎
「ふぅん。《直死の魔眼》に《人修羅》か。面白そうね」
「こっちはいい迷惑だよ。なぞったら全部殺せるとか不気味でしょうがない」
シキは肩を竦め、「それで?」と疑問の目を向ける。
「これからどうするんだ? チルノ」
「どうするって?」
だから、とシキは指を突きつける。
「これから俺達はこの世界で生きなくちゃいけないんだ。これからお前はどうするんだ?」
そうねぇ、とチルノは腕を組んで考える素振りを見せた。
「じゃあ、貴方達と一緒に行こうかな。変なスキル仲間だし」
「……何だその理由。まぁ兎に角、これからよろしくな、チルノ」
「ええ。よろしくお願いするわ」
後書き
斬鮫「最近毎日幸せそうに眠る家の猫が羨ましくなってきました。どうも斬鮫です」
シン「いつものじゃなくて悪いが、シンだ」
斬鮫「今回シキがいないのは、まぁ、いつもの如く遅れたということで殺されかけたのですが、返り討ちにしたからです」
シン「それは兎に角、今回は俺の紹介らしい」
斬鮫「では、こちらをどうぞ」
PLネーム…シン(Shin)
身長…174cm 体重…62kg
年齢…15歳(高校一年生)
性格…表裏がなく、誰であろうと平等に接する平等主義者
特有のバグスキル…《人修羅》
備考…シキとは中学生時代からの友人
斬鮫「今回も補足回は上げますが、見ない人の為に解説しておきます」
シン「と言っても主に《人修羅》についてだが。まず《人修羅》はソードスキルが使えない。その他にも剣や鎧等のアイテムが装備できない」
斬鮫「しかしながら、《人修羅》のスキルを持つ人は《マガタマ》を装備できます」
シン「簡単にマガタマを説明すると、これはバグアイテムだ。今回では俺が飲み込んだ《マロガレ》がそうだな。種類によって色は違うが、形は全て共通だ」
斬鮫「これを装備することによって特有のスキルを使用できるようになり、ステータスが上昇します。今回では《マロガレ》を装備して【暴れまくり】を使用しましたね。装備品にしてはステータスの上昇は微々たるものですが、装備するだけでスキルが使用できる時点でチートですね」
シン「ただ残念ながら、これはバグアイテム。俺が持っているのは現在、《マロガレ》のみだ。俺のレベルの成長に合わせて俺のアイテム欄に勝手に入って来るらしい。……恐ろしいな」
斬鮫「すみません。全部入手する描写入れると大変なんです。あ、もう気付いている方もおられると思いますが、原作は真女神転生Ⅲで、キャラクターはその主人公の『人修羅』です。名前は公式の小説版の『間薙シン』から来ています」
シン「シンと言っても世紀末の方じゃない」
斬鮫「さて、今回はこのあたりでお終いです」
シキ「終わったか、シン」
シン「今終わったよ」
斬鮫「な、何故生きている? お前は私のこの手で……!」
シキ「……いつから、俺が死んだと錯覚していた?」
斬鮫「何……だと……?」
シキ「じゃ、まぁ、死のうか」
斬鮫「\(^o^)/オワタ」
シン「……この流れじゃ、今回の締めは俺か。えー、今回も最後まで読んでくださり有り難う御座います。前回にも感想を書いてくださった牙桜さんに感謝の意を。この作品を続けているのは皆さんの期待に精一杯応えるためです。まぁ、つまらんもう書くなと言われても斬鮫は書き続けるだろうがね。……そろそろ尺かな。では皆さん、(正確には補足回があるが)次回《第一層ボス攻略戦》にてお会いしよう。さようなら」
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