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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第八十三話 おっさん程度じゃ、まだまだだな

「あ、あの、フレンシア様よろしいでしょうか?」


 モアはいつまでも瞳をキラキラさせて自分の役目を忘れているようなので、とにかく正気に戻させるためにも声を掛ける。
 すると、自分自身も、あまりの興奮で騒いでいたのを恥ずかしくなったのか、小さく咳払いして落ち着きを取り戻す。


「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ。私としたことが少々取り乱しました。申し訳ありません」
「は、はあ……」


 少々どころではないのではという突っ込みは心の中でして、モアは本題に入る。


「それでは解説をお願いします。一体トーゴ選手は何をしたのでしょうか? いきなり光ったと思ったら服装が変わっていますし、地面を踏みつけたと思ったら、闘武場を揺るがす地震を起こしますし、それに一気に三十八人を戦闘不能にしました」


 早口でモアは疑問をぶつける。


「あらあら、たくさんの謎がありますね」
「解説……お願いできますか?」
「そうですね、まずはあの光。あれはトーゴくんの魔法でしょう」
「魔法? 光属性の魔法ということでしょうか?」
「いえ、あれは恐らく変化魔法に近いものなのではないでしょうか?」


 フレンシアは真剣な表情で闘悟の服装を見つめる。


「変化魔法? ということは個人魔法の一種ですね」
「ええ、周りには何も影響が出てはいないので、服装を変えるための魔法という判断で間違いないでしょう」


 フレンシアの解説は闘悟の耳にも届いていた。
 それを聞いてさすが三賢人だと見直す。
 闘悟が行ったのは改変魔法だ。
 赤いハチマキとグローブは、以前手に入れたガルーダの羽を使った。
 青いカンフージャケットとサポーターも、ジャージを改変したものだ。
 こんな服装にしたのは、徒手空拳で闘うにはピッタリだと思ったからだ。
 闘悟自身カンフー映画のファンだという理由も大きい。
 本当は赤いローブも一緒に作ろうと思ったが、邪魔になりそうなので止めておいた。


「それでは先程の地震は?」
「あれはもちろんトーゴくんが起こしたものです。地面を踏みつけ、勢いよく魔力を流して地面全体を揺らしたのでしょう。そしてその際、恐るべきことは、彼が三十八人の参加者達に魔力を流したことです」


 それを聞いて、闘悟はいよいよもってフレンシアの観察眼に敬服(けいふく)する。


「流した?」
「ええ、それも一瞬で」
「魔力を流してどうしたのでしょうか?」
「恐らく、彼ら自身の魔力を攻撃したのではないでしょうか?」
「魔力を攻撃? そんなことできるのですか?」
「魔力酔(よ)いというのをご存知ですか?」
「強い魔力に当てられて、気分を害してしまう状態ですね」
「その通りです。魔力というのは精神力と同じようなものです。あまりにも強い精神力が自分に流れ込んできているのと同じです。そのため意識が保てなくなります」


 モアはなるほどと頷いている。
 観客も解説を夢中になって聞いている。
 それはフービも同じようで、静かに耳を澄ませている。


「人が魔力を感じるのは、自分にも魔力があるから。ですが、あまりにも強い魔力を感じると、人は無意識に拒絶反応を起こします。あれほど強い攻撃意思を宿した魔力を流し込まれたら、普通はああなります」


 フレンシアは倒れている者を指す。


「で、ですが、先程三十八人に魔力を流したとフレンシア様は仰いました。どうしてフービ選手には流さなかったのでしょうか?」


 そう、フレンシアの見立て通り、闘悟はフービには魔力を流さなかった。


「その理由は彼自身が語ってくれるのではないでしょうか?」


 フレンシアが微笑しながら楽しそうに闘悟に視線を送る。


「とにかく、このような状況を一瞬で作れる者は初めて見ました」
「こ、これは驚きです! トーゴ選手の行為は、まさに神業(かみわざ)とも言うべき所業だったようです! あの三賢人のフレンシア様でさえ驚愕に言葉を失いました!」


 その瞬間、あちこちから闘悟に関して言葉が聞こえてくる。
 興味、嫉妬、畏怖(いふ)、様々な感情が闘武場を包む。


「俺からも聞こう。何故俺にだけ残した?」


 突然フービが声を掛けてくる。


「なあに、それを外さねえでやられちまったら、不完全燃焼になるだろ?」


 闘悟はフービの『魔封輪(まふうりん)』を指差して言う。


「それに、さっきみたいな不意打ちで勝っても嬉しくねえしな。アンタみたいな輩(やから)は、思い知らせてやらなきゃ」
「何をだ?」
「上には上がいるってことをな」
「…………ふふふ」


 相変わらずのフランケンのような表情で笑うフービ。
 本当にホラーのようだ。
 フービは『魔封輪』を外しながら言葉を放つ。


「もう一つ教えろ。先程の地震は何だ?」
「あれはな、『震脚(しんきゃく)』って技だ。まあ、魔力を使ってるから『魔震脚(ましんきゃく)』とでも名付けようかな?」


 闘悟は初めて技らしい技に、自ら名前を付けた。


「凄まじい技だ。なら俺も見せよう! 『黄鬼(おうき)』と呼ばれる所以(ゆえん)をな!」


 凄まじい魔力がフービから迸(ほとばし)る。
 彼が学生レベルでは『魔封輪』を外せないと言った理由が分かる。
 この魔力量はまさに天分(てんぶん)。
 あのミラニよりも多い。
 その魔力を全て身体強化に注ぎ込む。


「ゆくぞ?」
「ああ、来いよ」


 瞬間フービはその場から姿を消す。
 いや、消えたように素早く動いたのだ。
 闘悟の目前に来ると、両手を組んで上から振り下ろす。
 闘悟は後ろに跳ぶ。標的を失った両腕はそのまま地面に衝突する。


 ドゴォォォッ!!!


 凄まじい衝撃音とともにクレーターを作成する。
 闘悟はそれを見てヒュ~と口笛を吹く。


「やるなぁ、フービのおっさん」
「おっさんだと? 俺は十八だ!」


 あ、そうなの?
 いや~実際三十代でも通ると思うけどな。
 失礼なことを心の中で考える。


「いやいや、確かにすげえ力だよ。そんな力で暴れられたら、まさに鬼だな」
「だが、当たらなければ意味が無いと言うつもりか?」
「ん? いんや、そんなこと言わねえよ?」
「これでもかぁっ!」


 いやいや、人の話を聞けよな。
 フービは全ての魔力を右拳に宿す。
 恐らくあれで殴られたら、人などあっさり粉砕されてしまうだろう。


「粉々になれぇっ!!!」


 勝ち誇ったような表情を見て、闘悟は「仕方ねえ」と呟き、そのまま動かずに、何と無防備に攻撃を受けた。
 聞こえはしないが、クィルは今頃叫んでいるだろうと思った。
 心の中で「心配いらねえよ」と言う。


 フービは確かな手応えを右腕に感じながらも、不可思議な出来事に驚愕していた。
 自分は確かに全力で闘悟の腹に一撃を入れた。
 地面に大きなクレーターを作るほどの攻撃だ。
 鎧も身に着けていない人間がまともに受ければ体が粉砕するはずだった。
 だがこれは何だと目の前の人物を見つめる。
 自分の攻撃に吹き飛びもせず、何事も無いようにその場に立っている。
 そして、その口元が緩んでいる。


「それが全力か?」
「ば、ば、馬鹿な……っ!?」


 その時闘悟からフービとは比較にならないほどの魔力が放たれる。
 フービはあまりにも凄まじい魔力の圧力に押され腰を落とす。


「当たらなければ意味が無いなんて言わねえよ。だってな……」
「う……」
「当たっても意味が無えし」


 闘悟は不敵な笑いをフービに向ける。
 闘悟の魔力がフービの周囲を包む。
 命を握られている感覚がフービを支配する。
 何もしてはいないのに汗が体中から噴き出てくる。
 足が震えて力が入らない。


「……ば……化け物……」


 目をひん剥き、声を震わせている。
 それを見ている観客も同様の思いだ。


「そうだな。鬼程度じゃまだまだだったな」
「く、来るなっ!」
「またな。ま、次があればだけど」


 闘悟はそう言うと、フービの腹に一撃を入れる。


「がはぁっ!!!」


 その一撃は地面にも通ってクレーターを作る。
 そのクレーターはフービのソレの十倍以上はあった。
 だが、その衝撃を全部フービに向けたわけではない。
 そんなことをすれば文字通り粉々になってしまう。
 ほとんどの衝撃はフービの体を通して地面に向けた。
 そんなことは露知(つゆし)らず、フービは白目を剥き気絶している。


「確かにアンタの魔力は多いけど、道具で封印するってことは、自分で制御できてねえって証拠だ。もっと上手く扱う修練しなきゃ、宝の持ち腐れだぜ、おっさん先輩」


 そして、試合が終わったというようにクィル達がいるVIPルームに向けてピースサインを送る。

 
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