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食べないもの

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第一章

                          食べないもの
 アマコス一家はフィリピンで漁師をしている。その生活は慎ましやかなものだった。
 日々を質素にだが一家で幸せに暮らしていた。この日もだ。
 一家の主であるロベルトは家から帰ってだ。家族に笑顔で話していた。
「今日も大漁だったぞ」
「そんなに獲れたの」
「じゃあ今日もおかずは」
「ああ、たっぷりとあるからな」
 実際にだ。彼はその両手に下げている袋に大量の肴を入れていた。その魚達を見てだ。
 妻のテレサは笑顔でだ。こう言うのだった。
「じゃあ早速ね」
「ああ、料理してくれよ」
「あといらない魚はいつも通りよね」
「プラシド達にやってくれるか?」
「そうするわ」
 テレサは笑顔でロベルトに応える。家の猫達の分もあるのだった。
 そうしてその魚を料理しておかずにした。確かに質素だが食べるものには困っていない。アマコス一家は幸せな日々を過ごしていると言えた。その中でだ。
 ロベルトはだ。彼等が食べないその魚を美味そうに食べる家の猫達を見てだ。妻に言ったのだった。
「あの平べったい魚な」
「あれ何ていったかしら」
「ヒラメっていったか?」
「ヒラメ?」
「ああ、あれはな」
「何か同じ様なお魚他にもあったわよね」
「カレイな。あっちが確か顔が右でな」
「ヒラメが左なの」
「ああ、俺も最近まで知らなかったんだよ」
 どっちも同じ魚だと思っていたのだ。
「何しろ食わないし売れもしない魚だからな」
「つまり猫の餌にしかならないお魚よね」
「そうだよ。それで何でカレイとヒラメの二種類あるって知ったかっていうとな」
「それはどうしてなの?」
「この前市場に日本人が来てたんだよ」
 獲った魚を水揚げしてそこで売っているのだ。漁師はそうして生計を立てているのだ。
 そしてそこにだ。日本人が来ていたというのだ。
「それで教えてもらったんだよ」
「日本人ってあの日本人よね」
「ああ、何か仕事で来たらしいんだよ」
「ここに工場でも造るのかしら」
 日本人といえば経済進出だ。それでテレサもそう想像したのだ。二人はその日によく焼けた感じでめりはりの聞いた南方系特有の顔を見合わせながら夕食を食べている。
 その中でだ。夫は妻に話す。その周りには子供達がいてやはり食べている。
 その団欒の場でだ。妻は怪訝な顔になって述べた。
「自動車か何かの」
「どうだろうな。日本人っていっても色々だからな」
「こんな漁村に日本人が来るなんてね」
「やっぱりそれか?」
「工場作るんじゃないかしら」
「若い奴の仕事場はできるな」
 ロベルトは少し考える顔になり言った。
「じゃあそれはいいことだよな」
「そうね。まあ私達には関係ないことだけれどね」
「そうだな。俺は漁師一本だからな」
「ええ。それにしてもその日本人貴方にお魚の種類教えてくれるなんて」
 このことからだ。妻はあることがわかった。それは何かというと。
「随分親切でしかもタガログ語話してたのよね」
「ああ、そうだよ」
 ロベルトはその日本人がタガログ語で話していたことをだ。素直に話した。
「結構以上に上手かったな」
「ここに来て長いのかしらね」
「そうかもな」
 そんな話をしてだった。今は団欒の時を楽しんでいた。しかしだ。
 ある日のことだ。急にだ。彼が仕事から帰って漁師仲間達と共に市場に獲れた魚を水揚げに来るとだ。そこでだ。 
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