恋は無敵
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第三章
「待ちました?」
「いや、全然」
まずはお決まりのやり取りからだった。
「ちょっと前に来たばかりだから」
「そうですか」
「うん、それじゃあさ」
「はい、宜しくお願いします」
麻美子はその澄んだ声で礼儀正しく言ってくる、そのうえで渉の向かい側の席に座ってきた、ここから話がはじまった。
渉は怪訝な顔で麻美子に尋ねた。
「俺に話したいことって」
「はい、じゃあ」
麻美子は恥ずかしそうに店の中を見回す、今店の中には主婦と思われるおばさん達しかいない、店のカウンターの中には店のマスターがいるだけだ。
二人の通っている高校の生徒も先生も一人もいないことを確かめてからこう言ったのである。
「大島君いつも私のこと見てますよね」
「あっ、それは」
「否定しませんよね」
「嘘は嫌いだからさ」
このことは渉の倫理観だ。
「そういうことはしないよ」
「そうですか」
「けれど言わなかったんだよ」
「そうなんですね」
「ああ、けれど乃木坂さんも気付いてたんだ」
「はい」
そうだとこくりと頷いて返す。
「そうでした。私のことをいつも見てるのは」
「それはさ」
「私のことが好きだからですよね」
俯いて顔を赤くさせての言葉だ。
「だからですよね」
「そうだよ。俺嘘は言わないから」
そう言われては認めるしかなかった、渉は自分の倫理観に従うと共に覚悟を決めて麻美子にはっきりと答えた。
「そう言われるとね」
「そうですね、ただ」
「乃木坂さんを好きになるとだよね」
「兄がいます」
その問題になっている彼がだというのだ。
「兄についての噂は大体真実でして」
「つまりあれ?ストーカーとかチンピラとかの話は」
「事実です」
恐怖の攻撃を繰り出したというのだ。
「その、兄は極端な人で」
「身長二メートルで体重百二十キロというのも」
「事実です」
「それで武道の達人で趣味がトライアスロンっていうのも」
「全て事実です」
恐ろしい噂は全て真実だった。
「握力も三桁です」
「そうだったんだ」
「それで私のことを大事にしてくれていまして」
麻美子の口から語られる恐ろしい真実は続く。
「私が誰がと付き合うとなると」
「それならですね」
「はい、自分と話をしてからだと言っています」
「話だけで済むの?」
「この前結婚詐欺師めいた人が会いまして」
「その人どうなったの?」
「兄に見破られてその場で一気に投げ飛ばされました」
柔道の技でだというのだ。
「それで今ゲイバーに勤めておられるそうです」
「潰されたんだね」
「そうなりました」
その下手に言い寄った者もそうなったというのだ。
「兄は人を見極める目も確かで若し少しでもおかしなところがあれば」
「恐ろしいことになるんだね」
「そうなんです」
つまり男としてのシンボルを完全に潰されてしまうというのだ。
「それでもう会って何人も」
「凄いお兄さんだね」
「あの、それで大島君は私と」
「正直に言うけれど好きだよ」
このことは確かに言う渉だった。
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