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ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士

作者:涙カノ
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第76話 =信じたくないもの=




―――――――

「……これ、いつになったら開くんだ?」

先ほどからキリトも我慢しきれずにカツンカツンと剣を突き立てているが傷1つつきやしない。

「ユイ…どういうことだ!?」

思わずキリトは娘の名前を叫んでいた。するとすぐさま胸ポケットからユイが出てきて扉に手を当てた。

「…っ!?パパ、にぃ…この扉はクエストフラグでブロックされているのではありません…単なるシステム管理者権限によるものです!!」

「…それって……」

「にぃの思ってるので正解だと思います」

つまりプレイヤーには絶対開けられない扉…ってことか…。このドームの敵を最高難易度に上げるに留まらずにプレイヤーが抗えないシステム権限という鍵がかけられている…。そんなふざけた話し合ってたまるか!!

「……あと少し…あと少しなのに…!!」

ガツン、ガツンとさらに拳を突き立てるが一向に開きはしない。

「頼む…開いてくれよっ……!!この先にいければ…!!」

なにかシステムに抗えるものはないのか…?ただのプレイヤーにはやっぱり無理なのか…と、焦るなとキリトに言った俺がどんどん焦ってきている。その時キリトが何かを探すように胸ポケットに手を突っ込んだ。

「…ユイ、これを使え!!」

その手にあったのはアスナが落としたと思われる例の銀色のカード。ユイは一瞬驚いた顔をしたが、大きく頷いてその小さな手でカードの表面を撫でると光の筋がいくつかユイへと流れ込む。

「しっつこいな!!」

翅の震える独特の音が聞こえ振り向くと一匹の守護騎士がユイを襲おうとこちらへ向かってくる。それをサウスの盾で防いでうしろに被害が出ないよう突いて消滅させる。

「キリト、ユイ任せた!」

「お前はどうするんだ!?」

「時間稼ぎっ」

キリトたちから少し距離をとってから属性付与魔法を武器にかけ、担ぐ。そろそろシステムとかで剣を振って衝撃波的なものを繰り出せるようなものもあればいいのに、と思うがいざとなったら卑怯だから無理だろうな…と思いつつ思い切り振り下ろす。

「ライトニングっ」

そこから落雷が発生し、さらにこちらへ来る騎士数匹にまとめて当たってはじけさせる。いつのまにかユイはコードの転写を終わらせたらしく、ユイはその小さな手のひらで扉を叩いた。するとそこから放射線状に閃光が走りゲートが光り始めた。

「リクヤ!!戻って来い!!」

「わかった!…黒雲招来、雷神咆哮! バニッシュヴォルト!」

詠唱をパッと口ずさみ、雷球を発生させその間にキリトたちの元へと後退する。もちろん追ってくるが、それは雷球から発せられた無数の稲妻に阻まれてその動きを止める。

「転送されます!!パパ、にぃ、掴まって!!」

ユイの伸ばした小さな手に触れ、しっかりと握るとその瞬間、光のラインが俺とキリトにも流れ込んでくる。それを見たのか騎士どもが騒いでこちらに剣を振りかぶってくる。だが、それはまるで幽霊のように通り抜けた。

「…うわっ!?」

不意に何かに引っ張られるような気がして目の前が真っ白に染まっていく。俺はユイ、キリトとともにデータの奔流になって世界樹へと突入していった。


――――――――――――

「…っと」

転送された先はのっぺりとした通路のみでスイルベーンやアルンのようなきらびやかな装飾はなにもない場所だった。転送された時間も感覚も転移結晶と似ていたが明らかに違うのは周りの音。あの世界は少なからず騒がしかった…って言ったら失礼かもしれないが、まぁいい騒がしさだった。だがここは逆にひっそりしすぎていて怖いくらいだ。

「にぃ…大丈夫ですか?」

「なんとか、ね…」

「それにしても……ここは一体どこなんだ?」

「判りません…、ナビゲート様のマップ情報がこの場所には存在しないようですから…」

妖精Verではなく少女Verユイが困惑した顔で言う。でもこのまま道なりに進めば必ずいけると思う。見たところ一本道、余計な横道とかは無さそうだから、相手側に見つからなければ楽に行けるだろう。

「…アスナの居場所はわかるか?」

「はい…かなり近いです……。上のほう…こっちです!!」

白いワンピースから素足で床を蹴り音もなく走り出す。いつの間にかサウスからの盾が無かったので持ち主に戻ったんだと思いこんで自身の武器を戻しとりあえず俺もユイを追う。こうしてしばらく走ると左側、外周方向に四角い扉が見えてきた。これにも周りの壁と同じく装飾の類はない。

「ここから上部へ移動出来るようです」

とユイがその扉を指差す。何かないかと扉の辺りを見るとそこには上下を指しているのか三角のボタンが2つついていた。

「…ってこれ……」

ためしに上を指している三角ボタンを押してみると黄色く発光し、同時に扉も開く。…うん、超快適上下移動装置、そして時には鉄の牢屋ともなるもの、エレベーターだ。鉄製の牢屋になる状況は人生に1回あるかないかだけど。ユイは先ほど上、と言っていたのでこれに乗って正解だろう。足を踏み出してそれに乗ると現実と一緒なのか少しだけフワッとした感覚が発生した。

「…いやここまで再現しなくても……」

無駄な製作者の意図に素直に呆れるだけだった。中に入ると光っているボタンがいくつかありどうやらここが最下層、上に行くしかないようだ。それに対し上にはあと2つのフロアがあるがキリトは迷った挙句一番上を押すと、ドアが閉まり現実と同じ上昇感覚が体を包む。想像よりはやく着いたらしくドアが開くがそこには先ほどと同じ通路が。

「高さはここでいいか?」

「はい。――もう、すぐ……すぐそこです」

ユイはキリトの手を握り走り始めたのでとにかくそれを追う。さらに数十秒を内周に並んだドアを通り越して走るとユイは突然何もない場所で立ち止まった。まだ先に道は続いている。

「…いきなりどうしたんだ?」

「この先に…通路が…」

そういいながらユイは扉に触れると、ゲートのときと同じように青い光のラインが直角に曲がりくねりながら壁を走る。すると一部の太いラインが四角く壁を区切ってブン、という音とともに消滅した。その中にユイは無言で足を踏み入れてさらに駆け出す。先ほどよりもペースが上がっているところを見るとどうやらアスナが近いらしい。
ユイの開けた通路を走っているとその空けた本人であるユイがまた通路の真ん中らへんまで来て止まった。

「…こっちにアスナが?」

「……いえ…っ」

ユイは先ほどのように通路の壁を消失させる。するとそこには辺りと同じような通路だがやや下っているような、そんな通路が見えた。

「この先に…ユカ姉がいます…!!」

ユイの言葉に一瞬息を飲んでしまう。そしてこの世界には無いはずの心臓が一瞬ドキッと大きく鼓動を打ったような気もする
が手を胸に当てても何の反応もない。

「…そっか…なら」

落ち着かせるために数度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。ユイの言うことだし今ここにそれを嘘だと疑う根拠すらないから迷うことなく俺はその通路へ足を踏み入れる。

「俺はこっちに行くよ。……アスナ、絶対助けろよ」

「当たり前だ。そっちも気をつけろよ」

キリトの言葉を聞いて、俺たちは手のひらを打ち合わせる。パンッといい音が鳴り響いて誰か来ないかと思わず警戒したがそんな様子はなかった。ユイは1人になる俺を心配するように上目遣いで見てくるのでその頭に手を置いてぐしゃぐしゃとなでる。

「大丈夫だって。絶対にユイとまた会わせてやる。絶対だ」

「…約束…ですよ!」

ユイの声を聞いて俺は坂を下るため1歩1歩足を踏み出す。向こう側のキリトたちもすでに行ったのか通路の先へ行った足音が聞こえてくる。

「よしっ!!」

頬を数回叩いて気合を入れなおす。ここでユカを助けれなかったら俺をここまで連れてきてくれたキリトにユイ、リーファやサウス、そして決死の攻撃を見せたレコン、立場を捨ててまで助けに来てくれたサクヤさんやアリシャさんの思いを全て無駄にしてしまう。それだけは駄目だ、絶対に助け出す。

「…待ってろよ……!!」

そう呟いていたときには俺はどんどん走るスピードを上げていた。


――――――――――――

「……どうなってるんだ?」

いつからだろうか、進むにつれてつるつるだった足場や壁がだんだんと岩のようなものへと変化していき今はもうどこかの洞窟のようになっている。でも、ルグルーのような綺麗なところじゃなくて地の底にまで続いているような不気味な、さっきのエレベータとは違った意味でアルヴヘイムにはそぐわないような感じだ。
さらにしばらく進むとけっこう開けた場所に出た。

「…ここにユカが…?姉妹で天と地の差だな…」

スクリーンショットでしかこの世界のアスナは見たことが無いがそれでも綺麗な鳥かごに囚われているのはあの写真をみれば誰でもわかる。だがここは洞窟の行き止まりを無理やり部屋にしたかのような…居心地のいい場所では絶対にない。

「……おーい、ユカー!!………いないのか……。…っっ!?」

辺りを見渡してもユカのユの字すら見えない。ユイが嘘ついているとも思えないし…洞窟のような通路にも横道のようなものは無かったよな…といろいろ考えていると突然何か銀色に光るものが。すんでのところでそれを避けるとそれはザクっと地面へと突き刺さる。

「……これって…!?」

地面に刺さったそれを見るとデザインはいつものリズ特性ナイフとは明らかに違うが、明らかに投剣に使うような短い刃だった。何の確証も無いけど……間違いない、ユカだ。ナイフの飛んできた方向を見るとどこから出てきたのかは知らないけどなにやら人影が。次第に鮮明になっていきやつれてはいるものの、あの世界でいつも見ていた姿が見えてくる。

「…あのー…もしかして………怒ってらっしゃいま…す…?」

返事は無い、ただの屍のよう……じゃなくて。ナイフ投げられたからもしかしてそうかな、って思ったけどどうやら違うらしいが顔から表情が読むほどが出来ないほど表情がない。

「…ん…?」

さすがにおかしいと思い近づくと、突然ユカは無表情だったその唇を歪め、その手に投げナイフをいくつか取り出してそれを一気に投げてきた。

「え…?……ぐっ!?」

ユカの突然の行動に驚いたが反射神経が反応したのか体を思い切り捻らせることで何とか掠る程度に抑えたがここでおかしなことが1つ起こった。斬られたのは腕なのだがその腕から本当に斬られたような鋭い痛みが走り、思わず声を上げてしまう。

「おい、ユカっ!!」

「……」

こんな場所でキャリバーンはまず抜けないし、ユカに刃を向けるのはしたくない…。そんな俺の気持ちなど知る由もなく、さらにユカは無言でナイフを投げてくる。

「…こん、のっ!!」

この世界に来て初めてテニスの恩恵を受けたと今実感した。投剣は大体が真っ直ぐ飛んでくるのでボレー感覚でそれを全て拳で打ち落とせばいい。だた、投げてくる数が数のせいでいくつかが体を掠り痛みが走る。

「痛ぅっ……がぁっ!!」

さらに次の瞬間、目の前にはいつの間にかユカが来ておりその手に持った投剣を逆手に持ち袈裟斬りに振り下ろしてくる。いくらこの世界に敏捷値がないと言ってもあいつはその速いスピードで2年間を生きてきたという積み重ねがあるからこの世界で速く動けるようになった俺とは全然違う。そのため斬撃を完全に見切れずにそのまま切り裂かれる。

「あぁぁぁ……」

さらに追い討ちかのようにグワンとした不思議な感覚が体中を包み、次の瞬間には俺の体は宙に浮いていた。腕を動かそうにも金縛りや麻痺毒にあったように体がいうことを利かない。

「…な…なんなん…だよ……これ…!!」

どうやらユカが何かしらの方法でやっているらしい。いや、これは恐らく魔法だ…ALOではまだ実装されてないようなテスト中の魔法…。
ユカはブンっと手を振るとそれに反応するかのように俺の体も動いて壁に思い切りぶつけられる。

「かはっ…!……ぐあぁっ!!」

肺の中の空気が一気に押し出され、さらに投剣が投げられて身動きできない俺の右腕、両足を深々と貫通しうしろの壁へと突き刺さる。そのせいで完璧に壁に固定された形になった。

「…誰かと思えばぁ……リクヤ君かぁ?」

「……誰…だ…?」

息するだけで腹が動くのでナイフが擦れて痛い…。だがそれでも俺は突然出てきた粘着質な声の持ち主へと質問を投げかける
とその人物は気持ち悪い笑みを浮かべた。

「おっかしいなぁ…一度会ってるんだけどね。……ほらぁ、僕だよ……」

「…まさか……廣…田……」

あの表情はどこかで見たことがある…。そうだ、明日奈の病室で須郷の隣にいたやつが一瞬見せた表情だ。

「大当たりー……だがここではシンベリン“様”と言ってくれないかなぁ!?」

「ぐぁっ!!」

思い切り腹を殴られ全身を痛みが襲う。…これは神経で感じた不快感ではなく本物の痛みだ…。何故?と聴こうとした瞬間向こうからこちらを完全に見下したような口調で言ってくれた。

「まだペイン・アブソーバはレベル6…こんなので声をあげてもらっちゃあ困るんだけどなぁ!!」

「うぐっ……!」

目の前にいる男は俺の腹に刺さったままの投剣をそのまま握り締め、ゆっくりと抉るようにグリグリとさらに奥へと突き刺していく。こんなところまで再現しなくても…ってくらいの鮮血のエフェクトが流れ出ていく。

「…っ…ハァ………ハァ……お前……。…ユカに…何したんだよ……」

「くひッ……教えてほしいかい…。…彼女、結城悠香さんには僕と須郷さんで進めていた実験の対象者第1号になってもらったのさ!!」

「…実……験…?」

「どうせ死ぬんだ、教えてあげるよぉ……元SAOプレイヤーの皆さんのおかげで、思考・記憶操作技術の八割はすでに終了している。ただ残りの二割っていうのは結構大きくてねぇ…そこで、悠香さんの記憶を覗いたところいい感じの憎しみの感情があったからそれを激増、さらに他の記憶にも憎しみの感情をチョチョイと入れてやって……殺人マシーンに変えてあげたのさ」

「頭の…中を…いじくったって……ことか…?」

途切れ途切れに声を発するとよく出来ました、と言わんばかりに拍手を数回してユカのほうへと歩いていく。

「そして悠香さんは僕以外、見ているものは全て殺したい人間…と設定もしてある……」

「なっ……」

ユカには俺も殺したい人間の1人に含まれているのか…という疑問すら浮かんでくる。それなのに俺はそんなユカの気持ちを考えず「助ける」やら「守る」やらそんな言葉を吐いてたっていうのか…。

「いやぁ…それにしても……いい形だ…人形としては申し分ない」

「っ!!……やめ……ろ…っ!!…ユカに…触るなぁ!!」

だが俺の言葉を華麗にスルーしてユカを包んでいたぼろぼろのドレスに手をかけてユカの身体をペタペタと触っている。その様なことをされているのにもかかわらずユカの顔は無表情…いや、それどころか廣田が感情を操作しているのかユカ自身が廣田を求めているようにすら見える。

「やめろぉ……やめろぉぉ!!!」

これ以上…ユカを汚すな!!
この世界で精神だけではなくアバターとはいえその身体すらも…。さらには止めようとしてもいまだにあの魔法の効果が残っているのか身体が言うことを利かない。

…やっぱり、俺が悪いのか…。あの世界で再開して、都合よく仲直りできたと思い込み、さらには囚われた姫を救うような勇者になったつもりだったという気持ちがないとは限らない。人は何を考えているのか分からない…俺はそれを都合よく変換しただけで救おうと調子に乗っていた…。だからこの武器だけでなんでもできると思っていた。でもそれは間違いだ。HPが無くなったら死ぬ、という特殊な条件がついただけであれはただのゲーム、市場に基づいて製作者がプレイしやすいようにと考えて作られた仮想世界でしかない。

もう…俺は何も出来ない……そう思った瞬間俺は思考を放棄……



『逃げ出すのか…お前は』




しようとしたときだった。突然そんな声が聞こえてきたのは。




 
 

 
後書き
ユ「何か言い訳することは?」

涙「最初から考えていた、後悔はしていない」

ユ「そ。…ならさよなら」

涙「ギャーーーーッッ!!」投剣で滅多刺し

ユ「さて、作者もいなくなったところで次回の警告といつもの、ね
どうやら作者によると次回は相当グダグダらしいから、よろしく」

 
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