トーゴの異世界無双
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第五十三話 油断したせいで貫かれたぜ……
「何してるの! 早くこっちに来なさい!」
「え? あ、ああ」
いきなり有無を言わせないような声に、とりあえず闘悟は言う通りにローブの人物のもとへ行く。
「まさか、謎の生物がガルーダの亜種(あしゅ)だったなんて!」
嫌そうな声を出しながら拳を握る。
「ガ、ガルーダ? あしゅ?」
闘悟は説明を求めるように問う。
「凶暴な鳥類の魔物よ。亜種っていうのは、突然変異型の種類ってことで……って、アンタそんなことも知らないでここに来たっての?」
信じられないんですけど的な感じで今度は怒られた。
まあ、情報は丁寧で短くて覚えやすかったから良かったけど。
「いや~知らねえとまずいの?」
ローブの人物は、闘悟を観察するように足元から頭まで見る。
「あのねぇ……」
その時、怪鳥が翼を動かし風を生む。
二人は、飛ばされないように足を踏ん張る。
ローブの人物は、フードが飛ばされないように掴んでいる。
それを見て、余程素顔を見せるのが嫌なのかと闘悟は思う。
「と、とにかく話は後よ! 今は……」
「そうだな。さっさとコイツを倒すか!」
「……はあ!?」
闘悟の言葉に驚愕の声を張り上げる。
「ア、アンタ倒すって、まさかガルーダのこと?」
「当たり前だろ? ほらやるぞ?」
「む、む、無理に決まってんでしょ!」
「何で?」
「ガルーダは普通種でもBランクよ? しかも亜種ともなればAランクにはなるわ!」
「……だから?」
「だ、だからって……」
「ほれほれ、こっちの思惑がどうあれ、アイツはやる気みてえだぞ?」
闘悟がガルーダを見つめながら言うと、ローブの人物も同じように見る。
ガルーダも二人を敵意丸出しで睨みつけてくる。
「に、逃げなきゃ!」
「ちょい待ち」
逃げようとした人物のローブを掴み、それを阻止する。
「ちょ、離しなさいよ!」
「だから待てって。今背中を見せると、襲い掛かって来るぞ?」
「うっ……」
闘悟の言っている意味を理解したのか、言葉に詰まる。
ガルーダが今にも飛びかかりそうにしていた。
もし今背を向けたら、確実に襲われていただろう。
「で、でもどうするのよ?」
不安そうな声で聞いてくる。
「どうするって……倒せばいいじゃん」
「だから無理だって言ってんでしょ!」
「なら見てろって」
そう言うと、闘悟は真剣な表情をする。
少し雰囲気が変わった闘悟を見て目を見張る。
「ア、アンタ……」
ガルーダがまた強風をぶつけてくる。
ローブの人物はフードが飛ばされないように、両手で押さえる。
気づいた時、隣にいた闘悟はもういなかった。
「え? ど、どこに?」
キョロキョロすると、闘悟はガルーダに向かって走っていた。
ガルーダはその赤い羽毛を手裏剣のように飛ばしてくる。
「かなりの数だな」
まるで千本の弓矢が飛んできているようだ。
闘悟はさっそく魔力を体に宿す。
「えっ!?」
そんな声を出したのはローブの人物だ。
何故なら、先程感じた魔力と同じ性質だったからだ。
(う、嘘……!?)
闘悟は近くにあった大岩を片手でヒョイッと持ち上げる。
ちょうど自分が隠れられるほどの大きさだ。
そして、ガルーダに向かって投げつける。
飛んでくる羽毛が、大岩に突き刺さる。
そして、闘悟はその後ろにピタッとくっつくように飛ぶ。
ザクザクっと地面に突き刺さる羽毛を恐ろしげにローブの人物は見つめる。
(よくもまあ、あんな防ぎ方ができるもんね……それにあの魔力……)
ガルーダは飛んでくる岩を避けるように上空へ飛ぶ。
それを予測していたように、闘悟は飛ばした岩の上に乗り、それを踏み台にしてガルーダ目掛けて跳躍する。
ガルーダは闘悟の行動に驚いたようにギョッとなる。
闘悟はそのままガルーダの背後に回り、背中に乗る。
ガルーダは闘悟を振り落とそうとして翼を大きく動かす。
「うおっと! この野郎! だったらこうだ!」
闘悟は力任せに両翼を閉じる。
「グギャアッ!?」
闘悟のせいで、翼が動かせなくなる。
その行動が起こす結果は……墜落である。
ドゴオォォォッ!!!
激しい衝撃音とともに砂埃が舞う。
その光景を、口をあんぐりと開けながらローブの人物はキョトンとしていた。
目の前で起こっていることが現実だとは思えなかった。
Aランクであろう魔物と対峙する場合、普通ならAランク以上のギルド登録者達が何人も徒党(ととう)を組んで挑む。
だがそれでも、撃退できるかどうかは分からない。
それなのに、たった一人で戦っている。
その上、苦戦どころか優勢に戦っている。
そのことが、とてもではないが信じられなかった。
地面に落ちたガルーダは、大人しくなる。
闘悟は終わったと思い、ガルーダの背中から降りる。
体に巡らせていた魔力を抑える。
「何だ、あんま大したことなかったな」
しかしその時、背後にいるガルーダは、ムクッと起き上がり口を開く。
闘悟はそれに気づいていない。
唯一その行動に気づいたのはローブの人物だ。
「あ、危ないっ!!!」
「あ?」
ローブの人物の声が耳に届き、その方向を見る。
ブシュッ!!!
闘悟は目を見張る。
そして、自分の胸に感じる激痛に顔を歪める。
「ぐうっ!?」
闘悟は自分の胸を見る。
そこには、粘々(ねばねば)とした液体を滴(したた)り落とす細長いものが畝(うね)っている。
闘悟は後ろに寝ているはずのガルーダに視線を送る。
ガルーダは口を開いている。
その中から長い舌が飛び出て、自分の胸を貫いていた。
舌の先が鋭く槍のようになっている。
いてて……なるほどな。
こいつは舌だったのか。
自身を貫いているものを判別した。
舌は素早く引き抜かれて、ガルーダは再び空に上がる。
闘悟は胸を押さえ、膝をつく。
ガルーダは好機とみたのか、また羽毛を飛ばしてくる。
このままでは闘悟はサボテンのようになってしまう。
しかしその時、大きな火の塊が羽毛を燃え散らす。
「ああもう! だから逃げるべきだったのよ!」
闘悟の近くまで来たローブの人物は、もう一度構える。
「火の中の火。赤より出でし赤。その美しく燃えたもう大いなる力を示し、全てを焼き払う煉獄(れんごく)となれ! 地界(ちかい)の底から訪(おとず)れ出でよ!」
かなりの魔力が広範囲に行き渡る。
そして、カッと目を見開き叫ぶ。
『十柱の劫火(テンスイラプション)』っっっ!!!」
いきなり地面に亀裂が走り、その中から火柱が勢いよく現れる。
合わせて十本の火柱がガルーダを襲う。
ガルーダは身を翻(ひるがえ)し避けるが、避けた所からまた新たな火柱に襲われる。
羽毛を散らせながら必死に逃げ惑うが、幾つかは命中し、羽を焦がす。
奇声を上げながらガルーダは、たまらず上空へと避難する。
「す、すげえな……」
闘悟は素直に感動した。
これだけの火属性の魔法は見たことが無い。
巻き込まれた岩が瞬時に溶けてなくなっている。
火力も申し分ない。
恐らく、これが上級の属性魔法なのだろう。
とてもではないが、中級とは思えない。
だが、ガルーダにはあまり効いてはいなかったようだ。
恐らく火に耐性があるようだ。
というより、火に油を注いだようで、怒りに身体を震わせている。
「や、やっぱり効かないのね……」
ローブの人物が残念そうに呟く。
ガルーダは口を開いて、魔力を集中し始めた。
ん? 魔力?
闘悟はそれを敏感に感じ取る。
同じように感じたローブの人物が叫ぶ。
「こ、これはまずいわ……っ!?」
すると、今度はガルーダの口から猛火が放射される。
先程の火柱と、同等以上の火力を感じる。
そしてそのターゲットは、もちろん闘悟達だ。
このままでは直撃だ。
だが、ローブの人物はガルーダの殺気を受け、腰を抜かしてしまう。
体に力が入らず、微かに全身を震わせている。
上級ほどの魔法を使った上に、これほどの殺意を受ければ心身ともに堪(たま)らず、立っているのもままならないだろう。
闘悟はそれを見て、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ローブの人物に向かって言う。
「そこを動くなよ」
「え? ア、アンタ、でも怪我……?」
「大丈夫」
闘悟は向かって来る猛火を見つめる。
そして、ニヤッとする。
「終わらせてやるぞ、鳥ぃ!」
すると、闘悟は猛火の中に飛び込んでいった。
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