| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十三話 油断したせいで貫かれたぜ……

「何してるの! 早くこっちに来なさい!」
「え? あ、ああ」


 いきなり有無を言わせないような声に、とりあえず闘悟は言う通りにローブの人物のもとへ行く。


「まさか、謎の生物がガルーダの亜種(あしゅ)だったなんて!」


 嫌そうな声を出しながら拳を握る。


「ガ、ガルーダ? あしゅ?」


 闘悟は説明を求めるように問う。


「凶暴な鳥類の魔物よ。亜種っていうのは、突然変異型の種類ってことで……って、アンタそんなことも知らないでここに来たっての?」


 信じられないんですけど的な感じで今度は怒られた。
 まあ、情報は丁寧で短くて覚えやすかったから良かったけど。


「いや~知らねえとまずいの?」


 ローブの人物は、闘悟を観察するように足元から頭まで見る。


「あのねぇ……」


 その時、怪鳥が翼を動かし風を生む。
 二人は、飛ばされないように足を踏ん張る。
 ローブの人物は、フードが飛ばされないように掴んでいる。
 それを見て、余程素顔を見せるのが嫌なのかと闘悟は思う。


「と、とにかく話は後よ! 今は……」
「そうだな。さっさとコイツを倒すか!」
「……はあ!?」


 闘悟の言葉に驚愕の声を張り上げる。


「ア、アンタ倒すって、まさかガルーダのこと?」
「当たり前だろ? ほらやるぞ?」
「む、む、無理に決まってんでしょ!」
「何で?」
「ガルーダは普通種でもBランクよ? しかも亜種ともなればAランクにはなるわ!」
「……だから?」
「だ、だからって……」
「ほれほれ、こっちの思惑がどうあれ、アイツはやる気みてえだぞ?」


 闘悟がガルーダを見つめながら言うと、ローブの人物も同じように見る。
 ガルーダも二人を敵意丸出しで睨みつけてくる。


「に、逃げなきゃ!」
「ちょい待ち」


 逃げようとした人物のローブを掴み、それを阻止する。


「ちょ、離しなさいよ!」
「だから待てって。今背中を見せると、襲い掛かって来るぞ?」
「うっ……」


 闘悟の言っている意味を理解したのか、言葉に詰まる。
 ガルーダが今にも飛びかかりそうにしていた。
 もし今背を向けたら、確実に襲われていただろう。


「で、でもどうするのよ?」


 不安そうな声で聞いてくる。


「どうするって……倒せばいいじゃん」
「だから無理だって言ってんでしょ!」
「なら見てろって」


 そう言うと、闘悟は真剣な表情をする。
 少し雰囲気が変わった闘悟を見て目を見張る。


「ア、アンタ……」


 ガルーダがまた強風をぶつけてくる。
 ローブの人物はフードが飛ばされないように、両手で押さえる。
 気づいた時、隣にいた闘悟はもういなかった。


「え? ど、どこに?」


 キョロキョロすると、闘悟はガルーダに向かって走っていた。
 ガルーダはその赤い羽毛を手裏剣のように飛ばしてくる。


「かなりの数だな」


 まるで千本の弓矢が飛んできているようだ。
 闘悟はさっそく魔力を体に宿す。


「えっ!?」


 そんな声を出したのはローブの人物だ。
 何故なら、先程感じた魔力と同じ性質だったからだ。


(う、嘘……!?)


 闘悟は近くにあった大岩を片手でヒョイッと持ち上げる。
 ちょうど自分が隠れられるほどの大きさだ。
 そして、ガルーダに向かって投げつける。
 飛んでくる羽毛が、大岩に突き刺さる。
 そして、闘悟はその後ろにピタッとくっつくように飛ぶ。
 ザクザクっと地面に突き刺さる羽毛を恐ろしげにローブの人物は見つめる。


(よくもまあ、あんな防ぎ方ができるもんね……それにあの魔力……)


 ガルーダは飛んでくる岩を避けるように上空へ飛ぶ。
 それを予測していたように、闘悟は飛ばした岩の上に乗り、それを踏み台にしてガルーダ目掛けて跳躍する。
 ガルーダは闘悟の行動に驚いたようにギョッとなる。
 闘悟はそのままガルーダの背後に回り、背中に乗る。
 ガルーダは闘悟を振り落とそうとして翼を大きく動かす。


「うおっと! この野郎! だったらこうだ!」


 闘悟は力任せに両翼を閉じる。


「グギャアッ!?」


 闘悟のせいで、翼が動かせなくなる。
 その行動が起こす結果は……墜落である。


 ドゴオォォォッ!!!


 激しい衝撃音とともに砂埃が舞う。
 その光景を、口をあんぐりと開けながらローブの人物はキョトンとしていた。
 目の前で起こっていることが現実だとは思えなかった。
 Aランクであろう魔物と対峙する場合、普通ならAランク以上のギルド登録者達が何人も徒党(ととう)を組んで挑む。
 だがそれでも、撃退できるかどうかは分からない。
 それなのに、たった一人で戦っている。
 その上、苦戦どころか優勢に戦っている。
 そのことが、とてもではないが信じられなかった。


 地面に落ちたガルーダは、大人しくなる。
 闘悟は終わったと思い、ガルーダの背中から降りる。
 体に巡らせていた魔力を抑える。


「何だ、あんま大したことなかったな」


 しかしその時、背後にいるガルーダは、ムクッと起き上がり口を開く。
 闘悟はそれに気づいていない。
 唯一その行動に気づいたのはローブの人物だ。


「あ、危ないっ!!!」
「あ?」


 ローブの人物の声が耳に届き、その方向を見る。


 ブシュッ!!!


 闘悟は目を見張る。
 そして、自分の胸に感じる激痛に顔を歪める。


「ぐうっ!?」


 闘悟は自分の胸を見る。
 そこには、粘々(ねばねば)とした液体を滴(したた)り落とす細長いものが畝(うね)っている。
 闘悟は後ろに寝ているはずのガルーダに視線を送る。
 ガルーダは口を開いている。
 その中から長い舌が飛び出て、自分の胸を貫いていた。
 舌の先が鋭く槍のようになっている。


 いてて……なるほどな。
 こいつは舌だったのか。
 自身を貫いているものを判別した。
 舌は素早く引き抜かれて、ガルーダは再び空に上がる。
 闘悟は胸を押さえ、膝をつく。
 ガルーダは好機とみたのか、また羽毛を飛ばしてくる。
 このままでは闘悟はサボテンのようになってしまう。
 しかしその時、大きな火の塊が羽毛を燃え散らす。


「ああもう! だから逃げるべきだったのよ!」


 闘悟の近くまで来たローブの人物は、もう一度構える。


「火の中の火。赤より出でし赤。その美しく燃えたもう大いなる力を示し、全てを焼き払う煉獄(れんごく)となれ! 地界(ちかい)の底から訪(おとず)れ出でよ!」


 かなりの魔力が広範囲に行き渡る。
 そして、カッと目を見開き叫ぶ。


『十柱の劫火(テンスイラプション)』っっっ!!!」


 いきなり地面に亀裂が走り、その中から火柱が勢いよく現れる。
 合わせて十本の火柱がガルーダを襲う。
 ガルーダは身を翻(ひるがえ)し避けるが、避けた所からまた新たな火柱に襲われる。
 羽毛を散らせながら必死に逃げ惑うが、幾つかは命中し、羽を焦がす。
 奇声を上げながらガルーダは、たまらず上空へと避難する。


「す、すげえな……」


 闘悟は素直に感動した。
 これだけの火属性の魔法は見たことが無い。
 巻き込まれた岩が瞬時に溶けてなくなっている。
 火力も申し分ない。
 恐らく、これが上級の属性魔法なのだろう。
 とてもではないが、中級とは思えない。
 だが、ガルーダにはあまり効いてはいなかったようだ。
 恐らく火に耐性があるようだ。
 というより、火に油を注いだようで、怒りに身体を震わせている。


「や、やっぱり効かないのね……」


 ローブの人物が残念そうに呟く。
 ガルーダは口を開いて、魔力を集中し始めた。
 ん? 魔力?
 闘悟はそれを敏感に感じ取る。
 同じように感じたローブの人物が叫ぶ。


「こ、これはまずいわ……っ!?」


 すると、今度はガルーダの口から猛火が放射される。
 先程の火柱と、同等以上の火力を感じる。
 そしてそのターゲットは、もちろん闘悟達だ。
 このままでは直撃だ。
 だが、ローブの人物はガルーダの殺気を受け、腰を抜かしてしまう。
 体に力が入らず、微かに全身を震わせている。
 上級ほどの魔法を使った上に、これほどの殺意を受ければ心身ともに堪(たま)らず、立っているのもままならないだろう。
 闘悟はそれを見て、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、ローブの人物に向かって言う。


「そこを動くなよ」
「え? ア、アンタ、でも怪我……?」
「大丈夫」


 闘悟は向かって来る猛火を見つめる。
 そして、ニヤッとする。


「終わらせてやるぞ、鳥ぃ!」


 すると、闘悟は猛火の中に飛び込んでいった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧