ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲
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第壱話 《損傷した者》〜後編〜
前書き
前編からの続きです。
そちらを読んでからお読み下さい。
ついでに言うと、今回は終盤かなりグダグダです。申し訳ございません。
空を埋め尽くす文字列の一部から溶け出るように、真紅の粘つく液体がこぼれ落ちた。
但し地上に落下することはなく、液体は突如その姿巨大な紅のローブへと変え、虚空に静止した。
巨大なローブはゆったりとした動きで右袖を動かし、純白の手袋を覗かせた。同様に左手もゆるりと動かしてから、両の手袋を左右に広げた。
そして、低く落ち着いた声が、紡がれた。
「プレイヤーの諸君――――私の世界へ、ようこそ」
続けて、ローブは言葉を紡いでいく。
「私の名は、茅場晶彦。この世界をコントロールできる唯一の人間だ」
――――茅場、晶彦!?
シキは驚愕し、紅ローブに目が固定された。
シキは、いやこの場に居る者達は全員がその名前を知っている。
このゲーム、《ソードアート・オンライン》の開発ディレクターであり、《SAO》を動かすインターフェース、ナーヴギアの基礎設計者。
しかし、今彼が出てくるのはおかしい。
何故なら、茅場晶彦は今まで裏方に徹し、それがなくともメディアへの露出は極めて稀なのだ。
そんな彼が、何故今になって。
「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしこれは不具合などではない。これは、この《ソードアートオンライン》の本来の仕様である」
「し、仕様、だと……?」
赤髪の青年が乾いた声で呟いた。言い終わるか否かの内に、茅場は極めて事務的に続ける。
「諸君は今後、この城の頂に至るまで、ゲームから自発的にログアウトできない」
「(城だと……?)」
その言葉から疑問を抽出しかけたが、それよりも早く茅場は言葉を続ける。
「……尚、外部の人間の手によるナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ないと思い給え。もし、それが試みられた場合」
そこで、茅場は一度区切り、
「――――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる」
そう、感情の無い、まるでいたって普通のことを言っているかのように、淡々とゲームマスター、茅場晶彦は続けた。
「ふ、巫山戯るなっ……!」
拳を硬く握り、シンは呻いた。
脳を破壊する、だと…?
シキは冷静に、思考を停止させぬように熟考する。
「(茅場が嘘を言っている気配はない。それに、この場で嘘を吐く理由がない。つまり、外の誰かが俺の頭に装着されているナーヴギアを外せば、俺は死ぬ。というわけか。……しかし、ナーヴギアで本当にそんなことできるのか?)」
そこまで考えて、赤髪の青年が妙な動きをしていることに気付いた。
「は、はは……。何言ってんだアイツ……。そんなこと、できるはずがねえ。ナーヴギアは……ナーヴギアは、ただのゲーム機だろ? 脳味噌を破壊することなんて、できるはずがねえんだ。そうだろ、そうなんだよなキリト!?」
掠れた声で、赤髪の青年は叫ぶ。食い入るように見つめられた黒髪の青年、キリトは、しかし肯定も、かと言って否定もしなかった。
長い沈黙の後、キリトは口を開いた。
「…………原理的には、可能だ。でも、ハッタリだ。だって、いきなりナーヴギアの電源を落とせば、とてもじゃないが、そんな出力が出るはずない。大容量のバッテリーでも内蔵されてない……と……………」
キリトが絶句した理由を悟り、無意識の内にシキの口から乾いた笑みがこぼれた。
「内蔵、してるな。……はは、この為の内蔵バッテリーかよ……!」
茅場は皆の動揺などさておいて淡々と説明を再開する。
「更に具体的には、十分間の外部電源切断、二時間以上のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解、破壊の試みのいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は既に外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。……ちなみに、現時点でプレイヤーの家族友人等が警告を無視し、ナーヴギアの強制除装した例があり、その結果――――誠に残念ながら、二百三名のプレイヤーがこの城と現実世界から消失した」
どこかから、細い悲鳴が聞こえた。しかし、周囲の大多数のプレイヤーはその言葉を受け入れられないかのように放心したり、薄い笑みを浮かべたままだった。
シキの隣でキリトが数歩よろめき、よろめいた先にいたシンが受け止めた。赤髪の青年はと言うと、その場にドスンと尻餅をついて、
「信じねえ、信じねえぞ……」
などと嗄れた声をあげた。
「ただの脅しだろ。できるわきゃねえ。下らねえこと言ってないで、さっさとここから出せってんだ。いつまでもこんな茶番に付き合ってられるほど、こっちはヒマじゃねえんだ。イベントなんだろ、これは。オープニングの演出なんだろ。そんなんだろ」
赤髪の青年の言葉に、シキは何も言えなかった。
それは、この場にいる誰もが思っていることなのだろうし、真実を告げられるのは茅場だけなのだから。
「諸君が向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆる報道機関はこの状況を、多数の死者が出ていることも含めて繰り返し報道している。これによりナーヴギアが強引に外される可能性はほぼ皆無となった。今後、諸君の肉体はナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予の内に病院等に搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には安心してゲーム攻略に勤しんでもらいたい」
「なっ……………」
茅場がそこまで話した時、キリトが鋭い声を発した。
「ログアウト不可のこの状況で、ゲームを攻略しろだと!? こんなの、もうゲームじゃないだろうが!!」
茅場は、その声が聞こえたかのように、抑揚の薄い声で、しかしハッキリと告げる。
「しかし攻略には充分に留意してもらいたい。既にこの世界は諸君にとって現実世界と同様だ。……今後、このゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に」
シキは、否恐らくこの場の誰もが予想した答えを、茅場は紡いだ。
「諸君らの脳は、ナーヴギアにより破壊される」
この一言が、このゲーム《ソードアート・オンライン》がデスゲームとなった瞬間だった。
シキはその言葉を聞いた直後、シンとのデュエルでHPが失われた瞬間を幻視した。視界の左上にある青線に焦点を合わせる。そこには、143\342という数字が表示されていた。
「……馬鹿馬鹿しい」
キリトが低く呻いた。
キリトのそんな反応など知ったことではない、とでも言うように茅場は続ける。
「諸君がこのゲームから開放される条件は一つのみ。アインクラッド最上層、第百層にいる最終ボスの撃破。これのみだ」
しん、と一万のプレイヤー全員が沈黙した。
「百層だとぉ……!? できるわきゃねえだろ! ベータじゃろくに上れなかったって聞いたぞ!?」
赤髪の青年は喚き、右拳を空に突き上げた。
張り詰めた静寂が段々低いどよめきに支配されていく。
乾いた空気が湿った風を運んでくるような、そんな得体の知れない感覚がシキの脳内を埋める。
だが。
「(生憎と、俺はしぶといんでね。茅場晶彦、アンタに吠え面かかすまで俺は死なんぞ……!)」
シキに混乱は無かった。
不敵な笑みを浮かべ、紅ローブを睨み付けると茅場は感情の無い声で言った。
「それでは、諸君にとってここが唯一の現実であることを示そう。……アイテムストレージに、私からプレゼントを用意した。確認してくれ給え」
それを聞くとほぼ同時、シキはウインドウを呼び出した。周囲のプレイヤーも同様の行動を起こす。
出現したメインメニューからアイテム欄に移行し、所持品リストの一番上にそれがあった。
《手鏡》。
それがプレゼントらしかった。
疑問に思いながらも、シキは手鏡をオブジェクト化させた。キラキラという効果音と共に小さな四角い鏡が出現する。
手に取っても何も起こらず、覗きこんでも現実の顔と少し違うシキの顔が映るだけだ。
と、変化はいきなり始まった。
突然周りのプレイヤーが白い光に包まれたのだ。一拍遅れてシキの身体も光に包み込まれた。
ほんの二、三秒で光は収まった。
だが。
周りのプレイヤー達に変化が生じていた。
例えばキリトは線の細い顔の少年に成っていたし、赤髪の青年はどこか野武士にも似た顔へと変化していた。
シキやシンだって、細部まで現実の顔に変わっていた。
しかしシキ、そしてシンもそれだけの変化では無かった。
「うああぁっ……!」
いきなりシキの頭に鋭い痛みが走った。
「お、おい、あんた。大丈夫か!?」
キリトに似ても似つかない少年が、シキに駆け寄った。
「……あ、ああ。大丈夫……?」
うずくまっていたシキは、目を細めそのまま床を凝視した。
そこに、線が見えるのだ。
それも、一本ではない。複数の線が絡み合い、まるで子供の書いた落書きのようにグチャグチャだ。
顔を上げると、建物にも、植木にも、紅ローブにも、そしてキリトにも線が書かれていた。
「な、何だ、これは……!」
自分の手を見つめても、線は書かれていた。手鏡に映る自分の顔を見ても、やはり線は書かれている。
「……っああぁ!!」
痛みに耐えるように身をよじり、シンが咆哮をあげた。
「おい、シ……!?」
声を掛けようとして、驚愕した。
確かにそこにはシンが居る。居るのだが、その姿が奇妙なものに成っていた。
上半身の装備が消え去り、皮の靴に丈の短いパンツ。そして全身に黒い刺青が走り、それに沿って青緑の線が引かれていた。
「…………?」
手鏡を見つめ、シンはしばし呆然としていた。
シキは彼に駆け寄った。
「シン、お前、どうしたんだ!? その姿は」
「……分からない。頭痛がして、気付いたらこうなってた。……シキ、お前は何ともないか?」
「……強いて言うなら、線が見えるんだ。お前にも、キリトにも、全部に線が書かれてる」
「線?」
キリトが訊いてくる。
「あぁ。何だか知らないが、黒い線が見える。そこら辺の建物にも見えるし、床にも見える。これは、一体……?」
「…………以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
茅場が何やら言っていたらしく、そう言って、紅ローブは忽然と姿を消した。
空は元の澄んだ青を取り戻し、NPC達の陽気な演奏が遠くで流れている。
その下で、一万の人間が、騒ぎ出した。
悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。
様々な負の感情の伴った叫びが聞こえる。
「…………クライン、ちょっと来い」
「………………」
ボケっとしているクラインの腕を引き、キリトは足早に歩き出す。
「ほら、シキとシンも早くしろ」
キリトは振り向かないまま足を止めて言った。
二人は顔を見合わせて頷き、キリトに付いて行く。
狭い街路に停められた馬車の陰で止まった。
「……クライン」
真剣な声音のキリトに対し、クラインはまだ魂が抜けたような表情でいた。
「いいか、よく聞け。俺はすぐにこの街を出て、次の村に向かう。一緒に来い」
キリトの言葉に、クラインは眉をぴくりと動かした。
「細かい説明をする時間は無いし、何より面倒だ。でも、悪いことは言わない。俺と来い」
キリトの台詞にクラインはわずかに顔を歪めた。
「でもよ。前、言ったろ。俺、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでソフト買ったんだ。そいつらも、さっきの広場に居るはずなんだ。置いて、いけねんだ」
「……………」
キリトは息を詰め、唇を噛み締めた。
その様子を確認し、シキはキリトに話しかけた。
「……俺達は、悪いが行くよ。キリトの提案には乗れない。だって、キリトがベータテスターだろうが、俺達を守り通すのは無理だ。更に増えれば尚更、それは不可能になる。死人が出る可能性だってある」
だから、一緒には行けない。
最後にそう付け足して、シキは二人に背を向けた。シンもそれに付いて行く。
「お、おい。待ってくれ!」
そう呼び止めたのは、クラインだった。
「……何だ?」
「ここで会えたのも何かの縁だろ? フレンド登録しとかねえか? キリトも、いいだろ」
「……分かったよ」
キリトが頷いたのを確認し、二人はクラインとキリトにフレンドの申請を送った。
シンも同様の操作を行なっているのを見て、キリトに話しかけた。
「悪いな。お前の好意を踏みにじるような真似して」
「……気にするなよ。まぁ、シキの気持ちは正直有難いしな」
どこか寂しそうに言って、キリトはシキの目を見つめてきた。
「……それより、線が何なのか、分かったのか?」
「いや、分からない」
「スキル一覧とか、見てみたか?」
ウインドウを呼び出し、スキルのタブを押す。
すると現在習得しているスキルの最上部に何かがあった。
それは《直死の魔眼》と書かれている。
「? どうした?」
「いや、キリト、ちょっとこれを見てくれ」
シキはキリトに見えるように表示を変更し、キリトに近づく。
「…………何だ、これ。……確か、スキル詳細って見れるよな。見てみよう」
キリトがスキル詳細のタブを叩くと、更にウインドウが表示された。
ウインドウに書かれたスキルの詳細には、ただ一文、こうあった。
『あらゆるモノを「殺す」スキル』
「どういう……ことだ……?」
キリトは混乱の極み、とでも言うような表情で言った。
が、シキはすぐにウインドウを消した。
「あ、おいーーーー」
「ちゃんと分かったら今度会った時に伝えるよ。それまで死ぬなよ。じゃあな」
行こうシン、とシキは相方を促し、二人はキリト達とは反対方向の路地へと消えた。
○●◎
……くそ。そういうことか。この線は。
この線全部、殺すためのものだってのか。
…………クソッタレ。
後書き
斬鮫「私ってホントバカ……。どうも斬鮫です」
シキ「いきなりパロネタかよ」
斬鮫「気にしたら負けです」
シキ「しかし今回も遅れたな。何してた?」
斬鮫「今回は純粋に忙しかったのです。そして、ニーアのBGM聞きながら今回の話を書いてて普通に作業できませんでした」
シキ「……まぁ、ニーアのことはさておき、今回は許そう。リアルがマジで忙しかったしな」
斬鮫「……今回もお待たせして本当に申し訳ございません。さて、今回はようやくシキの紹介ですね。簡単にまとめるとこんな感じです」
PLネーム…シキ(Shiki)
身長…169cm 体重…57㎏
年齢…15歳(高校一年生)
性格…仲間思いで自分よりも周りのことを心配するが、明確な『敵』に対しては冷淡な性格になる
特有のバグスキル…《直死の魔眼》
備考…朴念仁
シキ「あぁ、本編でも描写があったが、《直死の魔眼》について簡単説明するとMOB、PC、NPC、オブジェクト、不死存在に至るまで、あらゆるモノを『殺せる』。という能力だと思ってくれればいい」
斬鮫「彼の目には、『線』が常に視えていて、線をなぞるかたちで斬ることで、あらゆるモノを『殺す』ことができるのです。チートでしょうか? いいえ誰でも」
シキ「……懐かしいな、そのネタ。まぁ、常に視えてるおかげでデュエルの時でも、『殺し』ちまうんだが」
斬鮫「そのせいでまともにデュエル出来ないのです。後、デメリットとしてソードスキルが使えません」
シキ「こんな所だな。ま、性格とか諸々原作と違うが許してくれよ? 元々これはSAOの二次創作だからな。月姫やメルブラの再現をするつもりは一切合切ないからな」
斬鮫「ちなみに、序章でも言ったような気がしますが、元ネタは月姫及びメルブラの『七夜志貴』と『遠野志貴』です。知りたい人は先述した名前でググってみて下さい」
シキ「ググった結果、『じゃあ《弾かれ者》のコイツは何なの?』ってなっても責任は持てんぞ? 全ては発想力の無い斬鮫が悪いのだから」
斬鮫「そのことについては、悪いね☆」
シキ「…………。これが、モノを殺すっていうことだ……!」
斬鮫「それ貴方の台詞じゃ……アッー!」
シキ「……さて、静かになった所で謝辞を述べようかね。まずはここまで読んでくれた皆様、大変有り難う御座います。第壱話はこれにて終了で御座います。お疲れ様でした。感想を書いて下さった牙桜さんには感謝を。斬鮫の気紛れで始まった本作ですが、皆様の応援のお陰で続けることができます。では皆様、次回まで、御機嫌よう」
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