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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第四十九話 さすがはマスターの後押し

 そう答えたのはアンシーだ。
 その声は驚きに満ちていた。
 ジュネイは静かに視線を紙に落としている。


「何か問題でも?」


 闘悟は首を傾げる。
 するとジュネイが闘悟に聞く。


「理由は?」
「ミラニに聞いたからですね。それに面白そうだ」


 闘悟がニッと笑う。
 それを見たジュネイは「ふむ」と頷く。


(ほぅ、この依頼を面白そうと言うのかい……)


 ジュネイは心の中で闘悟の評価がまた上がる。
 もちろん変な奴という評価がだ。


「あ、あのですね、この依頼は……」
「いいよ」
「え?」


 アンシーが驚いたのも無理は無かった。
 何せ、許可を与えたのがジュネイだったからだ。


「まあ、お前さんなら問題無いだろうね」


 そう言って、紙をアンシーに手渡す。
 受付の処理をしろと言っているのだ。
 しかし、アンシーにも言いたいことはある。


「あ、あのおばあちゃん?」
「ここじゃ、マスターと呼びな!」


 活(かつ)を入れられたアンシーがビクッとなる。
 そのやり取りで、鋭い闘悟は情報を得た。
 どうやら、アンシーとジュネイは、ただの受付嬢とマスターという間柄ではない。
 それによく観察してみれば、金髪のアンシーとは違い、ジュネイの髪は、歳のせいか白髪だが、瞳の色はアンシーと同じく金色をしている。
 恐らく若い頃は、アンシーと同様に、綺麗な金髪を有していたに違いない。
 それに、どことなく顔立ちも似ている。
 家族かなと闘悟は考えるが、それを聞くのは止める。
 そこまで立ち入るような間柄でもないからだ。
 必要があれば、向こうから教えてくれるはずだ。
 そう考えて、闘悟は二人を見守る。


「マ、マスター、でもこの依頼はちょっと……」
「何がちょっとなんだい?」


 アンシーはジュネイに見せつけるように紙を広げる。


【依頼ランク C 『アクォース山』での魔物調査。数日前、巨大な謎の生物を見たという情報があった。その情報の真偽、及び真実なら魔物の正体を調査してもらいたい。 報酬 金貨三枚 状況により増】


 依頼の用紙にはそう書かれてある。


「それがどうしたんだい?」
「それがどうしたんだいじゃありません! トーゴさんは、今日登録した初心者ですよ! ランクももちろんFです! そんな人に、Cランクの依頼なんて危険過ぎます!」


 早口で捲(まく)し立てるように言う。


「……危険かい?」
「大丈夫ですよ?」


 ジュネイと闘悟のやり取りを見てアンシーはポカンとする。
 そして、今度は闘悟の方に顔を向ける。


「ちょ、ちょっとあなた! いいですか! ランクというのは、その危険度や難易度で決められているんです! 普通Cランクの依頼は、Cランクの登録者達が数人でこなすような仕事なんです!」
「はあ、そうなんですか?」
「そうなんです! しかもあなたはまだFランクですよ? しかも一人です! これが何を意味してるか分かりますか?」
「何ですか?」
「無謀だってことです!」


 アンシーは顔がくっつくくらい詰め寄ってくる。
 闘悟は後ずさりしながら話を聞いている。


「ん~そうなんですか? でもきっと大丈夫ですよ?」
「根拠は何ですか根拠は?」


 アンシーは、周りが自分達に注目していることに気づいてはいない。
 大きな声を出してしまっている自分が、その中心になっていることも知らない。
 闘悟はどうやって説明したものかなと思っていると、ジュネイが口を開く。


「アンシー、お前、マスターの決めたことに口を出すつもりかい?」
「うっ……」


 鋭い目つきでアンシーを睨むと、その胆力のせいで気圧(けお)される。


「……分かりましたよもう……どうなっても知りませんからね……」


 観念したように肩を落とす。
 その様子を見てジュネイはニヤッとする。


「ということだよ。お前さんは今から行くのかい?」


 闘悟の方を見る。


「はい」
「しっかり支度して行くんだね。幾らお前さんでも、気を抜いてると痛い目見るよ?」
「肝に銘じておきますよ」


 すると、ジュネイは視線を逸らし、何か思い出したように声を出す。


「そう言えば、さっきあのボックの子分達と話をしてたみたいだけど、何を話してたんだい?」


 へぇ、あの大男、ボックって言うのか。
 あ、そういや、アイツらの名前も知らねえや。
 子分達のことを思い、しまったと心で呟く。
 まあ、ガリとブーでいいか。
 ジュネイが闘悟の返事を待っているので、返答をする。


「少しアイツらにやってもらいたいことがあったんですよ」
「やってもらいたいこと? 何だい?」
「ん~それは……今は秘密ということで」
「……」
「心配しなくても、ギルドには迷惑かけないですよ。ギルドに関することじゃないですしね」
「……そうかい」


 ジュネイは内心釈然(しゃくぜん)としないが、闘悟が話す意思が無いと感じたので、諦めてまた二階に戻って行った。


「そんじゃ、オレも行くかな」


 闘悟が気合を入れると、アンシーが声を掛けてきた。


「あ、あの! 本当に行くんですか?」


 はぁ~心配性もクィルで慣れてるつもりだけど、ここまで引っ張られると面倒になるな。


「とにかく、一度行ってみます。駄目だと思ったら即帰って来るんで」


 そう言われれば、もう何も言えないように黙ってしまう。
 闘悟はその場にいた全ての人物の視線を受けてギルドから出る。

 
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