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サキュとやっちゃいます!! 三人が繰り広げるハートフルな毎日。 聖道のハートフルボッコな現実。

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ホルモンでキャンプ!!さぁ、マミってこーぜ!!

夕飯の時に、妹がホルモンを焼きはじめた。


「ほらほらリッたん。ホルモンだよ~」


ホルモンがなかなか美味そうな匂いで焼肉様のプレートの上を踊っている。


「たっ……聖道、これがホルモンと言う食べ物なのか?」


「あぁ、そうだが」


リッチは飽きもせずに目をキラキラさせてずっと眺めている。


「生で食えないのか?」


「腹壊すぞ」


早く食べたそうにモジモジしながら、涎を拭っている。

そして、焼き上がったホルモンを取り皿に入れてやると、箸でつまみ上げてまじまじと眺めている。

鼻の手前までホルモンを持ち上げると匂いを嗅ぎはじめた。


「うむ、良い臓物の匂いだ」


その表現をされたら美味い物がまずくなるからやめろ。


「あら、リッたん。日本語上手ね」


「んを!?」


俺はついつい変な声を上げた。

そして、リッチにヒソヒソ話を持ち掛けた。


「ど~ゆ~事だ」


「お前の妹は私の親族だ。言葉が通じて普通なのだよ」


「悪魔は何でもアリなのな」

「まぁ、妹は悪い様にはせん。あだ名の件も甘んじて受け入れよう」


そう、あの後で俺とリッチは婚姻届をだしたのだ。

勢いに任せた結果、俺はコイツと晴れて夫婦になった。

全然晴れてない。むしろ台風だ。カラミティーだ。


「で、だな。俺にはどういう特権が着いて来る?」


「ん? 私だが? 不満か?」


殺意を少し覚えるのは夫婦として理不尽なのだろうか。

「お兄ちゃん。ボサッとしてたらホルモン焦げるよ」


「ん、ああ。わりぃ」


しかし久しぶりに食うとなかなか美味いな。

無駄に口の中に広がる油っこさがたまらん。

「ふ~っ。たくさん食べたよね。私お腹いっぱいだよ~」


焼いてばかりで全く食べてないのに、お腹がいっぱいになってる妹が可愛い過ぎる。

「そろそろ風呂だな。誰から入る?」


「ねぇねぇリッたん。お背中流しあいっこしようよ」


「うむ、かまわんぞ」


「やったやった~。じゃ、お兄ちゃんは洗い物よろしく」


「へいへい」


俺は流しにプレートを持って行き、食器類を洗い始めた。

二人はバスタオルとパジャマを持って洗面所に向かって行った。


「ねぇ、リッたんって可愛いよね」


「あ、えっと、ありがとう」


「お肌スベスベしてて気持ち良いし」

ちょっと待て!! 何だよ!! 俺最近やたら耳良くないか?

なんで風呂場の話し声がここまで聞こえるんだ?


しかも何か体も丈夫だしさ!! 昼間フェンスぶっ壊したし!!


「リッたんって、やっぱりお兄ちゃんが好きだから結婚したんだよね?」


「ちょちょちょ!! 行きなり何聞いてんのかしらこの子」


リッチの声が明らかに動揺している。

うむ、コチラとしてもあからさまに動揺されたら悪い気はしないもんだな。


「ねぇ、教えてよ~」


良いぞ妹っ!! もっと攻めるんだ。


「ししし知らん!! もうこの話しは終わりだ」


「え~っ!! つまんな~い!! リッた~ん、教えてよリッた~ん」


「まぁ、嫌いじゃ……無い」


「あら、リッたん。顔赤いよ~」


嫌いじゃ無い……か、夫婦とは言えなったばかりだしな。

ってか!! 別に俺だって好きじゃねぇよ!!


「お兄ちゃ~ん。お風呂空いたよ~」


妹よ、お前まだ着替えてるだろうがっ!!

それもリッチと仲良くなっ!!

それともあれかラッキースケベタイムかこのやろー!!

いや……ここでラッキースケベタイム入ったら、絶対に魅了の餌食だろ~がっ!!

学校の奴ら見たいにサッキュサキュにされる!!


「あ……俺には魅了、聞いてないんじゃ無いか?」


そうだ!! むしろ俺はそんなにあいつが好きなわけでも無い。

まだ友達のレベルにも達して無いわけだしさ。

何だよ!! また謎が増えたじゃ無いか。

べ……別に好きじゃ無いんだからね!! とか解り易いツンデレじゃ無いからな!!

いいな!! 絶対に違うぞ!!

勘違いすんなよな!!


(と言うツンデレ……?)


「違ぁぁあああうっ!!」


「もうお兄ちゃん。うるさいよ」


風呂上がりの妹がバスタオル一枚で注意しに来た。

これが妹で無ければ叱り付けるところだが……むしろGJ(グッジョブ)だ。


「あ、いや。今自分と戦ってたんだ」


「ふーん。まぁいいや。お風呂入ってね」


とりあえず、何か体力使ったし。

風呂入って寝るか……。

あいつはきっと疫病神に違いない。

何で咲智はあんなに嬉しそうなんだ?

昨日から家で無駄にテンション高いからこっちも疲れる。

明日も学校だし風呂上がったらすぐに寝る。

絶対にあの二人の相手なんかしないぞ。

(と言うフラグ……?)


「だから違ぁぁぁああうっ!!」


「もうお兄ちゃん。うるさいよ」


妹が風呂のドアを開けて注意しに来た。


「悪い……悪魔と戦ってるんだ……俺」


しかし妹よ、兄の風呂など覗くもんじゃ無いぞ。

誰得のラッキースケベだ?

想像する方は誰も得しない。

後な、妹よ!! お前達の風呂も大概賑やかだったって!!


「はぁ、疲れた」


風呂から上がると結局二人の相手をすることになった。


「あ、お兄ちゃん達、今日は初夜だよね」


妹が嬉しそうに、むしろやらしい顔で聞いて来た。


「無駄に嬉しそうだな」


妹は思春期なのかも知れない。


「聖道。期待し過ぎるな。何も出んぞ」


「と言うツンデレか?」


リッチが左右の人差し指を、俺の両目スレスレに翳す。と言うか爪は当たってる。


「さぁ、どっちらだ?」


「どっちも嫌だ」


「どっちも嫌って事は、どっちも……だな」

なんすか、その犬歯むき出しの満面の笑み。

「ぬぁぁあああ!!」

「アホの聖道め」


「お兄ちゃん達仲良しだね」


「お前に今度、眼鏡を買ってやる」


コレが仲睦まじい夫婦のやり取りに見えたら確実に目の病気か目が悪過ぎだ。


「わぁ~、最近視力落ちたみたいだからよかったぁ~」


ちなみに妹よ。さっきの心の声は口実だ。

眼鏡と言う兄の性癖も受け入れろ。

「あ、そういえばリッチ。お前ってさ。ここに来るまで何処にいた?」


「パンデモニウムだ」


「パイでも揉んでむにゅ~? なにそれ?」


妹よ、それはあれか!! パイでフランクフルトを挟むあれか!!


「リッチよ。それは大層気持ち良さそうな場所だな」


「本気で殺すぞ」


「え~っと、リッたんの故郷は大層気持ちが良いの?」


「あぁ、リッたんのそれは大層気持ちが良いんだよ」


そして俺は自分の腸を全て下腹部から引きずり出された。アナザーなら死んでる。

「リ゙ッだ~ん、あ゙の゙ね゙、ぼのずごぐい゙だい゙よ」


「黙れ、これくらいじゃ死なんから安心しろ、それに開いた腹もすぐにくっつく」


「ぢょ゙っ゙ど……マ゙ジい゙だい゙」


引きずり出された腸を今度は無理矢理、在った場所に押し込んだ。


「ぐぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」


「よろこべ一カ所だけ、蝶々結びにしといたぞ」


鬼だ……コイツは間違い無く鬼だ。


「リッたんは、手品も上手いんだね~」


「リッたんは最高の手品師なんだよ。ネットで調べてみなさい」


「うん、明日ググってみるね」


妹よ、どうせお前は忘れるんだろ?

だがそこが可愛い。

って!! 知らないと思ったら意味知ってやがったか!!


「あっ、リッたんお兄ちゃん。もうこんな時間だわ~。寝ないと~」


「何故そんな棒読みなんだよ!! おい!!」


しかも吹けない口笛白々しく吹いてる。

なんだなんだ!! あのやましい目つきは!!

妹よ!! お前もきっちり保険体育受けてんのな!! ちょっと幻滅したわっ!!


「で、今日の夜二人でいったい何するの?」


「何もしね~よ」


「そうだな。それに話しもある。大人の話しだ」


「何かやましいな!! お前もノッかんな」


「狭いベッドに二人だと、ベッドに入るなり何やら別の物が入っちゃったりして……しっぽりムフフ」


「ねぇからッ!! てかオッサンみたいな事言うなッ!!」


この絶倫ピンクめッ!!

そんなこんなで妹だけを自室に帰し、リッチと二人で部屋に戻った。


「で、話しってなんだ?」


「うむ。それなのだが、何故俺だけ? みたいな事が多いだろう?」


「あぁ、沢山あり過ぎて何が何だか」


「日の光についてだがな、アンデットと言う生き物はな。心の一部が自分の物で無かったり、心自体を持ち合わせていない生き物なのだよ」


「何かややこいな」


「大変にな、つまりお前の心の阿羅耶識、潜在意識に私は住み着いた」

「で、俺はお前がいない時は人じゃ無くなるんだな? だから太陽の下をお前無しでは生きれ無いわけか」


「そうなる。そして魅了についてだが、お前は普段から自分を意識して好きか?」


「いや、全く意識なんかしないな」


「そうであろう。私はお前の一部だ。だからお前がナルシストでも無い限り私を好きにはならないのだ。魅了が効くのはだね。私が取り付いた人間以外の人間だけなのだ」


「ふ~ん、じゃあ一生魅了は効かないのな~。それにナルシストって柄でも無いぞ」


「ふっ」


「なんかしんき臭ぇ顔してんぞ」


「うむ、それにだ。今まで私が愛を唱えてやった人間は皆私を嫌って行った」


「あ~なんだ。でもそれってさ。何か変じゃ無いか?」


「どうしてだ?」


「だってさ。それって自分を嫌いって事にならないか?」


「そうだ。人間は自分の潜在意識と言う醜い物に蓋をしたがる生き物だからな」


「まぁ俺も確かにお前に不快感を通り越した殺意が生まれる時もある」

「そうであろう。それこそが人げ――」


「嘘だって、別に構わないさ。そんな難しい理屈とかど~でも良かったりするぞ」


「まぁ、落ち着いて最後まで私話しをき――」


「あ~、はいはい。お前が居て俺が居て妹が居たらそれで良い、これからはそれが我が家の普通になるんだ」


「何をばかな事を、おま――」


「ちょっとうるさいぞ。もうそれで良いんだよ」


「後悔は無いのか?」


「いや~ほら、俺がお前の一部である様に、お前も俺の一部だ。仲良くやろうぜ」

そして俺は早々と眠りについた。


「聖道、お前は私の一部じゃない」


「全てなのだよ」


何事も無い様に夜が深まって行く。


床にお客用の布団を敷いて眠る聖道を、一度リッチはベッドから確認すると自分も眠りについたのだった。

次の日。


太陽が真上に上がっていた。

時計は恐らく午前3時を刺している。

止まったまま動く気配はまるでない。

と言うと、つまりは寝過ごしたが正解。


「なんで誰も居ないんだよっ!!」


「聖道。私がおるぞ」


「ってか何お前も呑気に寝てんだよ」


「いや、学校にあまり興味ないからな」


「いや!! 登校しないとダメだ!! 単位が足らん」


「何とかなる。お前は私を遠ざけない限り無限に生きるのだ。単位など来年取れば良かろ?」


「あ……それ、いいな」


「良くないよ!! 遅刻だよ!! 起きてよ早く!!」


妹が部屋に押し入って来た。

またノックの一つもしないで……。


「おい!! お前もか!! 昨日あんなに早く部屋に戻ったじゃ無いか」


「うん……ググってたッ!!」


なにそのみなぎる達成感は!! 休みの前の日にしなさいっ!!

三人揃って慌てて制服に着替えて、部屋を飛び出し玄関までの距離を競い合う。


「ちょ!! 三人いっぺんで横並びに、この階段はキツイだろっ!!」


階段の狭い入口で三人が挟まった。


「だったらお前が退かんか!!」


「お兄ちゃん。体が挟まって抜け無いよ」


ぬを!! 二人の胸の感触が……柔らかい。


「俺ヒスる人じゃ無くて良かった」


「お兄ちゃん何言ってんの?」


「気にするな。それより体制がまずい」


「そうだな。後で風穴だぞエロ道」


「理不尽だ。不可抗力だ。と言うか連帯責任だろっ!!」


「お兄ちゃん。何か……何かね。お尻に固い物が当たってるんだけど」


「ごめんよ。兄ちゃんな……キャンプ中なんだ」


「も~、お兄ちゃんたら寝ぼけてるの!?」


「エロ道、後で殺す」


「ちょっとまて!! 俺は男だ!! 摂理だ!! 不可抗力だ!! 連帯責任だ!!」



すごい音と共に三人は階段から転げ落ちた。


「お兄ちゃん、まだ何か固い物がね。股に当たってるんだけど」


「そうだよ。まだお兄ちゃん……キャンプ中なんだ」


「も~、まだ寝ぼけてるの!?」


「なるほどな。今からキャンプファイヤーは無理だが、血祭りでも始めるか」


リッチが翳す目の前の指は、高速回転するチェーンソーの様な音で下半身に迫って来る。


「洒落にならんよ♪リッたん♪」


「だってね♪洒落じゃ無いよ♪」


「いやぁぁぁああああん♪」


肉を削る音を立てながら喘ぐ様な俺の悲鳴がこの一軒家に轟いた。


「去勢しといたからな」


リッチの手には尿道と膀胱の境目ぎりぎりまでのアレとゴールデンボールが握られていた。


「切ったのね!! 私の棒と玉を切ったのね!!」


「ふん、ゴミ箱に捨てといてやる」

「済みません。土下座でも何でもしますから帰して下さい」


「仕方ないのぉ。ふんっ!!」


「いやぁああああん!!」


さっきの5割増しで情けない声を上げる。


「もう嫁げない……」


「黙れエロ道」


「さっきから二人は何してるの?」


妹よ!! これだけの惨劇を止めもしないで今まで何してたっ!!


「うむ、これはな。私の国の愛情表現だ」


「愛憎表現の間違いじゃ無いのか? このドツンデレめ!!」


「次は心臓引っこ抜くぞ」


「全力で土下座しますはいっ!!」


「遊んで無いで学校まで走るよ」


妹よ!! 前から気になってたけどお前は都合良く脳内補正でもできるのかっ!!

もしくは全てを受け入れるのか!?

「ん? どうしたの? お兄ちゃん」


「菩薩様や……後光がさしとる」


やはりお前は受け入れてるんだな、この酷い日常を本当の日常にする為に!!

まぁいい、今は学校に向かうのが最優先だ。

慌ただしく走る俺たちは夏の暑さも返り見ず、通学路を疾走して行くのだった。

「間に合って~!!」


妹よ!! 貴様は家で何の為に時計を見た!! もう遅刻だよ遅刻っ!!


「聖道、暑いぞ。何とかしろ」


「無理だ。無茶苦茶な事ばかり言うな」


この曲がり角を曲がると学校に一直線。


この曲がり角を曲がった瞬間にッ!!


何か大きな入口の様な口があったので立ち止まり、見上げて見た。


なんだ? 目もある。やっぱりこれは口だ。

しかも体も足もあるっぽいぞ。

おまけに両目が俺を見てるし。

親切に牙を剥きだして獲物を待っているのだろう。


「ふっ、馬鹿なやつだなおま――」


不意に予期せぬ衝撃を受ける。


「痛っ!! 何をしとるのじゃ!!」


「ぎゃあああ!!」


リッチが玉突きを起こした。

しかし入口の様な大きな口の前ギリギリで俺は何とか踏ん張る。


「お兄ちゃん達早いよ~」


曲がり角の見通しは悪い。

このままだと嫌な予感しかしない。

妹だ!! 妹まで玉突きを起こしたなら、俺は間違い無く、入口の様に見えるこの大きな口の親切な牙の餌食になる!!


「咲智っ!! 決して曲がり角を曲がるな!!」

大声で咲智に呼び掛ける。


「え~何で!?」


そして咲智は曲がり角に差し掛かる。


「何でもだ」


今、俺はバランスを崩している。

そんな折にもう一度、背中に衝撃が走った。

最後に聞こえたのはリッチの「あっ……」だった。


ドンッ!! ガシュ!!


「マミったぁぁあああ!! 俺マミったぁぁあああ!!」


「も~リッたん、お兄ちゃん。危ないよ~」

めちゃくちゃ血出てるぅー!!

危ないのはお前だッ!!

口を酸っぱくして言った言葉をスルーした奴の台詞だと思え無いッ!!

しかし、噛まれると解っていたにせよ状況が悪かったんだ。

そう思いたい。

こうなった今としてはマミの気持ちが良く解る。

痛かったとか苦しかったとかそんなんじゃ無い。

在りのままを恨む事もせず、ただ受け入れたに違いない。

尚も俺の頭を加えた大きな口のモンスターが、頭と体を引きはがすために首をガンガン左右に振る。


「あら、おっきなワンちゃんが、お兄ちゃんと遊んでる」


「うむ、かわいいな」


「ね~っ♪」
「ね~っ♪」


和むな助けろ!! 全力で助けろ!!


「あのね、リッたん……めちゃくちゃ痛いんだよ」


「うむ、見れば解る」


リッチの目がいきなり淡く光ると、大きな犬は大人しくなる。

そして俺の頭を口から体ごと吐き捨てた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」


「咲智よ。これでもお前は受け入れるのか?」


「ん? 何が?」


また妹の背後に後光が刺してる。

受け入れるんだな……もう何も言うまい。

だかな妹よ。血みどろの兄を心配くらいしてくれないか?

この悲しい現実を俺も受け入れるべきなのか……。


「お前は、モン太じゃないか」


リッチが犬の鼻を撫で始めた。


「なんだ? お前のペットか?」


「うむ、私のペットである」


「こんな危険なもん街中で放し飼いにするな!!」


「まぁ落ち着け、手なずけ方にコツがあってな」


「どんなコツだよ!! こんなデカいのがそもそもお前の言う事なんか聞くのか?」


「覇王の血の命ずるままに、伏せっ!!」


大きな犬はクンクン鼻を鳴らしながら尻尾をふって伏せをした。

「伏せった!! このバカ犬伏せった!!」


ザクッ!! と頭蓋骨をかみしだかれる。


「気をつけろ。言葉が解るからな」


「あら、お兄ちゃん。今日は良くマミる日だね」


妹よ。そのフレーズを何処で覚えたんだ。やはりあの血だまりスケッチなるアニメか!! 兄に似て意外にお前もヲタクなんだな……。


「とか言う前にだな!! お前達俺を助けろ!!」


「一度助けたじゃ無いか」


「何度も助けろ!!」


「おいモン太、伏せだ」


また犬は体ごと頭を吐き捨て、伏せをした。


「お兄ちゃん大丈夫?」


「これが大丈夫に見えるか?」


「うん、お兄ちゃんは私を残して死なないって約束したもんね」


「いきなりその話しか!!」


「えへへっ」


「何の話しだ?」


「いーや、何でも無い」


「妹と、どぅえきとぅぇる~」


「お前はあのツンデレ声優か!!」


「失礼しました。殿、お仕置きですか?」


「ちくしょ~首無しの運び屋でもやってろ!!」


「モン太、首無しライダーになりたいそうだ」


「お前もヲタクかぁああああ!!」

噛みしだく音がただ、蝉の鳴く中で違和感を発しながら小さな音で聞こえる。


「いやぁぁああああ!! 助けて~!!」


「モン太、遊びが過ぎるぞ」


「今、命令したのはお前だろっ!!」


「お兄ちゃん、今日は絶好のマミり日和よりだね」


そうだ、これからこんな事が当たり前に続くんだ。耐えろ!! 耐えるんだ!!


「なぁ聖道。学校から学生が出て来るぞ」


「あ……、短縮授業で今日は昼までだ……」


「わぁーお兄ちゃん!! どうしよう!! みんな帰り始めたよ」


妹よ!! 今リッチがそう言ってただろっ!!

そんな妹が……可愛くて仕方ないぜチキショー!!

「夏休みは補習確定か……」


「あはは、そうだねお兄ちゃん」


「うむ、元気を出すが良い。今日は家に帰ったら私が、手によりをかけてご飯を作ってやる」


「マジか!! お前料理出来るのか!?」


「わぁーい、リッたんの手料理」


「あ、モン太。お前はとりあえず家に帰れ」

「んも~」と牛の様な鳴き声をあげて走り去って行く。


「あれ、人を襲うんじゃ無いのか?」


ニヤニヤとごまかすリッチ。


「襲うのか?」


「あぁ、主食だ」


「まずい……だろ」


「それがなかなか美味いらしいぞ」


「そっちの意味じゃね~よ!! ちっとは察しろや!!」


「お前を食わせても良いのだぞ」


「済みません……勘弁して下さい」

「まぁ何はともあれ家まで競走だ」


「オッケー!! 私勝っちゃうからね!!」


「ふん!! さっき見ただろ? 俺って足だけは早いんだぞ」


「じゃ、お先」


リッチが抜け駆けする様に走り始めた。

だがどちらも俺の敵じゃ無いな。

一直線を走り抜けてさっきのカーブを難無く曲がる。

家の屋根が見えて来た。


「もらった!! 一番のりは――」


鍵のかかっていないドアを開け中になだれ込んだ瞬間にッ!!


「マミったぁああああ!!」


玄関を開けたら、親切な牙に噛みしだかれた。

妹の言う通り今日は絶好のマミり日和だ……。


「うむ、オチが見え見えだったな」


「でもやっぱりワンちゃんかわいいよワンちゃん」


妹よ和むな!! せめて哀れめ!!

あぁ……今日もいい天気だ。 
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