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サキュとやっちゃいます!! 三人が繰り広げるハートフルな毎日。 聖道のハートフルボッコな現実。

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プロローグ

 
前書き
移転してきました~。 

 
ひたすら人気を探して薄暗い夜道をひた走しる。

足が動く限り逃げようとした。

見知らぬそれは、逃げ惑う俺を軽く悪戯する様に楽しみながら追ってくる。

ジワリジワリと距離を詰められるのが気配で伝わって来る。

この恐怖は俺をどうにかしてしまうんじゃ無かろうか。

あの時はマジでそう思った。

そして力尽き、地面に惰性で転ぶ。

体に出来た擦り傷の痛みより恐怖が勝り、息を整える事すら覚束ない。

自分の平常心の崩壊を感じながら、倒れたまま恐怖にグッと目を伏せる。

生温く柔らかい何かが首筋を伝う。

ピタリと止まった場所から今度はそこの肉に、小さく鋭い突起物が二つ食い込んだ。

肉が剥がれてしまいそうな激痛の後だった。

ゆっくりと感覚が麻痺し、患部がほんのりと温まった。

小さく鋭い突起物の持ち主が甘い吐息を漏らすと、そこから一気に快感が伝い走った。

痛いとはもう、到底思え無い程の快感が一気に押し寄せる。

思わず声を漏らしかけてしまい奥歯を固く噛み締めた。

しかしなおも首の肉に吸い付いて血を啜る様な音を立て初める。


「一乗寺聖道(イチジョウジタカミチ)。ねぇ聖道。あなたを愛してる」


俺の名前を呼ぶ甘い声の主の姿も解らぬまま、意識は快楽の中で途絶えて行った。


明くる日に目を覚ますと、そこが近所にある狭い路地だと解った。

良く行く定食屋の裏口が見えたからだ。

そして転んで打ち付けたはずで、痛いはずの体がやけに軽い。

思い出した様に擦りむいた場所を見ると怪我が無い事に気がついた。


(あれは夢……なのか?)


一度首を傾げてから起き上がりグッと伸びると首筋に違和感があった。

指でなぞって見ると虫刺されの様な斑点が二個並んでいた。

ボリボリかくと少し痒い。

日がまだ登っていないせいか空は薄暗い。

それに夏のジットリとした感じと良い妙に俺好みだった。

コレまで薄暗くジットリした場所が俺好みなんて思う事も無かったし、何よりそんな根暗だと自分で気付いて少しショックを受ける。

何となくその場を跡にして、家に帰ると妹が朝から弁当と朝食の支度をしていた。


「あっ!! お兄ちゃん朝帰りだね!! ご飯作ったけど食べる?」


「ん、ああ……食う」


今日は日曜日だから休みなはずだけど妹はいつもの如く、朝練から夕方までのクラブ活動に向かう準備の最中だった。

このジットリとくそ熱い真夏に良く運動なんて好き好んでやれるもんだと感心する。

「朝練辛くないのか?」


「辛いよ~。それでもね。これで私は高校に行けたから……」


妹は本当に真面目だ。

反面教師が目の前にいるからだろう……納得出来る。

エプロンを外して妹がこちらに座り朝食を食べはじめた。


「今日は晩御飯何にする?」


「え、何でも良いけど」


「そんな事言ってまた文句言うんでしょ」


「解った解った。じゃあカレーで良いよ。カレーカレー」


妹は適当な返答にムスッとしてなかなかコーヒーを出そうとしない。


「あ~咲智のカレーを死ぬほど貪りたい」


「今日は晩御飯も朝のコーヒーも無しっ!!」

朝食を食べる咲智をおちょくるのが俺の日課だが、実はミス高城高校である妹は俺の密かな自慢だったりする。

彼氏なんか出来た日には杭で体をぶち抜いて晒し首にしてやる。

こんな狂暴な思考すら今まで俺の頭に浮かんだ事は無かった。


「ねぇ、お兄ちゃん。さっきからボーッとしてるけど疲れた?」


さりげなくコーヒーが俺の前に置かれる。

「咲智は最近どうだ?」


「う~ん、普通だよ。普通~」


勢い良くご飯を全て平らげると、咲智は弁当をカバンにしまい込む。


「じゃあお兄ちゃん、お片付けと洗濯物の取り込みよろしくね」


玄関にあるテニスのラケットを持って元気良く出て行く。


「じゃあ行ってきま~す」


「ああ、頑張ってな」

最近、と言うより今日の朝から体が逆の意味でどうかしてる。

今朝起きた時に昔の古傷も、無かった様に肩があげれて思いっきり伸びが出来た。

古傷とは言え肩が今まで上がらなかった事さえ反対に違和感を感じる。

痛みが麻痺してるとか言った感覚なのだろうか。

俺は頬を抓ってみた。


「いて……」


やはり痛かった。

太陽が昇り始める。

今日は晴れ、空が晴れてたら何か億劫な気分だ。

日が当たると少し皮膚がチクチクする。


「今日は日差しがキツイのか?」


テレビをつけて天気予報を見てもコレと言って何も変わった情報は無い。

気象衛星もあてにならんな。

バシバシと予報をはずして来るし、今日は昼から雨とか言ってたくせに、まさかの日本晴れ。

降水確率0%。

本能的に日差しに危機を感じて洗濯物をそそくさとしまい込んだ。

少しの紫外線でこんなに肌が赤くなるとは、夏の太陽恐るべし。

ヒリヒリと痛む場所に日焼け後のケアクリームを塗るとひんやり気持ちいい。


あまりの気持ち良さに「はぁ~」と思わずため息を吐いてから2階に上がり一番奥の、自分の部屋のドアを開けた。

中の空気があまりに生温い為、冷房をガンガンにつけて見た。

部屋が一瞬で涼しくなって来た。

午前8時50分、やっと安眠出来る。

やるべき事をダラダラとやって退けたらいつもより一時間長くかかった。

2階の一番奥の日当たり最高な俺の部屋。

なのに、なのにだね。日が当たれば当たる程沸いて来るこの苛立ちは何だ!?

日光は俺を殺す気か!?

ただの被害妄想だと信じて、毎日太陽の光を目一杯浴びたお日様の匂いのする布団になだれ込む!!


そして「う゛ぇぇええ」えづいた。


「っんだよコンチキショー!!」

体が確実におかしい。

昨日の出来事が既におかしいのだから、別に不思議じゃなかった。

得体の知れない感染病か何かだろうか?

少し不安ながらも丁度日影になる固いフローリングに大の字になって、やっと眠りについた。

夕日が眩しくて妹が帰って来たのかいつもの様に換気扇が回る音が聞こえて来た。

午後6時50分


(そろそろ夕飯か……)

今日は確かカレーライスのはずだけど、何か肉を焼く匂いがする。

涎が垂れるほど匂いに釣られ、階段を降りてキッチンに行く。


「あっ、お兄ちゃん。お客さんだよ」


見知らぬ女子、妹とさほど変わらない年齢に見える女子。

「これが、客なのか……」


「うん、そうみたい。片言でお兄ちゃんの名前ばかり呼ぶから連れて来た」


ルックス的に多分外人さん。

そしてこんな奴は知らん。

そしてこのひょうげた御召し物は何でしょう。

時代錯誤過ぎるゴシックな服を平然と着こなしていて、何より似合っている。

一方の咲智も咲智で部活帰りのテニスウェアに、エプロンと言う新しいマニア枠を開拓出来そうな格好だった。



(けしからん!! 咲智っ!! 今日は一段とけしからん!!)


実の妹に鼻の下を伸ばす兄に得体の知れない外人さんは、少し軽蔑の眼差しを向ける。


「かるぴしさからたぬしるはかたや」


いきなり外人さんが何かを話し始めた。

それもどこぞの何語か解らない言葉をだ……。


「お兄ちゃん、この人なんて言ったのかな?」


「うーん……お腹空いた。かな?」


外人さんは「る~」と何度か何か音程を合わせると言った感じで声をだした。

「る~、る~、う゛~、あ~。あ~、あ~、あ~い~う~え~お~」


物凄く音痴な……あいうえおだった。


「あいうえお?」


疑問口調で聞き直すと、妹は俺をきょとんと見つめ首を傾げた。

「うむ、あいうえおだ。解るのだな」

偉そうに綺麗な日本語をゴシックな外人さんが話し始めた。

「あら? お兄ちゃん、彼女の言葉解るの?」

「あぁ、何か今あいうえおって言ったぞ」


「ふ~ん、どこの言葉?」


「日本語だ」


妹は何も言わずに俺の額に自分の額を押し当てた。


「熱は無いみたいね~」


妹に馬鹿にされた。


「いや、いやいや、日本語だって」


「お兄ちゃん、そんなのググら無くても解るよ」


(意味解って使ってんのか?)


ゴシックな女の子は俺の耳をつまみヒソヒソ話しを始めた。


「取りあえずだね。お前としかこの国の言語で意思疎通が出来んのだよ」


「なぜだっ」


「後で説明してやるから通訳しろ」

「私とお前の愛の巣から出ていけと妹に伝えなさい」


「おはよう、今日はいい天気だね。だそうだ」


妹に見えない角度からゴシックな外人さんがプチっと音がする程、お尻のお肉をえぐる勢いで抓った。

痛みで髪の毛が逆立つかなと思えた。


「ってかその人、何処の人?」


「魔界の住人じゃ」


「ミャンマーの山奥から来たそうだ」


「山……あったっけ?」


「多分ある」


すかさず横っ腹を殴られた。

息が出来ない程に。


「ってか名前くらい教えろ」


「リッチ・サッカバスだ」


「名前はリッチ・サッカバスだそうだ」


「リッチなサッカーとバスケット?」


因みに妹はアホの子です。学年最下位クラスのアホです。

勉強しても学習しない子なのです。

だが……そこが可愛い。


「まぁ、そんな名前で良い」


俺の首に手刀が降ったて来た。


「うーん、呼び難いしリッたんって呼んで良い?」


「小娘よ。死ぬが良い」


「まぁ、何て素敵なミドルネームなのかしら、リッたん感激っ!!だそうだ」


さりげなくリッチがキッチンの流し場近くにあったフォークで手の甲を突き刺した。


「ぬぁぁああ」


「あら大変っ!! お兄ちゃんたらドジなんだから」


妹は忙しなくリビングの食器棚の上から救急箱を持って来て手当を始めた。

リビングのテーブル前にリッチを座らせて、妹が俺の手当を始めた。


「リッたんは、お兄ちゃんの恋人?」


嬉しそうに咲智は俺に聞いて来たが、ここはだんまりだ。


「あんなに仲が良いし、少しうらやましい」

「お前はまだダメだからな。まだダメだ。大事な事だから二回言ったぞ」


ふとテーブルを見ると、ぽつりと座るリッチが少しはかなげな女の子に見えた。

いつも一人でご飯を食べて、おやすみなさいを言う相手もいない。

そんな少し物悲しい雰囲気をどこと無く持っている様に見える。

一人で座るのが絵になって居てとても自然に見えるのが、何故か切ない。

「そろそろ、飯食うか」


「うん、今日は急きょ焼肉にしたよ。お兄ちゃんの彼女が遊びに来た日だもんね」


否定しないと肯定したと取る妹の悪い癖を何とかして下さい。

そんなこんなで夕飯が始まってからも、こんな業と誤解を生みそうな通訳を続けながら、楽しい(?)ひと時を過ごしたわけだ。

食事を事無く終えて、俺は自分の部屋に帰る。

するとリッチも俺の部屋に入って来た。


「お前のベッドは今日から私の物だ」


「唐突に何だお前」


「昨日の夜更けに主従契約したろ?」


「お前か!! 犯人はお前か!!」


「それだが話せば長いから触りくらいは今から説明してやろう」


リッチは頭だけを出して布団に包まり、芋虫の様にゴソゴソ中で動いてベストポジションを探す。


「私は悪魔なのだよ。人の持つ阿羅耶識に住み付く悪魔なのだ」


何かピンとこね~。


「対価はアンデット化とお前の一生だよ。聖道」


更にピンとこね~。

「私はサキュバスだ。お前の全てを私の物にする為にここいる」


「ふ~ん」


「怖く無いのか?」


「怖く無い、全く持って怖く無い」


そうだ。リッチには迫力がまるで無いし、怖いと言う概念に当て嵌まる要素が何一つ無い。


「またまた、お前ただの寂しがりだろ?」


「ば、馬鹿にするな!! お前に一生付き纏うんだぞ!!」


「そうなのか? まあ末永く頼むわ」


とても間抜けな顔でリッチは俺を見る。


「どうした?」


「な!! 何でも無いっ!! もう寝るっ」


ガバッと布団を被り中で小さく丸まったそれは、悪魔と言うに程遠いただの少女だった。 
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