トーゴの異世界無双
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第十二話 実力を見たいって?
「え?」
それは素直に驚いた。
まさか自分以外も異世界からやってきた人物がいるとは思っていなかったからだ。
「まあ、もう何百年も昔の話だけどな」
そんな昔に?
そいつも日本人というか、地球人だったのか?
「文献には幾つか情報が載っているし、俺も目にしたことがある」
「はあ……」
「というか、異世界の話はよく死んだ親父にも聞かされた」
つまりは、グレイハーツには異世界人の資料があるのか?
それとも、ただの作り話なのか?
その判断はつかなかったので、黙って話を聞くことにした。
「そしてな、その異世界人も黒い髪に、黒い瞳を持っていたらしい」
なるほど、それで一番最初に、そう声に出して呟いたのか。
どうやら、ここでは黒髪は珍しいみたいだ。
確かにここに来るまでも、黒髪はだれ一人いなかった。
「それで、トーゴのその髪と目。それにお前のさっきの異世界から来たという言葉」
「信じてくれた……ということですか?」
「確かに……お前さんはあのタイガラスを一発で倒したという情報もある。どうやら異世界人は超常的な力を有しているらしいからな」
ということは、過去の異世界人もそれなりに強かったのかもしれない。
「だが、それはあくまで聞いた話だ」
「……実の娘からの情報ですよ?」
闘悟のことを聞いたのはクィルからに間違いない。
それなのに信じられない?
いや、これはひょっとすると……。
「俺はな、基本的にはこの体で、目で、肌で感じたことしか信じねえ」
この流れは、あれしかないかな?
「だから、その力を見せてくれ」
やっぱりな。
まあ、オレも逆の立場だったら、自分の目で確認したいしな。
「いいですよ」
またもあっさりと了承した闘悟に周囲の者は、王を含めて驚いている。
「ほ、本当にいいのか?」
ギルバニアまでも疑心(ぎしん)に満ちている。
「いいですよ。最初からそうするつもりでしたし」
「最初からだと?」
「はい。オレが異世界人だって言ったって、誰もすぐには信じられないでしょう。オレも逆の立場ならそうでしょうし。だから、どうにかそれを証明する方法が無いか考えていたんです。だから、証明するためだったら、ある程度のことはしようって最初から決めていました」
「な、なるほど……」
ギルバニアは闘悟の言葉を聞き眉を寄せていた。
(コイツ……本当に見た目通りの年齢か? 異世界から来たのが本当なら、この世界について何も知らねえし、頼れる者もいねえ。それなのに、俺の前でもこの落ち着き様……普通なら慌てふためいてもおかしくねえ。いや、それが年齢通りの態度だ。だがコイツは未だに表情も崩さねえ。もしかしたら、こういう場に慣れてるのか……?)
ギルバニアは次々と生まれてくる疑問と戦っていた。
だが当然答えは出てこない。
実際、闘悟がこの場において平然とできているのは、過去の経験からよるものである。
それを知らない周囲の者達は、目の前の少年の様子に不信感を抱いても不思議ではない。
「それで? どうやって力を見せれば?」
「お、おお、そうだったな」
闘悟の言葉に現実に引き戻らされて声を出す。
咳払(せきばら)いをしたギルバニアは、凛(りん)として話す。
「本当にタイガラスを仕留められるような実力を持ってるのか、それを確かめさせてもらいてえ」
ま、そういうことになるだろうな。
問題はその方法だが、果たして内容は……。
「国王様!」
いきなり声が届いてくる。
「……ミラニ」
ベアンが確認するように顔を向ける。
ミラニは片膝をつき声を発していた。
「……どうしたんだ?」
ギルバニアが問い返す。
「はっ、そのお役目、是非わたくしめに命じて頂きたく思います!」
闘悟もミラニに視線を向ける。
おいおい、まさかこの流れは……。
「…………ふむ、ミラニか。それいいな」
ギルバニアが面白そうに口を緩める。
闘悟はギルバニアの表情を見て肩を落とす。
「ミラニは単独でタイガラスを仕留めたこともあったな」
「はっ!」
へぇ、あの女騎士、かなりのやり手なのか。
まあ、この場にいるってことはそれなりの地位を持ってると思ってたけど。
「そんじゃ、お前に任せてみようかミラニ」
「有難(ありがた)き幸せ! このミラニ・クロイセン、グレイハーツ王国魔法騎士団団長の名に懸けて、決して恥じぬ闘いをお約束致します!」
「おいおい、そんな畏(かしこ)まらなくていいって。楽にしろ楽に! あはは!」
ギルバニアは手を振りながら答える。
隣にいるベアンは溜め息をつく。
なるほど、庶民に近い国王ってのも嘘じゃないな。
嫌いじゃないかもな…………こんな大人なら。
「よし! そんじゃ、練技場(れんぎじょう)に向かうとするか」
闘悟達は城の中にある練技場に向かった。
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