| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルなのは 3人の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2話 林道 五也side

 足に衝撃を感じ、目を開くとそこはさっきまでの和室ではなく、フローリングのかなりの広さがある一室だった。
 一通り見たとこ、どうやらマンションの一室であることがわかった。
 それ以外にも自分の体が小さくなり、外見が少し水色がかった銀髪と青い目になり、顔も変わっていることからどうやら本当に転生をしたらしい。

「嘘くさいと思っていたんだが……」

 思わず口から独り言が漏れた。
 次に特典というものが本当にもらっているのかを試すことにする。
 とはいえここは室内攻撃系を試すわけにはいかないので、試すのは回復補助系になる。
 と言うわけでまず台所にあった果物ナイフで左の親指を軽く傷つける。

「ッ」

 軽くとはいえ痛いものはやはり痛く、傷口からじわりと血が滲み出す。

「聖なる活力、此処へ、ファーストエイド」

 同時に体を淡い光が包み、傷が見る見るうちにふさがった。

「こりゃ凄いな」

 口調こそ抑えてはいたが、テイルズファンの俺は内心かなり浮き足立つのを感じていた。
 そのままあれこれ試してみたい衝動に駆られるが、それよりもまずこの街で生活する以上主要な施設は見て回りたい。
 それに何故かここにいなかったバカ2人とも合流するべきだろう。
 あの2人がそう簡単にくたばるとは思えないが、周りに迷惑をかけない保証はない以上早めに合流した方がいいだろう。
 そう考え街へと向かう。

▼▼


 街を一通り巡り情報が集まったとこで落ち着けそうな公園に腰を下ろす。
 まずここは間違いなく日本であることがわかった、それは問題ない。どころか大助かりだ、日本語しか喋ることができないので、国外なら絶望していただろうからだ。
 日用品を買えそうな場所もだいたいは把握できた。
 街を歩いているとやたらと、何かを探してるような銀髪オッドアイを見かけたが、これは関わらなければいいだろう。
 問題は目の前にあった。

「なあ、頼むってこの通り!」

 目の前にかなりの勢いで頭を下げている、黒目黒髪で無駄に元気そうなバカっぽい雰囲気の今の俺と同年代ぐらいの男がいるとこだ。
 何故俺はあの2人と言い、こうもバカな雰囲気の奴に絡まれることが多いんだろうか。

「だから何で俺がそんな事しなくてはいけないんだ」

「ん? ああだったらもっかい説明すっからさ、ちゃんと聞いててくれよ」

(そういう意味ではないんだがな)

 口に出さなかったのはこの手の人種がどこまでもマイペースなのを知っているからだ。

「ほら、あそこ見てくれよ」

 そう言って指さした方を見れば、同じようなベンチに座り泣いている茶髪ツインテールの少女の姿がある。

「泣いてる子がいるだろ」

「いるな」

「何とか笑わせたいんだけど、俺その手の才能無いみたいでさ。手伝って欲しいんだって」

 どうやらあの2人を越えるお人好し、もしくは放っておけない病のようだ。

「何で俺が手伝わなきゃいけないんだ」

「いいじゃん暇そうだし、それに同じ転生者のよしみって事でさ」

 ピクリと眉が動くのを感じた、ただのバカかと思っていたがどうやら観察力は馬鹿にできないようだ。

「何でそう思う?」

 他の転生者に関わるとまともなことになりそうにない以上、転生者としての特徴があるなら今のうちに何とかした方がいいだろう。

「え? だって銀髪じゃん」

 訂正、かなり当てずっぽうだったようだ。
 とはいえこの銀髪が目立つのも事実だ、染めた方がいいかもしれないな。

「それだけで転生者とは限らないだろう」

「そうか? あっ! でも否定しなかったし転生者ってのは当たってるんだよな」

 ちっ、こういうとこだけ鋭いのはあの2人と同じだな。

「さあな」

「まあ、何でもいいから手伝ってくれよ」

「おいこら! 手を引っ張るな!」

 とぼけるも強引に茶髪少女の元へと引っ張って連行されてしまった。

「……く、……うう」

 斯くして嗚咽を漏らし、すすり泣いている少女の前に来たわけだが、

「なあ、あんたなんか面白いことできない?」

 それは明らかに最初に聞くべきだろ。

「無理だな」

「そういわずにさあ、ほら何でもいいんだって、俺なんて変顔とか一発ギャグとかやったのに全部スベったんすよ」

「別に失敗を恐れてやらないわけじゃない、ただ単にそのての事が得意じゃないだけだ」

 そういうのは他の2人が十二分に役割を果たしていたからな。

「かーっ!クールっすね!」

「クールじゃない、他に比べて少し冷静なだけだ」

 バカ2人がやたらと騒がしいせいでな。

「それで何でこいつは泣いているんだ」

「え?」

 おい、え?ってなんだよえ?って。

「まさか聞いてないとか言わないよな」

「聞いてないっす!」

「断言するな」

 まずそこからだな。
 逃げるのはもう諦めている、この手の奴は一度相手にするとどこまでもつきまとってくる、ならばここですぐに関係を終わらせるのが賢い行動だろう。

「なあ、あんたは何で泣いているんだ?」

「…………放っておいて欲しいの」

「にしては、さっきから俺たちが目の前でわざとらしく小声で話していたのに逃げなかった辺り、慰められるのを待っていたんじゃないのか?」

「っ……そんなこと……」

 否定に力がない所を見ると外れてはいないだろう。

「何か悩んでたんすか? だったら俺に相談して欲しいっす!」

 こいつは何を考えているんだ。

「え………でも……」

 案の定少女は戸惑い明らかにうろたえている。

「おい、いくらなんでも急すぎるだろ。人には話したくないようなこともあるだろ」

 流石にそれぐらいの気遣いはできるのか、そいつは気まずそうな顔になった。

「いや……そうだけどさ、でもやっぱ話すことで楽になれることもあると思うんす」

「楽にね……」

 確かにそういう時もあるだろうが、それが常に当てはまるとは―――

「本当に聞いてくれるの?」

 多少予想外であったと言わざるを得ないだろう。
 おい、そのどや顔はやめろむかついて殴りたくなる。

「実は――――」

 少女の話を纏めると、彼女は現在父親が仕事で大怪我をして入院中らしい、そこで彼女の家は少々どたばたしているらしい。
 つまりは今家には彼女の居場所が無く、また彼女も家族に迷惑をかけれない又はかけたくないということでここに来ていたと。
 ここからは俺の推測だが、結局どんなに気丈に振る舞っても子供は子供、恐らくは父親が大怪我をした悲しみと一人っきりの頼れる者のいない心細さに耐えきれず泣き出してしまったと言ったところだろう。

「………」

 話が終わり少女はこちらを不安そうに見上げてくる。
 ……慰めるのは簡単なことだ、しかしそれは彼女の抱えている問題を解決することはできないだろう。

「あんた、寂しいんだよな?」

 どうやらこいつも同じ結論に行き着いたらしく、気遣わしげに少女に声をかけた。
 少女の頭がコクリと縦に動く、それを見ると何か妙案でもあるのか顔が見る見る間に明るくなった。

「だったら、俺が友達になるっす」

「え……」

 この提案には流石に俺も驚いた、俺にはない発想だった。

「友達がいれば辛いことだって分けあえるっすよ」

「そう……かな?」

「そうっすよ」

 わずかにだが少女の顔が明るくなりつつある。

「友達に………なってくれる?」

 それでもやはり不安は残るのか、恐る恐る聞いた少女に対して転生者はその不安を打ち払うような笑顔で堂々と、

「もちろんっすよ」

 言ってのけた。
 もう俺がいる必要もなさそうなので2人に背を向け立ち去る。

「それとこいつもっす」

 嫌な予感は薄々してはいた、だが如何せん行動が遅かったようだ。
 グイッと体が後ろに引っ張られ、たたらを踏んだところで素早く体を反転させられる。
 更に逃がさないとばかりに肩までくまれてしまった。

「おい、俺には関係が……」

「だめ………なの?」

 ないと言おうとしたとこで、うるうるとした瞳で少女が見上げてくる。
 くそっ! 何故だ眩しい! 眩しすぎる!
 思わず目をそらすと今度は転生者と目があった、そしてそいつは少女と同じような瞳をし、

「だめ………なの?」

 イラッ

「げふぉお!」

 今度は純粋に苛ついたのでとりあえず蹴り飛ばす。
 目を戻すとそこには依然として、こちらを見つめる無垢な瞳があった。

「………わかった、俺もお前の友達に加えてくれ」

 その瞬間、まさに花が開くような、またはまるでぱああと擬音がするのではないかと思えるほど少女の表情が明るくなった。

「ありがとうなの!」

「お、俺は?」

 放置。

「えっと、友達って何をするものなのかな?」

 少女は友達という存在にあまり縁がないのか、戸惑うような声で聞いてきた。
 しかし、何をか、今まで考えたこともなかったな。
 どうやら最早いるのが当たり前に感じ、また別段用事が無くともつるんでいた辺り、自分でも気づかないうちにかなり気を許していたのだろう。

「別に何をするだとかじゃなく、一緒にいて楽しいまたは一緒にいたいと思えるのが友達というものだと思うがな」

「急に優しくなったすね、やっぱ友達補正ってやつっすか?」

「そう言うお前は少しは人に対して距離をとることを覚えるべきだろう」

「ちょっ! 俺からこのフレンドリーさをとったら何が残るって言うんすか!?」

「うざさ」

「泣いてやるーーーー!」

「くすっ」

 漫才じみたやりとりをしていると、少女が小さくだが確かに笑ったのがわかった。

「あ、ご、ごめんなさいなの!」

「何で謝る必要がある」

「え?」

「そうっすよ、俺たちだってあんたが笑うと嬉しいんすから」

「ああそうだな」

 どんなくだらないことだろうと笑いあえるのもまた、友達というものだろう。

「それに俺たち本気で言い合ってた訳じゃねえっすよ」

 だがそれには俺は賛同しないがな。

「いや、俺は本気だった」

「嘘だ! 嘘だと言ってよ!!」

「ああ、そうだな嘘―――」

 この時点で転生者はほっとした顔をしている。
 残念ながらあの2人と一緒にいた俺がこの程度で終わらせるはずがない。

「―――だといいな」

「希望系ぃーーー!?」

「ふ、ふふ、あははは!」

 こらえきれなくなったのか、少女は今度こそ声を上げて笑い始めた。

「笑うなんて酷いっすよ~~」

「ご、ごめん、ふふ、でもこ、こらえきれなくって、あはははは」

 転生者の情けない声と顔に謝りつつも、明るく笑い続ける少女、恐らく本来はこちらの方が素なのだろう。

「まあ、場が明るくなったことだ、自己紹介でもしないか?」

 いいかげん名前がわからないのも不便だ。

「そういえばそうっすね、んじゃまずは俺から、俺は武藤 大輝。ま、名字でも名前でも好きな方で呼んで欲しいっす」

「わかったの大輝君」

「了解、武藤」

「じゃあ次は私なの」

 今度は少女が立ち上がり、自己紹介を始める。

「私は高町 なのは。なのはって呼んで欲しいの」

「よろしくっす、なのは」

「よろしく頼む、なのは」

 次は流れからするに俺か、自己紹介なんて一体何年ぶりだろうか。

「俺は林道 五也。よほど変な呼び方でなければ好きに呼んでくれてかまわない」

「よろしくお願いしますなの五也君」

「よろしくっす五也」

 一通り自己紹介が終わってからは他愛もない話が続いた。
 そんな時、なのはが公園の隅を見ると悲しそうな表情になる。
 つられてそちらを見るとどこの公園でもありそうな時計があった。
 なるほど時間か。

「門限か?」

「うん……そうなの」

 なのはは寂しげに答える、もう会えないかもとか思ってるのだろうが………、

「じゃあまた明日っすね」

「えっ!」

 この手の奴ならこうなるわな。
 かなり驚いているなのはを置いて武藤は話を進める。
「んじゃ、明日今日と同じぐらいにここでで大丈夫っすか?」

「う、うん。大丈夫だよ……でも………本当にあってくれる?」

 1人で抱え込んであげくにネガティブ思考、全くもってあいつに似ている。

「俺は最初に言ったとおり一緒にいて楽しければ友達だと思っている」

 わざわざ不愉快な奴と一緒にいるつもりはないからな。
 なのはが不安、そしてわずかながら期待の入り交じった顔でこちらを見てくる。

「そしてあんたといた時間は楽しかった、俺は楽しい時間が好きだからな、あんたさえよければまた会ってくれないか?」

「もちろん俺も楽しかったっす、だから俺もまた会いたいっすよ」

 俺に続いて武藤が便乗し、同意するとなのはの瞳に一粒の滴が――ってうおい!

「ど、どどうしたんすか!? 俺何かやっちゃった!?」

 隣で武藤が盛大にキョドっているが、内心は俺も似たようなものだ。
 それは俺も同じだった。
 そしてその滴が瞳に収まりきらなくなり、地面に落ちる。
 その瞬間、

「なのは! 大丈夫か!?」

「えっ! お兄ちゃん!?」

 などというやりとりが行われていたが俺には気にならなかった、いや正確に言うと気にしている余裕がなかったと言うべきかもしれない。
 何故なら、俺と武藤は最初の男の声が聞こえた瞬間にはすでにすさまじい衝撃と共に、空中に吹き飛ばされていたからだ。
 そして突然のことに受け身もままならず、地面をゴロゴロと転がり意識が暗転した。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧