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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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32*逃走中

……あれから自分は、あのグダグダした混沌空間から逃れるべく、奥歯を噛み締め脱兎の如く逃げ出した。
そして、お腹がすいたから食堂で余った素材でテキトーにベーコンサンド的なのをつくってもらい、それを奴らに見つからないで食べるためにお城の中でも一番高い塔の屋根の上でポカポカしながらそれを頬張っていた。
その時腕時計を見たら、実はもう2時を回っててびっくりしたのを覚えている。

そしていつまでもパジャマなのもアレなので、一回塔の中に窓から入り、ちょっとオシャレなダメージジーンズと黒いシャツに着替えた。
だが、少しばかり高い所だからか肌寒い感があったので、学校で使っている紺のカーディガンを着て、暖かいけど着こなしが微妙な事にがっくりしていたのを覚えている。

そんな感じに妙な気持ちになっている時、事件が起きたのである。

自分がカーディガンを諦め、フツーにパーカーを着るべくそれを脱ごうとしていた所で、部屋の扉がゆっくりと開いたのである。
そして、剣を手にして素人が見てもわかるくらいに警戒心満々の三人の兵士が入って来た。

そして目が合う。
しばしの沈黙。

で、

「い、いたぞー!!」

大絶叫。

……耳が痛い。

自分が人力音爆弾を食らって耳を押さえていると、三人が即座に自分を包囲してきやがった。

「は、はは、ハセガワ候爵様!ご同行願います!!」

そしてきょどりながらなんか言ってきやがった。
あれか、エリザやバリスらへんの命令だべ?

なら取る行動は一つしかあるまい。

もちろんそれは逃走である。

「……ホエホエ~」

てな訳で、チビエビスン……いや、チビナルミンの術である。

煙りとともに、自分は一寸法師よろしくな大きさへと変化した。
そして、それを見て自分が消えたと判断した彼らは

「消えた!?いや、まだ近くにいるはずだ!!おまえは援助を呼びに、俺とおまえで窓と扉を完全に封鎖するぞ!!」

そう言うなり、彼らはそれぞれのポジションへと向かい、完全封鎖の体制をとりはじめる。

だけど、まぁ所詮窓と扉を封鎖しただけ。
つまり、このボロッちい塔にある無数の小さな隙間にまでは手がいかないのである。

したがって、余裕のだっしゅ………つ……

………あれだ、この高さは、無理ぽ。

飛べるけど、なんかいつものサイズにくらべて格段に恐怖感が高くなる。
さらにこのサイズ、今考えると見事なまでに鳥の餌サイズだ。

だからといって、この警戒体制のもとで廊下側の隙間を探すのもリスクが高い。

よし、作戦変更。

『フハハハハ!自分がいつまでも同じ所にいると思ったか!実に浅はか!!ではこれにて』

「!?」

「何を驚いている!廊下だ!いくぞ!!」

……ふむ。

声を似顔絵に変える能力は意外に使えるな。
廊下に声をはっつけたら見事にみんないなくなった。

……どっかにテレポートしたほが早かったな、これ。

まぁとりあえず、誰もいなくなった事だし普通サイズに戻り、窓を開け放ち

さぁ、あいきゃんふらい!!




……この調子に乗った大空への飛翔が今日の自分最大のミスだと言うのに気が付くのに、さほど時間はかからなかった。


*********…☆


何が起こった?

「いたぞ!西の空だ!!」

一体全体何があった?

「手加減するな!相手は不死身の闘神だ!遠慮したら死ぬと思え!!」

どうしてこうなった!?

「第三火炎魔法隊と第二疾風魔法隊はそのまま追え!第三流水魔法はそれの補助!他は各自先回りをして罠を張れ!!」

何が一体どうしてこうなった!?

……おわかりのとおり、自分は今限りなく追い掛けられている。

最初はやたら城の周りでせわしなく動く兵士達を見て、何をやってるのかと近付いた所いきなり大声を出されてワラワラと兵士達がやってきたのである。
しかも矢やら魔法やらの雨霰の贈り物付きである。

これは泣きながら逃げるしかない。

「ちょ!待って!話せばわかっこら魔法やめぃ!自分がいったい何をした!?」

うん、情けないのはわかっている。
だが言わずにはいられないのだ。

「構うな!日が沈むまでに意地でも捕まえろ!!」

「「「はい!」」」

「構え!見逃せ!!魔法をやめて!!」

くそぅ!
マジで自分が何をした!?

何か!何かこの場をしのげるモノは!?
ええいままよ!!

「速効魔法『終焉の焔』発動!!」

自分はその場にいきなり止まり、そういいながら、カードを翳すと黒い煙みたいなトークンが二体出現。
それに伴いビビる兵士達。

だがしかし。

「怯むな!攻撃しろ!!」

そう誰かが言うと、再び炎やら雷やら風やらが恐ろしいくらいに飛んできやがる。

バトルフェイズ後に発動したつもりだったのだが、まあいいや。

「カウンター罠『攻撃の無力化』!!」

自分が叫ぶと全ての魔法が空中に出来た穴に吸い込まれて、消えた。

だがさすがにそれくらいではもう皆さんは驚いてはくれないようで、少し距離をとりながらも自分の出方を伺っている。
そしてその隙に自分は

「フィールド魔法『ダークゾーン』発動!!」

直ちにに魔法を発動させる。
すると今まで晴れていた空に、いきなり雷を纏いながら渦巻く不吉なまでに黒い雲が発生してきた。

こうなりゃもうこっちのもんよ。

自分はさも仰々しい動きと声で、威嚇しながらこう述べる。

「今再び、五千年の時を越え、冥府の扉が開く!自分達の魂を新たなる世界の糧とするがいい!降臨せよ!《地縛神 Aslla piscu》!!」

そして黒焔トークンをリリースして、薄いんだかそうでないんだか、二次元だか三次元だかもわからない、ナスカの地上絵をモデルとした巨大なコマドリが出現した。

感じとしては、サイズも形もあの地上絵がそのまま浮き出た感じと考えてくれていい。

そしてまさかのよくわかんない怪物が出現した結果、彼ら兵士は顔を真っ青にしなが

「………あ……アアアアア!!」

「ひぃっ!!し、死にたくない!!やだ!やだぁ!!」

「うあぁぁん!!おかぁさぁぁん!!」

腰抜かしたり逃げ回ったり泣いたり喚いたり叫んだり、とにかく大変である。
そして最後の奴、オイ。

まぁ、全体除去持ちの攻撃力3000がいたらそう叫びたくもなるわな。

それはそうと、この混乱に乗じてこの場を逃げ出そうとした、その時。

「や、やっぱり俺達が闘神の弟子になれるなんて無理なんだ……俺達はこのまま新しい世界のために殺されるんだ……あは、アハハハハ」

その場にへたりこんでいた一人の兵士がなんかとんでもない事をのたまいやがった。
自分は彼を即座に捕まえ

「はい確保!後で詳しく話をきかせてもらう!!」

「はは……はひ……?……ヒャァァァ!?」

一気にお空へ急上昇。
ダークゾーンよりさらに上へと突き進み、越えた所で急停止。

そして怯えながら宙ぶらりんになっている兵士に

「さぁ、弟子やらなんやらについて詳しく話せ!さもなくば落とす!!」

がたがた揺らして説明を求めた。
脅しは御愛顧である。

「は、はははは話しますからやめてくださひ!!や、ギャァァァ!!」


***********¢☆


「……つまり、エリザとバリスが自分を最初に捕まえた奴を自分の弟子にするとかいいやがったのだな?」

「は、はいぃぃ!そうです!間違いないです!!日が暮れるまでにできればですが!!」

「……しかも参加者には国のお偉方もいるんだな?」

「はははい!イノム姫様やバリス王子様などをはじめ将軍から賢者まであらゆる者が……」

「ざっけんなチクショー!!」

なんだこの仕打ち!
自分が一体何をした!?

「ヒイィィィ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!!」

………そんな怯えなくても。
こら、泣くな!男の子でしょ!?

「……ごめん、君は悪くないよ。ちゃんと下ろすから、ほら」

そういいながら、近くのバルコニーに彼を置き、優しくなだめる。

「ごめんって、ほら泣かないの」

「は、はい……ありがとうございま「そこかナルミィ!!」

はい突如乱入するは爆裂王子バリス様。
諸悪の根元の一人である。

奴は大剣を手に、自分におもいっきり駆け出してくる。

……てゆーか最初っから第二形態(炎の天使的なの)に変身してるとか、なに。
なんか焦げ臭い。

「いくぞ!!奥義『神・龍・轟・炎・斬』!!」

そう叫びながら奴は力の限り剣を振るうと、そこから炎の龍みたいなのが……

あ、やばくね?

「ちょま!ええぃ!ザ・ワールド!!」

……

…………危なっ!!

あともうちょいでこれ兵士に当たるって!!

と、こんな事やってる場合じゃない。
6秒しか時は止まらないんだ、時間止まっているのに時間がない。

なので急いで彼を担いで空中へ飛んだ所で

ゴオォォォォ!!

今までいた所を轟音と共に炎がえぐる。

あぶねぇ。

「……む、ナルミどこ行った!」

だれが答えるかバカバリス。
そのまま一人でその部屋を焦がしてろ。

「……ふへ?ひいぁぁぁぁ!?なんでまた空に!?誰か!誰かぁぁ!!」

「む!?空か!!」

バカァァァ!!
ここで騒ぐか!!

「落ち着け!!すぐ下ろすから!!」

とりあえず別の所におろそうとするが……

「ナルミ!覚悟!!」

「状況判断して行動しろやこの脳筋!!」

自慢の翼で自分を追い掛けてくるバリスが自分達の邪魔をするのだ。
ぶっちゃけ、限りなく邪魔。

「敵の自由が効かないうちに叩く!これが兵法の基本だ!!」

「それはこの場合外道っつうんだよ!!くらえシャドーボール!!」

そういいながら、手からぎざぎざした軌道を描く黒いボールを奴の顔に向かって発射する。

うむ、なぜXではあいつが出なくなったのか謎である。
気に入ってたのに。

「はっ!こんなのばっ!!」

そのぎざぎざした軌道にやられたバリスは、見事に顔へとヒットした。
そしてそのまま堕ちていく。

ざまぁ、バリスざまぁ。

自分が死にゆくバリスに対する馬鹿にした態度を取ってると、自分の左脇から叫びが

「ナルミ様後ろぉ!!」

「はへ?……のうわっちゃぁ!?」

自分の背後から、何か細長い鋭利なものが襲い掛かってきた。

なんとか避けたが、危なかった。

「チッ!小癪な……」

そこにいたのは、ショートカットの偽セーラー服な長門モドキ、イノム様でございます。
彼女は細長いレイピアみたいな剣を持ち、背中の翼を羽ばたかせている。

「君ナイス!そしてイノムさん小癪ってなに!?」

「小癪は小癪、おとなしく私に捕まりなさい」

そう言うと彼女は、何かぶつぶつ呟きはじめた。
すると、剣に纏わり付くように炎が張り付き、あっとゆうまに3mくらいの細長過ぎる炎の剣に……

……あれ、背中から変な汗が。

「さぁ、降参しなさい。しなければ……」

「……しなければ?」

「刺し殺す」

「さようならっ!!」

自分は逃げた。
限りなく逃げた。

そしてその先にいたのは

「くっそ!効いたぞナルミ!!」

はいバリス王子様ご登場。

「何で出てくる!死んでろ!!」

「あの程度で死ぬ訳ねぇだろ!!」

くっそ!
前門のバリス、後門のイノムかよ!

と、半ば絶望していると後ろからイノムさんが

「バリス、どきなさい。ナルミは私が頂く」

こうのたまった。
するとバリスは

「はっ!姉さんこそ消えな!ナルミは俺が捕まえる!!」

これを売り言葉に買い言葉といふ。

「姉に向かってその口のききかた。教育の必要があるわね」

「体力ないくせによく言うよ。結局小手先だけのくせに」

……あれ?

「私は力ではなく技で戦う。まぁ馬鹿にはわからないだろうがな」

「じゃあその技ごと姉さんの自信を今ここでへし折ってやるよ!!」

これはもしかして……。

「覚悟しなさい!」

「後悔すんなよ!」

そう二人が叫び、互いに剣を交えて戦い始めた。

自分をスルーして。

「おうらぁぁ!!」

「ぬるい!てりゃぁ!」

「はっ!おせぇよ!!」

……こいつら、二人して馬鹿だ。

「……ナルミ様、とりあえず逃げましょう。俺、早くおりたいです」

「だね。とりあえず近くにおりるか」

「はい。あ、あそこ、城のあの窓が開いています」

兵士君の言葉に従い、自分はとりあえずお城のなかに入る事にしたのである。


************〇☆


自分達がおりた所は、50人は余裕で入るただっ広い何もないお部屋である。

誰もいないその空間におりた自分は、不幸な兵士君を優しくおろして謝る。

「とりあえず、何度もごめんな」

「いえ、大丈夫です。てゆーかもう慣れました。……ととと」

そういいながら、空中にいた慣れのせいかよろついてうまく立てないようで尻餅をついた。

それに自分は手をさしのばす。

「大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫で……す……」

すると、なぜか顔面蒼白になりながら、歯をガチガチ言わせている。

「どうしたん?なに「かかれぇ!!」ゴバァッ!!」

自分が彼に何があったか聞こうとした途端、上から重い何かが降ってきた。

な、何があった!?

自分が混乱しながらその重みに堪えていると、目の前に赤毛の小柄な少女がでてきた。

「うふふ。せーんせ、捕まーえたっ」

もはやおなじみ、シルバちゃんである。

彼女は動けない自分の顔を優しく抱きしめて

「やっぱり先生は私の所へ戻ってきてくれました。私達はやっぱり結ばれる運命なのですね」

とかいい始めた。

つかこれ……息が。

「ひ、ヒルハひゃん!ひき!ひきできはい!ふるひっ!ひにゅ!」

「あ、ごめんなさい先生。先生が私に会いに来てくれた喜びでつい」

「ハー、ハー……とりあえずシルバちゃん、自分に乗っているの、何、よけて」

「あ、そうですね。みんな、よけていいわよ」

ん?みんな?

彼女がそう言うと、続々と重みが消えていく。
そしてその正体は

「突然の奇襲で不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでしたご主人様。平に、ご容赦下さい」

深々と頭を下げる自分の使用人達(予定)である。

「先生がこの部屋へと飛んでくるのを見て、みんな一斉に隠れてこの作戦を実行したんです。先生を捕まえるだけの技量を持ってますし、みんなとても優秀で、頼りになりますよ」

そう言うは自称自分の嫁、シルバちゃんである。

「そして先生は彼らが最初に捕まえました。この勝負、私達の勝ちです」

……え~。

「……マジですか」

「マジです、先生は誰にも渡しません」

そう言って彼女は自分にギュッと抱き着いてきた。

それに伴い周りのみんな、主に女子が

「奥様!そこで口づけです!」

「もっと胸を強調して!!」

「いっそここで押し倒しましょう!!」

「shut up!!君もここでマジにやらない!!」

こいつらは一体何をこの娘に教えてるんだ?

そしてひとまず落ち着いた彼女だが、なぜかここで急激に闇化しはじめた。

……なぜだ?

「にしても……あなたはなんで先生に抱かれながら一緒にいたんですか?」

そういいながら彼女は今までへたりこんでいた兵士へと向き直り、お馴染みの炎のナイフを取り出しはじめた。
それを見た彼は、顔をさらに青くしてがたがたふるえている。

ああ、だからさっきあんな怯えてたんね。

って!じゃなくって!!

「男のくせに、先生に抱き着くなんて……こんなゴミ!この世から消してやる!!」

そういいながらナイフを彼に振り下ろす。

ヤバッ!!

「ストォップ!!」

ガシッ!!

なんとかすんでで腕を掴む事に成功した。

マジギリギリッス。

「ヒイィィィ!!」

「なんで止めるんですか先生!!」

「殺し駄目!!やめなさい!!」

「ダメです!先生に近付く悪い蟲はみんな私が潰します!!」

そう言って暴れ狂う彼女は、明らかに異常な眼をしている。
この前殺されかけた時と同じくらい恐い眼である。

そしてそんな彼女に振り回されながらも、しっかり両手を正面から拘束して押さえつけてる自分、エライ。

しかしこのままではいろいろ危ない。
てゆーかこのパワーはかなり辛い。

と、そんな状態の自分に一人、あの皆さん代表の子がテコテコよってきた。
そして耳打ちをする

「ご主人様、いまこそ……………」

それを聞いた自分は、一瞬気が抜けた。
何を言い出すこの子は。

と、その一瞬の隙をついて脱出したシルバちゃんは、そのまままっすぐ彼の所へ……やべっ!!

「バイバイ、醜い蟲けらさん」

そういいながら、彼女はもはやナイフを振り下ろそうとして……

「だからストップ!」

なんとか後ろから抱きしめて止める。

「離して下さい!これは私達の将来のために必要なんです!!」

くっそ!
もう手段なんか選んでらんねぇよ!!

「シルバちゃん!!」

自分はそういいながら、彼女の顔をこちらに力付くで向かせ

「なんですっ………!!?」

強引に……まぁ、あれだ。
お唇を窃盗した。

後ろで“やった!”だとか“作戦成功!!”だとか聞こえるのは無視しよう。

「とりあえず、落ち着こう」

「……………ふぁい」

彼女は案の定、真っ赤になって呆けたようなふわふわな顔をしながら自分にもたれ掛かってきた。

くそっ!
全部あの子の策略どおりだ!!

「とりあえず、君。今のうち逃げて、早く」

自分がそう不幸な兵士君に言うと、彼は首が取れるんでないかと心配になるほどブンブン首をふりながら、猛ダッシュで部屋を後にした。

うん、今日は彼史上最悪な日である事は間違いないな。

「せーんせー、にゃーん。フフフフフ」

そしてこのゴロゴロナゴナゴしているこの娘は一体どうしよう。

「とりあえず、戻って来てシルバちゃん」

「エヘヘへへ、せんせー。私だけの旦那様……」

ダメだこれは。
マジで一体どうしたら……

「あれですご主人様。このまま奥様を本当の女にしてあげてはいかがでしょうか?」

「私達もまだそこまで教えていませんから、そこらへんを手取り足取りじっくりねっとり……キャー!!」

「奥様程無垢で純情な汚れを知らない女の子なんて今時いませんよ?なんにもそのての知識を持ってないんですもの」

「そしてその汚れを知らない奥様に優しくそれらを教えて差し上げるのが夫であるご主人様の義務だと思います」

「君達絶対これ見て楽しんでるだろ?」

こいつら、雇うのやめてやろうか?

とかなんとか考えていると、したからニュッと手が出てきて

「せんせ、チュッ」

今度は自分の唇が強奪された。
まぁ、唇をチュッとしただけで深くないなのがせめての救いか。

そしてキャーとか言ってる君達、後で覚悟しろよ。

「……これは、私達の負けですかね。まぁ、相手が相手だからさほど不思議ではない、か」

「……ああ、だがまさかナルミがここで捕まるとは……少しこっちも警戒しとけば」

もうあれだ、神速で振り向いたね。
そして振り向いた先にはバリスとイノムさんが。

「……いつから?」

「その娘がナルミに口づけをする所から」

………熱い。
顔がめっちゃ熱い。
今なら恥ずかしさで死ねる。

「とりあえず、訓練終了を伝えるか」

「ああ、なら私がやろう」

イノムさんはそう言うと、どこからか拳大の緑の石を出して、それに口を近付けこう言い出した。

「全小隊長に告ぐ、聞き次第部下に伝えろ。訓練は只今を持ち終了した。勝者は第三王女近衛隊所属シルバ・ランド……」

そこまで言って彼女は、今にも羞恥で悶死しそうな自分を見てニヤリと笑った。

あ、やな予感。

「間違えた、修正する。勝者は第三王女近衛隊所属ハセガワ・シルバ。彼女はナルミを捕まると同時に唇まで奪っていった。そしてこいつらは抱き合うように「ちょっとまてぇぇい!!」
自分は即座にその石を強奪して、それに訂正のための発言をする。

「今の嘘!偽り!でたらめ!変な悪ふざけを信じたらだめだからね!!」

「おいナルミ」

「黙れスカポンタン!そもそも自分らまだ結婚しとらんし!まだ彼女はランドルフだから!!」

「だからナルミ、聞け」

「shut up!諸悪の根源!あなたに発言の権利は「だから一回聞きなさい!」何だよじゃあ!逆切れ格好悪いよ!!」

くそっ!
なんでこいつはこんなに……

「まぁ、やりたいのはいいけどさぁ。それ、魔力与えないと通じないよ?」

「はへ?なら今は?」

「ただの石。ついで言うと、魔力がないナルミなら使えない代物」

マジですか。
早く言えっての。

あれ?てことは……

「……今までの自分の訂正は?」

「届く訳がない。ただのでっかい独り言」

「……だれか訂正をお願いします」

そう自分が言うと、あの二人はニマニマしながら微動だにせず、後ろを見るとあの40人は忽然と消えている。
いまだに自分に抱き着いてゴロゴロ言ってるシルバちゃんは論外。

は、ははははは……
オワタ……。


**********θ☆


その後の話をしよう。

「ナルミ、おめでとう。こんな器量よしそうそういないぞ」

「ナルミ!式はいつあげんだ!?」

「さすが私の娘ね。ナルミさん、シルバを幸せにしてあげてね」

「よし、皆さん一回落ち着こうか」

あの直後、自分はエリザの部屋へと呼ばれ、そこへ行くと王族三姉弟とランドルフご夫妻プラス兄がおられました。
理由はもちろん

「エヘヘ、先生。みんな祝福してくれてます」

この娘についてである。

「……泣いていいですか?」

もはやこれは泣くしかあるまい。

そんな自分に向かい、今まで黙っていたガルクさんが

「ナルミ君」

「……なんですか?」

「諦めろ。こうなった彼女達は誰も止めれない。下手に止めても血を見るだけだ」

そう言う彼の顔には暗い影見え隠れし、その表情は疲れと達観、そして悟りを開いたような色が見える。

「……経験談、ですか」

「俺の場合一番最初は6歳からだった……あの時は子供ながらによくこいつを止めれたと今でも思う」

「今度二人だけでゆっくりお話しをしましょう」

「ああ、上質の酒を用意しとく。共に飲み明かそう」

そういいながらしっかり握手しあう自分達。

やっと……やっとマトモな理解者が!!

「あらあら、もうガルクに認められて。さすがシルバの見込んだ旦那様ね」

「……ナルミ、この場合お前はもう義弟と言う事になるのか?」

……なんで親父はマトモなのに、こいつらはこうなんだろ。

「あんたらだから気が早いっての。自分は祖国のしきたりから18まで結婚できません!あと半年待たないと無理です」

世間ではこれを時間稼ぎといふ。

………あれ?

「なぜに皆さんそんな驚いた顔しとるん」

「いや……お前17だったのか」

「おうよ、華の17歳の高校二年生よ」

「……14か15くらいかと思ってた」

はい?
ゼノアさん、あなた眼大丈夫?

「な、ナルミ、本当に17か?背が高いだけの同い年くらいかと思ってたぞ!?私より三つも上とは……ありえん」

ありえるわいボケ。
エリザのくせに生意気な。

全く、何をいきなり……あ、そっか。

「あー、自分達の人種は顔が幼く見える人種でな。成人しても若く見えるらしい」

それに一番食いついたのは、力より技で攻めるというイノムさんである。

「ちょっと待て!!人間もそんな何種類もいるのか!?」

「えー、そっからっすか?」

「いいから答えろ!!」



この後、自分は人種やらなんやらについての質問攻めにあい、結婚やらについてはうやむやになったが、別の意味で後悔するハメになったのである。



「……しかし、あれだな。ナルミは17の割に子供っぽい所があるな」

「うるさい万年脳内お天気王女!気にしてはいるんだ、それに触れるな」


「だけど17なのにくぐり抜けてきた修羅場の数や質は並の兵士よりもかなり多いわよね。さすが未来の息子、頼りにしてるわよ」

「リリスさん、違うからそれ。頼りにしないで」

………この苦労と不幸の数も、並の高校生ではありえないであろう程の数をこなす自分を誰か褒めて欲しい。

そしてそれらを乗り越えて少しでもオトナな性格に成長できたならまあいいが全くその兆しがない自分の性格。
これが一番腹立たしい。

「年上でも年下でも、先生は先生です。私の自慢の旦那様です」

「だ・か・ら!今は違うっての!」

「今はって事は半年後には夫婦になるんだな?」

「shut up!!そのふざけた口を縫い合わすぞバカエリザ!!」

……そして一番の不幸は、彼女達に目を付けられてしまった事であろう。


死にてぇ……
 
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