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ドン=カルロ

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第四幕その八


第四幕その八

 やがてカルロは牢獄から出て来た。その背にはロドリーゴを背負っている。
「カルロよ」
 王は中庭にいた。その周りを宮廷に仕える貴族達が取り囲んでいる。
「そなたの罪は許された。わしに剣を向けたことも全て許そう」
「・・・・・・・・・」
 カルロは父王のその言葉に答えようとしない。
「公爵はその罪の報いを受けた。だがそなたを救い出した功によりそれも許そう」
「彼の命を奪っておきながらですか!?」
 カルロは顔を上げた。
「父上、いえ陛下」
 彼は王を睨みつけて叫んだ。
「公爵、いえロドリーゴのことは貴方もご存知だった筈です、それを何故処刑人達に投げ与えたのですか!?」
「それは・・・・・・」
 王は答えられなかった。彼もまたロドリーゴを救いたかったのだ。
 だがそれは出来なかった。彼が全知全能ではない人間であるが故に。
「彼は私の為に全てを捧げた、そして貴方にも。それをわかっていながら何故・・・・・・」
「そなたにもそのうちわかる時が来る」
 彼は力なくそう言った。
「そんなものわかりたくもない!」
 彼はヒステリックに叫ぶようにして言った。
「彼は私の為に死んだ、全てを捧げてくれた」
 彼は父王を睨んだままである。
「それは貴方に対しても同じだったというのに・・・・・・」
「それはわかっていた・・・・・・」
「私は決めました」
 担ぐロドリーゴの死に顔を見ながら言った。
「彼の志を受け継ぎます」
「そうか・・・・・・」
 最早それに対し反対するつもりはなかった。彼自身は。
「そなたも運命に従うか」
 王は悲しい声で言った。
「それが私の運命ならば」
「わかった・・・・・・」
 カルロの運命もまたこの時決まった。だがカルロはそれを知らない。
「公爵」
 王はカルロが担ぐロドリーゴの亡骸を見た。
「今までご苦労だった。せめて手厚く弔ってやろう」
 そう言うと左右の廷臣達に目配せした。
「彼を大切に扱ってくれ」
「わかりました」
 彼等も悲しかった。この宮廷でロドリーゴ程人望があり心優しい男は他にいなかったのだ。
「殿下」
 彼等はカルロに歩み寄った。
「公爵のことは我等にお任せ下さい」
「わかった」
 カルロは大人しくそれに従った。ロドリーゴは彼等に委ねられその場を去った。
「ロドリーゴ・・・・・・」
 彼はそれを見えなくなるまで見送っていた。
「君は永遠に私の中で生きる。見ていてくれ」
 そして父に対し向かい直った。
「今一人の英雄がスペインを去りました」
「うむ」
 王は力なく頷いた。
「ですが彼の心は私に受け継がれました。それが何を意味するか」
「わかっておる」
 王は言った。
「だがそれでそなたの運命は・・・・・・」
 続きを言おうとした。その時であった。
 不意に早鐘が鳴った。それは危急を知らせる鐘であった。
「何事だ!?」
 王は咄嗟に身構えた。
「陛下!」
 中庭に小姓達がやって来た。
「どうしたことだ!?」
 王は彼等に対し尋ねた。
「大変です、宮中に民衆が雪崩れ込んで来ました!」
「何っ!」
 これには王だけでなくその場にいた全ての者が驚いた。
 エリザベッタも侍女達に護られやって来た。異端審問官達もいる。
「彼等がロドリーゴを・・・・・・」
 カルロは彼等を見て激しい怒りを感じた。だが今はそれどころではなかった。
「陛下よ、これは如何いたしたのですかな?」
 大審問官もいた。彼は相変わらず左右を支えられている。
「何、愚か者共が騒いでいるだけです」
 王は怖れることなくそう答えた。
「殺せ!殺せ!」
 中庭は頑丈な扉によって守られている。その向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「来たか」
 王はそれを聞き落ち着いた声で言った。
「まずい・・・・・・」
 だが他の者は皆蒼白となっている。カルロも身構えている。
「皆の者、案ずることはない」
 王は彼等に対しそう言った。
「扉を開けよ」
 小姓達に言った。
「しかし・・・・・・」
 彼等は青くなってそれを拒もうとする。
「これは王の命令だ」
 彼は反論を許さなかった。彼等は震えながら扉に向かう。扉は今叩き壊されようとしていた。
 
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