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神への資格

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第一章  4

そのまま、この場はお開きとなった。国王と王妃は僕達の為にメイドを呼び、部屋を案内してくれる―これから暮らす場所に…。
(これからの事なんて、考えてられない…)
浮かぬ顔で、部屋までの道をメイドとエドの後ろをついて行く。今では、二年間で目標の神を目指すことすら―いや、天使のままでいられるかも分からない。このピンチをどう乗り切れば良いのかすら分からない―不安定な気持ちになる。
「リオ様、エドワード様、こちらの二部屋其々自由にお使いになって下さい」
 やがて部屋に着き、メイドが揃えた手で二つの部屋を分かり易く、指し示す。
「あたし、こっちにするぜ!」
 楽しそうに、エドが奥の部屋の扉を開け、消えて行く。
(エド…さっきの話、ちゃんと聞いてたのかな?)
これからの事を危機的に捉えていない―と言うか、授業をしっかり聞いていなかったから知らないのか、何も考えていない気楽なエドの姿に落胆と、ここは何としても僕一人で解決しなければならないという決意が生まれた。
「では、リオ様はこちらの部屋に…」
 溜息を吐いたまま、微動だにしない僕の姿を心配そうな表情を浮かべながら、メイドはエドが入っていったドアとは違う、手前の部屋を指し示した。
(今日は遅いから明日、上に戻ってこのことを報告しないとな…)
 重い心持のまま、促された部屋に入る。さっきの事だけでも気が滅入るのに、明日天界に行き、このことを説明しなければならないと思うだけで、胃がキリキリしてしまいそうだ。
(実際は、人間みたいにちゃんとした胃が存在する訳じゃないから、そんなに痛くないけど)
言葉の綾だ。こうやって説明した方が、僕の気持ちが簡単に伝わるであろう。感情的な物事において、人間の体の一部を使って説明すれば、それ以上の台詞を重ねる必要は無くなる。人間という生き物は気分によって、痛くなる箇所が違うのだから。
「リオ様、どうかなされたのですか?」
 部屋に入ろうとトボトボとした足取りで、前に進み出た時であった。ここまで案内してくれたメイドが、僕に声を掛けて来たのだ。
(あぁ…まだ居たのか)
失礼にも僕は、そのぐらいの感想しか彼女に対しては、抱けなかった。切羽詰まっている状況であるし、彼女とお話をした事が一度もないから、どの様な人物だか分からない。その為か、彼女の存在を僕は一瞬で排除してしまう。だから、簡単に僕が彼女について思った事はそれだけ―人間的に考えるならば、僕は相当失礼な男だ。けれど、僕の失礼さ加減は人間以外の生き物に対しても、言えることだろう。
「いや、少し考えてしまう事があって、心配掛けてすみません」
 とにもかくにも、メイドである立場の彼女の仕事を妨害して留まらせてしまうくらいに、僕の姿が情けなくて、迷惑を掛けていた事は確かなので本心を出さずに、謝る。ニッコリとした愛想笑いで。
「そ、そうですか。なら良かったです―あ、まだ名前を名乗っていませんでしたね。私の名前は、シリアといいます。今日からお二人のお世話をさせて貰う事になりました。以後宜しくお願いします」
(…シリアさんね)
 シリアさんは僕を見て、何故か知らないが頬を赤らめながら、自分の名前を名乗った。そんなに自分の名前を名乗る事が、恥ずかしい事なのだろうか?さっぱり判らない。
「こちらこそ、宜しくお願いします―シリアさん」
早速覚えた名前を呼んでみた。すると、シリアさんは急に慌てだした。
「で、では、私はこれで。ほんの些細なことでも、何かありましたらお声をお掛け下さい。失礼します!」
(熱でもあるのかな?)
彼女の去り際の蒸発しそうな程、真っ赤に染まった顔を見て、僕は思う。
「まっ、いいか…僕も部屋に戻って、ゆっくり休もう」
 色んな事が起り過ぎて、自分の頭がパンクしそうだ。情報の収集を行う為にも、睡眠という物は必要不可欠だ。眠い時に何も考えられなくなってしまうのと同様に、回らなくなった頭で何を考えても、良い案は出て来ない。たまには頭を休めてやることも、必要だ。
 寝るモードに入った者というのは、全てを一旦諦めるためか、何もやる気が起きない。僕は持って来た―と言っても、本当に使う大事な物しか持って来ていないが、背に背負っていたリュックを部屋のその辺に投げ捨て、思いっきりベットに倒れこむ。
そのまま…寝よう、という処に邪魔が入るのは定番中の定番で、まさしく僕もそのルールから外れることは絶対に無いのだと思い知らされる。まあつまりは、人が居たという事。彼を『人』と捉えてはいけないが、僕ら『人間ならざる者』には、例える存在が必要だ。だからこの場においても、『人』と言う以外に、他に言葉が無い。
「……何なんですか、ローズさん」
 朦朧とした意識の中、僕は寝ずになんとか話し掛ける事に成功した。本当は彼の事なんか放っておいて、寝てしまっても構わないのだが、やっぱり目上の人は立てておいた方が良いので、頑張った。
「いやぁ、久し振りだね!優等生君!」
(だから、用事は何だって聞いてるのに…)
 ローズさん―僕達の直属にあたる上司の彼は、僕がした質問には答えずに、愉快に挨拶をしてきた。これはこれでいつものことなので、特に気にならないと言うか―もう呆れることしかできない。自分の先輩として当たってしまった不運を自ら、励ましていないとやっていけない。
「こんばんは…お久しぶりです…」
ここはグッと我慢して、穏やかに挨拶を返す。ローズさんの面倒くさい所は、僕の問いにちゃんとした答えを返してくれないこと―例えば、さっきの時もそうだった。後は、まるでこっちが何を聞こうとしているか気づいていて、その質問に答えたくないのか、話を逸らしてくる所。
(でも、これに対しては何となく分かる。それが先輩が『所属する派での能力』なのだから)
「新しい環境の場所に移って、まだ慣れなくてお疲れのところ悪いのだけどね、私は君達に―と言いたいけれど、部屋は別なんだね…まあいいか、君だけに話しておけば」
 新しい環境って言いますか、ここら辺で昔住んでいましたし、慣れるも何も今日来たばっかりですから。
(それに、女であるエドと同じ部屋な訳ないでしょ)
この家の人達が、男と女が客として来ると聞いて、同じ部屋にならない様に配慮するのは僕も解かっていた。そもそも常識的に考えて、人間の恋人同士を同じ部屋に入れるのだったらまだしも、僕とエドは…そういった関係ではない。いくらパートナーだとしても、仕事上の関係だ―悲しいことだけど。
 しかし一つだけ言えることは、もしエドと同じ部屋だったとしても、僕は絶対に興奮はしない―性的な意味で。普通だったらするかもしれないけど、僕は人間の時女でエドは男だったのだ。体の作りぐらい覚えているから、興奮のしようがない。それに、結構萎えるよ?昔女だったのに、女に対してするって…。
(―おっと、いけないいけない)
 こんな話語っちゃいけない。仮にファンタジーなのだから、こんな夢のないことを出だしから書いちゃ。内容も少しずれてしまった。気を取り直して―
「話というのは、何の事でしょうか?」
 そう、これだよ僕が言おうとしていた事は。
ローズさんは、嬉しそうに頷いた。
「それはね―『試練』の内容の説明だよ」
次の言葉を聞いて、僕は体を身構えた。
(神になる為には、『試練』を乗り越えなければならない…)
そうだ。学園を卒業する時に、僕達候補生は最高幹部の神に、祝福の言葉と共に神になる為の適正試験があるのだと聞いていた。
(だから今、僕らは人間世界に降り立っているのだけど)
遂に、そのルール説明がされるのだ…。以前ローズさんに聞いても説明して貰えなかったことを。
「―と言う事は、もう『試練』は明日から始まるのですか?」
 先程までの眠気はまるで嘘みたいに、頭が冴えている。きちんとした態勢になり、次の言葉に耳を澄ませながら、待つ。この場所にエドが居ないことが惜しいが、でも逆に居たら話がはかどらないかもしれないし、話の内容を理解することが出来ないだろう。
「いや、『試練』は何時始まるか分からない」
(……え?)
 自分の耳を一瞬疑ってしまう。だってローズさんは『試練』の説明をする為に、ここまで来た。と言う事は、明日かそれとも今週中かと思っていたのに―。
「何時、『試練』が来るか分からないんですか?僕らの事を試しているのは、そちらだと言うのに」
 候補生を試す為に、ワザと『試練』の日を教えないのか、それともローズさんが忘れてしまっただけなのか…。
(それだったらただの馬鹿だ)
 ローズさんが馬鹿だろうと何だろうと、僕には関係のないことが、『試練』の内容や日にちを忘れられては困る。何せ、僕らが神になれるかなれないかがかかった試験だと言うのに…。
「おっと、今私のことを馬鹿だとか、思っただろう?残念でした、そんなんじゃないよ。『試練』は、己を試す為に有る物だ。だから、こちら側はセッティングしないんだ」
 いつもそう、僕は何も言っていないのに心が読めるのかどうかは分からないが、何を考えているのか当てるのが得意な人だ。初めて会った時から。
(こちら側は、仕掛けてない?)
仕掛けてないって…一体どういうことだ?
「分からない、って顔してるね優等生君―単純な事なのに、頭が良過ぎるせいか簡単な答えも見えないのか。じゃあ、逆に聞いてみるとしよう」
 ローズさんは少し間を置き、僕を試すような目つきで見てくる。その様子が、僕の知っている適当な人生をこれまで送ってきただろうと思わせる、ローズさんの顔ではなかった。
「―君は、これから先神になると言うのに、僕達が指定したレールを何ともなしにこなし、神になってからも、その道の上をただ言う事を聞いて歩いて往くのかい?」
神になったのに、他の神―僕達からすれば、上司にあたる人の言った事をそのまま忠実に聞いて、仕事をするのか?ということか。
人間社会では、上司の命令は絶対だけど、僕達の目指す神職では…。
「神は人々に希望や幸せを与える事が、第一の優先事項です。ですから、他人の言うままに従い行動するのではなく、自らの判断で何処まで対処できるかが問われます」
 これで合っているかなんて分からない。人によって考え方は違うし、取る行動だって異なる。でも、自分で何かしらのアクションを起こさなければ、始まらない。人生は誰かに決められて、進むものではないのだから。
「合格!流石は期待の新人で、僕の最有力部下候補!」
(この人、何処まで本気なのか分からないよ…)
 まぁ、褒めてくれているみたいだから、悪い気はしないな。
「そんな訳で、優秀な君に大きなヒントをあげるよ―人間だった時の自分の記憶を思い出してごらん。良い事も悪い事も、全部、ね。それがこれからの勝負の勝敗を決めるよ…二人の記憶が」
僕の記憶―あの辛くて忌々しい、今すぐにでも消し去ってしまいたいものが?しかも、僕とエドの記憶がヒント?さっぱり解からない。
「有り難うございます。何の事だか今は解かりませんが、そのヒントを頼りにします―それと」
今にも飛んで帰りそうな、ローズさんの服の袖を僕は掴んだ。逃げられない為に。
「な、なんだい?リオ君」
突然の大胆な僕の行動に驚いたのか、僕の名前をちゃんと呼ぶ。
「…居候要請許可書に、勝手に僕達の素性がばれる内容の手紙を一緒に、入れましたね」
 もはや僕は先輩を敬いもしない、冷めた目線を送り、袖を掴む腕に一層力を込めた。ローズさん以外に有り得ない事実と、これを逃したらしばらくは追及出来ないから、余計に。
「いやぁ~ばれちゃったか。君の頭はやはり素晴らしいね!天使にしておくのがもったいない。いや、ホントに!?」
褒めたって許せる筈ないじゃないか。それぐらい大事な事柄を、貴方は暴露したんだと分かって欲しい。いや、分かれ。僕は聞く前から怯えきっているローズさんの襟まで左手を持っていくと、そのまま上に持ち上げ、見降ろせるようにした。
「ローズさん、ハッキリ言って下さい。貴方がやったんですよね?」
 尚も睨みを利かせ、下からローズさんの顔を見る。
「べ、別にばれても大丈夫なんだよ!まだ君達、天使だから!」
無駄な抵抗は止めたのか、震える声で本当の事だか理解出来ない事を言う。いつもここまで、素直だったら絡み易いのに…。
「そうなんですか?怪しいですよ、ローズさん…」
この人の話は、半分本気半分冗談で捉えるに限る。丸っきり信じてしまうと、痛い目を見るのは僕達だからね。
「いや、私の言う事信じてくれよ!」
懇願にも似た、声が部屋の中で響いた。

 
 

 
後書き
一週間近く投稿が遅れました、(でん)です。
プライベートで色々と忙しかったので、すみません。
今回は前回の話より少し長めです。
そして、主人公とヒロイン以外の重要人物の登場です。
最初に投稿した時に比べ、少しですが読者の方が増えてきたのでとても嬉しいく思います。
未熟者ですが、(でん)を宜しくお願いします。
更新は不定期なので、ご了承下さい。 
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