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ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士

作者:涙カノ
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第72話 =現実のひと時=

あのあとログアウトボタンまでウィンドウを流れるように開いて現実へ帰還したあとナーヴギアを外してから再度ベッドに倒れてそのまま眠った。そして

――――――――――――


「ピャーーーーーッッ!!?」

「……んぁ?」

と、突然の悲鳴が聞こえ、それがいい目覚ましになり俺は目を覚ました。だが完全に目が覚めたわけではないので寝ぼけ眼で窓を開け下を見ると直葉が首元を押さえうずくまっている。

「……どうした?」

「お、おはよー…陸也……聞いてよ、お兄ちゃんがー」

と、直葉がぶんぶんと腕を振って説明してくれる。どうやら昨晩、キリトがリーファにやられた雪の塊背中に入れるという行いを直葉にやってしまったらしい。水道管ごと水が凍ってしまうんじゃないかという季節、それなのに無防備な背中に水滴は苦行でしかない。当然、直葉にもそれは苦行であんな声がでてしまった…というわけだ。

「アハハ……」

もう苦笑いしか出来ない。とにかく、目を覚ますために冷たい空気の入ってくる窓を閉め中で顔を洗う。あいつみたいに冷たいので無理やり目を覚ますのは急いでるときにしかしたくないのでぬるめのお湯でバシャバシャと。和人と直葉の親である翠さんは仕事のせいか深夜に帰宅したらしくまだ寝ているのでそのままにしておこう。直葉はいつものトレーニング、和人も今日もそれに付き合っているらしい。俺もトレーニングするべき……なんだけど本音を言ってしまえばそこまでの余裕が無い…。

「…メールきてた…美菜実からか」

軽く画面をタッチし内容を見ると『昨日はお疲れ様、今日もガンバロー!』と絵文字やら顔文字やらでコーティングされたいかにも女子らしいものが一通。今日もってことは世界樹攻略も手伝ってくれるのか…?

「昨日は本当にありがとう、めちゃくちゃ助かった……っと」

呟きながら本文を打ち、送信すると数分もせずに生まれた意味を知るRPGの主題歌が着メロとして流れる。返信の速さに驚きながら内容を見ると2、3行でいろいろとあったが最後、4つくらい改行をして『早くちゃんとこっちに帰って試合やろっ?』という一文が。…そんなわかりやすかったかな、俺って。

「ありがと……とりあえず…朝飯だな」

感謝を口に出して、ケータイをしまう。とりあえず、サラダやらなんやらを適当に作っておくか。

―――――――――――

朝食をいろいろと作っていると扉の開く音がしてそこから和人と直葉がテクテクと歩いてくる。直葉のほうはいまだに膨れていたが「好きなもの奢ってやる」という和人の太っ腹発言に宇治金時ラズベリークリームパフェなるものを頼んでいた。なにそれちょっと食べてみたい…と興味も涌いたが値段が値段なのか引きつった笑顔で和人はOKを出していた。

「そういえば、今日は2人ってどうするの?」

サラダを口に運ぼうとした直葉はきゅうにそんな事を聞いてきた。

「うーん…午前中は特に用事ないからユカのお見舞いに行こっかなって考えてるけど………和人は?」

「俺も、アスナのいる病院へ行こうと思ってる……これくらいしか出来ないからな」

「……そっか」

話の内容が朝にはふさわしくないちょっと暗いものだったためか静けさがあたりに満ちる。さすがに耐え切れないのでいき過ぎかもしれないけど口を開こう。

「あのさ、直葉も一緒に来ればどう?」

「え…?…い、いいの…?」

「もちろんだって、な」

「陸也の言うとおりだ、アスナもきっと喜ぶよ」

俺と和人の言葉に直葉もこくりと笑みを浮かべて頷いたが、その表情はなにか浮かない…というか微妙な影のようなものが現れているのを見逃せなかった。だが、それもすぐに消え去りさっき運ぼうとしたサラダを改めて口に入れる。

ふぉういふぇば(そういえば)……」

「食べながら話すなよ、スグ…」

「エヘヘ……お兄ちゃんたちって学校どうするの…?」

直葉は照れ笑いを浮かべながら最もな疑問を聞いた。言われてみれば和人は義務教育中の中学2年でSAOに囚われてそこから約2年で普通なら今は高校1年で先生に「後輩が入ってくる云々」とかいわれる時期だ(作者が先生に実際に言われたらしい)。
俺も今まさに大学入試シーズン…というかセンターがついこの間終わったばかりだがもちろんそんなもの受けてないし今から受けようにも無理があるだろう。

「ええっとな……確か都立高の統廃合で開いた校舎を利用してSAOから帰還した中高生向けの臨時学校みたいなのを作るとか言ってたな…。入試無しで受け入れて、卒業したら大学受験資格もくれるらしい」

そういえばあのメガネの公務員が言ってたな、そんなこと。

「……なんかそれ、十把ひとからげに対応しすぎな感じが……」

「多分、それが狙いだよ。心とかに影響を受けやすい年齢にデスゲームに参加してた俺たちだからどんな影響を受けてるのかが心配なんだと思うよ、政府の皆さんは。ばらばらよりか面倒見るからってことで一箇所に集めた方が安心だし効率もいいと思うし」

俺の言葉に直葉はくしゃりと顔をゆがめるので慌てて和人が付け加えてくれた。

「でも、管理云々はさておいても、セーフティネット的な対応をしてくれるのは有り難いよ。たとえば、俺が今から普通に高校受験しようと思ったら今年1年予備校なりで勉強し直さないといけないしさ。もちろん、臨時学校も強制収用じゃないから実力で受験する選択肢もあるにはあるだろうけど…」

「そうしても大丈夫だよ!お兄ちゃん成績いいんだしさ!」

「いや、さすがに無理があるよ…それは。和人なんて丸々二年向こうの記憶でいっぱいだよ?」

「うぅ……な、ならあたしが家庭教師してあげる!!」

「ほう、なら数学と情報処理をお願いしましょうかな」

その和人の言葉に小さな声を出して無言になっていた。どうやら直葉はどちらかというと文型タイプらしく今和人の言った教科が苦手中の苦手らしい。
それにしてもこれからただの学生として生きていくっていまだに実感が持てないな…。美菜実の言ったとおりまだ帰ってきてない人たちがいるから俺も本当に帰ってきてないかもしれないし、あの世界が今の現実よりも生きているという感覚が鮮明になっていたせいかもしれない。
でもまずは、目の前のことを片付けてから考えよう。まずはそれから…それが終わったらやっと始まるんだ。


――――――――――――

和人の携帯端末で3人分を一気に払い路線バスから地面の上へと降りた。直葉もいるということで今日は自転車ではなくバスを使いここまで来た。

「うわぁー、大きい病院だねぇ…」

「俺も何度来てもこの大きさには驚かされるよ」

「だな。でも中はホテル並だぞ」

すっかり親しくなった守衛に手を上げて顔パスでゲートを通過する。そして自転車ですら結構かかる並木道をただ歩く。というかここだけは完璧にデザインミスだと思う。外歩ける程度の病人とか俺たちみたいな健康な人でも結構辛いよこの道。
しばらく歩いてブラウンの建築物の中へと入り、これまた親しい受付の人に面倒な手続き無しで通行パスを発行してもらい珍しいものを見た子供みたいにきょろきょろ動く直葉を引っ張ってエレベータへ。外の道と違いエレベータに乗るのは数分だけで人気の無い最上フロアで降りてあの2人の病室のところまで歩く。

「じゃ、またあとで。アスナによろしく」

「わかった」

和人にそう告げて俺は悠香の部屋の前にある金属プレートにパスをスライドさせる。直葉は向こうの方へ先に行ってあとからこちらにも来るらしい。
滑らせきると自動でドアが開き花の香りが廊下に流れ出した。別段緊張というものはしてないけれどいつものように軽く起きている事を願いながらそっとカーテンをめくる。だがそこにあったのはあまり変わっていない体だけ。もちろん目覚めているわけもなくちょっとの期待がこんなにも傷を抉られるのか……いつものことだけれどやっぱり、寂しいようなそんな感情が生まれてくる。でもこれもようやく関係が修復しかけてるんだなって実感もできる。
多分、これを和人とかに話せば驚かれるかもしれないけど俺たちは仲のいい幼馴染…ではなかった。
中学序盤から中盤くらいのときまではよく話してた覚えもあるけれどある時、ちょっとした…本当に些細なことで喧嘩が俺と悠香の間で起きてしまってそれ以来だったような気がする…。いつもなら1週間もすれば互いの頭も冷えてどちらか…もしくはどちらもが謝るのだけどあの時はそういうのを気にするデリケートな時期だったのか、外野からの冷やかしのせいでどんどん亀裂が深くなっていき中学最後の時はほとんど話さなかった。

「…そう思うと……やっぱ複雑なんだよな…」

昔のような関係は戻って嬉しい、でも関係が修復したきっかけのせいで囚われているところを見ると悔しい…その気持ちがグルグルと渦巻いている。この気持ちを解消するにはこちらにでもう一度話さないといけない、そのために今日の3時からまたあの世界で…。と、決意した瞬間扉を開く音が聞こえそちらを見ると直葉が入ってきていた。

「そういえば…ユカさんもキャラネーム本名なんだ……珍しいね」

「結構詳しいんだね。ゲームとかは疎いって思ってたけど」

思ってたというよりかはちょっとした注意みたいな感じでそう和人から聞いただけだけで、その時のことを軽く思い出しながら直葉をベッドのほうへ誘導する。

「そういえば、和人はどうあってアスナのこと紹介してた?」

「…う、うん。えっと『《血盟騎士団》副団長、《閃光》アスナだ。剣の速さと正確さでは俺も最後までかなわなかった』…って言ってくれたよ」

和人らしい説明に少しの苦笑いを顔に浮かべる。

「…だったら俺もそうやって紹介するけど…」

「うーん、普通にお願い…」

「だよね…わかった。まぁプレート見たり俺が話したりしてもう知ってると思うけど……彼女が結城悠香。隣のアスナの姉で小さい頃からの知り合いだからいわゆる俺の幼馴染。一応向こうのことも言うと同じギルド仲間で投剣を駆使して回復や攻撃で大活躍だったよ。……それでつけられた二つ名が《疾風の天使》」

「へぇ、天使…かぁ…。なんだかぴったりな感じがする」

「ちょっとしたことで怒らすと天使から魔王へとジョブチェンジするけどね」

少々騒ぎすぎて俺だけに投剣が飛んできたり酷いときには朝起きてまた二度寝しようと思うときに時々だけど同じく投剣が飛んできたり…。日常生活でそんなに使うなよって程に使ってきたことを思い出した。

「…ユカ、あいつの妹の桐ヶ谷直葉だよ」

もちろん、ベッドからは返事はするはずもなくその昔とあまり変わっていない身体を生かすための医療機器が出す無機質な機械音しか聞こえない。だがそれでも直葉は自分からユカへと声をかけてくれてそれがとても嬉しく感じた。
いつ帰ってくるのか、いつ帰らせることが出来るのかわからない今の状況よりも過酷なものをここにいる直葉は和人を見て、美菜実は俺を見て感じていたのだろうか…。もしそうならそれよりも長い間、この過酷な状況を事故だと思って耐えている人もいる…その人たちのためにも早く『ソードアート・オンライン』を終わらせないといけない。

「……待ってろよ…」

「何か言った?」

「いや、なんでもないよ。…さ、帰ろうぜ」

「……うん。お兄ちゃん呼んでくるね……」

時間を見るとすでに2時近くなっていて今から帰れば約束の時間には十分に間に合うだろう。直葉も和人を呼びに部屋を出たがその声はいつもよりか元気がないように聞こえた。


――――――――

「…リーファ、どうしたんだ?」

家に帰って時間ほぼぴったりにログインするとすでにリーファがログインしていた。なんでアバターの残るALOで男女が同じ部屋でログアウトしたかというと別々の部屋を取る時間的余裕がなく睡魔が襲ってきたからという簡単な理由だ。

「リクヤ……君…?…キリト君…は?」

そしてゆっくりと顔を上げたリーファは、その瞳に涙を浮かべている。それは止まることはなく次第に頬を流れていった。

「キリトはまだログインしてないよ。……何か、あった?」

「……あのね…あたし、……あたし…失恋しちゃった…」

涙を流したまま見てくるその顔は笑みを浮かべているがそれも無理やりに作った笑みにしか見えず何かを我慢しようとしているのが伝わってくる。

「ご…ごめんね。会ったばかりの人にこんなこと言っちゃって…。ルール違反だよね、リアルの問題を持ち込むのは…」

「そんなことはないって。…リアルの問題を持ち込むのがルール違反なら俺とキリトはずっとルール違反してることになるよ。だからリーファも辛かったら泣いてもいいと思う」

いつかやったようにリーファの頭に手を乗せて軽くポンポンといたわる様に、撫でるように叩く。その時、この部屋に誰かがログインしたことを知らせてくれる涼やかな効果音が鳴り響いた。

「…何か、俺タイミング悪かったか?」

その声がした方向を見ると黒ずくめの妖精、キリトがすでにログインしていた。

「ううん、そんなことないよ」

「ならよかった。……リーファもこの世界だからって感情を隠す必要はないさ」

「うん、うん……ありがとう…2人とも……」

リーファはお礼をいいながらしばらくの間泣き続け、その間少しでもリーファの気持ちが落ち着くようにとずっと俺は彼女の頭に手を乗せて撫でていた。
やがて、どこかで何時かを知らせる鐘が鳴りそれを機にリーファは顔をあげこちらを見てきた。その表情は先ほどの我慢したようなものを含んだものではなくいつもの元気なもののように感じた。どうやらそういう感情は涙でしっかりと流すことが出来たらしい。

「……もう大丈夫。ありがとね、リクヤ君、キリト君」

優しいんだね、と続けざまに言われそういうことを言われなれていないキリトは顔を赤くして照れていた。さらにそれを隠すようにあさっての方向を向いて頭をかく。

「お前も赤くなってるぞ」

「……俺は悪くねぇ……」

言われなれるとかなれないの問題じゃなくて多分、こんなことを言われたら面と向かって言われたら大半の人が照れると思う。人間が出来てないからしょうがないよな、うん。

「んー!!……、わたし、遅れちゃったみたいだね。……何かあった?」

涼やかな音とともに大きな伸びをしながら最後の1人であるサウスがこちらへ歩いてきた。

「ん、いや…なんでもないよ」

「へぇ~…なんでもない、ね……」

「そういえば、なんでサウスは遅れたんだ?」

理由を聞くとサウスは呟くと同時にその身体を振るわせる。キリトがその理由をさらに聞こうとするとに手のひらを向けてそれ以上は…というジェスチャーを声とともに出しておりいつも見せないその姿にびっくりしたのかキリトも思わず「お、おう…」と頷いていた。

「リーファもだけどサウスも大丈夫か?……今駄目なら落ちるか?…あとは俺たちでも大丈夫だと思うし」

「大丈夫、わたしをなめたらいけないよ」

「アハハ……でもあたしもいくわ。乗りかかった船だもん、最後まで付き合うよ」

リーファはサウスに苦笑いするとこちらを向いてそういうと勢いをつけてピョンとベッドから立ち上がった。

「さ、行こっ」

「あぁ!!……そういえば、あと1人足りないような…」

「あ……ユイ、いるか?」

キリトの言葉が終わらないうちに4人の中心に光が凝集しおなじみのピクシーが出現し眠たそうな瞼をこすりながら大あくびまでしていた。

「ふわぁ~~~~……おはようございます、パパ、にぃ、リーファさん、サウすさん」

ストンとキリトの肩に着地したユイはすでに眠気は飛んでいるようで元気ハツラツだった。

「おっはよユイちゃん。それにしてもずいぶん眠たそうだったね」

「おはよう。……昨日も思ったんだけど…ナビピクシーも夜は眠るの?」

「まさか、そんなことはないですよ。でもパパがいないときには入力経路を遮断して蓄積データの整理や検証をしてますから、人間の睡眠に近い行為と言ってもいいかもしれません」

「でもさっき大きなあくびを…」

「人間って起動シークエンス中はああいうことするじゃないですか。パパなんて平均8秒くらいやってますよ。にぃも長いときでパパ以上やってますし」

「うるさいなー」

「妙なことは言わんでよろしい」

小さな頭をぺチンと叩いてそのあとキリトのデコピンを喰らったユイはその衝撃で肩から落ちかけていたが、何とか堪えてキリトの肩に留まって文句を言っていた。その声は無視してキリトは黒い大剣を、サウスは盾と長剣を、リーファは自身の長刀を装備し俺はあの折れた野太刀の代わりにキャリバーンを装備する。

「さて、行こうぜ!」

「だな!」

「うん!」

「はーい!」

それぞれ、キリトに返事をして恐らく穴場である激安宿屋を出るとそこには見たこともない信じられないような風景が目の前に広がっていた。




 
 

 
後書き
涙「さぁ、どうでしたか今回の話!!」

リ「……カルマ、お気に入りなの?」

涙「ま、バンプ曲で初めて知ったのはカルマだね。友達とカラオケに行くたんびに新しいバンプの歌を聴くけどお気に入りっちゃお気に入り」

リ「へぇ…ならアビスは?」

涙「アビスは…大佐が須郷でしょww」

リ「中の人ネタだな…しかもどっちもメガネかけてるし……」

涙「でも子安さんめっちゃいい人なんだよ!!アスナ役の人にアフレコ前に「ゴメンね」ってマジ謝りしたらしいし」

リ「……尊敬したい…」

涙「すでに尊敬してます!!ってことでではっ!!」 
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