管理局の問題児
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第1話 これからの就職の話をしよう。
「お前らはクビだッ!!!」
怒号が飛ぶ。
怒鳴っているのは中年太りをした一人のオッサン。名前をジム=ローランズ。
時空管理局陸士245部隊の部隊長をしている。まあ、部隊長といっても、金とコネで成り上がった実力の伴っていない人物ではあるのだが。
そんな現在の時空管理局の腐敗を象徴するかのような男にクビを宣告されているのは、3人の少年少女。
一人目は黒髪に整った顔立ちの青年で、制服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体が特徴だ。やる気の無さそうな目に、面倒くさそうな表情で、折角のカッコよさが減ってはいるが。
二人目は金髪碧眼の美青年。一人目に比べ爽やかで、まさにイケメンと呼ぶに相応しい外見で、女性に非常にモテそうである。多少、いや、かなり軽薄そうな印象を受けるのが唯一の欠点か。
三人目は、黒髪ショートヘアーの絶世の美少女。鋭く、獰猛な印象を抱かせる目が、彼女の性格を良く表しているが、スタイルも抜群なので、男性にとてつもなくモテそうではある。しかし、他の二人がある程度制服をきちんと着ているのに係わらず、彼女は胸元を大きくはだけさせ、スカートの丈もかなり短い。
そんな三人。
見た感じから完全に問題児ですオーラを漂わせる彼らは、現在職を失う一歩手前だ。
「ちょっと待ってください。他の二人はともかく何で俺までクビなんですか」
一人目の青年がそう言った。
青年の名前は無剣リク。18歳である。
「黙らんか馬鹿者!!お前が一番ドデカい問題を起こしたんだろうがッ!!」
先程の倍以上の青筋を立てて喚き散らすジム。
「ぶははは!ざまあみろ!!」
ジムの言葉に封殺されたリクを嘲笑っているのが、二人目の金髪碧眼イケメンの御剣レイ。同じく18歳。
「貴様も黙れッ!!」
これまたジムの怒声で封殺。
そんな上司に、同じく青筋を立てて反論する最後の一人。
「ったくイチイチウゼェんですよ豚野郎。第一アタシ達が何したっていうんですか?」
そう言ったのは絶世の美少女である剣葉アキ。これまた同じく18歳。
その余りにも不遜で、嘗めきった態度に、ジムの我慢は限界を超える。
まあ、さっきから超えていた所はあるが、ようは物凄いブチ切れていると言いたいのである。
「このクソ共がぁぁッ!!!自分達がやった事の重大さを理解しとらんのかッ!!?」
そう叫び、空中にディスプレイを映し出す。
そこには三人の度重なる問題行為が明記されていた。
軽いものではデスクワークのサボりから、大きいものでは上司に対する暴力など、様々である。
ちなみに上司にたいする暴力は前の部隊をクビになった理由だ。
リクは5回、レイも5回、アキは3回、部隊をクビになり転属している。いわば管理局を代表する問題児達なのだ。彼らは。
「これだけの問題行為をしているにも係わらず全く反省の色が見られないッ!!そして今回の不祥事!!最早お前らのようなクズにはうんざりだっ!!!」
「はあ…」
「ぷぷ、顔真っ赤」
「そんな怒鳴って楽しいか?」
三人の反応は完全にバカにしている。
その事に再び怒鳴りそうになったジムだが、これで目の前の三人と別れられると思い、何とか踏みとどまる。
「…まあいい。では、今回のお前らの問題行為と、それに対する処罰を言い渡す。まず剣葉アキ」
「はいはい」
「複数の男性、しかも結婚、又は恋人がいる男性と肉体関係を持ち、その映像をパートナーである女性に送り付け、関係悪化を意図的に行った。違いないな?」
「そうですね。問題ないです」
と、どうでもよさ気に言うアキ。
「な、なんて下種な事を…」
「と、とんでもねえクソ女だぜ…」
リクとレイの二人は戦慄を浮かべて呟く。
アキの予想を遥かに超えた問題行為を知らされて、驚愕を通り越し恐怖すら感じているようである。
アキは、そんな二人を殺しそうなレベルの視線で睨む。
「ちなみにこの中に何人か提督も入っている」
その言葉で、男二人は更に驚愕。
―――こ、こいつ提督にまで手を出すとは…。
問題行為を通り越して既に犯罪なのではないか?と思うレベルに入っている。
にも係わらず部隊からの除籍で済んでいるのが、二人にとっては不思議でならない。
「よって剣葉アキ、お主は陸士245部隊を除籍処分とする。次、無剣リク、御剣レイ両名」
「はい」
「ういっす」
「お前たちは先日、一日で女性を何人抱けるかという非常に下らん遊びを、制服を着て真昼間から堂々とナンパを行い、何人もの女性と関係を持った。違いないな?」
「いえ、ちょっと待ってください。あれはお互い合意の上でした。それに彼氏とか夫がいたとかそういうのだってありませんし、あの日は俺とレイはどっちも酔っ払っ―――」
「違いないなっ!!?」
「はい。正しいです」
簡単に屈したリク。
隣でレイが「雑魚っ!?」と言っているが、レイ自身は自分がどうなるかというのに対し、どうでもいいと思っているので、反論はしない。
ちなみに事の詳細は、その日は二人とも非番で、酒を朝から飲んでいた結果、「一日でどれだけの女を抱けるか勝負」を行い、その一部始終をみていた一般人が、管理局に苦情を送りつけまくったのだ。ネットでも一時期相当に叩かれた。
「よってお前らも剣葉と同じように陸士245部隊を除籍処分とする。以上だ。さっさと出て行けクズ共」
こうして三人は現時点を以って無職になったのだった。
◆
ミッドチルダ中央区画にある公園に三人は集まっていた。
何故公園か、それは無職=公園という図式が三人の頭の中にあったからなのだが、まあどうでもいい。
「これからどうすんだよ…」
自業自得なのだが、無職という自身の境遇に今更ながら危機感を抱いているリクがぽつりと呟く。
「なんとかなんじゃね?」
と、深刻さゼロのレイが言う。
「ま、何とかなるとは思うがな」
先程までの落ち込みが嘘みたいにケロリとした表情でリクが呟く。
どうやら危機感など毛ほども感じてはいなかったようだ。ならば先程のは演技という事になる。非常に紛らわしい男である。
「ったくグチグチうるせえんだよテメー等は」
と、コーヒーを傾けながらアキが吐き捨てる。
アキは口が悪い。これは産まれて直ぐにアキの両親が死に、アキ自身がギャング的な組織に育てられたせいだろうと、リクとレイは思っている。
「うるせえぞこの寝取りビッチが!お前のは既に問題行為じゃなくて犯罪だろうがっ!!」
「んだと腐れ金髪!二度と女抱けねえ顔面にすんぞ!!」
普段から中の悪いレイとアキは互いに睨み合う。
そんな二人を面倒そうな表情で眺めながらリクはこれからについて考える。
(流石に5回もクビを喰らった俺を向かい入れる部隊は、いくら管理局が人手不足だといってもないだろうな。まあ、再就職の足掛かりに執務官試験でも受ける―――)
そこまで考えた時だった。
突如、凄まじい魔力の鳴動が辺りに響き渡った。
「………」
「な、なんだ?」
「これは…魔力か?それも結構デケェ」
リクは冷静に、レイは多少の動揺を、そしてアキは楽しそうな、好戦的な笑みをそれぞれ浮かべる。
三者三様の表情を浮かべる中、三方向の空間にそれぞれ巨大な亀裂が生じた。
ビキィイッ!!
そんな音を立て生じた亀裂から、怪物が―――現れた。
それも常軌を逸した大きさの、である。
「な―――」
「おいおいおい!いくら何でもデカすぎだろ!?」
「アハハハ!!こりゃいい!!」
唯一アキだけが楽しそうに笑うなか、リクとレイは驚愕に目を見開く。
が、二人は即座に冷静さを取り戻す。些か予想外過ぎる出来事なので一瞬呆けてしまったが、それで動けなくなるという愚行は犯さない。
「流石にあのデカブツを放置するわけにはいかない。俺達三人で何とかするぞ」
このまま放置すれば、あの巨大な化物は市街地等をメチャクチャにしてしまう。その前に止めるこは急務だった。
それに、部隊をクビになったとはいえ、三人は時空管理局の局員だ。一般人を救う義務がある。
「でもよ、何とかって言っても今の俺達じゃあの化物は倒せねえだろ」
リクとレイの魔導師ランクは陸戦Cランク。アキも陸戦Bだ。この値だけをみるならあの化物を倒せるとは到底思えない。
「分かってるよ。だから〈義魂丸〉を使う」
その言葉に、レイとアキの動きが止まる。
「いいのかよ?アレを使っちまったら面倒な事が起きるだろ」
そんなレイの言葉に、リクは微かに笑う。
「バーカ。人命には代えられないだろ」
そう呟くと同時に、ポケットからファンシーな形をした丸薬の入った入れ物を取り出す。細長い筒状になっており、先頭部分がウサギの形をしている。
レイとアキも取り出す。
ちなみにレイはカエル、アキはアヒルになっている。
三人は容れ物から、義魂丸と呼ばれる丸薬を取り出し、それを口に含み、そして。
ガリッ!
噛み砕いた。
瞬間。三人の身体を膨大な魔力が渦巻き、覆い隠す。天にまで届くかという程の魔力の柱に空気が鳴動する。
そして数瞬後、その魔力が弾け飛ぶ。
そこから現れ出たのは、黒を基調とした着物に身を包むリク、レイ、アキの三人の姿があった。ちなみに、リクの着物のデザインは、他の二人とは違っており、胸や、両腕等に、交差する黒い線が刻まれている。それに、レイやアキは普通の刀を腰に差しているが、リクは巨大な身の丈程もある刀を背負っている。
若干ではあるが、包丁のような形をしている。あくまで若干だが。
「久しぶりだなこの恰好」
リクが少しだけ嬉しそうに言う。
「おっしゃ!超燃えてきたぜっ!!」
レイも気分が高揚している。
「アタシは先に行くぞぉ!!」
アキは一人叫び、その場から一瞬で消えた。
戦闘に喜びを見出すアキは、強敵と戦う事を非常に楽しみにしているようだ。そんなアキを苦笑しながら見たリクは、レイに向き直る。
「レイ、可能な限り瞬殺しろ。被害を最小限に抑えろよ」
「分かってるよッ!!」
そう言って、レイもその場から瞬時に消える。
一人残ったリクも、先程までのやる気のない眼から一変して、非常に鋭い眼光を携え自分の担当である巨大な化物を見る。
黒い衣を頭からスッポリ被り、顔の部分には、鼻だけが長い真っ白な不気味な面を付けている。今までリクの知識にはない存在。
だがそんなものは関係ない。
今重要なのはあの化物を出来るだけ早く排除する事だ。
「―――いくか」
そう呟き、リクも、他の二人同様その場から一瞬で消えた。
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