幽霊の足
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第四章
すぐに裕貴に顔を向けてこう言ったのだった。
「今から横を向くから」
「それで確かめるか」
「ええ、そうするわよ」
「なければ俺の勝ちだからな」
「その場合は私がいか焼きを奢るから」
この約束は健在だった。
「それで足があったら」
「そっちの勝ちで俺がたこ焼きを奢る」
「そういうことでね」
「酒は俺は焼酎な」
「私はビールでね」
このことも話された、そしてだった。
二人同時に日下部の声がした、するとだった。
そこには海軍の黒い詰襟の軍服に帽子の端正であり引き締まった顔立ちの青年がいた、背は高く背筋もしっかりとしている。身体は実体がないらしく少し透けている。
上半身はそうした感じだ、そして足は。
なかった、裕貴はそれを見てにやりと笑ってみつきに言った。
「俺の勝ちだな」
「おかしいわね。足はあった筈なのに」
首を傾げて言うみつきだった。
「どういうことかしら」
「とにかくこれでいか焼きだな」
「ええ、わかったわ」
二人はこれで納得しかけた、だがここでだった。
日下部は二人にこう言ったのだった。
「出すことも出来る」
「足を?」
「それをですか」
「この通りだ」
日下部は言ってすぐにその足を出して見せた、実体がある場合と同じくだ。
それを見てこう言うの裕貴だった。
「あれっ、出したり消したりできるんですか」
「しようと思えばな」
「そうなんですか」
「私は幽霊だ」
だからだというのだ。
「この身体は生前のイメージだからな」
「それで消すことも出すこともですね」
「出来る、それにだ」
それに加えてだというのだ。
「身体全体がそうだ。こうしてな」
「あっ、確かに」
裕貴は今の日下部を見てまた言った。
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