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幽霊の足

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第一章

                     幽霊の足
 身体のある人間と零体を見極めるには何を見ればいいのか。
 久保裕貴は女友達の明坂みつきにクラスでこう言っていた。
 裕貴は太い眉に形のいい顎、それに黒く量の多い少し棘棘した感じの髪型である。顔は白く精悍な感じだ。
 みつきは細い眉に目をした中性的な顔立ちである。黒い髪をショートにしていて耳を見せている、背は裕貴より少し低い、ただ女子であるが制服は完全に男ものだ。
 そのみつきのズボンに覆われた脚を見ながら裕貴は言う。
「なあ、幽霊ってな」
「幽霊がどうかしたの?」
「足ないよな」
 こうみつきに言ったのである。
「そうだよな」
「足があるから生きてるって表現はあるわね」
「だよな、じゃあやっぱり幽霊って足ないよな」
「いえ、あるでしょ」
 みつきは裕貴の今の言葉にすぐにこう返した。
「幽霊にも」
「えっ、あるのかよ」
「ええ、あることはあるでしょ」
「あるのかよ、幽霊に足が」
「怪談とかでひたひたと歩いてきたとかいう話もあるじゃない」
 みつきが言うのはこのことからだった。
「だったらね」
「幽霊にも足があるっていうんだな」
「そう思うけれどどうかしら」
「ないだろ、やっぱり」
 だが裕貴はこう言う。
「幽霊にはな」
「そう言う根拠はそれよね」
「ああ、足があるから生きてるって言うからな」
 裕貴は熱い調子でクールなみつきに返す。
「だから幽霊に足はな」
「そういうことね。私はあるって思うけれどね」
「何かかけてる感じだな」 
 裕貴はみつきとのやり取りからそうなっていることを察した。
「そんな感じになってるよな、今」
「そうよね。じゃあ若し幽霊に足があったら」
 みつきも話題に乗った、身振り手振りを交えて話す裕貴に対して実にクールな口調で話してのことだった。
「たこ焼き食べ放題でいいわね」
「高いか安いかわからねえな」
「あんたが買ったら烏賊でいい?」
「蛸に烏賊かよ」
「そう、あんたが買ったらいか焼き食べ放題をプレゼントよ」
「これまた高いか安いかわからねえな」
「ビールもあるから」
 炭水化物にはビールだ、この組み合わせも話に出た。
「そういうことでいいわね」
「八条神社の前の屋台だよな」
「あそこでね」
 二人が通っている高校がある町で最も大きな神社だ。その入り口にはいつも屋台が並んでいてそこに美味しいたこ焼き屋といか焼き屋もあるのだ。
「それでいいわね」
「どっちも一皿百円だしな」
「三十皿で三千円よ」
「そこまで食うのかよ」
「ビールは五〇〇ミリリットルを一九八円でね」
 実に具体的な値段である。
「それを六本」
「結構飲むな」
「あんたもそうしていいから」
 若し幽霊に足がなければだというのだ。
「それでいいわね」
「俺焼酎派なんだけれどな」
「じゃあ四リットルの焼酎をどかんとね」
「焼酎を一度に四リットルも飲めるかよ」
 裕貴はそこまで酒が強くはない。焼酎なら一リットルが限度だ。
「まあいいさ。じゃあ幽霊に足がなかったらな」
「いか焼きだからね」
「あったらたこ焼きだな」
「早速幽霊に会いに行くわよ」
 みつきは話が決まったところでこう裕貴に言った。 
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