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ロミオとジュリエット

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第一幕その五


第一幕その五

「そのことは。許されませんか?」
「いえ」
 ジュリエットにロミオの今の目を拒むことは出来なかった。顔を背けることも。
「それでは貴方は」
「頂きたいのです」
 彼はまた言う。
「貴女の御心を。なりませんか」
「返して下さいますか?それは」
「かわりに私の心を差し上げます」
 ロミオはそう返した。
「ですから」
「貴方はどなたなのですか?」
 ジュリエットはロミオの顔を見上げて問うた。
「一体。どなたなのでしょうか」
「僕ですか」
「はい、御存知だと思いますが私は」
「ジュリエットですね」
「はい。キャブレット家の」
「そうですか」
 それを聞いて一瞬悲しい顔になった。
「それが何か」
「いえ」
 だがロミオはそれには答えなかった。
「何もありません。ですが」
「はあ」
「それで僕の名前ですが」
「何と仰るのですか?」
「ロミオです」
 彼は自身の名を告げた。
「僕の名はロミオなのです」
「では貴方は」
「はい」
 悲しい顔が仮面の下に浮かび上がった。
「どうしてこんなところに来たのか。今は後悔しています」
「何故。こんなところで巡り合ったのか」
 ジュリエットもまた悲しい顔になった。
「一目で心を奪われて」
「もう離れたくはないのに」
 二人はそれぞれの口で述べる。
「どうして」
「巡り合ったのか」
「おい、ジュリエット」
「あっ、はい」
 悲しみは中断された。二人の側にティボルトがやって来たのだ。
「大変なぞ、すぐに下がれ」
「どうしたのですか、一体」
「敵がこの中にいるそうだ」
(まさか)
 ロミオはそれを聞いて勘付いた。仮面のおかげで素顔はわからないが。
「モンタギュー家の刺客が紛れ込んでいるらしい。既に叔父様は下がられた」
「そうなのですか」
「御前も下がれ。ここは私が敵を探し出す」
「わかりました。では」
(ロミオ様)
 密かにロミオに囁く。
(ここは)
(うん)
 ロミオもそれに頷く。
(わかったよ。けれど)
(また御会いしたいです)
 ジュリエットに今言える言葉はそれだけであった。
(ですから)
(また。僕も会いたいよ)
(それでは)
 ロミオはこっそりと姿を消した。そしてモンタギュー家の者達は一人ずつそっと宴の場から姿を消した。全てはロミオの配剤であった。
「お兄様、敵は」
「素早いな、いなくなったようだ」
 暫くしてジュリエットはティボルトに声をかけた。従兄の返事は浮かないものだったがジュリエットにとっては喜ぶべきものであった。
「そうなのですか」
 内心に嬉しさを隠して応えた。
「ああ、だが大胆な奴等だ。これからはそうはさせないが」
「モンタギューの家が憎いのですね」
「憎くない筈がない」
 ティボルトの声は憎悪で燃えていた。
「私もキャブレット家の者だ。そして御前も」
「はい」
 ジュリエットは悲しみと辛さを隠して頷いた。
「キャブレット家の者です」
「そうだ、キャブレット家の真の繁栄はモンタギューを倒してこそだ」
 彼は言う。
「だからだ。わかるな」
「わかっています」
 ジュリエットは俯いていた。だからディボルトは彼女の表情には気付かなかった。その悲しみに。
「キャブレットの名にかけて」
 彼はモンタギューの者達を討つと誓っていた。だがジュリエットは違っていた。愛を感じていた。自分ではどうしようもない愛をである。
 
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