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灯り

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第四章

「そこも楽しみじゃ」
「とにかく楽しむことですか」
「それが大事なのですか」
「そうじゃ。では学問じゃ」 
 百歳を超えてもまだ読んでいるのだ。
「御主達も読むか」
「はい、では今は」
「何を学ばれますか」
「明朝のことを学ぼうか」
 天海は自然と真面目な顔になっていた。
「そうしようかのう」
「近頃明は大層乱れているそうですが」
「民は苦しんでいるとか」
「うむ、皇帝が暗愚でじゃ」
 万暦帝のことだ。朝廷に出ず後宮で腐敗した日々を送っていた。
「しかも宦官共が跳梁跋扈した」
「どうも宦官というものがわかりませぬ」
「どうしても」 
 日本にいる彼等にとってはだ。
「あの場所を切り取って後宮、つまり大奥に入る」
「そうした者達ですか」
「うむ、あの国の歴史には常に出て来るがのう」
 天海もその目では見ていない、彼は明には行っていないからだ。
「皇帝の傍にいて私利私欲を極めて国を傾けることが多い」
「まるで蚤や虱ですな」
「その類ですな」
「そうじゃ、そうした輩が出てじゃ」
「明は大変な状況ですか」
「今は」
「滅びるであろうな」
 天海は鋭い声で述べた。
「あの国は」
「あの明がですか」
「滅びますか」
「あの国は古来より国が倒れては興ってきておる」 
 王朝が交代する国だというのだ。
「明の前は元であったな」
「あの蒙古のですね」
「あの国ですね」
「左様、その前は宋だったしさらに前は唐だった」
「王朝が交代するのですね」
 弟子の一人がここでこう言った。
「あの国は」
「そこが本朝とは違う。皇帝の姓が代わる国じゃ」
 易姓革命という。天海は明もまたその中にあると看破していた、そしてそのうえでこう弟子達に言うのだった。
「徳を失ったならば滅ぶのじゃ」
「あの国ではそうですか」
「皇帝であっても」
「本朝とて同じ。徳川幕府も徳を失えば」
 その時どうなるかというと。
「明、いや鎌倉や室町の様になってしまうわ」
「つまり滅びる」
「そうなりますか」
「その通りじゃ。政の道は徳を忘れては終わりじゃ」
 そして失ってしまえばだというのだ。
「御主達もこのことはよく頭に入れておく様にな」
「はい、畏まりました」
「そのこと肝に銘じておきます」
「そうしてくれれば何よりじゃ」
 天海も彼等の言葉を聞いて頷く。そしてだった。
 天海にまつわる噂は終わることがなかった。その学識や人を見る目、法力もそうだがやはり最も噂されるのはその歳と出自だ。そのことについては。
 とにかく謎ばかりだった。それで。
 家光も幕臣達に遂にこう言った。
「僧正のことは僧正が生きている間で終わらぬな」
「噂は止まりませぬか」
「決して」
「うむ。余が生きている間もじゃ」
 幾つまで生きられるカわからないがそれからも続く話だというのだ。 
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