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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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13話

ジオフロントの導力灯の薄ぼんやりとした灯りの中でアリオスは魔獣たちを全く近寄らせず追い払うか単独で素早く蹴散らして行った。
やっていることはロイドたちがジオフロントを進んだように魔獣を警戒し現れれば対処しているだけだったが、アリオスは一つ一つの技のキレや身体能力も素晴らしかったが、事に対処する手際の良さ、警戒範囲の広さと反応の素早さは支援課4人全員の能力を圧倒していた。
子供たちにまったく危険を近付けず、後ろからついて行く支援課4人の出番がまったくなかったほどである。

もっともロイドは大型魔獣に一人で挑みかかった時の負傷が回復し切れておらず、階段の多いジオフロントではランディに肩を借りており、うしろからついて行くだけでまともに戦闘しなくてよかったのは大いに助かっていた。
だが、ロイドは後ろからアリオスの活躍を見るとあれだけ梃子摺った自分たちはなんだったのだろうかという気持ちになる。
アリオスからすれば余裕で切り抜けられることに切羽詰ったとはいえ安易に特攻を考えたというのは短絡的に見えたのだろう。
そう思っているとアリオスたちは地上へ続く階段の先の扉を開いた。

開かれた扉から地下へ差し込む紅い光がすでに夕方になっていることを物語っていた。
階段を登るのを手助けしてくれたランディに礼を言った。

「ランディ、助かった」

「気にすんなって」

そうしてやっと地上に出たことで開放感やなんだかかんだあった徒労感が一気に押し寄せた。
潜ったのは数時間だったがいろいろあってもっと長かったような気がする。
だが、支援課が開放感に浸る間もなく彼らは次の事態に直面した。
先に出たアリオスたちをカメラを持った若い女性がフラッシュを焚いてパシャパシャと連続して写真を撮っていた。

「いやあ、今回もお手柄でしたね。市の杜撰な管理によって危機に陥った少年たちを見事救出!最新号の記事にさせていただきますよ」

「この子達の行動にも問題があった。偏った記事は感心しないぞ。グレイス」

子供たちが雑誌に載っちゃうよと騒いでいるのを遠巻きに見ていると会話の内容から何者かわかった。

(マスコミですね)(たぶんクロスベルタイムズよ)(よく嗅ぎ付けたもんだ)

ひそひそと会話しているとアリオスにグレイスと呼ばれた女性がアリオスとの会話中にこちらを見て、珍しいゲストもいるみたいだし、と近付いて来た。
見た目から態度から話し方から非常に活動的で活発な、ちょっと強引な印象を受けた。

「クロスベル警察の未来を背負う特務支援課の初出動!しかしいつも通り力及ばず遊撃士に手柄を奪われるのだった!未熟さを痛感した若者たちは果たしてこの先に待ち受ける数々の試練を乗り越えることが出来るのか!?」

ロイドたちの写真を撮りながら記事の文面を考えて捲くし立てたグレイス。
いきなりそんな言葉を向けられたロイドたちは何を言ってるんだと怪訝そうにしているとアリオスから擁護の声が入る。

「彼らに関しても決め付けるのは感心しないな。子供たちを助けたのは彼らが最初だった。まあ、詰めが甘かったがな」

「ほら、やっぱり」

グレイスはロイドたちの活躍を聞いても結局アリオスに助けられたと判断したようだ。

「まあ、記事でいろいろ書くけどあんま気にしないでね。市民のために働くんだからお姉さんから、ひいてはタイムズからのエールってことでこれから頑張ってちょうだい。そしたらまた記事にするからさ」

調子良く冗談めかしてそれだけ言うとアリオスたちが子供たちを送っていくのについて行ってしまった。
4人だけ残されたロイドたちは無言のままですぐ横を見下ろせば見える大陸横断鉄道の線路を列車が走って行く音だけが響いた。
4人共通の感想は、きっと悪く書かれる、である。

「どうやら遊撃士に対する道化とかませ犬役に仕立てるつもりらしいな」

試験の最後にまた変なのがと全員が溜め息をつく。だが無言になってしまったことでエリィがロイドに判断を仰いだ。

「これからどうするの?」

「試験も終わったし警察本部に戻ろう。セルゲイ課長に子供たちのこととかアリオスさんのこととか報告しなくちゃならないし」




夕方のクロスベルは通勤している労働者の帰宅や夕飯の買い物客などで徐々に込み合っていく。
仕事終わりで繁華街が騒がしくなっていく時間だ。
警察本部に戻る途中、中央広場でホイッスルをピッピッと鳴らし手信号と声で時折通る導力車を誘導している女性警官がいる。
聞いた事のある声だなとその女性警官を見ると見知った顔だった。

「ケイト先輩じゃないですか?」

ロイドはちょうど導力車の流れが切れたのを見計らって話しかけた。

「あれ、ロイド君?久しぶりね」

「どういう知り合いよ?」

相手もこちらを覚えていてくれたようでボロボロのロイドにどうしたの?と会話していると後ろの三人にさっき会ったグレイスと同じぐらいの年の女性警官を紹介した。
ケイトは警察学校時代に現場の人間として座学や実技、現場の実情などを教えてくれている教官だった。
と言っても専任ではなく年数回学校に教えに来てくれていたという臨時講師だった。

「ロイド君は優秀だったからね。教え甲斐があったわ」

「俺もわかりやすくてお世話になりました」

よほど優秀な生徒だったから教えるほうも教えられるほうも覚えていたようだ。
三人は在学中に資格を取得した秀才というイメージだったロイドがそれだけじゃなく熱心な学生だったことを改めて認識した。

「ところで配属はどこなの?」

「特務支援課ってところなんですけど」

ケイトは知らないわねと思い当たらない様子だったが、いよいよ導力車が増えてくるので長々と話してはいられず持ち場に戻ることに。

「まあこれからは同僚ってことでお互い頑張りましょう。フランツも私と同じ広域防犯課だから警察本部で立ち番をしてると思うから声をかけてやってね」

じゃあとまた仕事に戻るケイトと別れ警察本部に向かうロイドたちに電子音が響いた。
なんだ?とロイドが道の真ん中で体中をまさぐると戦術オーブメントから音がしている。

「通信の呼び出し音ですよ」

何か故障でもしたのかと驚いているとティオがこの戦術オーブメントエニグマには通信機能がついており内部のボタンを押せば会話できると教えてくれた。
ロイドもそういえば課長も使っていたなと思い出して通信に出た。

「はい。えっとロイド・バニングスです」

「あ、ロイドさんですか、受付で会った、えっとわたしです」

女性の声がしてわたしと名乗られて誰だと思ったが、ああ、受付のと言われて喋り方や声に覚えがあった。

「それで、何の用でしょう」

「それが、急いで警察本部に戻ってください。副局長がお呼びなんです」

「副局長?」

「はい。ですから出来るだけ急いでください」

それだけ伝えられるとロイドはセルゲイ課長に終了したことを伝えて欲しいと伝言を頼み通信を終えた。
ロイドは通信で聞いた内容をみんなに説明した。

「お偉いさんが初日の下っ端を呼びつけてなんの用だ」

「この部署は指揮系統もよくわからないし責任者が副局長なのかしら」

「受付の子の様子じゃ怒ってるみたいだった」

ぶつぶつ話していても仕方がないと警察本部に直行すると玄関に立つ警察官から声を掛けられた。

「よお、ロイドじゃんか」

それはロイドの警察学校時代の同期生フランツだった。
ケイト先輩が言っていたように立ち番をしていた。

「新人はここからスタートだってさ。そっちはどうなんだ?お仲間がいるみたいだけど、あのなんとか支援課なんだろう?何やってきたんだボロボロじゃねえか」

ども、フランツですと明るく親しげに同僚に挨拶してくれるフランツには悪いが時間がなかった。

「すまんフランツ!用事があるんだ。また今度な」

「そうか、じゃあまたな」

フランツが見送る中、警察本部に入ると通信をくれた受付の子に副局長室がどこか聞いて上層階だと知るとエレベーターに乗り込んだ。

「どんな人なんでしょう」

「お偉いさんはみんないけ好かないって」

「受付の人の話じゃちょっと気難しいって言ってたわ」

「まあなんの用かによるかな」

雑談しつつ副局長室の前に立つとロイドはノックして「特務支援課です」と名乗ると「入れ」と声が聞こえた。
入室すると神経質そうな風体をした中年男性が机に座って書類仕事をしていた。
ランディは部屋に置いてある物が州旗や銃を飾ってあるぐらいの簡素なものだったために司令官室にゴテゴテと賄賂で貰った美術品なんぞを置くアホ司令よりマシだと思った。
だが、ピエール副局長は開口一番4人を怒鳴りつけた。

「まったく何をしとるんだ君らは!?何のつもりだね?任務外の事に首を突っ込んだ挙句、あのアリオス・マクレインに手柄を奪われ、おまけにクロスベルタイムズにそのことをすっぱ抜かれる。君たちは初日からどれだけ警察の名誉に泥を塗るつもりなのか」

「いえ、それはですね」

「言い訳無用だ!遊撃士協会からの報告書で全部わかっとるんだ!」

事情を説明しようとするロイドを一喝した副局長は手元にある報告書を見せてロイドたちネチネチと罵った。
ジオフロントでの魔獣掃討任務中に民間人の保護に失敗して遊撃士に助けられそこを撮られるなど遊撃士の優秀さと警察の無能を宣伝するようなものではないか。
しかも遊撃士協会が警察に報告書を提出する義務はないのに要請されもしないのにわざわざ警察も関わったのでと送って来たんだ。ついさっきの出来事であるのにだ。
この意味がわかるかね?嫌がらせだ。我々を笑っとるのだよ!
副局長の言い分にロイドは反論した。

「では危険に瀕する民間人を見捨てろと!」

「出来なかったうえに助けられた癖によくもそんな事が言えるな!その上に、のこのこと後を付いて行った挙句に失敗を宣伝するなど考えられん失態だ!自分たちがどういう立場かわかっとるのかね!?」

言いたいことがないわけじゃなかった。
だが、何も反論出来なかった。それは無意味だったから。
自分たちが失敗し助けられマスコミにそれを知られたのは事実だから。
命辛々で格好悪かったがそんな酷いミスではないと思ったが、組織には凄く重要な失態だったみたいだ。

「だから私は新部署設立に反対したんだ。あの忌々しいセルゲイの交換条件がなければ賛成などせずこんな事にはならなかったのに」

「あの、それはどういうことでしょう?」

「君らには知らんで良い事だ!」

エリィは詳細はよくわからないがあの課長がこの支援課を作るために骨を折ったようだと感じ、やる気なさそうな感じだったのでちょっと評価を改めて後で聞いてみようと。

「それでだ。君ら、記録では正式に特務支援課着任前だとなっとるが、一両日中に配属を辞退したまえ。なに、悪いことは言わん。どうせ半年も持たん部署だ。絶対に出世の役には立たんし問題に巻き込まれ経歴を汚してそこから配置換えされれば浮くことになるぞ」

副局長はロイドのボロボロの姿を見て初日からそうなるようでは割に合わんぞと言い、資料を見ながらロイドが捜査官志望なら捜査課に配属してやるし、ほかの者もそれぞれの希望通りの配属先に行けるように手配してやると言い出した。
全員が副局長の言葉が無茶苦茶言ってないかと感じ、初日でやめるような奴のほうが浮くよと思った。

「まあ返事はすぐにとは言わん。一晩よく考えたまえ、悪いようにはせんから」



エレベーターを降りて一階まで戻ってくると導力自動販売機のある休憩所に集まりティオが勝手知ったるで普通に飲み物を買って今まで自動販売機を見たことがなかった三人は驚いた。

「レマン自治州でも導入されているものですが、クロスベルでも試験導入されてるみたいです。良いスポンサーがいるみたいです」

全員が冷たい飲み物を飲んで一息つくと一斉に溜め息をついた。

「なんか俺たち妙なことになってないか。配属辞退っつてもなあ」

「警察内部の力関係があるみたいね。噂だけでどういうことになっているかわからないけど」

「ええ。これじゃ約束が違います」

「あら、約束って?」

「こっちの話です。それよりセルゲイ課長はどうしたんでしょう?」

ティオが話題を変えるとセルゲイ課長がどうしたのかということで一応課題を出した上司なのに出迎えなしかよとランディはぼやいたが、話題に乗って来ないロイドが気落ちしてることに気付いた。

「辞退の話がそんなにショックだったか?」

「いや、思ってたのと随分違うと思ってさ」

ランディとエリィはよくわからずどういうことか聞こうとしたら廊下を曲がって来た一団に声を掛けられた。

「よお、新人ども。災難だったみてぇだな」

自販機から飲み物を買って行く一団の中から二人、髭面のいかにもやり手という感じの中年男性と金髪の軽い感じの若い男が声をかけてきた。

「捜査二課のドノバンだ」

「同じく二課のレイモンドだよ。いやー、噂には聞いていたけどこんな小さな子までいるんだね」

レイモンドがティオを見ながら言うとちょっとプライドが傷付いたティオがムッとした。
支援課も自己紹介を返す。

「ようこそクロスベル警察へ。そうか、おめーがあの」

ロイドは自分に向けられた言葉を切ったドノバンに何かを感じたが、なんでもないと話題を変えられた。

「しかしセルゲイのやつも無茶なことを考えやがるぜ。こんな新人どもばかり集めて市民の人気取りとはな」

「えっ」

支援課一同の反応から知らなかったと察して、やべえ、言っちゃまずかったなと言葉を濁したが、レイモンドが冗談めかして大変なのに報われない仕事で貧乏くじだねと言うと気合入れるために預けてやろうかとおどかした。

「まあ大変だと思うがセルゲイに付き合うか考えてやってくれ。無理だと思ったら全員二課で引き取ってやってもいいんだからな」

それじゃあとエリィにナンパをしようとしたレイモンドを引き連れて行ってしまった。

「散々な言われようだな」

「課長本人から詳細を聞いてからにしましょう。受付で聞けば居場所がわかるかしら」

その時、ロイドのエニグマから呼び出し音が鳴った。

「もしもし、ロイド・バニングスです」

声の主はセルゲイ課長だった。

「おー、キツネの小言と嫌味は終わったみてーだな。うんざりしたか?」

「それはもう、というかなんで知ってるんです?今どこです?警察本部にいるって言ってましたけど」

「お前らの荷物が届いたから引っ越し屋に立ち会ってたんだ。良い上司だろ?」

「荷物ってことは今、寮ですか?」

「ああ、詳しい話はそこでしよう。それにここは正確には寮じゃない。クロスベル警察、特務支援課分室ビルだ。お前たちはこの二階と三階を使うんだ」
 
 

 
後書き
いかにも小物のピエール副局長。
汚職塗れの上層部で自己保身から汚職も出来ないミスった新人をいびることしかやることのない小心者。確実にいびれる時しかいびらないその小物さが良い。
支援課の初出動で失敗して説得力を増し増しにしてみました。
するとピエール副局長の言ってることのほうが正しくなっちゃった。
社会人ならこれぐらい言われるよね。

あと、零の軌跡で不満なのはこの一連の失敗と叱責が全て仕組まれたことであるのに結局明かされないこと。あれこれタイミング良過ぎで、しかも情報が行くの早過ぎで怪しいのににさ。
零碧通して進行する事態が全て仕組まれたことであるのにそれを暗示する最初のイベントを仕組んだ相手を見つけられない、意図を見抜けないのが零の軌跡。この辺が碧に比べてシナリオの練りこみ不足だったと思う。それでもぶつかって行かなければならない、現場でやったことは無駄じゃないというのが零碧イズムなのにさ。
セルゲイもグレイスも良いキャラなのにキャラ掘り下げがないからさ。レギュラーキャラなのによ。 
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