なりたくないけどチートな勇者
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24*どいつもこいつもハイテンション
「スマン、父上を止められなかった。」
とりあえず食事を終えた自分は、ゼノアとシルバちゃんと一緒に最初に自分が案内された部屋にいる。
なぜかと言うと、ガルクさんの戦闘準備が整うまでに急遽会議(対ガルク対策会議)を開いたからである。
そして、その時のゼノアの第一声が先の言葉である。
「いや、それはいい。それはいいから可及的速やかにガルクさんの戦闘スタイルを教えてくれ。」
本当は全力でご遠慮願いたいのだが、雰囲気がそれを許さない。
てかここで逃げたら印象最悪だ。
人間(魔族)関係がトゲトゲしているのは自分の性格的に嫌なのだ。
しかも相手は国のお偉いさんだし。
「ああ……まず父上は、大剣を使う。一撃は岩をも粉砕する威力がある。」
もはや化け物じゃねーか。
「お父様の二つ名は“剛腕の鉄騎士”ですからね。大剣から放たれる重い一撃、鉄の如く堅い守り。悪く言えば力技ですが、その圧倒的な力でお父様は数多の戦士を沈めて来ました。」
「だが、父上はあまり魔法は得意では無い。攻撃魔法は中級程度しか使って来ないはずだ。もっとも、父上の場合肉体強化のほうが遥かに厄介だが。」
「……」
誰その変態。
根っからの戦士タイプじゃん。
てか魔法も中級とか、地味に強そうだし。
「しかもお父様はお酒を少し飲みました。あれは本気で決闘する時のお父様流の儀式です。多分全力でやってきますよ。」
もうやだ。
自分死にたく無いもん。
「…はぁ。ものっ凄い猛者じゃないか。」
「ああ、昔現魔王様と共に世界を回り、数々の修羅場をくぐり抜けてきたと言っていた。並の戦士では無い。」
全く、なんでそんな強い親父が自分なんかに決闘を挑むのか。
自分みたいな若造、相手にしてもしゃーないやん。
でも…ねぇ…
「……なぁ、ガルクさんは本当に真面目に本気で来るんだな?」
腹を括り、いままでの嫌々な雰囲気では無く、まっすぐにゼノアを見据えて質問した。
急に雰囲気が変わった自分に二人は多少戸惑いながらも質問に答えた。
「あ、ああ。それは間違い無い。さっきシルバが言ったように、父上が酒を決闘前に飲むのは父上の本気になる儀式でもある。」
「それにお父様は先生にもお酒を振る舞いました。私達はともかく、相手にもお酒を振る舞うのはその相手に敬意を表している証です。そしてそういう相手には全力で向かわないと失礼に当たるというのがお父様の考えです。」
……やっぱり、ね。
「そう…なら、自分も真面目に本気の全力でやらないと失礼にあたる、かな。」
ガルクさんの考えには大いに共感できる。
全力で向かってくる人には全力でそれに答える。
それが出来ない人間は死ねばいいと自分は思う。
それが自分の信条だ。
その点から言うと、ガルクさんは並の人間より遥かに人間が出来ている。
そして、自分はそれに答えなきゃならないと思う。
「今回は自分、体術だけでいく。魔法紛いの反則技を使わないで、自分も全力で向かえ打つ。」
その言葉を聞いて、驚く二人。
正直、どこまで出来るかは自分にもわからない。
だけど人間は強いらしいから、その補正でなんとかなるだろう。
ぶっちゃけその補正も気に入らないが、それは人間だから仕方が無いと割り切るしかない。
てか、さすがにそれは無ければ自分が死にかねない。
とりあえず、自称神の変態能力だけは使いたく無い。
それはあまりに失礼だからだ。
そう自分が決意していると、驚いたような顔をしながらゼノアが
「反則技って…それもナルミの力だろう。」
…そうだった。
事情を知らない彼らから見ると、あれも自分の能力なのだ。
どうしよう。
「……あれは、とある理由によって手に入れなければならなくなった能力だ。本来の自分にはあんな能力は無い。」
とりあえずごまかしぃ。
しかし、ゼノアは止まらない。
「いや、本気でいくならそれも使うべきであろう。理由が何かは知らないか、それを手に入れたのもナルミの力だろう。」
いや、自分の力ではないし。
無理矢理付けられた合成着色料みたいな付属能力だから。
しかし、それを言う訳にもいかない自分はかなり困っていた。
下手な嘘はつきたくないし、ごまかしもききそうにない。
だが、その状況を救うメサイアが降臨した。
「お兄様!」
この吸血美少女、シルバ様であります。
ただなぜ涙目かは謎だ。
「先生がそう言うならそれでいいんです!先生にも事情があるんです!少しは考えて喋って下さい!!」
そう一気に言うと、シルバちゃんはとうとう涙をポロポロと零してしまった。
そして自分に近付き、自分の手を両手でしっかりと握ってこう言った。
「私は、先生を信じています。何があっても、私は先生の味方でいます。だから全部を一人で背負い込まないで下さい。」
「お、あ、ああ。」
正直、何がなんだかわからない。
なぜにシルバちゃんが涙を流し、こんな事を自分に言うのか。
ゼノアにいたっては自分より状況を把握できていないようで、目を点にしている。
ぶっちゃけ全く謎である。
と、自分がこの状況について考えていると、不意に扉をノックする音が部屋に響いて、扉が開いた。
「………ナルミ様、準備が整いましたので中庭へ。」
そしてそこにいたのはダンディー紳士ことセブルさん。
彼は自分の今の状況を見て、殺気のナイフをビシバシ自分に投げ付ける。
正直、怖いです。
「…わかりました、今行きます。」
そう言って自分はシルバちゃんから手を解き、セブルさんについて中庭に向かった。
ただいまだに彼からの殺気は消えていない。
ぶっちゃけ、決闘より先にセブルさんに殺されそうです。
~シルバサイド~
ナルミがセブルに連れられて中庭に向かった直後、シルバはゼノアに向かって
「お兄様のバカ!バカバカバカ!お兄様なんか死んじゃえ!!」
強烈に罵声を浴びせていた。
「なんで先生の事を考えないであんな事言うんですか!少しは先生の気持ちを考えて下さい!!」
「ま、待てシルバ!何がどうしてお前がそんなに怒るんだ!?」
泣きながら怒るシルバに戸惑うゼノア。
彼は全く状況を理解出来なかった。
そもそもどこに怒られる要素があったのかがわからないのだ。
「ナルミが力を使ってこそがナルミの全力だろう?ならそれを使わない事の方が変だろう。いままでも使ってたんだし、むしろ使わない方が失礼だろ。」
ゼノアの言葉ももっともである。
いままで使っていた能力を使わない、それは傍目からは手を抜いているように見える。
しかし、次のシルバの反論は予想の遥か上を行くものだった。
「誰かを殺して傷つくような優しい先生が望んであんな力欲しがると思ってるんですか!!先生は私達を護るために自分を犠牲にしてあの力を手に入れたんですよ!?」
「まて、私達を護る!?どういう事だ!?」
そのゼノアの疑問を聞き、はっとなるシルバ。
そう、この事は王妃の近衛隊の三人とシルバしか知らない事なのだ。
それをゼノアが知ってるはずもなく、だからといって教える訳にもいかない。
しばしかんがえた後、シルバは少しぼやけさせて教える事にした。
「先生は…自らの存在を抹消してこの国に来ました。友人や家族からも。そして、この国を救うために平穏な生活を捨てて、望まない力を使い私達を護ってくれているんです。だから、先生がもともとの力だけでお父様に挑もうとするのは当然だと私は思います。」
沈黙。
重い空気が部屋に充満する。
「……それは、本当なのか?」
最初に口を開いたのはゼノアだった。
「はい、本当です。」
「……そう、か。」
そして呟き、力無くその場に佇む。
「俺は、ナルミを傷つけてしまったか……」
確かに強大な力は誰もが憧れるものである。
そして敵を打ち倒し、滅ぼすために奮われる。
普通の者ならばそれに魅了され、自らを失いかねない。
しかし、ナルミは違う。
赤の他人を護るため、自らの生活を捨ててまで手に入れた望まない力。
自らの本来の能力を遥かに凌駕する強大な力を手に入れたナルミは、いつもそれを護るために使っていた。
それをゼノアはあろうことか、決闘で自分の力として使うように言ったのだ。
彼は自らを嫌悪した。
今まで本当のナルミの姿ではなく、ナルミが持つ望まない力しか見ていなかった自分を。
そして、それなのにナルミと友達面していた自分に対する怒りの感情が込み上げてきた。
「大丈夫ですよ。」
落胆する彼の肩に手を置いたのは、自らの間違いを気付かせてくれた妹である。
「先生は優しい方です。きちんと謝ったらきっと許してくれるはずです。」
彼女の言葉は優しく、何よりナルミを信じていた。
「そう…か。」
「はい。ではお兄様、もう行きましょう。もうはじまっているはずです。」
そう言ってゼノアの手を引くシルバ。
心からナルミを信頼しているシルバの姿を見てゼノアはこれからの自分の在り方を正さねばならないと心に固く誓った。
「あ、お兄様。さっきの先生の過去の話し、ご内密にお願いしますね。先生にも、私が言った事は言わないでください。」
「ああ、わかった。」
そして自分の妹が、ナルミにそこまで秘密を打ち明けられる程に信頼されていると思い、なんだか誇らしくなっていた。
まぁ、現実は犯罪による盗み聞きの情報なのだが…
知らぬが仏である。
**********☆
二人が中庭へと着いた時、そこには彼らの知っている中庭は無かった。
大地は粉砕されて土がめくれあがっていて、綺麗に整えられていたはずの草花は、乱雑に切り刻まれていた。
そして、その中心でなおも戦う戦士《かいぶつ》が二人。
「はぁ、はぁ、はぁ…こんの!」
ガキィィン!
「チィィ!ぬおりゃぁ!!」
ドゴォォン!!
速さで翻弄するナルミと力で捩伏せようとするガルク、その二人である。
ガルクは燃えるように真っ赤な鎧を着ている
フルフェイスの兜で顔は全く見えないが、それでも威圧感はたっぷり伝わってくる。
これは彼が昔使って数多の戦地を乗り越えてきた鎧である。
対してナルミは、不思議な作りの上着の下に見た事も無い魔法陣の書かれた服を着ている。
下は鮮やかな藍色の見事な生地で仕立てられたズボンを穿いている。
どれも見る目がある者が見れば、特別な加護のある装備だろうと一目でわかる代物だ。
「……お母様、これはいったいどうなって…」
数秒の間呆然としていたシルバたが、なんとか覚醒して近くにいたリリスに状況の説明を求める。
同時に復活したゼノアもその答えを聞こうと近寄ってきた。
「あらあら、遅かったわね。そうね、どう、と言われてもこうなっているとしか言えないわね。とりあえず、始まって5分たったころにはもうこんな感じになってたわ。」
ガルクがあんなに苦戦する所も初めてみるわ、といまだにのほほんとした顔を崩さずに話すリリス。
その間もなお、戦いは続いている。
「せぇい!」
掛け声と共に放たれた袈裟切りを紙一重でかわしたナルミ。
その一撃がまた、大地をえぐる。
ドガシャァ!!
「あぶなっ!…とりゃ!」
そう言いながら懐へと一気に詰め寄り切り込むナルミ。
ガシュ!!
しかし、それに即座に反応したガルクは、ナルミの攻撃を兜で受け止める。
「マジかよ!!なわっ!」
そしてすかさずナルミに切り掛かる。
それに合わせて一旦距離をとったナルミは、再び目にも留まらぬ速さでガルクの死角に回り込もうとする。
そんな感じの攻防がさっきから続いている。
ぶっちゃけ、この戦いを見世物にしたらかなりの額を稼げるだろう。
それくらい凄い戦いなのだ。
しばらく彼らは二人のやり取りを見ていたが、ふと思い出したようにリリスがシルバに質問した。
「そう言えば、ナルミさんは、“能力は本当の自分の力では無いから使いません。”って言っていたけど、ナルミさんの能力って何なのかしら?ガルクは呪われた力とか、なにか止むおえない事情があるんだろうって言っていたけど。」
非常に答えにくい質問である。
正直に話す訳にもいかず、だからと言って適当な嘘を言う訳にもいかない。
そうシルバが困っているときそれはおこった。
「しかし君が使わないでいる能力を使えばもっと強いのだろう?なぜ使わないのかはわからないが、相当強力だと聞いている。」
ガルクがナルミに質問した。
それに対し、ナルミはゆっくりと、だがしっかりと答えはじめた。
「ええ、確かにあれは強いです…ですが、さっきも言ったようにあれは自分の本来の力では無い。」
そして一旦静かに息を吐き、そして
「だから自分はそんなまがい物を使わずにあなたに挑みたい!それが自分の筋の通し方、けじめのつけ方だ!!」
こう叫びながらナルミはガルクに突っ込んだ。
それを好機と見たガルクは、ナルミに向かい大剣を振り下ろした。
誰もがナルミの負けをその時に悟った。
しかし、虚無の黒騎士はそんな予想を見事に裏切った。
「うるぁぁ!」
スバァァン!!
「どぅぁぁ!?」
ズシャァァ!!
その場にいた者全てが見た物、それは軽快な音の後回転しながら宙を舞う、かつて猛将と呼ばれたランドルフ家当主の巨体だった。
~ナルミサイド~
素直に言おう、きついです。
何たって、ガルクさんの放つ一撃が重すぎるのだ。
最初の攻撃をかわしてわかった。
あれを受け止めたら死ねる。
なので自分は持ち前の素早さを生かしてヒット&ウェイ戦法をとる事を即座に決定した。
何を隠そう自分、足だけは速いのだ。
自分の学校の体育の授業、男女別に2クラス合同(1クラス20人)でやるのだが、前回の100メートル走で見事12位に輝いた程だ。
……ええ、わかってますよビミョーだってのは。
とりあえず、人間補正で変態的に身体能力、及び動態視力や反射神経が向上した自分は、あの生きる破砕機の攻撃圏外から向上した速さをフルに使って潜り込んでちまちまやっている。
ぶっちゃけ、補正無かったらすでに20回は死ねてる。
まぁとりあえず、ちまちまやっている。
いるのだが……
「はぁ、はぁ、はぁ…こんの!」
ガキィィン!
「チィィ!ぬおりゃぁ!!」
ドゴォォン!!
守り堅すぎこのオッサン。
エクス○ス道場主様よりも堅いんでないか?
いや、確かに喧嘩すら満足にしたこと無い自分が速さメインの戦法をつかった結果、そっちに意識が行き過ぎて攻撃力がスラ○ム並になってるのもあるが、それにしたってだよ?
「ふー、ふー……なかなかやるなぁ、さすがは英雄といった所か。」
自分が悩んでいると、ガルクさんが話しかけてきた。
だが全く隙が無いように見える。
いや、素人だからわからないが。
「んな大層な生き物じゃ無いですよ、自分は。何せただの一般市民だったので。」
構えながら答える自分。
だがやはりこれもアニメや漫画で見た構えを真似するだけで、本物では無い。
「そうか…確かに君の動きは武術と言うより喧嘩に近いな。」
そう、彼が言うように自分がやってるのは素人の喧嘩みたいなものだ。
型もクソも無い。
ただ人間補正に物を言わせて動くだけ。
そう考えると激しく自己嫌悪に陥る。
そして、さらに自分を自己嫌悪の海に突き落とす要因がもうひとつある。
それは
「しかし君が使わないでいる能力を使えばもっと強いのだろう?なぜ使わないのかはわからないが、相当強力だと聞いている。」
そう、それである。
自分はあの自称・神が自分に変態能力を付けてここに理不尽にも飛ばし、強制ミッションを課した事にいつも文句を言っていた。
しかし、自分はその神が自分に与えた能力に頼り過ぎていた事をガルクさんとの戦いで思い知ったのだ。
考えてみると、この世界に来てからなにかにつけて神の与えた能力や物を使っていた。
戦争での戦いや潜入、皆との会話や荷物の持ち運び。
果ては料理にすら奴がくれた本に頼っていた。
今の戦いだって、一護《貰ったもの》を使ってぎりぎり持ちこたえている。
なんだかんだ文句を言っていたが、これでは自分は奴に文句を言う資格すら無いのだ。
自分は奴によって生かされているみたいなものだから。
そして自分は今までそれに甘え、それを自分の力だと錯覚して酔っていたのだ。
それに気がつかせてくれたガルクさんには感謝してもしきれない。
「ええ、確かにあれは強いです…」
だから
「ですが、さっきも言ったようにあれは自分の本来の力では無い。」
だから自分は
「だから自分はそんなまがい物を使わずにあなたに挑みたい!それが自分の筋の通し方、けじめのつけ方だ!!」
ガルクさんとの戦いで、今までの自分から決別したいんだ!!
自分は叫ぶと同時に駆け出した。
ガルクさんへの宣言で腹は括れた。
策も何も無い、だが自分は真っ直ぐガルクさんへ向かっていかなければいけないのだ。
そうしなければ、自分は何も変わらない。
そんな気がするのだ。
向かって来る自分をぎりぎりまで引き付け、剣を振り下ろすガルクさんの姿が視界にうつる。
その瞬間、やけにゆっくりと時間が流れるように感じてきた。
自分もガルクさんも、周りの人達も全部、まるで自分だけ時の流れに乗り遅れたように感じるのだ。
そして、自分に剣が届く寸前、自分ははたと閃いた。
そして、自分は思考を放棄し、身体の動きを感覚だけに委ねた。
身体は剣をかわすように屈み、しかし真っ直ぐに突き進んで行く。
そして、居合の恰好をとり、一閃を放つ
「うるぁぁ!」
スバァァン!!
「どぅぁぁ!?」
ズシャァァ!!
まともに食らったガルクさんは、前方に一回転しながら頭から落ちていった。
何をしたかと言うと、ガルクさんの軸足を力の限り後ろへと払ったのだ。
前方へ巨大な剣ごと体重を乗せていたガルクさんは、まともにくらいそのまま回転してしまったという訳である。
正直、タイミングが少しズレてたら自分の頭が砕けたスイカになっていただろう。
ドサッ
あれ?
立てない。
やべ、膝が笑いまくってる。
来年の話しをした時の鬼すらもここまで笑うまいってほどガクガクしてる。
やっぱり、かなり緊張してたんだな。
自分がなんとかして立ち上がろうとしていると、シルバちゃんがドレスを邪魔そうにしながら走ってきた。
「先生!大丈夫ですか!?」
「大丈夫、緊張がとけて膝が笑ってるだけだから。てか君はガルクさんの所に行かないでいいの?」
普通そこはまず他人よか家族の心配だべ。
「お父様は大丈夫です。お父様より先生の方が心配です。」
事もなげにそう答えるシルバちゃん。
哀れ、ガルクさん。
そしてシルバちゃんはぶつぶつ何かを唱えると、両手に青い光が灯り、そのまま自分の膝に手をあてた。
すると、さっきまで震度7だった膝の揺れが、みるみるうちに収まった。
心なしか気持ちいい。
「回復魔法をかけました、もう大丈夫なはずです。」
魔法すげー。
やっぱり回復魔法はファンタジーには必須だよな。
「ありがとう、シルバちゃん。」
立ち上がるながら自分は、しゃがんでいるシルバちゃんの頭を撫でて御礼を言った。
やっぱりこの娘の頭は撫でやすい。
「あ、あぅ…い、いえ……はうぅ…」
すると、みるみるうちに真っ赤になっていくシルバちゃん。
うーん、やっぱり恥ずかしいか、自分なんかに撫でられると。
てか、セブルさん。
怖いから、そんな睨まんといて。
とりあえず回復した自分は、まだ寝ているガルクさんの所へと向かい歩いた。
彼の周りにはゼノアとリリスさんがいる。
「ガルクさん、大丈夫ですか?」
いまだに大の字で転がっているガルクさんを見て、もしや首の骨が逝ったかと心配していると
「ああ、大丈夫だ。さっきまで気絶していたがな。」
鎧から返事がきた。
そしてゆっくり上半身を起こし、その場に座った。
「いやぁ、負けたなぁこれは。」
何を言うこの人は。
「負けたなんて、自分もあのあとすぐに膝が笑って動けなくなったんですよ?」
「いや、それは緊張がとけたからだろう。それに比べ、俺は君に気絶させられた。誰が見ても俺の負けだ。」
むう…そうなるのか?
「しかし全く、あれは一体何がおこったんだ?さっぱりわからん。」
「あれはただ足を払っただけです。ガルクさんが前に体重をかけていたのでうまくいきました。」
「じゃあなにか。俺の力を利用したって訳か?」
「はい。柔をもって剛を制すです。」
「ほう、おもしろい言葉だな…ふむ、気に入った。」
何を気に入ったかは知らないが、とりあえず元気そうだ。
よかったよかった。
「ガルクさん。」
「ん?なんだ?」
とりあえず、終わったのだ。
となると、最後に礼儀としてやっておかねば。
「ありがとうございました。」
そう言って頭を下げる自分。
体育で習った柔道の礼儀作法がこんな所で役に立つとは。
そして頭を上げると、目を見張っているゼノアが。
ガルクさんは兜で表情はわからないが、それでは驚いているのはわかる。
ただリリスさんはまだのほほんフェイスを貫いている。
ある意味彼女が1番ポーカーフェイスかも知れない。
とりあえずなんで驚いてるかわからない自分は素直に質問してみる事にした。
「……何故にみんなして驚いとるん?」
「いや、勝った方が負けた方に頭を下げるなど…むしろそっちの方が信じがたい。」
ゼノアの発言で納得した。
あーそーゆー事ですか。
「試合をした相手に敬意を払う。これが日本人の正しい在り方だ。」
……すんません。
カッコつけて言ってみたけど、自分そこまで考えていません。
全部体育教師の受け売りです。
まぁ本心は別にあるのだが。
しかし、それを知らない彼らはそれを信じこんでしまった。
「そうか…やはりニホンという国はよほど素晴らしい国なんだな。」
いや、最近はそでもねーよ。
まぁそれはおいといて。
「それは別に、そもそもガルクさんには今回大切な事に気付かせていただきました。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。」
そう言って再び頭を下げる自分。
何せ今までの自分を変えるきっかけをくれた人だ。
もはや心の師匠と言っても過言では無い。
そして、当のガルクさんはと言うと
「え?あ、いや、よくわからないが役に立ててよかった。」
少々困惑気味である。
まぁ、理由を知らないから当然か。
そして、自分がガルクさんとの会話を終えるとゼノアが。
「ナルミ、さっきはすまなかった。ごめん。」
謝ってきた。
多分シルバちゃんがあのあとなんかゼノアに言ったんだろう。
何かわ自分もわからんが。
「いや、気にしてない。大丈夫だ。」
気にはなる、だが薮を突いてキングコブラを出したく無いので詮索はしないどく。
しかし疲れた。
普段不真面目な自分が珍しくマジでかかったんだ、身体が悲鳴どころか、そろそろ断末魔をあげそうである。
自分が首をコキコキしてると、立ち上がったガルクさんが兜をとりながらこう申し出た
「よかったらこのまま泊まっていかないか?君も疲れただろうし、なによりもう真っ暗だ。」
う~ん。
確かにそれもありかな?
なにより疲れたし、自分を変えるって決意した直後に能力使って帰るとか本末転倒だし。
「迷惑では無いですか?」
でも一応聞いてみる。
これ、日本人の美徳。
そして自分の質問に答えようと口を開けかけたガルクさんを遮り、代わりに答える少女が一人。
「迷惑じゃ無いです!むしろ先生なら…あの……えと…泊まって…下さい。」
だんだんしたを向いて声が小さくなってくシルバちゃん。
もじもじしてる指とか真っ赤な顔とか、可愛すぎる。
そして、シルバちゃんに台詞を取られたガルクさんは苦笑しながら
「シルバもこう言ってるし、泊まっていってくれないか?」
と、言ってくれた。
それなら。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」
そう言って自分は再び心の師匠に頭を下げた。
するとガルクさんは複雑な表情をしながらセブルさんを呼び寄せた。
「セブル、彼を客室に案内してくれ。」
「かしこまりました。ではナルミ様、こちらへ。」
そう言って自分を案内するセブルさん。
表情はにこやかだが、だがオーラは暗黒に染まっている。
自分、寝てる間に暗殺されないよね?
~ガルクサイド~
ナルミがセブルに連れられた後に、それに続くようにゼノアとシルバも屋敷に戻っていった。
残ったのはガルクとリリスだけである。
「あー、まだいてー。」
「あれだけ派手にやられれば当然ですわね。」
首をぐるぐる回しているガルクと、にこにこのほほんとしているリリス。
二人は屋敷を見ながら感慨深く考えていた。
「しかし、彼がシルバと結ばれれば、私の息子になるのか…」
「あら、何か気になる事でも?むしろ私は大歓迎ですわ。」
「いや、それは俺も大歓迎だ。ただ、シルバがあそこまで惚れるとはと思ってな。」
「ゼノアいわく、1番のきっかけはなんでも身を挺してナルミさんがシルバを護ってくれたとか。少なくとも、シルバの目に間違いはなかったという訳ですね。」
「ああ、最初はどんな奴かと思ったが、頭も切れる上に俺を倒す程の力量も持つとは、あの若さで、末恐ろしい奴だ。」
クックックと笑うガルク。
そんな旦那の姿を見ながら、リリスは疑問をぶつけてみる。
「そういえばガルク、あなたはなんで魔法を使わなかったの?」
そう、ガルクはナルミとの戦闘中、魔法を使っていなかったのだ。
リリスの質問に対して、ばつが悪そうにガルクがしゃべる。
「あー、いや、使う隙がなかったってか肉体強化に集中してたってか………」
「つまり修練不足ですわね。」
歯に衣を着せるどころか、牙を研ぎ澄ました一言をガルクに放つ。
「う!……まぁ、そう言う事…になるか。」
ガルクのその言葉を聞き、目を光らせるリリス。
だがこの時も、のほほんとした表情は崩さない。
「ではこれからしばらくは特別な特訓をしましょうか。」
「ま、まて!そんないきなり!!」
「普段から魔法の修練を疎かにしてるから負けたのですよ。」
一言一言に刺がある。
そして彼女のそんな言葉を聞き、逃げようとするガルク。
「それにナルミさんみたいにこれからはもっと頭も使わなければいけませんよ。筋肉馬鹿の時代は終わったのです。」
しかし、逃げようとするガルクに即座に魔法を当てて動きを止めるリリス。
「だから私が魔法から何からみっっっちり教えてあげますからね。」
「ひぃぃぃぃ!」
かつて各地を回っていた現魔王とその仲間達。
その仲間の一人、剛腕の鉄騎士ガルクは同じくかつての仲間、破滅の魔術師リリスと結婚して今の地位にいる。
傍目からは二人は、亭主関白に見えるが実はそうでは無い。
実際はリリスがガルクを溺愛するあまり、ガルクになんでも1番になってもらわないと気が済まないのだ。
そしてつねに主導権を握られているガルクは、たびたびこんな目にあってボロボロになってしまうのだ。
「では、早速書庫へと向かいましょう。」
「今から!?いますぐはじめるのか!?」
「当然です。」
こののほほんとした悪魔を見ながら、ガルクは考えるのである。
シルバもリリスが自分にやるみたいにナルミを扱いませんように、と。
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