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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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立志の章
  第3話 「正直に言おう。手に負えん」

 
前書き
テキストで書いて、ワードで添削して、掲載する場面で再度チェック……ここまでしても誤字や脱字、文法間違いを訂正できないときがあります。

それでもちゃんとやらないとね……編集者も万能じゃないけどさ。
ただ、それでも漏れるのは……お金が関わってないからだと思いたくないなあ。 

 




   ―― 関羽 side 幽州啄郡近郊 ――




 盾二殿の妖術――といっていいのだろうか?
 あの炎の業による轟音は、近隣の野盗共を引き寄せるには十分だった。
 それは私も鈴々も、そして盾二殿自身にもわかっていた様子。
 その証拠に盾二殿は、首をゴキゴキと鳴らせながら軽く準備運動をしているようだ。

「盾二殿、私と鈴々で蹴散らしますゆえ、桃香様をお守りしていただけますか?」
「えっ? うーん……でも俺が引き寄せたし、俺がやってもいいよ?」

 盾二殿は、賊共を見回しながらそうおっしゃる。
 数は……おおよそ三十、といったところだろうか?

「盾二殿。先程の気迫と御業を見れば、貴殿の腕が立つことは明白……なれど、ここは我らにお任せいただきたい」
「……そだね、一刀のこともあるし。任せていい?」
「お任せを。鈴々、いくぞ!」
「応、なのだ!」

 鈴々と共に前へでる。
 手に持つ得物は、愛刀である青龍偃月刀。
 数はいようと、この程度の賊など我らの敵ではない。

「貴様らにくれてやるものなど、ここには塵一つない! 今すぐ立ち去るのであれば、命だけは助けてやるぞ!」

 せめてもの情けに恫喝してみるが……聞くはずはあるまい。

「けっ……たかが女二人、相手にもなんねぇな。つまんねえこといってねぇで、さっさとその金塊よこしな!」
「愚か者どもが……」

 当然の如く、賊が剣を抜きこちらに迫ってくる。

「シャアッ!」
「無駄なことを……フッ!」

 無造作に刃を振るう賊がまだ振りかぶるうちに、私の刃が賊の首を刎ねる。
 賊の身体は、振りかぶった体勢のまま数歩歩き――私の横で横倒しに倒れた。

「無駄だといったぞ?」
「テメェ……」

 周囲の賊どもの殺気が満ちる。
 ふっ……先程の盾二殿の気迫に比べれば、涼風にも等しい。

「鈴々、私は右だ」
「なら鈴々は左だなー」
「どっちが多く倒せるかな?」
「愛紗は今一人倒したけど、それは数に入れてもいいのだ」
「ぬかせ」

 鈴々とじゃれあいながらも、お互いニヤリ、と笑う。

「テメエら、やっちまえ!」
「「「オオオオッ」」」

 賊どもが叫びながら向かってくる。

「生きて帰れると思うなっ!」
「やっつけるのだーっ!」

 負けるはずの無い戦いが始まった。




   ―― 盾二 side ――




「さすが……歴史に名を残すのは伊達じゃない、な」

 三十人いた野盗も、三分と経たぬ間に半数に減っていた。
 愛紗も鈴々も、歴史書に違わぬ強さを見せている。

「スピードは一刀並……力は俺と同じくらいか。AMスーツがなけりゃ勝てんな、こりゃ」

 愛紗の持つ青龍偃月刀は、どう見ても二十kgはあるだろう。
 それをあの細い腕で自由自在に振り回している。
 あの細身のどこに、あれだけの重量を振るう筋力があるというのだろうか?
 そして鈴々の丈八蛇矛……丈八(四百七十七cm)もあるというが、確かに長い。
 日本の戦国時代に、織田信長が足軽にもたせたという『三間槍』よりはちょっと短い。
 だが、それでも長い。
 長い、と言うことは、それが生む遠心力もハンパない、ということだ。
 そしてそれを振るう腕力も。

「もしかして、桃香もあれぐらい強い?」
「ええ~私、あんなに強くないよ。私も剣もっているけど……強さはからきしだし」

 隣で一刀を膝枕している桃香は、ぶんぶん、と手を振っている。
 ……ふむ。
 確か史実だと劉備は若い頃、暴れん坊だったという記述を見た気がしたんだが。

(そもそも史書とは、性別からして違うしな……)

 深く悩んでも仕方ない。
 そもそもスプリガンを目指した頃から『歴史』というものが酷くあいまいで、作られた存在であることも多かった。
 『歴史』は所詮、文献などを参考に照し合わせた中で、最も信憑性が高いと言われたものに過ぎない。
 そんなものはスプリガンを目指し、数多くの遺物(オーパーツ)に触れてきた俺にとって参考文献以上の価値は無かった。

「じゃあ、桃香って頭がいいの?」
「え、ええとぉ……い、一応、盧植先生の門下で勉強したけど……そんなに頭がいいって程じゃあない、かな。うん」
「……そっか」

 盧植、ね……確か政治家で将軍で学者って人、だったかな?
 あんまり覚えてないけど……確か無実の罪で投獄されたか、殺された人だっけ?
 中国史、もうちょい勉強しておくんだったか。
 一刀なら多少詳しかったかもしれん……。

「あ、あ~今、何にも役に立たないな、この子、とか思ったでしょ!」
「いや、そんなこと欠片も思ってないけど……そうなのか?」
「う、う~……ちゃんと役に立つもん……なにかに」
「そ、そうか」

 あまり触れないほうがよさそうだ。
 そうこうしている間に、愛紗と鈴々は残り三人まで賊を打ち倒していた。
 愛紗たちの目の前にいるのは、チビ、ノッポ、デブの三人の賊。
 頭には黄色い布を巻き、剣をぶるぶると振るわせながら腰が引けている。

「な、なんてヤロウどもだ……たった二人のくせに」
「ヤロウではない! 私たちは女だ!」
「そうだ、そうだ! どちらかというとメロウ(女郎)なのだ!」
「鈴々ちゃん! それ、意味違う! 全然違うから!」

 メロウ……女郎は遊女のことだ。
 隣の桃香が、若干顔を紅くしている。
 鈴々のボケも、おびえきった賊相手では受けなかったらしい。

「くそ……こうなったら! オイッ!」

 賊の一人、ノッポの男が叫ぶ。
 と、桃香の傍の木陰から生き残りの賊が這い出てくる。

「はっ! 油断したな、テメエらは人質に……」
「なるわけないだろう、馬鹿が」

 俺は言葉を遮ると、剣を突きつけてきた男の顔面を『AMスーツの力』を借りて軽くはたく。

「ばぴゅっ」

 飛び出してきた賊の男の顔は、通常の人間の三十倍にもなる軽いビンタに首がちぎれ飛んだ。

「ひゃあっ!?」

 バタッ、と倒れる首なし死体に悲鳴をあげる桃香。

「なっ、ばかな……」

 一瞬で死んだ切り札に、唖然とするノッポ。

「……おしまいか? なら、さっさと消えてもらおう」
「ひ、ヒイィッ!」

 愛紗の青龍偃月刀が煌き、三人の首を纏めて刈り取った。




   ―― 張飛 side ――




 鈴々たちが賊を仕留めると終わると、お兄ちゃんはにっこりと微笑んだのだ。

「さすが英雄たる二人だね。惚れ惚れとしたよ」
「いえ、そんな……」
「にゃ~、英雄とか言われるとテレるのだ!」

 お兄ちゃんは、屈託の無い笑顔で鈴々たちの傍まで来たのだ。

「けがは無い?」
「私は大丈夫だ。鈴々は……?」
「まったく問題ないのだ」
「そっか。ほんとにびっくりしたよ。強いとは思っていたけど、これほどとはね……」

 お兄ちゃんがしきりに頷いているのだ。そんなに褒められるとくすぐったいのだ!

「ご謙遜を。貴殿こそ、あの賊を倒した一撃。まったく力を入れていないように見えましたが……」
「ん? ああ、あれはちょっと『ずる』をしているからね……二人のほうがすごいよ」
「『ずる』? お兄ちゃんの『ずる』って、なんなのだ?」
「はは……そうだね。俺は普通の『力』は愛紗ぐらいしかないよ。たぶん、鈴々には『力』じゃかなわないんじゃないかな?」
「にゃ? そんなことないのだ! 鈴々は軽く叩いただけで首と飛ばすなんてできないのだ!」
「うん。たぶんそうだろうね。俺もそのままじゃできない。できたのはこのスーツ……服のおかげさ」
「服? なにやら獣の皮のような服ではあるが……そんなもので『力』が増すと言うのか?」

 愛紗が、恐る恐るお兄ちゃんの服に触っているのだ。
 鈴々も触ったけど、変な感触はするけど普通の服なのだ。

「そう思うよね? でもね、ちょっとこうすると……」

 にゃっ!?
 バキッ、という音と一緒に、急に筋肉が盛り上がったのだ!

「この筋肉は人工筋肉……服に筋肉がくっついているようなもんなんだ。この筋肉のおかげで俺は、常人の三十倍以上もの『力』がだせるんだよ。『ずる』ってのはそういうこと」
「この服にそんな『力』が……? 信じられんな……」
「にゃ~……そんな服があったら、岩でも粉々にできそうなのだ」
「実際できるよ? たぶん厚さ三、四十センチ……えーと、大体二尺? ぐらいの壁や鉄なら壊せると思う」
「そ、それはとんでもないな……」

 愛紗が驚くのも無理ないのだ。
 二尺の壁を砕けるなら、人の顔なんて簡単に飛ばせるのだ。

「まあ、力加減が難しいけど、ちゃんと訓練をしているしね。上限があがるだけで下限はそのままだから、訓練さえちゃんとやれば問題ないよ」
「その服を着るだけでそこまで……うーむ」
「あ、いっとくけどこの服、俺にしか使えないからね? 俺以外が着ても、機能が使えないように封印されちゃうから。ただの丈夫な服程度になっちゃうよ」
「そ、そうなのか……」

 にゃ、愛紗がちょっと残念な顔をしているのだ。
 きっと、着てみたかったに違いないのだ。

「まあ一刀も同じの着ているけど、あっちも俺のと同じ性能だよ。ただ、あれも一刀しか……」
「にゃ? どうしたのだ?」
「うん?」

 お兄ちゃんが後ろを振り返ると、その場で固まったのだ。
 どうしたのだ?

「……桃香が気絶してる」





   ―― 桃香 side 北平 ――





 あれから二日たちました。
 あの後、気絶してしまった私。
 明け方になってようやく目が覚めてから、近くの邑で馬を四頭買いました。
 ついでに荷車を購入して、盾二さんが即席の馬車を作ってくれました。
 一刀さんを運ぶため、必死に作ったみたい。
 もちろん私も手伝ったけど……借りた金槌がすっぽ抜けて一刀さんに当たりそうになった時、丁重にお断りされました。
 グスン。
 それから一昼夜かけて、ようやくお医者さんのいる北平の都まで着いたんです。

「やっとついたね~結構、お尻痛かったよ~」
「桃香様……少し下品ですよ」
「お姉ちゃんはお尻がでかいから、その分痛みも大きいのだ」
「そ、そんなことないよ! た、確かに動かなかったのに食べる量は一緒だから、す、少しは増えたかもしれない……けど! そんなに大きくないもん!」
「桃香様……道の真ん中でそんなに大声で叫ばれては」
「は、はわわわわっ」

 は、恥ずかしいよう……でも、盾二さんは聞こえなかった振りをしてくれているみたい。
 優しいなぁ……。

「ともかく、話に聞いた五斗米道とやらの医者を探しましょう。まずは彼……一刀殿を宿に移しますか?」
「ああ、そうしよう」

 盾二さんが頷くと、馬の手綱をしならせ宿へと馬車を進めたんです。




   ―― 盾二 side ――




 宿で一刀を休ませ、その付き添いを桃香にお願いしてから俺達は、三人でそれぞれ聞き込みをした。
 幸いにも医者はすぐに見つかった。
 なんでも華佗というらしい。
 ……たしか三国志でそんな医者がいたような気がする。
 俺が知っているぐらいだから有名なのだろう。
 すぐにもその華佗の宿泊している宿へと足を運び、事情を話して一刀のいる宿へと連れて来た。

「外傷は……特に無いな。血の巡りも問題ない。氣の巡りも普通に流れている……なのに目が覚めない、か」

 華佗は若い男だった。
 見た目は俺と同じか年上ぐらいだろうか?
 赤い髪にどこか特徴のある声。

「頭の芯に氣が行き渡ってない……にしては氣が淀んでいない。むしろ正常に流れている」

 一刀の診察をするためにAMスーツを脱がし、上半身裸の状態だ。
 鍛えた身体はあの時、首が喰われ命を失ったとは思えないほど瑞々しい肉体となっている。

「まるで春眠の眠りのように安定している……であるのに目が覚めない。いや、これは……」

 華佗は一刀の額に手を当てながら目を閉じ、必死に何かを探るように眉間にしわを寄せている。

「………………」
「……どうなんだ、先生?」

 俺は華佗に尋ねる。
 まさかこのまま目覚めないんじゃ……。

「正直に言おう。手に負えん」

 華佗の一言が――俺を絶望の淵に突き落とした。

「そ、そんな……」
「手に負えん、というか……手を出すべきではない、といったほうがいいかもしれない」

 ……? 手を、出すべきではない?

「どういう、ことだ?」
「悪い場所がまったく見当たらないんだ。むしろ健常者よりも非常に健康体に見える。確か、目を覚まさなくなって四日は経っていると言っていたな?」
「あ、ああ……正直、俺も意識を失っていたので定かではないが、少なくとも四日は経っている」
「にもかかわらず、彼の身体は……まったく衰弱していないんだ。いくらなんでもおかしい。その間、何も摂取していないのだろう?」
「………………」

 そういえばそうだ……一刀は目覚めない。
 だから点滴もないこの世界では、輸液すら摂取していない。
 そりゃ道中で多少、水を飲ませはしたが……。

「身体の瑞々しさは、水分不足とも思えない。四日ほどじゃ断言できないが、衰弱している様子もない。まるで健康体そのものなんだ。こんな症状、初めてだ……」
「……一刀」

 どういうことだ?
 確かに一刀は……一度死んだ。
 死んでこっちの世界で生き返った……生き返ったはずだ。
 息もある、鼓動もある。
 なのに……意識だけが戻らない。

「まるで冬眠しているような……目覚めるべき刻を待っているような……すまん。なんと言っていいかわからん」
「いえ……」

 俺はなんとも言えなかった。
 一刀は生きている。
 生きているが……目覚めることはないのか?
 それともいつか目覚めるのか?
 それすらもわからないままいつ果てるともしれない眠りの中にいる一刀に、俺は言いようのない虚無感に襲われていた……

「正直、俺の五斗米道では手に負えない……すまない」
「いや、貴方が無理ならばおそらくこの国では誰でも無理だろう……手間をかけさせた。礼金はさせてくれ」
「そんなものはいらない! 仮にも俺は医者だ。救うべき人を救うのに代金なんか受け取れん! しかも俺は助けることができなかった。それなのにどうして受け取ることができようか……」

 ……彼はまさしく『仁』のある医者だった。
 向こうの世界ならこんな医師は、世界中探してもいないかもしれない。

「俺もまだまだ修行不足だ……もし、何らかの手段がわかったら必ず連絡する。君達はしばらくこの街に留まるのか?」
「……ああ、そのつもりだ」
「わかった。俺も仲間の情報を集めて、何とかこの症状の原因を突き止めてみる。だからあんたも諦めないでくれ、頼む!」
「……もちろんだ。こいつはかけがえのない、俺の家族なんだ……」

 華佗はそのまま宿の外へ駆け出していった。
 俺はいまだ一刀の傍で座り込んでいる。

「……盾二、さん」
「……桃香、か」

 華佗が出て行ってしばらくした頃、桃香がおずおずと部屋に入ってきた。
 たぶん部屋の外で、入るかどうか迷っていたのだろう。

「……元気だして。まだ目覚めないって決まったわけじゃないよ」
「ああ……そうだな。俺は諦めない。こいつは絶対に目覚める。いや、目覚めさせてみせる……」

 そうさ。目覚めさせて……みせる!

「桃香、一刀のためにここまで手を尽くしてくれたこと、本当に感謝する。この恩は、終生忘れない」
「そ、そんなに気にしないでよ……前にも言ったけど、困っている人を助けるのは当然だよ。だって、私達はそのために旅をしていたんだもん」

 ……本当に、なんと『仁』にあふれる人だろうか。
 アーカムに所属して以来……いや、十八年間生きてきて、こんな仁のある人間とであったのは初めてだ。

(歴史に名を残す史上最高の仁君……そういっても過言じゃないかもしれない。史実にも正しく後世に伝わった例なのだろうな)

 見ず知らず、しかも出会ったばかりの胡散臭い俺や一刀に親身に接し、その為に労を惜しまず、代償すら求めない。

「……桃香。いや、劉備玄徳殿」
「ふぇ? は、はい?」
「私は、北郷盾二。貴方の恩義、我が兄である一刀と共に、終生忘れはしません。私にできることがあれば、なんなりとおっしゃってください。必ず、貴方の恩義に報いて見せます」

 俺は膝を床に着け、胸の前で手の平と拳を合わせて頭を下げる。
 確か、中国式の『揖礼』はこうだったはずだ。

「……その感謝、確かに受け取りました。お顔を上げてください、盾二さん」

 その声に顔を上げると、桃香は慈愛に満ちた顔で俺を見ている。

「盾二さん、私達……愛紗ちゃんや鈴々ちゃんと私は、世の中の人がみんな笑って暮らせるようにしたいんです。今の世の中は、賊に怯え、守ってくれるべき役人は搾取するばかり……こんな世の中、おかしいとおもうんです」
「……」
「私は、盧植先生の門下でしたけど、大した成績だったわけじゃないんです。だけど、盧植先生は、私の『今の世の中は確かにおかしい。けど、おかしいことをおかしいと声に出して言える貴方は、きっと大きなことができる』と、そう言ってくれました。それで私は決心したんです」
「……なにを、と聞いていいかい?」
「はい。誰も世の中を正してくれないなら……たとえ力も知恵もなくとも、世の中で一人でも笑える人を増やすために、私が世の中を変えたい、と」

 眩しい。
 雲の切れ間からこぼれた陽の光が、窓辺から桃香を照らし出す。

「その考えを、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんだけが同意してくれました。そして、桃園で誓ったんです。『同年同月同日に生まれずとも、同年同月同日に死せんことを』、って」
「桃園の誓い……」
「はい、その時に私は言いました。『心を同じくして助け合い、皆で力無き人々を救う』と。けど、私にもわかっています。それは独りよがりでもあるんだって」
「……」
「私たちは偽善かもしれない。でも、やらない善に比べれば、やる偽善で皆が笑えるなら……それはきっとやるべきなんだと」
「……そのことを二人は知っているのかい?」
「いいえ、知りません。二人は心の底から私が善をやると信じています。でも、私は盧植先生のところでそれは『偽善である』とすでに言われていましたし」
「そっか……」
「最初は悩んだけど、それでもいいと思っています。理想は全てを救いたい……でも、できないなら少しでも多くの人を。そう思うんです。おこがましいかも、知れないけど」
「……」
「盾二さん、盾二さんは、私の偽善をどう思いますか?」

 桃香は、俺に問いかける。
 その目は、何を言われても受け入れる、そう言っているような気がした。

「……俺は生まれてすぐ、一刀と一緒に捨てられていたらしい」
「え?」
「最初の孤児院で三歳まで。その後、テロにまきこまれて保護された傭兵部隊で、十二歳まで戦場で過ごした。親代わりだった傭兵は言ったよ。『気紛れと偽善で拾って育ててやった』ってね。それでも感謝はしていたよ……」
「……」
「十二歳の頃、その傭兵部隊がほとんど全滅して親代わりだった傭兵も死んだ。俺と一刀も重傷を負って倒れていたところを、アーカムの人間に助けられた。それからようやく人並の生活と教育を受けた」
「……」
「俺と一刀は、二人きりの兄弟だ。本当は血の繋がりがあるかどうかもわかっちゃいない。アーカムで検査を受けたときもその事はお互い知るつもりもなかった。血液型が同じだって事以外、どうでもよかったんだ」
「……」

 桃香は、ただ黙って俺の話を聞いている。
 俺はかまわず話し続けた。

「一年前にアーカムのA級チームまで上り詰めた俺達は、たまたまオリハルコンとの相性が良いとの判断で、スプリガン候補として様々な試験を受けることになった」
「すぷり、がん」
「スプリガン――超古代の遺跡から出る人知を越えた古代遺物……人が使うには早すぎる御業を封印する者。俺の着ているAMスーツも、その技術から造られている。見ただろう? あの炎の業を」
「……はい」
「あんな力が世界中に広がったら、人は、人類は、それを使って世界を滅ぼす。だから、それを人が理性をもって力を制御できる様になるまでは封印する、というアーカムの理念に俺達は賛同した。誰よりも人が殺し、殺され、死んでいく世界の中で育った俺達が」
「……」
「その時に誓ったんだ。俺と一刀は。『我らは同年同月同日に生まれ、同年同月同日に死せん』とね」
「!! 私たちと同じ……」

 桃香が目を見開いた。
 俺は少々苦笑しながら続きを話す。

「元は君達の故事に習ったのだが……まあ、そういうことさ。だけど、俺はあの時……一刀と一緒に死んでやれなかったんだ」
「え……?」
「俺たちの最終試験……とある好事家のコレクションにある、封印すべき古代遺物を回収する。簡単な仕事のはずだった。私邸を制圧して、封印するために古代遺物の……銅鏡を持ち出そうとしたときだった。一刀がナニかに喰われた」
「……!?」
「一刀の首から上が、銅鏡からできてきた黒い何かに、文字通り喰われたんだ。そしてその闇は……周囲を飲み込んで広がっていった。俺は回収を諦め、一刀の遺体を背負って森の中を走った……だけど、追いつかれた」
「………………」
「死んだ、と思った。その瞬間、闇の中にいて声が聞こえた。内容はよく覚えていない。ただ引き寄せる……とかなんとか言っていた。で、気づいたら君達が俺を見ていた」
「……一刀さんは」

 桃香が一刀を見る。
 信じられないのだろう。
 俺から見ても今の一刀は、ただ眠っているようにしか見えない。

「首が喰われ、死んだはずだった。でも、今は首をあり、息もしている……奇跡だと思ったよ」
「……」
「君達には返しつくせぬ恩がある。この世界で右も左もわからない俺を救ってくれた。一刀を医者に見せるために労を惜しまず奔走してくれた。繰り返して言うが、本当に感謝している」
「……いえ」
「だが、それとは別に、俺は君の志にアーカムの理念と同じものを見た。俺達のような……戦場で生きるしかなかった子供を、少しでも救えるのなら……俺は手伝いたいと思う」
「盾二さん……」
「やらない善によりやる偽善……俺も同じ考えだよ。君の大志は、未完成だろうけど……間違っちゃいない」
「じゃあ……」

 桃香の笑顔に応える。

「ああ、今ここに誓おう!
 我が名は『盾』! 北郷盾二!
 劉玄徳を万難から護り、『矛』である一刀の目覚めるときまでは『矛』となり……貴方の恩義に報いることを誓う!」




   ―― other side ――




 後の世に
『蜀の守神』『黒衣の魔人』『彼傷不能(彼を傷つけることあたわず)』
 とまで言われた男の、誕生の瞬間だった。

 
 

 
後書き
とりあえず、今日の更新はここまで。

この後、黄巾党討伐まで一気に書き上げたいとは思っていますが……下手すると20話越えるかも?

現段階で、1話50KBを上回ってます。

さてはて……

あ、近いうちに盾二のデータを載せます。
たぶんスプリガン見たことある人は、いろいろ首かしげているでしょうから。

4月27日 一部文字化けを修正しました。 
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