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形而下の神々

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過去と異世界
  魔物との対峙

 「……で、あとどのくらいで目的地に着くんだ?」

 レミングスと共に歩き続ける事はや5日。ココで少し気になっていた事を聞いてみる事にした。
 変わらない草原の景色は、どうしようもなく気重な永遠性を感じさせるんだ。

 そういえば地図ってないのかな。

 「レベッカ、地図って無いの?」
 「え?ありますよ。たしかお二人はイベルダで滞在するんですよね?」

 よく御存じで。というかグランシェに知恵を与えたのはこの子かも知れない。

 「あぁ、目的地と現在地を教えてくれないか?」
 「えぇ、良いですよ~」

 そう言ってだしてきたのはお馴染みの世界地図。メルカトル図法でかかれた、なんの変哲もない世界地図だ。
 いや、国境線が違う。国が17しかない。

 レベッカが指したその場所を見るとセイレン王国と書かれていた。この高原はどうやら現代ではチベット高原の辺りみたいだ。

 それを西に向かい、インドの少し上を目指してるみたいだ。なんか西遊記みたい。
 オラ、ワクワクすっぞ。……は、違うけどなんだかどうにもならない探究心が沸いて来るね。世界地図って。

 と、そこで少し疑問点が出て来た。
 地学の定説では、地球は最初「パンゲア」と呼ばれる一つの大陸だったとされていて、その巨大な大陸が海に浮かんでいたとのことなのだ。
 それが地球を包むプレートの活動で割れて今の形になって行き、ぶつかっては内陸の山脈が形作られていったのだ。海岸沿い、または海にある山脈は火山活動が原因らしい。

 が、話によればここは地球が地球になる前の世界だと。なら世界地図がこんな形をしてて良いモノなのか?

 と、そんな事を考えていると耳をつんざくような奇声が聞こえた。その場に激しい緊張感が漂い、訳の分からない俺も、グランシェも例外なく身体を強張らせる。

 「シンバが出たぞー!!」

 直後、レミングス一の大男であるサンソンの怒声が響いた。同時にレベッカが地図を直して俺たちに叫ぶ。

 「なっ!?タイチさん、グランシェさん、避難して下さい!!」
 この慌てようだと、やはり何か大変な感じらしい。俺も不安になって来た。
 ワクワクすっぞとか言ってごめんなさい。

 「ど、どうしたんだ?」
 不安を言葉にしてレベッカに聞く。

 「シンバは巨大な猿の魔物です!! 公式無しでは敵いませんよ!!」
 と、今回現れたのは魔物らしいという事が分かる。
 え、やっぱり不安なんですけど……。

 と、言いつつレベッカもレミントも声の方へ走って行く。

 「ちょ、行っちゃう感じ?」
 「えぇ、私達レミングスは生れつき流動の公式を持ってますから」

 そう言って駆けて行く。


 「グランシェ……」
 「あぁ、行こう」

 久しぶりに以心伝心だ。何だか嬉しくなるが、今はそんな場合じゃない。
 何があってもレベッカやレミントは命の恩人だ。
 俺としてはこれ以上の借りは気分が悪い。グランシェ的には友達を助ける感覚なのだろう。

 流動の公式とやらがどの程度の物なのかは知らないが、100%安全なんてことは無いだろう。
 俺は怪力の手袋が有るし、グランシェは戦闘のプロだ。

 魔物のシンバとやらをナメている訳ではないが、少しは役に立ちたい。

 「さ、走るぞ!!」
 と、グランシェが走り出す。冷たい風を感じながら、俺も大きく一歩を踏み出した。
 が、その時……。

 「ちょっと待ったぁ!!」

 走り出した俺達二人の背中に声がぶつかる。
 振り返ると、見覚えの有る華奢なレミングスの男が立っていた。しかし名前は忘れた。

 「君ら、レベッカのトコの旅人だね? シンバなら彼女達に任せてたら大丈夫だから、無駄に命を捨てちゃダメだ。というか足手まといになっちゃダメだよ」

 グランシェが少しムッとする。表には出さないが俺も結構不快だ。

 「どういう事だ?そもそもアンタは何故行かない」
 「俺の公式は『海の濃度の流動』だ。戦闘には向かないよ」

 男は残念そうに言った。確かに何だかショボそうだ。

 「たしかに、ここに海は無いしな」

 グランシェも残念そうに言う。確かに何だか残念だ。

 「その点レベッカは『空気の流動』だし、レミントは『熱の流動』だ。戦闘の天才だよ、あの兄弟は」
 「じゃあ二人だけで闘ってるのか?」

 俺の質問に、今度は彼は誇らしげに答えた。

 「いや、サンソンさんが居る。彼はすごいよ。 『筋力の流動』って言ってな、レミングスの中で一番強いと思う。 とにかく!! あの3人が居れば大丈夫だから、君等は行くなよ!!」

 しかし、見物に行く位は良いだろう。俺とグランシェで見物に向かおう。
 というかやっぱりここは行かなきゃ人としてダメだと思う。

 そうしてしきりに鳴る煩い奇声の方へ行き、近くの岩に身を隠して目を凝らすと、徐々にシンバとやらの全体像が見えてきた。

 「おい、あれがシンバか」

 ウザったいくらいに果てしなく、それでいて何の変化もない。そんなただの緑の草原に真っ白な巨体がズッシリと存在している。真っ赤な顔は地上3m程の位置にあり、中央にそびえる鼻は天狗を連想させた。
 金色の瞳からは敵意と好奇心が混ざったような感情が読み取れ、その視線の先には3人のレミングス達が立っていた。レベッカとレミントと、それに噂のサンソンだ。

 もちろんその巨体を支える四肢は大きく発達しており、まさに走れば風、殴れば烈火といった感じだ。神々しさすら感じさせる純白の毛並みは、顔面の赤と折りなってとってもめでたく感じるが、そんなのんきな連想をしているのは日本人の俺だけだろう。

 と、いきなりサンソンが指示を飛ばす。どうやらリーダーは彼の様だ。

 「レベッカ!!飛ばせ!!」

 そして、サンソンが地上5m程の高さまでジャンプした。筋力の流動とはそういう感じなのか。
 更にレベッカの力か、謎の暴風が下から上へ。物理学的にありえない。

 サンソンは剣を持ったまま、シンバの遥か上空を飛んでいる。

 シンバはサンソンを警戒して彼の真下から逃げるが、レベッカが上空で風を吹かせてサンソンの落下地点を変更する。
 シンバはレベッカがサンソンの動きを操っている事に気付いたのか、レベッカに攻撃を仕掛けようと爪を振り上げてレベッカに走って行く。
 と、その時シンバの目の前に小さな火の手が上がり、ヤツは一瞬動きを止めた。

 「姉ちゃん!!壁をっ!!」
 レミントが姉のレベッカに叫んだ。彼が熱を草に流し込み、草が発火点に達したのだろう。

 「はいよっ!!」
 レベッカが半ば叫ぶように返事をして小さく燃える草の方を見る。すると草に付いた火の手は燃え上がり、一瞬だが炎の壁を作った。

 いきなりの赤い壁にシンバは一瞬うろたえたが、やはりただの薄い炎の壁など一瞬で消え、レベッカに再び爪が……

 食い込む事はなかった。
 振り上げた右腕は上空からのサンソンの一撃で寸断されたのだ。更にはギギッと奇妙な唸りを上げた瞬間にその顎を貫かれる。

 黒目がぐるんと上を向き、仰向けに猿が倒れた。が、

 「まだだぞっ!!」
 サンソンが叫ぶ。

 白目を向いた片腕の巨大な白猿は、そのままの姿でで起き上がり、左腕を水平に広げる。

 「来るぞっ!!」
 サンソンがまた警告を発した。

 白猿の左腕には微かな光。何だか本当に神々しい。

 が、次の瞬間、その光が一瞬閃光したかと思うと大地をえぐる強烈な一撃がサンソンに襲い掛かった。あれが恐らく公式というやつだろう。

 舞い上がる土塊、飛散する光。攻撃に伴ってのものであろう熱量は、僅かながら俺の所にまで届いていた。その死線の間にはサンソンが見えるが、少し手傷を負った様だ。片膝を付いている。
 更に腕を振り上げるシンバ。怯むサンソンへの更なる追撃はシンバの勝利、即ちサンソンの死を意味するのだと勝手に感じていた。

 「おいグランシェ、こりゃあ中々ヤバイんじゃないか?」
 小声で聞くと、どうやらグランシェがやる気になったみたいだ。

 「あぁ、少し手袋を貸してくれ」

 俺はグランシェに自分の手袋を手渡す。怪力の神器だ。グランシェはそれをはめてマントから投石紐を出し、小石を設置する。

 「そぉ~………」

 ビュンビュンと音を立てながら紐をグルグルと回す。多分その遠心力で破壊力を増すのだろう。

 「……りゃっ!!」

 ビィィィィ――――

 そんな音を立てて真っ直ぐに飛ぶ小石。もはや音が投石じゃない。

 そしてたちまち白猿のこめかみを貫く小石。その正確無比なコントロールが羨ましいよ。
 ギギッ!?奇声を発した巨体が音を立てて倒れる。

 と、元々巨体が有った場所に謎の鋭い音が響いた。サンソンが気持ち悪いくらいの速さで突きを放ったのだ。
 しかしグランシェの人間離れした投石が白猿をコカしたため、結果的にサンソンの攻撃は外れてしまった。どうやら彼は片膝を付いて動けないのではなく、動かなかっただけみたい。
 少なくとも俺には到底出来そうもないそんな肝の据わった芸当に、素直に感心した。

 「うぇっ!?」

 と、驚きの声を上げたのはサンソン。そりゃそうだ。自分のカウンター攻撃が当たらなかったばかりか意味も分からず勝手にこちらが放った攻撃でいきなりヤツが倒れたんだし。
 俺も勘違いしていたとは言え、グランシェは余計なしてしまったようだ。

 と、その時

 ビィィィィ――――と、またグランシェの投石紐から原始的な弾丸が発射された。

 「えっ、まだ飛ばすの!?」
 俺の問いかけに関係なく投石は器用に起き上がりかけていた白猿の心臓を貫く。ヤツはまた倒れたが、それでもすぐに起き上がった。

 「あいつは不死身かぁ!?」
 グランシェが隣で驚く。

 と、サンソンが起き上がりゆっくりと猿に近付く。が、猿も流石に限界なのか今までの様な俊敏さは欠片も無いどころか、どこかもう覚悟を決めたような表情をしていた。

 「はぁ、誰だか知らんが、イラン手助けを――」

 そしてサンソンは無造作に猿をザクッと一突き。急所でもなさそうだったが、それでもシンバは動かなくなった。
 そして────

 「誰だお前は!!」
 俺たちが隠れている岩の方に向かってのサンソンの怒声。ほらほら、怒られるってこれ……。

 「は~い」

 と、それでも相変わらず陽気なグランシェ。マジで意味が分からん。

 「なっ、グランシェさん!?それにタイチさんまでっ!!」

 まず驚きの声はレベッカから上がった。それに対してもグランシェは軽いままで答える。

 「いやぁ、面白そうだから見物に……」
 「馬鹿かお前達は!! 相手は魔物だぞ? 何故人間の急所を狙う!!」

 サンソンの罵声。なんか怒りの方向が違くない? そう思ったがそんな事は気にも留めていない様子で更に軽く答えるグランシェ。

 「あぁ~、やっぱり?なんかおっかしいなぁ~って思ってたんだよね。こめかみから脳天貫いたし、心臓ブチ抜いたはずなのにケロッとしてるし」
 「お前……魔物の闘った事は無いのか?」

 何故か少し驚いた様子のサンソンに構わず陽気なグランシェは無邪気に答えた。

 「無い!!生まれて初めて見た!!」
 その通りだ。俺も生まれて初めて魔物というやつを見たが、何だか恐ろしくて、とても立ち向かう気にはなれそうもなかった。それに対して思いっきり投石をかましたグランシェは偉大だと思う。


 「生まれて初めての敵にあんな正確な攻撃をしたのか!?」
 「戦場で出会う敵は基本初対面だからな!! 初見の敵だったなんて、死んだ言い訳にはならないぜ?」

 更に驚きを重ねるサンソンに対してグランシェが答えた事は非常に理に適っており、やっぱり彼は頼もしいと再確認させられた。 
 

 
後書き
 ここまで読んで下さってありがとうございます。

 僕は心情描写というものが特に苦手で、まだまだ練習不足が現状です。
 しかし更新日を守って更新するのはとても重要な事ですので、何とかやってみました。

 まだまだ拙い文章ですが、今後はより一層改善に改善を重ねて行きたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。



──2013年04月25日、記。 
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