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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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8*フラグより食欲

安らぎ

それは睡眠の事を指す。
自分はいつもギリギリまで惰眠を貪り、その結果、睡眠>朝食の公式を導き出している。

それは異世界に来ても変わらず、さらにめでたく近衛隊名誉顧問なるものになってしまった自分は前日にも訓練のため大分疲れていた。
なので、いつもより深く自分は夢の世界で戯れていた。

忍び寄る邪悪な影にも気付かずに…

「…………起きろぉ!」
グフッ!

「おい、ナルミ!今日は王都へ行くのだぞ!?もっと張り切れ!」

…説明しよう。
人間は、寝てる時に全体重の掛かったボディプレスを腹に喰らうと悶絶する!

…従って、喰らった自分は悶絶している。

「っ…………、こんのじゃじゃ馬ぁ!」

「おっと。ナルミ、無礼だぞ。」

しらん!つか貴様が姫なんて認めねぇ!つかいま何時よ!?

「ほれほれ、準備するのだ。そしてお前の荷物を私に見せるのだ!」

………それが目的か、こいつ。

「…ほれ。」

自分はポケットからある物を取り出し、姫に渡した。

「おおぅ!なんだこれは!小さいプチプチがいっぱいあるぞ!」

「おしてみ、潰れるから。そしてそれやるからでてって。」

そう、自分があげたのは包装等に使われるプチプチシート(約1m四方)である。

そしてそれを受け取った姫はプチプチしながら部屋を出ていった。

…………考えてみたら、今この部屋、備え付けのベッドしかないから片付け必要ないやん。

まぁとりあえず、お転婆娘のお陰で完全に頭が覚醒してしまったので、久しぶりに朝餉をいただきましょう。



************:☆

さて、この世界は魔族なる者達の世界である。
むしろ人間である自分の方が異質なのだ。

だがしかし。
魔族といえども生き物なのだ。
当然食事をし、飲み物を飲まないと…

ぐぎゅ????

「うむゅ????」

こうなる。

正確には行き倒れる。
ぶっちゃけお城の廊下は人が三人寝転がっても大丈夫な位には広いが、それでもど真ん中は邪魔である。

「…なにやってんの?シルバちゃん。」

とりあえず話し掛けてみる。

「あぁ、先生…」

返事がある、ただ者でない屍のようだ。

ちなみに先生とは自分のことだ。
なんでも、教える立場になっちゃったからそう呼ばれなきゃならないらしい。

「…………お腹がすいて……、誰も血をくれなくて………」

あぁ、このコそういや吸血鬼だったっけか。
つか、やっぱりこの世界でも噛まれると吸血鬼にされんのかな?

「…なんでくれないん?」

とりあえず聞いてみた。

「……血は、生命力で……その魔族特有の力をもってて……下手に変な者から貰うと………無茶な見返りを求めてきますし……飲めない種族もいますし……近衛隊の皆も疲れてるし……市販の健康血液は……安くても一個1000リーグ位して……新入りの私は…そんなに買えないし……お兄様は王都に行く準備が忙しくて会えないから分けて貰えないしで……もう二日飲んでません……ふぇぇ。」

…1リーグっていくらよ。
そういや、未だにこの世界の単位とかって知らないのよな。
言葉はわかんのに、中途半端な翻訳機能な気がして来た。

ぐぎゅる?????

おっと、忘れてた。

「…自分の、飲む?見返りはいらんから。」

見殺しにはできないしね。
するとシルバちゃんは 目を輝かして

「いいんですか!?」

自分は頷いて、左腕を出す。
まぁ吸血鬼にはならんべ、なったらこの世界にはネズミ算式に吸血鬼が大量発生して、うめつくされているだろうし。

「ありがとうございます!では、いただきます!」

かぷっ

そういうと彼女は迷わず自分の首筋に噛り付いた。
……左腕を無視して。

つっ!

一瞬痛かったがそこまでではなかった。

…感じとしては、猫に甘噛みされながら注射で血を抜かれていく感じ。

必死にちうちう吸ってるちびっ子の真剣な顔が何となく癒される。まぁ、もう少しくらいなら、このままでもいいかな…






………………すいません、シルバさん、もうやめて、血が無くなる。

「……ちょっ、シルバちゃ、ん、もうそろやめ…」

しかし、そこは久しぶりのお食事のシルバ嬢。
全く気付く気配すらありません。
朝早くなので人通りもありません。

しぬ、誰か自分にレバーを!
血を早急に作らねば!
あぁ、誰か助けて!

「死ぬ、か、ら、やめて、もう」

ここでやっとこさシルバの娘さんが気付き、慌て離れる。

「あ、う、す、スイマセン。あまりにおいしくて、つい……」

…くそっ、かわいいじゃないか。
涙目の上目使いなんて、しかももじもじしながら申し訳なさ気に謝るとは、まるで自分がいぢめてるみたいではないか。

「……いや、だいしょうぶ、ダ……ヨ?」

あぁ、視界が霞む……。

「え?せ、先生!?せんせー!!」





**********?☆


ガタゴトガタゴト

体がだるい

ガタゴトガタゴト

そして重い

ガタゴトガタゴトガタゴト

つか痛い、寝床が固い 、そして揺れる

「あ、起きた。」

……何故に真っ先に姫様のお顔を拝見せにゃならんのだ。
つかここどこ?



「詰まるところ、自分は倒れてしまって、出発の時間になっても起きないから、気絶した自分をダイレクトにここに押し込んで出発したって訳ね。」

「…だいれくと?なんだそれは。」

「あぁ、直接とかそのままっつー意味。」

自分はシルバちゃんがものすごい泣きそうな…つか泣きながら説明してくれた事をかい摘まんで要約した。

ちなみに、説明には一時間程の時間を要した。

そして、今この馬車にはムー君とテトラ君以外の近衛隊と姫様だけである。
二人は外で警戒のための見張りだとさ、大変だねー

グギュルルルルル

………………なにみんなみづをうったようにしづまりかえっているのさ。
なんかへんなことでもあったかい?
ぢぶんにはなんもきこえなかったヨ?

「…………いまの、ナルミか?」

「………チガウヨ?」

「嘘をつけ、目を逸らすな。」

グギュルルルルル

…………………はい、自分です。
朝ごはん食べようとしたところ、朝ごはんとして食べられてしまったのです。
なので朝ごはんは食べそこね、食べられた分のエネルギーを体が求めています。

「す、すいません!すいません!ごめんなさい!ごめんなさい!」

シルバちゃん式光速土下座
……あぁ、この世界にも土下座ってあるのか、昨日もみたけど。
そして、後ろのじゃじゃ馬よ、笑うな。

…じゃなくって

「いや、いいよ、別に。気にしてないし。」

そういいながら、ポケットから取り出すは、みんなお馴染みポテトなチップス(うすしお)。

ホントはヲタ仲間と放課後に啄むつもりだったのだが、しかたがない。
餓死したくないので、それを開けて貪り喰うことにした。

パリパリ

…どした、みんなで凝視して。
あぁ、このお菓子が珍しいのか。

「食べてみる?」

「…いえ、せんせ「いただこう。」ええ?」

ミミリィ隊長、心遣いありがとう。
そして姫、遠慮しろ。

そんなこと考えてると、姫様が袋ごとひったくってった。

…まじ遠慮しろや。

パリパリ

「……………うまい。」

パリパリ

パリパリ

パリパリ

「……独占すんな、そろそろ返せ。」

「や。」

…こいつ

「姫様、僕たちにも少しいただけませんか?」

「…少しだけだぞ。」

……あれ、リム君?
なんで自分でなく姫様に許可求めてんのさ。
そして乙女二人、縋るような目で見てくれるな。

「……いいよ、二人とも食べな。」

それを合図に二人の少女もポテチを少しとって食べた。

「……おいしい。」

「もうダメだぞ、これは私のだ。」

ここまで喜ばれると、軽Bも本望だろう。
しかし姫よ、それは自分のだ。

…………返してくれる気配が無いので、仕方なく飴を舐めることにした、カー○ィの無敵キャンディみたいなあれを。
なぜ持ってるかというと、好物だからだ。
週七本は消費している。

「……それはなんだ。味見させい。」

こいつ、これもとる気だな。

「だめ、自分が餓死する。ただの飴だから気にするな。」

「むぅ、貧弱だぞ、それくらいで餓死とは。」

「うるせ。」



それからの道中で、昼食として食べた干し肉が姫のイタズラでゲロ甘かった事以外は特に問題はなかった。

なんでも、飴をくれなかった罰だとさ。


……死ねっつー訳か?


********∞☆

うすしお事件から六時間ほどして、馬車が止まった。
なんでも、少し開けた小川の近くで夜営
するらしい。

ちなみに、降りた時知ったが馬車は四グループあり、それぞれ近衛隊&姫の馬車が一台と、第1と第2師団各四台、そして荷物の馬車が二台である。
そして、姫様の馬車は他より大きく、姫様専用簡易ベッドがあったりする。
他は全員寝袋に雑魚寝である。
さて、雲一つない空もだんだん暗くなり、綺麗な紫色に染まっている。大自然に囲まれて、なんとも清々しい。
まるでキャンプをしている気分だ。

あ、一番星みっけ。
この世界でもあるんだ。

なんて年甲斐もなく暢気な事考えてると、吸血兄妹がよってきて

「…今朝は、ごめんなさい。」

「私からも謝る、すまん。」

二人なかよく頭をさげた。

「…また謝ってんのかい。もういいっての。」

何たってさっきシルバちゃん式光速土下座をしてもらったんだ、許さないほど鬼畜ではない。

そして、彼等は自分の言葉を聞いてホッとした表情を浮かべた。

「しかし、そんなに自分の血は旨いのかね?
自分にはよくわからん。」

気になったことを聞いてみた。

「はい、あの、なんかこう、甘くて、コクがあって爽やかで喉越しスッキリで…
いままでで一番美味しかったです!
最高級特別栄養血液“紅の秘薬(妖精風味)”よりも断絶おいしいです!」

……そうか、紅の秘薬より旨いのか。
比較対象がさっぱりわからん。

「…やっぱり人間だと違うのかね。」

とりあえずスルー
しかし、自分の血に対する思わぬ高評価にただならぬ興味を示す者がいた。

「……そんなに美味しいのか?」
ゼノアである、吸血兄妹の兄の方。

「うん!すっごく美味しかったの!」

ゼノアの質問に全力の笑顔で答えるシルバちゃん。

………あれ?展開が読めてきたぞ。

「…………ナルミ、少しだけ、ホントに少しだけ吸わせて貰えないか?」

ほらきたーーー

「…少しだけだよ。」

…断れない自分が嫌いだ。

そして、すっと左腕を差し出すと、彼は迷わず首筋に噛り付いてきた。
なんつーか、おまえらなんなの。

それから10秒位して、ゼノアが首筋から離れた

「うまい!」

なんとも素晴らしい笑顔ですこと。
そんなにうまいんか?

すると、シルバちゃんが

「…私ももう一口いいですか?」

遠慮がちにいってきた。
シルバさん、上目使いは反則です。

「少しだけなら…」

そう言うと彼女は控えめに首に牙を立てた。
…なんか、この体制は見る方向によってはやばくね?

「あーーー!シルバがナルミと逢い引きしてる!」

はいお約束、姫乱入。
そしてその言葉に反応したシルバちゃんは弾けるように自分から離れた。

「ち、ちちちちがいます!逢い引きなんてそんな!先生と…あいびき…」

そしてこの純粋乙女はショックが大きすぎて真っ赤になって再起不能になってしまった。

…そもそも、兄貴交えた逢い引きなぞきいたことねぇ。

「違うって、自分の血を彼等にわけてただけ。逢い引きとちがうから。」

「……そ、そうです!先生の血が余りに美味しくて分けて貰っただけで………あ」

あ?

「ほう、それは本当か!?なら私も少し 貰おうか!」

はぃ!?

「ちょいまち!何故に!?そもそも姫様も吸血鬼なん!?」

「私の種族は誇り高い魔霊王種(ファントム)だ。そんなことも知らんのか?」

「…おあいにくさま、全く知らね。
で、なによそのファントムって。」

「ふむ、かい摘まんで言うとあらゆる種族の祖となる種族。
つまりいろんな種族のいいとこ取りな種族だ。
まぁとは言えいろいろとあるがな。」

ずいぶんアバウトな物言いで

「と、いうわけで。つまり吸血種みたいに血を嗜むことも知っている訳だ。
なので飲ませろ。」

「断固拒否する!」

だってこいつなら干からびるまで飲みそうだもん。

「拒否権なーし!」

グハッ!

なにがあったかというと、自分が人間と暴露した時と同じ状況です。
つまりマウントポジション。

そこからだんだんと姫様の顔が近付いてきて…

カプッ

首筋に一撃
四回目だと、もう慣れたよ。
ちなみに、噛まれる時にシルバちゃんが謝ってた気がするのは気のせいではないだろう。

そして姫様、目を見開き一言。

「……これは、なんと甘美な…。
年代物の果実酒でもここまではいかんぞ…」

さいですか、それはようござんした。
さぁ、とっとと離れろ。

カプッ

コルァ!何二口目突入しとんじゃワレ!
やめろ!この欲望の塊め!マジで死ぬから!マジで!本気で!
お願い!やめて!お願いします!干からびる!

「う………、あ…し、死ぬ、たすけ…」

ここで自分の意識はプッツンした



?サイドシルバ?

姫様がナルミに噛り付いて、しばらくすると、彼の顔がだんだん青くなっていった。
そして、助けを求めてきた。

「う………、あ…し、死ぬ、たすけ…」

悲痛な叫び、もとい呻き

「ひ、姫様!先生が!血の気が顔が!」

「ん?……うぉう!?」

姫が離れると、力無くナルミは気絶していた。

「…………ちとやり過ぎたかの?」

「ちょっとじゃないです!!先生が死んじゃいます!お兄様!先生を運んで下さい!」

そう言われ、ゼノアはナルミを背負って馬車に戻って行った。

「うぅ??、姫様!先生が死んだらどうするんですか!」

いつもとは違う、必死な剣幕のシルバに圧倒されながらたじろぐ姫。

「たしかに先生は優しいし許してくれるかもですが!でもやり過ぎです!」

「す、すまん…」

「それは私でなく、せん「はいはい、それくらいにしようね。」…副隊長。」

マジギレしてるシルバのもとにやってきたのは近衛隊の隊長と副隊長である。

「そもそもシルバ、君も今朝同じような事をしたんではないか?」

「うぅ…」

仕事モードの真面目なミミリィの口調と言われた事実に押され、グゥの音もでない。

「うん、とりあえず今はナルミ君の側で看護してあげたら?きっと彼も喜ぶとおもうよ。」

リムの言葉にはっとしたシルバは即座に

「私、先生の様子を見に行ってきます!」

ダッシュでナルミの元へと消えて行った。

「……乙女だねぇ。初々しい。」

「………でもああいうのが病的なまでに相手に依存してしまうのよね…」

「?」


後に残ったのは、本人も気付かない変化を見抜いた一組のカップルと、その二人が言ってる事を理解出来ない女の子らしくない姫様だけであった。



**********∝☆

「うぅぅ…」

ナルミが姫に襲われてから約二時間、日もすっかり落ち、見張り以外の大多数の者が眠りについている時間に彼は起きた。

「せ、先生!大丈夫ですか!?」

真っ先に反応したのはシルバである。
ちなみに、他には寝静まった近衛隊と姫、そして看病していたゼノアだけである。

「うぅ、だ、いじょうぶ…。でもお腹すいた…。」

「ご飯ですね!持ってきます!」

「おい、まて……ったく。」

兄の制止も聞かず、走っていく妹。
ぶっちゃけ皆が寝てる、この場所での食事は迷惑になるのである。仕方なく、ゼノアは半覚醒状態のナルミを背負って追い掛けるのであった。

「あ!お兄様うごかしたらダメ!」

「あそこで食事してると、皆が起きてくるぞ。」

大きな鍋を持って怒るシルバを諭すゼノア。
とりあえず馬車から少し離れたところにいくことになった。

グギュルルルル

「……いいにおい。」

鍋から流れる香しいスープの香りで完全に目が覚めたナルミ。
はしたない事に少しヨダレが出てる。その姿に苦笑しながらシルバは

「はい先生、おかわりもあります。」

ほほえましい目で眺めてるゼノアをよそに、そう言いながら皿によそったスープを渡そううとした。
そのとき

シュバッ!

「キャッ!」

矢が飛んできた、それに驚き皿を落とすシルバ、そしてシルバを掴んでとっさに庇うナルミ。
他にも複数の矢と、飛んできた方向には複数の人影。

己の欲望のために他者を襲う強奪者。
彼等は盗賊の群れだった。

「敵襲!!全員起きろ!!」

即座に反応して魔法の防壁を張ったゼノアが叫ぶ。
雄叫びと共に迫ってくる盗賊。
各々の馬車から臨戦体制で出て来る兵士たち。
戦場独特の空気と緊張感の中、ただ一人それを無視する輩がいた。

「クク、クククククク…我は影、真なる我。」

場違いな不気味な笑い声に、敵味方問わずに悪寒が走る。

「さぁ、愚かなる隣人共よ……」
その声の主は、右手で真っ赤になって縋り付く少女を抱え、左手を高々と上にあげていた。
覇気の無い目は座って、代わりに狂気の色が見え隠れしている。

「お前たちの好きな、真実を与えよう…」

その言葉と共に、彼の左手にはなにか、混沌としたものが渦巻き始めた。そして、

「此処で死ぬという、逃れ得ぬ定めをな!!」

この一言と共に放った一撃が、轟音と共に盗賊を飲み込み、吹き飛ばした。

それを放ったのは、もちろん人間の戦士、ナルミである。

残ったのは、えぐれた大地と、川の流れる音だけであった。



?サイドナルミ?

さて、自分が今日食べた物をリストアップしてみよう。
・ポテチ三枚
・キャンディ一本

以上。
ちなみにお昼ご飯は姫様のいたずらにより、食えた物ではありませんでした。

そんな自分の前に、ほかほかのあったかいスープがあります。
シルバちゃんが持ってきた、すばらしいスープ。
自分はそれを食べるため、手をのばしました、すると。

シュバッ!

「キャッ!」

人間極限状態になると感覚が研ぎ澄まされると言うのはホントらしい。
とっさにシルバちゃんを庇うように抱え、矢が当たらないように服をバリアに変えた。

しかし、自分はその時あまりに残酷な光景を目撃した。

ガンッ!

ズシャッ!


…………鍋が、倒れたのだ。

おいしそうなスープが、今日初めてのまともな食事が…

プッチン!

いやぁ、たしかに自分は短気な部類の人間だけど、これはキレても仕方がないよね。

とりあえず、殺さないだけの理性はあるからみなさんに気絶して貰いましょうか。

「…我は影、真なる我。……さぁ、愚かなる隣人共よ……」

シルバちゃんを抱えたまま、左手をあげて自分お気に入りのせりふを言う事にする。

「お前たちの好きな、真実を与えよう…」
本来はハイ○ーチャージで1ターン待たなきゃならんが今回は無視だ、んなもん。
そもそも、これ敵の技だし。

「此処で死ぬという、逃れ得ぬ定めをな!!」

そして、思いっきり左手を薙ぎ払う。
リーチとかの問題とかもこの際無視、とりあえずモドキって事で。

ズシャァァァァァ!

盗賊、一掃。

地面はえぐれてるけど、死んではいないべ。
ケマの影の必殺技、魔手○ヒルはくらうと100%気絶する鬼畜技だからね。とゆうかやっぱカッコイイな、このせりふ。

ちなみに、1ターンのタイムラグで逆に油断してガード解いて攻撃したら、くらって全滅した記憶が自分にはある。

……話が逸れた。
とりあえず、

「ゼノア、敵さん回収よろしく。
全員気絶してるだけだから。
そして、誰か食べ物をくれ…」

途端に弾けたように動き出す兵士達。
各々の仕事に皆が取り掛かる中、近衛隊の面々がパンを持って寄ってきた。

「…相変わらず、非常識ですね。」

「だよねー、しかも殺さないで全員気絶ってそうそうできないよ。
というかあの悪魔のような顔とセリフと技、絶対彼等の心には傷がのこってますね。」

「…さすが、先生…」

上からミミリィ隊長、リム副隊長、ムー君のせりふ。
自分は隊長から渡されたパンを貪りながら彼等の話を聞いていた。
なんか副隊長は褒めてんのかけなしてんのかわからんが。

「しかし、怒る理由がなんとも…
らしいと言えばらしいですが、身を挺して守るとは…騎士の鏡ですね。」

はい?
なにそれ…えと……ウサミミの……スゥ君?だっけ。

「どゆこと?」

「なーにとぼけてんですか、先生。
植物からも聞きましたよ、シルバを自らを盾にして守ったって。
つか、見せびらかしながら何いってんすか。」

……そういや、そんなこともあったよーな…
膝の上を見ると、あうあういいながら真っ赤になってる吸血娘の姿が。

すっかり忘れてた。

「あぁ、ごめんね。」

シルバちゃんを立たせると、残念そうに立ち上がって、大事をとって、隊長に促されるまま馬車へと押し込められた。やっぱり自分みたいなミスターオタクな奴とそーゆー勘違いされると乙女としてはショックだろう。
まぁ今はいいや、後で誤解も解けるでしょう。

そして、お腹も満たされて大分周りを見る余裕も出来たところであることに気付いた。

「……そいや姫は?」

こーゆーことには真っ先に騒ぎだすであろうあのじゃじゃ馬がいないのだ。

「あぁ、姫様なら寝てるよ。
彼女は爆睡すると朝まで絶対起きないからね。
それと、防壁をかけたから今姫の居るとこは何も聞こえないし誰にも姫の姿は見えないよ。」

……なんとも図太い神経だこと。
つか、防壁張る意味あるんかい?

「ふぁ、私達も寝ましょう。
後はゼノア隊長達に任せて。」

ミミリィ隊長は以外とひどいな、手伝いせんのか。
まぁ、いいや、自分も疲れたし。

「…じゃあ、寝ますか、おやすみなさい。」

そういいながら自分は馬車へと入っていった。



~近衛隊サイド~


「……気付いてないのかな。」

「まさか、それはないと思うよ……多分。」

「姫は絶対起きないでしょうし、ここまで気を使って何も無いことはないと思いますよ。
つか、無かったら防壁張った意味がありません。」

「…でも先生なら、そのまま寝そう。」

「……あ、先生寝息立ててます。逆にシルバは先生の登場で緊張して息が荒くなってます。」

元の世界でも隠れファンの存在に気付かなかった朴念仁が、シルバの気持ち、もとい彼女の気持ちを汲み取った近衛隊の気配りなぞ全く気付くはずもない。

まぁシルバ本人からしても余計なお世話な気もしないでもないが……

なんとも微妙な空気が近衛隊の中に流れるのであった。
 
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