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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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6*イヌミミとの戦い

さてさて、今自分は美少女と形容して差し支えがない160くらいの金色の髪と目をしたお嬢さん(犬耳&しっぽ付き、ちなみにサイドテール)と爽やかという表現が似合う170くらいの青髪で緑の目なお兄さん(舌先が二つに割れていて、それをさっきからチロチロ出したり引っ込めたりしてる)と対峙しております。

え、なぜかって?

この二人が近衛隊の隊長と副隊長だからダヨ。
だって、いつのまにか自分は近衛隊っつーのに入れられてるらしいんですよこのやろー。
ちなみに前回姫様の近くにいなかったのは姿を隠して気配を消して、影から裏から彼女をお守りしていたらしい。
つまり、忍者的な?

そこ、とってつけたよーだとか言わない。

…話しが逸れた。
そう、つまり強制的に本人の意思関係なく自分はこの二人の部下にさせられたというわけで。
新入りは先輩に挨拶せにゃならんゆーわけで…

…その先輩(女性の方)がめっちゃお睨みになられているわけで

もうなれたヨ、この世界の人(?)達の鋭い視線なんて、もう痛くも痒くもないよはっはっは。

…ごめんなさい、嘘です痛いです。
そして牙は怖いです。

まぁ今回は彼女らの気持ちも痛いほど解るよ。何たっていきなしさっきまで不審者だったどこの馬の骨ともしらん奴があなたたちの部下になりました、何て言われたら文句も言いたくなりますよね。
逆にお兄さんの優しい眼が間違った反応だと自分は思います。

つか近衛隊って姫様の護衛でしょ?
ならきっとこの人達もなんか試験とか試練とか乗り越えてきたエリートな猛者なんでね?

そこにぽっと出の一般人が入るって、無理あるっすよ。


さて、ここまで至った経緯をかるーく回想してみよう(現実逃避)ではないか。

…最近回想シーン多いな。
まぁ大丈夫だろう、今回は短いから、うん、…たぶん。


*********≒☆

ここは医務室である。

頭連打の刑に処された自分はタンコブと言う戦利品の対価として意識を手放した結果ここにいる。

…よするに、頭打って気絶しました。
そして、ゼノアが運んでくれたらしい。

…ハァ。

さて、今自分はゼノアに質問をして、いろいろと分析している。
主にセタソウジロウについてだが。

「で、最後にソウジロウは、世界を支配しようとした闇の賢者、グリー・スヌタスを討ち取り、一緒に冒険したエルフの魔女のリリーザ・マーグと結ばれたというわけさ。
ちなみに、彼は結婚したあと何処に行ったかは解らないが、一説ではリリーザの故郷で二人揃って仲良く隠居したっていうのが有力だよ。」

いゃあ、さすが歴オタ、聞きたいこと全部教えてくれた。
…いらんことも含め、3時間は話しを聞かされたが。

つかセタよ、自分より勇者してるでないか。
最後はハッピーエンドだし。
美女と結婚……羨ましすぎだ。

まぁだが見えてきたぞ。
今から話すのは自分の推測と聞いた話しをまとめたものだが、ぶん合ってるはずだ。

まず、セタソウジロウとは江戸時代のそれなりに偉い武将で、なんせ関ヶ原の戦いでは小早川を仲間に引き込むのに一役買った程の武将である。
なぜこれほどまでの武将の名前が教科書に載ってないかというと、理由は簡単。
3000年程前にあの貧乏神様がここに飛ばしたからだ。

奴は自分を飛ばすときに“自分をいなかったことにした”とかのたまいはじめたので、セタさんも同じ目にあったのだろう。

で、セタさんはこの世界を支配しようと目論んでいた賢者が凶暴化さした魔物をばったばったと薙ぎ倒し、エルフやリザードマン等を仲間にしながらその賢者を倒して、世界に平和をもたらした勇者となり、前述のエルフと結婚してこの世界のどこかで骨をうずめたと。

そして、関ヶ原の戦いは1600年、つまり約400年前の出来事である。
なのに彼は3000年前にきた事になっている。
この世界での一年がどれほどの長さかはしらんが、同じだとしたら7.5倍こちらの世界の時の流れは早いということがわかる。




……まぁ、最後のはいい、いやいくないけど。
あっちで一年たったころに戻ったら自分24歳になってるとか悲惨過ぎるが今は目をつむろう。

それよか重要なのは…

セタよ、戻れなかったか…

くそ、彼が戻ってたらそれと同じことして戻ろうと言う目論みがはずれてしまった。
つか、戻る方法探してすらいねぇな。
何たって、結婚してんだし。

…どうしよう。

「な、なぁナルミ。」

どしたよゼノア、まだ関ヶ原のことを“ツキノハラ”といった事を後悔してるのか?
大丈夫だ、君は悪くない、悪いのは小早川の事を“コバワガラ”と伝えていた先祖が悪いんだ。

と思ったが、それは言わずにどうした、とだけいっといた。

「いや、その君の持ってる、あの、き、キョウカショ?だっけ、後で見せてくれないか?」

遠慮がちに言ってきた。
そう、自分はさっきまでの話をまとめるのに日本史の教科書を使っていたのだ。
そしたらゼノアが並々ならぬ興味を示した。


まぁ、知らない国の、更にお伽話としか思ってなかった英雄の故郷の歴史が記された本だ、歴オタなら興味を示さないはずがない。

だが

「あ?、いいけど、読める?」

「…読めない。」

そう、文字は通じないのだ。
教科書を手にとり、落ち込むゼノア。

暗っ!

…とりあえず、しばらくは読み聞かせることと今度字を教える事に落ち着いた。
そしたらめっちゃ笑顔になった。

…ほんと、ファーストコンタクトのあれは別人だったのかね。

「あ、そうだナルミ。
忘れてたが、もう君は近衛隊にはいっているから、一回隊員に挨拶に行ってみたらどうだ。」

近衛隊、ね。
やだけど、拒否権ないんだよな…

「…ハァ。
じゃあ、行ってみるか。」

ため息と共にベッドから下りる。

「ゼノア、その隊員のいるとこに案内してくれ。
そして近衛隊の基礎知識をくれ。」

「あぁ、ではいこうか。」

ゼノアも立ち上がり、説明を聞きながら目的地へと向かう。

なんでも、近衛隊とは自分含め7人しかいない小数精鋭の部隊で、エリザ姫を全力で守り、世話をするのが仕事だとか。

…世話ってのが気になるが。

そんな事を話していたらいつのまにか目的地についた。
そこでゼノアは用事があると、どこかに消えていったので、自分一人で挨拶することになったのだった。


*********÷☆

回想おわり。
これがここまできた経緯です。

ちなみに何故隊長と副隊長だけかと言うと、ゼノアが挨拶のためにと手を回してくれたそうな。
他は仕事中とさ。

てなわけで、コンタクトタ?イム。

「はじめまして、自分は長谷川 鳴海といいます。
よろしくお願いします。」

スッと手を出し握手を求める。
舌チロな兄さんに。

「こちらこそ、僕はリムロ・スザルス、第三王女の近衛隊副隊長を勤めています。
気軽にリムと呼んで下さい。
ちなみにラミア(蛇族)です。」

微笑みながら応じてくれた。
手はひんやりしていて少しびっくりしたが、好青年ではないか。

つかラミアって下半身が蛇な印象がつよいな。
ファイ○ルファンタジーのやり過ぎか?

一通りリム副隊長と挨拶を終らせて、隊長の方に向かい、

「よろしくお願いします。」

同じように握手を求めた。

ペチッ

叩かれた、予想は出来たけど。

「私の名前はミミリィ・エクスプル、近衛隊隊長をしている。
ちなみに君を近衛隊の一員と認めるつもりはない。」

やっぱり、ね。

「ミミリィ、姫様のご命令だよ。
それに彼の魔法はそこらへんの魔術師より遥かに強力だし、入れて損はないと思うけどなぁ。」

リム副隊長、それは褒めすぎでね?
そもそも魔法でないし。
自分の力でねぇし。

「…リム、敬語。私隊長なんだから。
公私混合しない。」

「はいはい。
で、どうしましょうか、ミミリィ隊長。」

「…あぅ。」

…ミミリィ隊長、自分で敬語使えゆっといて使われたらしょんぼりすんのはちょっと。
つかリム副隊長、そのニヤニヤはわかっててやってるな。

「とりあえず、僕は自分の意見を言わせて貰いました。
最終的な判断は隊長に一任いたします。
でも最後に言わせて貰いますと、彼は超一流の魔法使いであります。
彼を倒せる者は非常に少なく、味方にいると大変頼もしい存在かと。」

だから副隊長褒めすぎ。
つか自分としては認められないままのがいいんですが。

しかし、ぜってーわざとだな。
ミミリィ隊長、物凄い早さでしょんぼりしてるし。
副隊長は全力でニヤニヤしてるし。
たぶん、原因は敬語と…

「…うぅ、そ、そうだな。
実際に君の魔術用事があってみてないし、なにより姫様のご命令でゼノア隊長の推薦だからな。
…よし、じゃあ一回私と試合をして、それから決めよう。
………………絶対勝ってリムに私を認めさせる。」

リム副隊長の煽りですね。
つか隊長、小声でも丸聞こえです。

そして副隊長、いつか刺されますよ?
つか刺されろ。



…とゆうか、これ死亡フラグでね?


*********⌒☆

ただいま、中庭にきております。
中庭には、250メートル四方くらいの石が敷いてあるでかいステージみたいなところがあり、まわりには野球場の観客席みたいに階段状の席があるのです。

もはや闘技場、コロシアムよコロシアム。当て字にすると、殺死阿武。

つかなんでこんな観客いんのさ、ざっと200はいるぞ。
これ決まったとき、三人しかいなかったよね。

「…なんでこんなにいるの?」

お、ミミリィ隊長も同じ疑問をお持ちで。
つか、とっとと降参して“自分、近衛隊に向いてませんアピール”をして、さっさと自由をつかみたい自分にとっては降参の恥ずかしさが何倍にもなるんだが。


「あ、僕があつめました。
というか、ミミリィ隊長が出ると言ったら若手が勝手に寄ってきました。」

おまえかあぁぁぁぁ!!!

「ちなみに、ナルミ君が出るって言ったらエリザ様もくるっていってました。」

「「!!!??」」

おい!
姫様の前っておまっ!
めっちゃ降参しづらいやん!

「っちょ、待って下さいリム副隊長!!
いきなり姫様の前だなんて!」

「だぁ?いじょうぶ、審判僕だから。
問題ないよ。」

なお問題じゃい!!
あなたが審判ならどうなるか想像できません!

ほら、ミミリィ隊長もなんか言って!

「………姫様の前で勝ったら、こいつも私のこと…」

ミミリィ隊長、乙女全開。

…どう収拾つけようか。

と、ざわめいていた観客を静める鶴の一声がその場に響いた。

「静まれ!!」

静めるな!
自分は沈黙が嫌いなのだ!特にこの世界のは!
そしてこの試合辞退させてください!

と、そんなことがあのじゃじゃ馬に伝わる訳もなく、奴は1番高いとこの豪華な席に腰を下ろした。
隣にはゼノアとゾーンのジジイまで立っている。

「お、姫様がきたみたい、じゃあ始めようか。」

ヤダ、始めない。
ゼノア?、ヤッホー。

「…どうしたの?」

おっつ、現実から脱走してた。
つかゼノア、律義にかえさんでいいから。
そして隣の愚な姫よ、貴様に手を振った訳ではない。
本命よりマジになって返すな、はしたない。

おぃ!何姫様に対抗心持ってるんだゼノア!
貴様は馬鹿か!?

「…ゼノアって、いつもあんなんなんですか?」

「ゼノア隊長?うん結構あんなかんじ。強いけど、中身は結構…
というか、初めてていいかな?」

…ごまかし切れんかったか。

「じゃあ互いに、誓いを。」

誓い?

「私、ミミリィ・エクスプルは持てる全てを尽くし、この者と戦う事をここに誓う。」

あ、そゆうのね。
事前に教えとけよこのやろー。

「じ、自分、長谷川 鳴海は持てる全てを尽くし、この者と戦う事をここにちゃかう。」

…噛んだ。

副隊長、めっちゃこらえとる。
つか姫やゼノア含め観客よ、笑うなら笑え、その我慢してるビミョーな笑いが余計にきつい。

「…リム、開始の合図。」

ミミリィ隊長はいたって真面目。
対してリム副隊長

「は、はじっ、くふっ!」

だれより面白そうだ。
つか審判使い物にならんから中止でいくね?

およ、ゼノアが観客席乗り越えてきた。

「リム、姫からの命令だ、代われ。」

「ご、ごめっ、っぷ!」

どんだけつぼってんねん、ワレ。

「…では、試合開始!」

リム副隊長が退場して、すぐにゼノアが開始の合図をした。

さて、ちゃっちゃと降参して終わらしましょ
て、うぉっ!

「ぼーっとしてると、首とぶよ?」
怖っ!

つか装備に問題ありだろ!
何たって
自分
・詰め襟

ミミリィ
・鎧
・両刃の剣と腰にレイピア

ねぇ、せめて武器かしてよ。

なんて考えてる間に、またも迫るミミリィ。

右肩に一撃

うぉっ!

ぎりぎりかわす。

無理、武器無しはきつい、せめてたてうっぁ!

腹部への横へ薙ぎ払うような一撃が掠る。
少し服がきれた。

…プチッ

自分のなかのなにかがキレた、っか吹っ切れた。

てなわけで

…武器がないなら造るまで!(ヤケクソ)

パァン!
バチバチッ!

ヤケクソになった自分は床を素材に武器を作り出(錬成)した。
両手パンして。

で、出来たのが。

ジャキン!!

妖刀・正宗
そう、セ○ィロス様の愛刀である。
身の丈の二倍近くある日本刀である。

…どした。
おい、ミミリィ隊長もギャラリーも、何目を真ん丸くしてんだ。

…とりあえず、

「…交わせるか?」

ズババババ!

「!!?」

ディ○ディア仕様で行きましょう。
まあ、切れない仕様の正宗だし、死なんべ。

ちなみに使ったのは縮地です。
いっぱい剣圧飛ばすあれです。

…お、避けた。
ジャンプ力すげー。


「っつ、なんだ、今の攻撃は!?
なんなんだ、その武器は!?」

着地しながらミミリィ隊長が聞いてきた。

日本刀知らないのか。
セタさん伝えなかったのかしら?

まぁいいや。
そんなことよか。

「降参しません?」

「っ!バカにっ、するなぁ!!」

うおっなんだ、いきなりキレんなよ。
カルシウムとれ、カルシウム。
つか、なんかぶつぶついってるけどなに?
うぉ!地面からなんかでてきた!

「グ、グオァァァァ!」

これは、俗にいうゴーレムか。
10メートルほどのでかいの、それが二体。

「いけっ!!」

ミミリィ隊長の号令で同時に襲い掛かってきた。
うーん、相手がゴーレムなら別にいいよね♪

「カモン、ジャイアント!!」

そう叫びながら右ポケットからGCコントローラーを取り出し、片手だけでAボタンを押した。
いや、なんでもよかったんだけどね、実際。

すると

ドガァァァァァ!!!

天から極太レーザーが降ってきた。
これによりゴーレムさんはニ体とも消滅。
奴らが居たところは巨大クレーターとなっている。

…後から思うと、ガミガ○ロボなんてマイナーな技、よく使ったな。

さて、肝心のミミリィ隊長はとゆうと。

「………………………………………………へ?」

脳が追い付いてないご様子。
クレーターの前でぼけっと突っ立ってる。
とりあえずボケッとしてる隊長の首に刃をむけて。

「降参、します?」

再度質問。

「っな!」

隊長やっとこさ覚醒、だが時すでに遅し。

「っつ!…………わかった、降参する。」

あや、素直。
すぐに正宗をよけ、審判(ゼノア)を見る。
すると頷いて、

「勝者、ナルミ!」

高らかに叫び、それと同時に歓声が…
歓声が…


…………

……………………

………………………………あれ?

なに、この無音。
もっとこう“ワーー!”とか“キャー!”とかないん?
なんか変なとこでもあった?

試合は自分が勝ったし、何も…


…勝っちゃだめやん


やっべ、制服切られた辺りから暴走してた、自分。

いやだってね、言い訳だけど制服ってたかいんよ、月お小遣1500円な自分は一回制服を破いてしまい、10ヶ月近く小遣いが無くなったんだぞ。
そりゃあ怒るべ、ふつー。

10ヶ月よ10ヶ月。
ただでさえ少なかったのに…
ちなみにお年玉も没収で総額約五万円のディスアドバンテージです。

…はい、正宗みたいに錬成して直せば良かったですね。
バカですね、…ハァ。

とりあえず、正宗と床元に戻して引っ込みましょう。えい。



…いまさらだけど

ちゃっかり能力使いこなしてしまってる自分が嫌になるよ。

…ハァ。





?サイドゼノア?


はっきり言って、この試合はミミリィが優勢だった。
最初の一撃により、ナルミの眼には焦りが見え、次の一撃で流れが完全にミミリィに傾いた。
誰もがミミリィの勝利を確信した。


次の瞬間までは。


ミミリィの腹部を目掛けた三撃目、これはナルミの服を少し切っただけだったが、これを受け、ナルミの目の色が変わったのだ。

ナルミは後ろに下がり、ミミリィと距離を取った、そして

パァン!
バチバチッ!

ナルミが手を合わせ、即座に床に手を付けると、この音が鳴り響いた。
そして、この音が鳴った直後、彼の左手には“なにか”が握られていた。

彼の身長の二倍はあろうかという、見た事がない片刃の剣、いや、本当に剣なのかすらわからない。

その奇妙な武器と、“武器を取り出す”という非常識な謎の魔法。

これをうけて、驚かない者などいない。

現にミミリィ含め、ゼノア以外の全員が何が起こったか理解出来ずにいる。
ゼノア自身も、ナルミが服を取り出すところを目撃してたので そこまではいかないが、それでも驚いてはいる。

と、呆然としてるミミリィに向かってナルミが

「…交わせるか?」

ズババババ!

一言と共に攻撃を仕掛けた。
傍目は武器を一振りしただけに見える、が

「!!?」

ミミリィが攻撃を察知し、跳んで避ける。
すると、ミミリィの居たところはまるで何回も切り付けられたかのようにえぐれていた。
それを見たミミリィは青ざめながらこう言った。

「っつ、なんだ、今の攻撃は!?
なんなんだ、その武器は!?」

ミミリィの疑問ももっともだか、試合の途中で自らの手の内を教えてくれるはずもない。
代わりにナルミは

「降参しません?」

こう挑発した。
挑発としても余りに相手を馬鹿にする口調で。

「っ!バカにっ、するなぁ!!」

それを感じとって、そして先程の事から焦ったミミリィは冷静さを欠いて挑発にのせられた。

そして、あろうことか実戦では周りの補助を必要とする程の長い呪文を持つ、彼女最強の大技をだそうと詠唱を始めたのだ。

ゼノアはナルミがこの隙を逃さずに勝負を決めようとすると考えたが、

『…なぜ、動かない?』

そう、彼は全くその場から動こううとしないのだ。
あさつまえ、余裕の笑みを見せながらミミリィのことを見ているのだ。

そして

「グ、グオァァァァ!」

二体のゴーレムができあがった。
彼女の持つ大地の属性と、彼女の魔力とを組み合わせた鉄壁の守護者。

「いけっ!!」

ミミリィ号令でニ体のゴーレムが同時にナルミに襲い掛った。

しかし、ナルミはこれをみて、今まで見たことがないほどの歪んだ笑顔で叫びはじめた。

「カモン、ジャイアント!!」

そう叫びながら彼はポケットから右手で紫の何かを取り出し、それをそのまま親指で押した、すると

ドガァァァァァ!!!

空から、神の怒りの如き光が降り注ぎ、ニ体のゴーレムを裁き、滅した。

彼の叫んだ言葉の意味も、取り出した物も、果ては何がおこったのか理解することが出来る者など、当事者のナルミを除き誰もいなかった。

そして、自らの最強呪文を打ち砕かれたミミリィはというと

「………………………………………………へ?」

呆然自失、この一言に尽きる。
自分の最強の呪文をたった一撃で粉砕されたのだ、無理もない。

そして、そこにナルミが近付き、彼女の首に武器を突き付けて一言。

「降参、します?」

今度は挑発ではなく、確認だった。

「っな!」

やっと現実に戻ってきたミミリィ。
しかし、この状況はどうやっても覆せない。

「っつ!…………わかった、降参する。」

さすがに彼女もそれを理解出来たようで、渋々ながら降参する。
すると、ナルミがゼノアの方を向き、ゼノアも頷いてこう宣言した。

「勝者、ナルミ!」

観客は皆、目の前の出来事が理解出来ずに沈黙していた。
そして、しばらくしてナルミは闘技場を一瞬で元に戻し、去って行った。

その時、彼の見せた後悔と悲しみの表情をゼノアはしっかりと目撃した。

そして、すぐに彼を追い掛けたい衝動を押さえ、姫様への報告を済ませた後に彼の姿を捜し、駆け回るのだった。





?おまけ・サイドエリザ?

「…フ、フフフフ。」

その日の夜に、彼女は自らのベットで一日を振り返りながら笑っていた。
いや、彼女に自覚はないが、自然と笑いが込み上げてくるのだ。

「…フフフ、人間の覇王で勇者で強くて…
私だけの近衛騎士…」

譫言のように、小さく笑いながら静かに発した言葉。
頬は紅く、眼は恍惚としている。
傍目からは恋患いのようもにみえるが…

「早く兄様達にも自慢して、父様にもナルミを認めさせて上級騎士としての二つ名を付けて貰って…
…フフフ、そしていずれは私もナルミの技や秘術を教えて貰って…」

誰も持ってない人間の戦士(おもちゃ)を手に入れた優越感と、これからの事を考えて悦に入っていただけである。

昔からゼノアに歴史を語られた中でも、彼女はセタがそうであったという“サムライ”という戦士に並々ならぬ興味を持っていた。
それが自らの側近ともなれば自然と笑みは零れてくるのもうなずける。

更には、先程の試合で彼が途方もなく強い事も証明された。
彼はエリザの想像以上の人物だった。

「…フフフ、全世界の王族が羨む究極の戦士、他の王族の反応が見てみたいものだ…
…よし、今度の宴に連れていって、他国に自慢する事にしよう。」



…もしかしたら、この自分の欲望に忠実なエリザ姫に目を付けられた事が、何よりも彼の不幸の始まりだったのかも知れない。

そして、人間の戦士こと長谷川 鳴海。
彼がこのことに気が付くのには余り時間が掛からなかったという 
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