| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

~烈戦記~

作者:~語部館~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 ~道中~

 
前書き
どうも
語部館ですb

この度文章の書き方で知り合いや親族からお叱りをいただいたので、若干の訂正をふまえて投稿させていただきます。

また、このような疑問やこうした方がいいなどがあれば是非お申し付けください。

~訂正点・その他疑問~
・文章末の読点、句点

・人物名について
豪帯【ゴウタイ】のように音読みです。
また地名、建造物の名前も全て音読みです。

・年齢について
この世界での成人は15歳となっています

・語尾について
「~じゃ」などは男女問わず農民や位の低い人間、特に地方の人間が良く使うものです。
またある程度若い場合などを除きますが、基本的に年齢は関係ありません。 

 
『本当にあいつはガキだよ!!』

僕は焚き火の前で急に声を荒げた。

『…別れ際のあれですか?』

凱雲が簡素に、そして事務的に答えてくる。
半ば聞き飽きたように思えるその反応もそのはずで、かれこれ3,4回は繰り返していると思う。
しかし、わかってはいても何かの拍子であれを思い出してしまい悶えそうになる。

『だって別れ際だよ!?何であんな時くらい黙ってられないのかな!?』
『まぁあの少年もまだ年が年ですし…』
『そうだけど…そうだけどもっ!!』

あの瞬間が思い出される。
凱雲に持ち上げられた瞬間のあの何とも言えない変な空気。
恥ずかしさのあまり目を合わせられないから後ろを向いていたが、多分相当呆気にとられていたのではないか。
そして馬に乗せられた時の沈黙…からの堰を切ったような笑い声の嵐、波。
その時の顔の熱さと着たら火を吹いても可笑しくなかったんじゃないかと思えるくらいの恥ずかしい思いをした。

『僕だって…僕だって一人で馬に乗りたいよ!!』

はたから見たら僕が馬術の心得が無い、もしくは何らかの過去の悲劇によって乗れない人間に見えるであろう台詞を叫んだ。
しかし、それならまだ励ます方にも励まし方があるというものだ。

だが僕の場合ではただ単純に背なのである。
しかも既に背の伸びる肉体の限界に位置するであろう歳である。
こればかりはもうどうしよもない事である。
実際そんな不憫な人間が目の前で嘆いていても僕は愛想笑いしかできないであろう。

『豪帯様』
『あ、…ありがと』

どうやら泣いていたようだ。
凱雲が布を渡してくれる。
僕はそれで目を拭いたあと、鼻をかんで凱雲に返す。
それを凱雲は何でもないように懐にしまう。

『…なんかごめんね』
『豪帯様』

何度も繰り返している一連の会話の流れでいくと、ここで凱雲が"いえ"と呟く事で話が終わっていた分名前を呼ばれた事で少し不意をつかれた。

『何?』
『ある偉人の話をしてあげましょう』
『ある偉人?』
『かの者は後に覇者と呼ばれた男でありました。武にも文にも通じ、そして人材をこよなく愛した人間でありました。その者は初めは身分卑しく、出世への道は遠いものでした。しかし、彼は大陸を駆け、強者を破り、人から愛されついには自らの国を持つようになりました』
『…かっこいい』
『ええ、彼は色々な人間から憧れの眼差しを受けておりました。しかし、彼にはある弱点がございました』
『弱点?』
『ええ、それは背です』

やっと凱雲が何を言いたいかを理解した。

『かの者は護衛の兵よりも小さく、一度軍を率いれば馬に乗らねば見失ってしまう程でした。しかし彼からでる覇気は凄まじくそんなものを毛程も思わせないくらいの方だとか』
『…僕もそんな風になりたいな』
『なれますとも。いくら外見が良くとも大切なのは内に秘める器であります。それが大きければ大きい程に溢れ出るものは計り知れないものとなるものです。豪帯様も胸を張ればよろしいのですよ』
『うん…わかったよ』

そうだとも、背なんか一々気にしてるようじゃ大事なんか成せるものか。
自分は目指すならもっと大きな存在になりたい。
強く、優しく、そして見た者全てを虜にしてしまうような存在。
そう…あの方のように。

僕は懐の得物を握り締めた。

『大切にされているのですね』

凱雲が気付く。

『うん、これは僕の宝物だから』

そう、僕ら家族を救ってくれたあの方のように。

『…いつか鮮武様のように』

そう呟いた。


しかし僕はこの時凱雲が微笑ましくもどこか影を落としていた事には気づかなかった。


『そうだとも!!僕には器があるんだ!!あいつがなんて言おうと背なんか屁でもないんだ!!ざまーみろ!!』

そう声高らかに宣言する傍で凱雲が頭を抑えて大きな溜息をついたのは言うまでもない。



夜が深くなり、野営の為の簡易テントで僕は横になっていた。
凱雲は見張りをしてくれるのだと言って外にいる。
毎回毎回遠出の際は凱雲が寝ずに見張りをしていてくれる。
そもそも関の守将である父さんの副官が一人で護衛というのも変な話だが、この凱雲が"村に兵が押しかけても民が不安がるでしょう"、とあえて一人で行く事を提案したそうな。
確かにそうではあるが、街道がありはしても村を出れば賊に合うというのは良く聞く話である。
それなのに自分の一人息子を凱雲一人に任せるのだから父さんも相当凱雲を信頼しているのだろう。
しかし、たまに関での凱雲の訓練の様子を見る事があるが、ほとんど号令ばかりで、たまに兵と手合わせしても負ける所は見た事が無いが、イマイチ強者と呼ぶには迫力が無い印象だ。
ただ、本気を出したら強そう。
僕の認識はそのくらいだ。

そんな凱雲が外で見張りをしている間僕はというと簡易テントの中で明日に備えて布団に潜っている
よくよく考えれば凱雲は父さんの部下であって僕の部下ではない。
これまで凱雲本人が何も言わずにただ当たり前のごとく尽くしてくれていたから気づかなかったが、相当な事を僕はしてもらっているのではないか。
そう思いはしたが、仮に見張りを変わったとしても、僕が見張りを全うできるかは不安である。
確かにある程度関で父さんや武官の人達、凱雲から剣の腕は仕込まれていてそう簡単に賊にやられるとは思わない。
だが、本当の闘いを僕は知らない
あくまで訓練や修練の域を越えたものを見た事がない。
そう思うとやはり不安である。

『…僕もいつか戦場に出るのかな』

血を見るのは嫌だ。
痛い思いもしたくないしさせたくない。
戦場で命を掛けて戦った兵士から言えばこれ程馬鹿げた話は無いだろう。
だが本心がそう言ってしまっている。
一体僕はこの先どんな道を歩むのだろうか。
そんな思いに耽っていた。



『野郎共!!囲んじまえ!!』

そんな時、それらは現れた。


急な怒声と共に深夜で静かな雰囲気は去り、辺りは騒然とした空気になった。
僕は慌ててテントの外を見る。
どうやら賊に見つかったようだ。

相手は…


約18人…

まずい。

本当にそんな状況だった。

それと対峙するのは2mの大男一人
いくら強いとはいえ相手の数が数だ。
しかも凱雲を恐れていればまた話は別だか、賊達の目はそれではなかった。
警戒は必要だが戦える。
そんな目をしていた。

僕は自分が敵を倒せるかどうかを御構い無しにとにかく僕らが少しでも有利になるように加勢しようとする。
生き残る為に。


『…豪帯様、手出し無用にございます』

それを察したように凱雲が小声で止める。
一人で大丈夫な訳がない。
そう言おうとしたがその前に彼は言った。


『この程度、私一人で十分です』

相手は18人。
それを前にして"この程度"と言ってのける彼はいったい幾つの修羅場をくぐり抜けて来たのだろうか。
決して僕を危険な目に合わせないようにとかそんなのではない、確固たる自信がその言葉にはあった。

『荷物と有り金全て…』

賊が喋り始めた。


『『控えろ!!』』

夜空に怒号がこだました。
一瞬心臓が飛び出るかと思った。
現に今僕の身体は強張って動けない。
そして凱雲と対峙する賊達はその怒声に咄嗟に後ずさりした者や尻餅をついた者もいた。

こんな凱雲見た事が無い。

『貴様ら、覚悟はできておろうな』

そう言って凱雲は得物である大薙刀の刃に被さった布を取る。
その刃は月に照らされて怪しく光を放っていた。
それをこんな状況でも素直に綺麗だと思ってしまった。

『や、野郎共!!かかれ!!』

完全に空気に呑まれてしまってリーダー格の賊の号令はなんとも情けなく、"勝った"と一瞬で勝利を確信した。
18対1で剣も交えていないのに、である。
それくらいに凱雲が頼もしかった。

賊の一人がなんとか凱雲の前に出る。
明らかに怯えているが、勢いに任せたその身体は既に止まる事を許さない。
自分をわざと死地に追い込んでなんとか凱雲に斬りかかる。

『うわぁぁぁぁ!!』
『ふんっ!!』

大薙刀が賊の頭へ振り下ろされた。

一瞬の出来事。

賊は身を守ろうと剣でその斬撃を受け止めた。

だが、大薙刀の刃はその勢いのまま賊の身体を真っ二つに引き裂いた。

剣もろとも。


鮮血が飛び散らしながらその肉片は左右に落ちた。

『あぁ…あぁ…』

既に賊達からは闘いの意思は感じられず、目の前の惨劇を見せられた恐怖の感覚がヒシヒシと伝わってくる。

すごい。
これがあの凱雲なのか。
そう感じたのと同時に恐怖を覚えた。

『…次の相手は誰じゃ?』

『に、逃げろ!!』

その声で賊達が一目散に散らばっていく。
しかしそれを追おうとはせず凱雲は仁王立ちしている。

この人には敵わない。
自分の腕がどれほどのモノかを理解させられた。

『…豪帯様、片付きました』

凱雲から声をかけられる。

『う、うん』

まだ身体が震えている。
足が立たない。
初めて人と人との"殺し合い"を目の当たりにしてこの様である。
本当にあの時僕は顔を出さなくてよかった。

『これが私達兵士にございます』

そう言うと凱雲は肉片の片割れを持ちあげて森の方へ向かう。
その意図を察して声を上げた。

『あ、凱雲!!待って!!』
『ん?どうかなさいましたか?』

なんとかおぼつかない足取りでテントから出る。

『死体の…お墓作らない?』
『…』

凱雲は呆気にとられていた。

『賊の死体に情けは無用でございますよ』
『いや、そうなんだけどさ…』

凱雲に近寄る。

『多分…この人も何かがきっかけで賊になったんだと思うんだ。』
『…賊一人一人に同情していては霧がございませんぞ』
『わかってる。ただ、今回は一人だけなんだしさ。これくらいはいいかなって』

その言葉に凱雲は空を見上げた。

そして溜息をついた。

『お父上とそっくりでございますな』



本当なら僕の我儘だし僕自身も一人で墓を作る気でいたが、凱雲は何も言わずに手伝ってくれた。
本来なら森の中にある街道という事である程度深い場所に放置して
おけば獣や自然に処理してもらえて疫病の心配ない。
これが村や街ならまた話は別だが、ここは人通りの少ない田舎の街道。
内心は無駄な手間が増えた事に不満はあるとは思うが、それでも手伝ってくれるのが凱雲のいい所だ。

そして簡単なお墓ができた。

『ふー、できた』
『ええ、彼も賊の身でここまでされては来世では悪さはできないでしょう』
『…凱雲、ありがと』
『いえ』

そうして床へとついた。



『…ん~…ん~』
『…』

朝、日が登りかけで僕らは馬を進めていた。
昨日の夜の出来事で相当寝る時間を削られてしまったようですっかり寝不足である。

まぁ隣の凱雲は一睡もしていないのだが。
そう思うと毎回毎回大変だなと思う。

『…豪帯様、手綱はしっかり持たないと危のうございますよ』
『ん~…』

凱雲が溜息をついた。



豪帯様がワシの前に座りながら馬の動きに合わせて体を揺らしている。
一応馬の手綱を握りながらも体を抑えてあげてはいるが、その小さな体はいつ自分の腕から落ちてしまうか分からない。
あまり気を緩めるわけにはいかない。

先ほどまで意識をなんとか保っていた豪帯様ではあったが、あまりの不安さから豪帯様を勝手に自分の馬に乗せたはいいが、いざ乗せてみるとこれはこれで危ない気もする。
まったく、豪帯様は不憫というかなんというか。

本人も相当気にしてはおられる様だが、こうして自分の前に乗せてみると本当にまだ子供ではないかと思わされる。
これでまだ中身が威風堂々としていればそれなりに威厳が出るというものだが・・・
豪帯様にそれを求めるのは酷である。
多分性格上親に似て、とてもではないが人に厳命を強いる事はできないであろう。
実際豪帯様はそれはもう周りからも大切に育てられているようだ。
人を使う事をできるようになるまでは先が長くなるじゃろう。
そうなって来ると後は体の成長に任せるしかないが・・・豪帯様は既に18になられている。
もうこの先には期待できない。

どうしたものだろうか。
豪帯様はいずれ豪統様を継がねばならなくなる。
そうなる前に、それなりになってもらわねばならない。
・・・しかし、村での子供達との喧嘩を見ているとどうしても不安になる。

「はぁ・・・」

不安。
ただただ不安である。


昨夜の事を思い出す。
豪帯様が作られた賊への墓。
あれは本当に賊の事を思って作られていた。
そう、とても丁寧に。

それこそ、その賊に家族を殺された人間があれを見れば豪帯様を蔑み恨むだろう。
そうでなくても、賊は賊である。
情をかけるなど普通は考えない。

だが豪帯様は言われた。
”この人”と。

豪帯様を見ていると考えさせられる。
人に害をなす存在をそれでも同じ人として見る豪帯様は悪なのか。
それとも同じ人でありながら賊だという理由で人としての権利を奪う自分達が悪なのか。

・・・私にはわからない。
少なくとも私が賊を賊と、敵を敵と見れなくなったらこの薙刀を振るうことすらできなくなる。
そんな事は決してないし、あってはならない。
私は兵士なのだ。
武人なのだ。
豪統様より恩を受ける以上は、私は豪統様の為にこの薙刀を振るい続けなければいけない。


・・・これについて考えるのはここまでにしよう。

そうして空を見上げてみる。
そこには青く晴れ渡った世界とそこを自由に飛びまわる鳥たちがいた。

何にも縛られる事無く空を飛べる彼らならその答えを分かるのかもしれない。

同じ仲間を殺める事の無い彼らなら・・・。

そうして視線を落とす。
そこには口を無防備にあけ、口の端から涎を光らせている豪帯様がいた。

そうだとも。

平和な世には彼のような存在が必要なのだ。

穢れを知らず、そして自らの手を汚したことの無い彼のような存在。

「・・・ふっ」

何を心配していたのだろうか。
馬鹿らしくなってしまって思わず笑いがこみ上げる。
そうだとも。
その為の私たち兵士なのだ。
豪帯様にできない事を私がやり、豪帯様の望むような結果をさしあげればいい。
豪帯様本人が未熟であればそれを全力で支え、それを補ってやればいい。
至極簡単なことだ。


「・・・見えたか」

景色の遥か向こうに見える目的地である関を眺めながら、ただひたすら安心して自分に背中を預けるこの少年に思いを馳せた。


 
 

 
後書き
お読みくださりありがとうございました。

もし疑問などがあれば冒頭のようにできる限りお答えしようと思います。

これからもよろしくお願いします。
by 語部館  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧