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ラインの黄金

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第一幕その八


第一幕その八

「これでな」
「待て!」
「その手を放せ!」
 ここで頂上にやはり白いタキシードにコートの者達が来た。一人は赤い髪を豊かに伸ばし顔中に髭を生やした大男だ。巨人程ではないがやはり大きい。その右手に鎚を持っている。
 もう一人は若々しい美男子で金髪碧眼である。服は他の神々と同じで右手に剣がある。
「フライアから放れるのだ」
「許さんぞ!」
「ドンナー兄様」
「フレイ兄様!」
 フリッカとフライアは二人を見てそれぞれ明るい顔になった。
「来て下さったのですね」
「私の為に」
「さもなければこのミョッルニルが御前達を倒す」
 ドンナーは巨人達に対して告げてきた。
「今すぐな」
「契約を守らずには」
「これを報酬とするのだな」 
 ドンナーは彼等に対してその右手の鎚を見せてまた告げた。
「雷をな」
「くっ、それは」
「それだけはな」
 巨人達はドンナーとその鎚を見て怯むしかなかった。ドンナーはまさに彼等巨人族にとっては天敵でありミョッルニルに多くの同胞を倒されているからだ。
 両者の関係は逆転しようとしていた。だがここでヴォータンは。己のその槍を見て苦渋に満ちた決断をしなければならなかったのである。
「待て」
「待てとは?」
「契約は契約だ」
 フライアはこの言葉を聞いてその整った表情を割ってしまった。
「それは反故にはな」
 出来ないと言おうとした。しかしその時だった。黒い肌をしたすらりとした美男子がやって来た。黒髪を端整に流し目は知性に満ちた赤いものであった。そこにはただ知性があるだけではなかった。
 服は赤だった。赤いスーツにネクタイである。そしてやはり赤いコートを羽織っている。そのコートがまるで燃える炎のように映えていた。
 ヴォータンはその彼を見て。言うのだった。
「ローゲ、貴様のせいだ」
「私のせいといいますと?」
 何気ない顔で平然とやって来たローゲはここで驚いたような顔を見せてきた。
「といいますと何か」
「何かもこうしたもない」
 こう彼に言うのだった。
「御前の取り決めたこの話を何とかするのだ」
「ふむ。あの城の話ですな」
「そうだ」
 その空に浮かぶ城を見たローゲに対してまた言うのだった。
「あの城をな」
「いい城ですよ」
 ローゲは平然とヴォータンに対して返すのだった。
「今さっきまで中に入って調べていましたが」
「だから今までいなかったのか」
「そうです。何処も非常に素晴らしいものです」
 また言うローゲだった。
「ファゾルトとファフナーは完璧な仕事をしました」
「それがどうかしたのだ?」
「私もちゃんとチェックをしたのです」
 ローゲが言うのはこれだった。
「怠けていたわけではありません」
「そうやって誤魔化すのか?」
 ヴォータンはローゲのことがよくわかっていた。
「私を」
「貴方をですか」
「私は御前にとって何だ?」
「義兄弟ですよ」
 またしても平然と答えるローゲだった。
「それは忘れたことがありません」
「ならば義兄弟としてだ」
 ここで彼にもその槍を見せた。右手に持つ槍をだ。
「その知恵でな」
「私は申し上げましたが」
 しかしローゲはここでもしれっとしたものだった。
 
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