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ラインの黄金

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第二幕その十六


第二幕その十六

「雲よ霞よここに集まれ」
 そしてこう言った。
「御前達の主ドンナーが呼んでいるのだ。鎚を振り上げたならばここに集まれ」
 それと共に今雷達がその鎚に集まり空を清めた。最早晴れ渡りもやはなくなっていた。ドンナーはそれを見届けてからフローに対して言うのだった。
「それではだ」
「うむ」
 フローもそれに応えて頷く。
「それではな」
「次は私だな」
「虹を頼む」
 ドンナーが言うのはこのことだった。
「どうかな」
「わかった。それではだ」
 彼が剣を抜きそれを一閃させるとだった。虹が出てそれが橋となって城にかかった。山と城がそれにより結ばれたのであった。
「さあ、この橋を渡り城に入りましょう」
「それではだ」
 ヴォータンは前に一歩踏み出しそのうえでフリッカに声をかけてきた。
「妻よ、ヴァルハラに入るぞ」
「ヴァルハラとは?」
「この城の名だ」
 こう妻に話すのだった。
「今私が名付けたのだ」
「聞いたことのない名前ですが」
 フリッカもそれを聞いても首を傾げるばかりであった。
「それは一体」
「恐怖を克服した我が勇気の名付けた名だ」
 こう妻に話すのであった。
「城が勝利のうちにながらえればだ」
「はい」
「その意味はそなたにもわかるだろう」
「そうですね」
 妻もそれに頷くのだった。
「それでは」
「さあ神々よ」
 ヴォータンは今度は他の神々にも声をかけた。
「今こそ虹に入りだ」
「はい、それでは」
「入りましょう」
「あの城に」
 フライアやドンナー、フリッカはそれに頷いた。そうしてそのうえで虹に向かう。だがここでローゲは一人呟いていた。
「ふむ」
 まずは一呼吸置いた。
「これはいかんな」
 安堵している神々を見ながらの言葉であった。
「彼等は自分達の存続を疑ってはいない。そう」
 ここでヴォータンを見る。
「ヴォータンだけはな。しかしそのヴォータンも逃れられないだろう」
 こう言うのであった。
「自ら終焉へと向かっている。行動を共にするのは恥とすら思える」
 そして次は自らのことを思うのだった。
「私も原初のあの燃え盛る炎に戻るとするか」
 この考えを抱くのであった。
「彼等を愛そうとも思ったがやはり無理か。長く生きているとそれだけ見えるものもある」
 彼等より長く生きている、彼ともう一人だけが知っていることであった。
「神々であろうと見えないのでは滅びる他ない。私をこのように従えていた。しかしそれも終わりにして炎に戻り新しい時代の者達を見守るのもいい」
 こんなことを考えているとだった。河の方から声がしてきた。
「ラインの黄金よ」
「純なる黄金よ」
 乙女達の言葉であった。
「何と明るく曇りなく優しく光っていたのか」
「何故私達の手から離れたのか」
 嘆く声が響く。
「あの黄金が再び」
「私達の手に返るように」
(そうあるべきだ)
 実はローゲもそう考えてはいるのだった。
(この者達にこそ。あの黄金は)
「あの娘達か」
 ヴォータンはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「指輪を返せというのか」
(貴方が本来はそうあるべきと思っていること)
 ローゲはまた心の中で呟いた。
(それがな)
「嘆いてもどうにもならない」
 だがそれでもヴォータンはこう言うのだった。
「最早。それはな」
「その通りです」
 ローゲもまた本心を隠していた。
「娘達よ。嘆いても仕方がないことだ」
「ローゲ、何故そんなことを?」
「私達に言うの?」
 乙女達は揃って彼に嘆きの言葉をかけた。
「全てを知っている貴方がどうして」
「そのようなことを」
「ヴォータンの言葉を聞くのだ」
 しかし彼はあくまでこう言うだけだった。
「御前達のあの黄金はもうその手から離れた」
「そんな、それでは」
「私達は」
「神々の新しい光の下に楽しく暮らすのだ」
「その通りだ」
 ヴォータンもやはり心を隠して話す。
「では神々よ」
「はい」
 ローゲが代表して応える形となった。
「参りましょう、ヴァルハラへ」
「うむ、それではな」
 ヴォータンもそれに頷く。
「行こう、神々の座へ」
「あの橋を渡り」
 神々はその橋を渡っていく。しかし乙女達の嘆きは続いていく。
「あの黄金を再び私達の手に」
「親しみと誠はただ深みにだけあり」
 こう嘆きの言葉を出していく。
「上の世界で楽しむことは虚偽と卑怯ばかり」
「その通りだが。さて」
 神々は橋を渡り終えてヴァルハラに入った。最後に渡り終えたローゲは橋に火をやった。
 虹の橋はこれにより燃え落ちてしまった。ローゲはそれを暫く見ていたが完全に焼け落ちたのを見て今はヴァルハラに入った。その考えを隠したまま。


ラインの黄金   完


                2009・6・20
 
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