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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第13話 そして、民間療法(嘘)へ・・・

「さすがに、ダメージは厳しいか」
「はい、ホイミ」
「ありがとう。セレン」
「どういたしまして」
カザーブへむかう俺たちは、少し苦戦していた。
ロマリアまでは、ほとんどダメージを受けなかった戦闘でも、北上していくうちにモンスターたちも手強くなっていった。

セレンは、戦闘が終わるごとにホイミをかけてくれる。
俺のHPが少ないからだ。
一応、薬草も持っているし、いざとなればキメラの翼で、ロマリアに逃げ帰ることが出来る。

俺たちは、なるべく死なないよう慎重に行動している。
教会で生き返るとはいえ、わざわざ死ぬつもりはない。
それに、全滅した場合、面倒なことになる。

冒険者の登録をしていれば、全滅した場合に、全滅情報がルイーダの酒場に知らされる。
その情報は、各街の掲示板に張り出され、腕のある冒険者が回収に向かうのだ。

回収に成功した冒険者は、全滅したパーティの所持金の半分と、冒険者のお金を預かるゴールド銀行が運用した利益の一部を受け取ることが出来る。
冒険者は、この利益とパーティを救ったという実績を得るために、専属で活動するものもいる。

ところが、いつ回収されるかが不明なのだ。
気がついたら、勇者がバラモスを倒していました。では、意味がない。
それに、魔物に骨までしゃぶられていたら復活出来ない可能性がある。

テルルは、俺とセレンの様子を見て不満そうだ。
「わたしも、呪文がつかえたらなぁ」
「「おおごえ」が使えるようになれば、十分だよ」

この呪文があれば、どこでも商人を呼ぶことが出来る予定だ。
完成すれば、安心して冒険が出来るのだ。
キセノン商会と俺の母ソフィアが開発中の呪文であり、習得予定レベルに達したとしても、
試作段階のため、テルルしか使用できないし、呼べる商人も、キセノン商会に所属する商人に限られているが。
だが、テルルは俺の慰めにも納得できない様子であった。
確かに、今使えるわけでもないし、セレンよりもMPが多い現状はもったいないともいえる。


「キラービーか」
俺はすかさずヒャドを唱える。
キラービーは凍りつき、地面に墜ちる。
キラービーは麻痺攻撃を持っているため、素早く倒す必要がある。
麻痺すると、戦闘中は自然回復しないため、戦闘に参加できないばかりか、全員が麻痺すると全滅してしまう。
特に、3人パーティだと、危険性が高くなる。

「!」
残っていた、キラービーが俺に攻撃し、しっぽについている針が俺の腕に突き刺さる。
ダメージは、それほどでもなかったが、体の動きが鈍くなる。
俺の異変に気付いた2人は、素早く残ったキラービーを片づけると、心配そうに俺に駆けつける。

「麻痺のようね」
「・・・」
しゃべれないし、うなずけなかったが、俺の様子でセレンは理解してくれた。
「それじゃあ、これを」
セレンは「まんげつそう」と呼ばれる草を手にして、俺に飲ませようとする。

「セレン。ちょっとまって」
テルルは、セレンを押しとどめる。
「その前に、試したいことがあったのよ」
テルルは、休んでいる俺の目の前に立つ。
「本当に動かないのかしら?」
テルルは俺を馬乗りにして、にこやかに話しかける。

やばい、身の危険を感じる。
しかし、体は全く動かない。
セレンは心配そうに俺を見つめるが、助ける様子は見せない。

「確かめてあげる」
テルルは、両手を俺の脇腹に当てて、くすぐりを開始する。
「!」
俺は強いこそばゆさを感じて体を動かそうとするが、動かない。
かといって、抗議の声を上げることすらできない。
出来ることと言えば、抗議と怒りの思いを、気配で示すことだけだ。

「テルル、やめて!」
セレンは、俺の発する気が、殺意に変化する前にテルルに指摘する。
「ごめんね、アーベル」
そういってテルルは起きあがると、俺に謝る。
「大丈夫、アーベル?」
セレンは俺に、まんげつそうを食べさせながら心配そうに声をかける。

「・・・ああ、たすかったよ、セレン」
俺は礼を言うと、テルルをにらみつける。
今の俺なら、呪文を使わなくても、視線だけでテルルを氷づけに出来そうだ。

「ごめんね、アーベル。確かめたかったの。民間療法として、くすぐると回復すると書かれていたから」
「伝承は、嘘だったわけだが」
「だから、ごめんって」
テルルはあやまったが、あまり反省の色はないようだ。
民間伝承という話も本当かどうか怪しいが、確かめるすべもない。
「・・・まあ、それならば仕方ないですね」
俺は、努めて冷静に答える。

テルルとセレンは、ほっとする。
カザーブへの旅を再開する。


「・・・」
「実は、俺も民間療法を知っているんだ」
俺は、麻痺しているテルルの前で嬉しそうに話しかける。
テルルの表情に変化がないが、おそらく麻痺だけでなく恐怖と後悔が全身を駆けめぐっているだろう。


さすがに、事前告知なしの民間療法による治療法を行うほど、俺は鬼畜ではないので、まんげつそうでテルルを回復した。
また、カザーブの村が見えるところでテルルのまねをすれば、犯罪者として衛兵に捕まることも、理解していた。 
 

 
後書き
安易な民間療法は危険ですね。
私が知っているのは、確実にしゃっくりを止める方法ですが、あまり人前で見せる方法ではありません。 
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