ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第7話 そして、交渉へ・・・
さて、最初はキセノンを説得しなければ。
あのおじさんは苦手だ。
とはいえ、計画のためだ。覚悟を決めよう。
俺は、キセノン商会に入ると、創業者に声をかける。
「おじさん。こんにちは」
「こんにちは、アーベル」
「実は、お願いがありまして」
「アーベル。娘はやれんぞ!」
「違います」
「すぐに否定するとは、テルルが悲しむぞ。テルルを悲しませる奴は、俺が許さない」
「違うと言ったのは、テルルの話ではないという意味です。重要な話です」
「この俺にとって、娘の話以上に重要な話などない。帰ってくれ」
「あなたにとっては、そうでしょう。僕が言ったのは、キセノン商会にとって重要な話だという意味です」
「・・・。そうか、アーベル、ついてこい」
キセノンは俺を奥の来賓室に案内する。
とりあえず、最初の関門は突破した。
俺は、来賓室でキセノンと話をしている。
一代で財を成したとはいえ、来賓室は派手ではない。室内は洗練された上品さが感じられる。
「つまり、勇者一行とは別に行動すると」
「そうです。いや、勇者より先に旅を始めるのです」
「それでは、勇者様ご一行の称号がもらえないぞ?」
「もらえませんが、それ以上のものが手に入ります」
「何が手に入るのだ?」
「時間です」
「そうか、時間か」
キセノンは考えている。
当初の計画は、勇者と一緒に冒険してバラモスを倒す。その名声でキセノン商会の権益を拡大するというものだった。
しかし、それ以上の利益が手にはいるのであれば、考え直してもいい。
俺は、キセノンの考えをそのように読んでいた。
「手に入れた2年の間に、何をするつもりだ?」
「商船を手に入れます」
「ほう。どうやって?」
「ポルトガと交渉します」
「確かにポルトガは、船を造ることができる。商船が手に入れば、交易ルートが拡大できる」
キセノンは質問を続ける。
「だが、ポルトガは他国に船は売らないぞ」
「代わりに、勇者を派遣します」
「なるほど。勇者はアリアハンからしか生まれない」
俺はうなずく。
勇者は天に選ばれた存在だ。
勇者が王を支持すると言っただけで、国内の支持率は上昇する。
「たしかに、ポルトガにとって勇者の派遣はいい条件かもしれない。だが」
キセノンは追求の手をゆるめない。
「ロマリアはどうする。ロマリアが許さなければ、ポルトガへは行けないぞ」
通過するには、ロマリア王の許可がいるだろう。
ただの冒険者が、ロマリアからポルトガに訪ねるのは許されないだろう。
「ロマリアは、仲介役として船と勇者派遣の両方を手に入れさせます」
「気前が良すぎるだろう。ポルトガが認めるとは思わない」
「お任せください。だめなら、2年後に勇者一行として普通に参加すれば済むことです。僕を外せばいいのです」
「交渉責任者であるアーベルを切り捨てれば、テルルとキセノン商会はダメージを受けないということか」
「そうです」
キセノンは質問を続ける。
「なぜ、アーベルは旅を急ぐのだ?」
「早く世界を平和にしたい。では納得できませんか」
「できないね。魔王を倒すことができるのは、勇者だけだ」
勇者でなければ魔王は倒せない。
勇者の一行でなければ、開けることが出来ない宝箱があるという。
その中には、オーブなど魔王討伐に必要なアイテムが存在するのだ。
「魔王が倒されたら、魔物が消えると伝えられています」
俺は、お茶を口に入れ話を続ける。
「そうなれば、冒険者は廃業します。それまでに少しでも金を稼いで、魔法研究の資金に投入するつもりです」
「俺が、資金を提供すると言っても、考えは変えないのか」
何気ないキセノンの言葉だが、普通の人なら、畏怖を覚えるだろう。
キセノン商会を敵に回せる人間など、この大陸にはいないはずだ。
「必ずしも、キセノン商会の利益にかなう研究を行うとは限りませんから」
「そうか。おまえの計画を認めよう」
キセノンはうなずくと、急ににこやかになった。
「アーベル。お前はたいした奴だ」
「?」
「ソフィア以外で、俺と本気で相手にできる奴はいなかった」
そうなのか?ソフィアが話すときは、優しい言葉しか聞いたことがない。
「結婚するまで。いや、ロイズと出会うまでは、お前以上の「きれもの」だったぞ」
「きれもの」だった。ということは。
「この世には性格を変えてしまう本がある」
まさか。
「しゅくじょへのみち?」
「知っているのか、アーベル」
「家にあるので、読んだことがあります」
男なので効果がなかったが。
とりあえず、計画の第一段階は成功した。
しかし、知らない方がよかった秘密を知ってしまったようだ。
「ところで、アーベル」
「なんですか」
「キセノン商会を継ぐ気はないか?」
「は?」
俺は思わず身構える。
「おまけで、テルルを嫁にやってもいい」
「最初の話と、違うようですが」
俺は急に汗をかき始めた。
「あれは冗談だ」
「冗談ですか」
「テルル入ってこい」
キセノンが叫ぶと、すかさずテルルが室内に入る。
「はい、お父様」
「アーベルがお前との結婚を断るそうだ」
「!」
テルルはキセノンと俺とを交互ににらみつける。
「そんなことは、いっていません」
「そうか、結婚してくれるのか。よかったな、テルル」
「よくありません!!」
テルルは大声で叫ぶ。
「あれ、勘違いか。子どものころは「アーベルのおよめさんになる」といつも、・・・」
「子どものときの話です」
「今はどうなのだ」
テルルは急にもじもじする。
「・・・。結婚するには、まだ早すぎます。お父様」
キセノンはおおきく笑った。
「さすが、我が娘だ。結婚は冒険が終わってからということか」
「知りません!」
テルルは叫んで、部屋をでていった。
「まったく、テルルは失礼な娘だ。幼なじみとはいえ、客人を相手に逃げ出すとは」
「・・・娘に嫌われても知りませんよ」
「これが唯一の生き甲斐なのでな。あきらめているよ」
急にキセノンは真剣な顔をする。
「アーベルよ。冒険中に娘の身になにかあったら、許さない」
「わかっています」
そういって俺はキセノン商会を後にした。
計画の第一段階は成功した。
しかし、父親を死なせない計画が成功するためには、まだまだ多くの準備が必要なのだ。
魔王バラモスを倒すことで、父親のロイズはゾーマに殺される。
ロイズの死亡フラグが立った日の夜、俺は布団の中で回避するための方法を考えていた。
最初に考えたのは、ロイズが復活可能かどうかである。
死者の復活可能な世界では、死亡フラグだけでは恐れる必要はない。
しかし、遊んでいたゲームの中では、ロイズが復活した様子が見られないことを知っている。
SFC版の勇者の母親の言葉のとおり、この世界では肉体がある程度残っていなければ復活出来ないことから、ロイズの復活はまず無理と考えた。
次に考えたのは、ロイズを異動させることである。
現場にいなければ、殺されることもない。
しかし、考えたがこれも無理だった。
近衛兵は一度決まれば、引退するまで基本的に近衛兵である。
王を守るという性質上、ころころ人を変えることなどできないのだ。
かといって、ロイズはまだ若い。
引退させることも不可能だ。
であれば、勇者の邪魔をする方法を考えてみた。
だが、勇者はひとりだけではない。
魔王バラモスを倒すことが出来なければ、次代の勇者が倒せばいい。
現在アリアハンには、12歳の勇者候補の他に、6歳の勇者候補者がいる。
勇者を邪魔しつづけた結果、バラモスがアリアハンを滅ぼしてしまったら、意味が無い。
残された方法は、勇者がバラモスを倒す前に、ゾーマを倒すことである。
勇者と一緒に先にゾーマを倒すことも考えたが、勇者の使命はあくまでバラモスを倒すことである。
別の世界の誰も知らない魔王など、攻撃されない限り、相手にする必要は無いのだ。
下手に手を出されても困る。そういって、無視されるだろう。
だから、キセノンに頼んで2年早く冒険に出ることにしたのだ。
だが、これは始まりにすぎないことを知っている。
既に、先にゾーマを倒すまでの計画は考えている。
ただ、実際に上手くいくかどうかは、冒険しなければわからないのだ。
後書き
ようやく次回、旅立ちの日を迎えます。
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